第770話 Who are you?

「早く、移送して!」

「邪魔よ! 道を開けなさい!!」


 事件現場のような、騒がしさ。


 俺が発見した女子は、車輪付きの担架で、車に載せられた。


 すぐに、発進する。



 夜だが、救急車の赤ランプや、他の照明で、明るい。


「3班! 突入しなさい!」


「行くわよ!」


 武装した女子が、部隊となり、玄関ホールで開いたままの広い階段へ、突入していく。


 先頭の1人が先に進み、ある程度で停止。


 構えている小銃をホールドしたまま、後続を待つ。


 その繰り返し。



 野外テントで、指揮を執っているようだ。


 大人の姿もあり、物々しい。



 俺は、旧校舎の地下シェルターから、脱出した。


 もう隠す必要がないようで、隔壁が閉じる気配はなし。


 外に出たら、スマホが通じた。

 即座に、通報。


 その結果が、これだ……。



 用意された、1人用の折り畳みチェアに身を沈めていたら、顔を知らない女子が、トレイを持ってきた。


「ど、どうぞ!」


「ありがとう……」


 緊張した様子で、サイドテーブルに、軽食と、ストロー付きのボトルが、置かれた。


 お辞儀をした女子が離れて、入れ替わりのように、3年主席の脇宮わきみや杏奈あんな


「やっぱり、ここに核シェルターがあったの……。すぐに言ってくれれば……いえ、その余裕がなかったのね」


 立ち止まった杏奈は、ため息を吐いた。


「ああ……。危険な生物も、いた……。探索には、十分な注意を払ってくれ!」


「そのつもりよ? 収容した神子戸みことさんは、命に別状はないようで……。ただ、コールドスリープの実例がなく、『短期間だから』とは、言いづらいの」


 俺が発見したのは、高等部2年の主席である、神子戸たまきだった。


 それは、いいのだが……。



「まだ、いる必要があるか?」


 首を横に振った杏奈は、笑顔で告げる。


「休んでちょうだい……。あとは、私たちで、対応するわ」


 彼女は忙しいようで、すぐにきびすを返した。


「1年、2年の責任者は、集まりなさい! ローテーションを決めるわ!」



 スマホで時計を見れば、もう夜が明けるぐらい。


 引き上げよう……。




 ――男子用のゲストハウス


 ベッドで目覚めて、ボードの時計を見る。


 昼だ。



「生活リズムが、滅茶苦茶だな……」



 寝ぼけたまま、上半身を起こした。


 部屋のシャワーを浴びて、身支度。



 ピンポーン



「はい?」


『私よ! 昨日は、大活躍だったわね?』


 咲良さくらマルグリットだ。


 個室の端末をいじり、外に通じているドアを解錠した。




「お、お疲れ様です!」

「あの……私も、呼んでいただけませんか? 咲良さんの後で、いいから」


「タマちゃんを助けてくれて、ありがとう!」

「みんなで、食事をしない?」


「すごいねー! まだ、1年なのに……」

室矢むろやくん。年上は、嫌い?」



 誰もが、俺を称賛していた。


 横に張りつき、腕を組んでいるマルグリットは、ご満悦だ。


「フフ……。魔法もどきで遊ぶ子たちが、姦しいこと! 私の後でなら、自由に抱きなさい? 下賤の者と楽しむぐらいでは、目くじらを立てません」


「カウンセラーの繁森しげもり先生に、呼ばれたそうだな?」


 俺の質問に、マルグリットは、同意する。


「ええ……。すぐに、終わりましたわ! 今夜の予定ですが――」

「それが、公爵家の作法か?」



 立ち止まったマルグリットが、俺の腕から、自分の腕を外した。


 真剣な様子になり、ジッと、俺を見つめる。


 同じく立ち止まり、彼女と向き合う。



 マルグリットは、片腕を自分の胸に、押し当てる。


「何が、ご不満かしら? あれだけ、夢中になっていたのに……」


「俺は、お前を抱かない」



 スッと、目を細めたマルグリットは、警告する。


「咲良さんが、どうなっても良いと? 同じ体ですわ! 始めてしまえば、止まらないでしょう? 好みを我慢しても、辛いだけ」


「俺に勝てたら、考えるよ」



 巨乳の下で腕を組んだマルグリットが、たゆんと持ち上げつつ、冷ややかな目つきに。


「あまり、調子に乗るな……。使役していたユゴス・ロードと、ユゴスの群れを倒したぐらいでは、私に勝てない!」


 笑顔になった彼女は、首をかしげた。


 優しい声で、諭してくる。


「意地を張らないで? せっかく、あなたの希望を叶えて、ベルス女学校をこうしたのに……。今夜、この体を試してみれば、全く変わらないと、分かるわよ? 私も、咲良さんのこと、考えてあげる」


「深夜に、指定した場所へ来い! そこで、決着をつけよう」


 言い終わった後で、くるりと、背中を向けた。


 マルグリットの体をしている何者かは、返事をせず。




 ――深夜


 行方不明の神子戸環が、見つかった。


 地下シェルターの捜索も終わったことで、だらけた雰囲気。



 俺は、完全に昼夜逆転をした状態で、閉鎖されているグラウンドに、立つ。


 ここならば、多少の被害が出ても、大丈夫だ。



 シュバッと、移動する音。


 そちらを見れば、ベル女の制服を着た、咲良マルグリットの姿が……。



 近くの建物の上で、月に照らされた金髪が、夜風に揺れる。


 青色の瞳で、グラウンドの俺を見下ろした。


「あなたに、こういう性癖があるとは、思わなかったわ……。ご希望の通り、屈服させた後で、可愛がってあげます」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る