第765話 ベル女の歴代最強ー③

「ところで、2年の学年主席である神子戸みことたまきさんは?」


 俺の質問に、同席している女子2人が、反応。


 3年主席の脇宮わきみや杏奈あんなが、意味ありげに、2年の主席補佐である雪野ゆきの紗織さおりを見た。


 紗織は、笑顔のまま、説明する。


「前にも言ったけど、タマちゃんは……」


 俺の視線で、千切ったメモに走り書き。


 テーブルの下から、押しつけてきた。


「……ここに、いないんだ! 決して、室矢むろやくんを嫌っているわけじゃないから! 安心して?」


 手の中にある塊を広げれば――



 “だけど、こちらで何とかするから”



「最後に見たのは?」


 紗織が、すぐに答える。


「分からない……」


 ところが、杏奈は、あっさりと教える。


「1年エリアの閉鎖区域よ! 具体的には、旧校舎を調べていたようね? ……ここで黙っていても、彼はそこにも行くわ」


 紗織の責めるような視線に、杏奈は、けろりと答えた。


 俺は、それに質問する。


「旧校舎?」


 杏奈は、俺のほうを見たまま、説明する。


「昔に使っていた校舎……。今は閉鎖されていて、無断で入り込めば、間違いなく懲罰モノ」


 俺は、怪訝な顔で、応じる。


「神子戸先輩は、そういう性格ではありませんよね?」


 たまらずに、紗織が、答える。


「うん! そう……なんだけど」


 言いながらも、トーンダウン。



 現に今は、行方不明だ。


 神子戸環は、高等部2年の学年主席。


 校長室の話し合いを見る限り、このままでは――



「……本人の意志で、失踪したと?」


 杏奈は、ため息を吐いた。


 うつむいたままの紗織をチラッと見た後で、俺に向き直る。


「今のところは、ね? 私と雪野さんは、『神子戸さんが、そういう人間じゃない』と知っているけど……。このままでは、厳しいわ。上に知られれば、学年主席を降ろされるどころか、真牙しんが流からの除名! あとで本人が見つかっても、処分が下れば、撤回は無理よ」


 本人が消えて、事件に巻き込まれた証拠もない。


 自分の責務を放棄した、と見なされれば、重い罰が与えられるだろう。


「分かりました……。どうせ、今の俺は、他の女子と距離を置くのだし……。ついでに、調べてみますよ! 最高位のセキュリティがあるから、旧校舎も」


「危ない真似は、しないようにね?」

「……お願い」


 杏奈と紗織の返事を聞きながら、俺は立ち上がった。




 ――1年エリア


 学年主席の執務室で、時翼ときつばさ月乃つきのと向き合う。


「この度は、千陣せんじん流の室矢むろやくんに――」

「今日は、別件で来た」


 直立不動のまま、集めた女子と頭を下げていた月乃は、慌てて、俺を見た。


「な、何かな? できれば、ボクらが可能な範囲で――」

「2年の学年主席がいない件だ」


 執務室で、動揺する女子たち。


 1年の学年主席である月乃は、真剣な顔に。


「あのさ? 君に襲いかかったことや、その直前の発言は、確かに悪かったよ! でも、環お姉さまのことは、触れて欲しくない! ボクらも心配している――」


「俺は、『女子と距離を置く』と、宣言したばかり。ちょうど時間があるし、たった今、3年主席の脇宮先輩と話してきたんだ」


 月乃だけに留まらず、他の女子も、目の色が変わった。


 食い入るように、次の発言を待つ。



 その視線を感じつつも、説明する。


「端的に言えば、今の俺には高いセキュリティ権限があるから、ついでに探してみる……という話だ! 期待させて、すまない」


 息を吐く女子たち。


 代表である月乃は、言葉を整理しつつ、応じる。


「そっか……。うん……。環お姉さまは、多くの生徒に慕われているんだよ? そのことを言えば、きっと、皆が協力してくれる……。お願いします」


 ペコリと頭を下げた月乃に、問いかける。


「ところで、メグ……咲良さくらとは? お前に逆らった形だろ?」


「ああ、それ? 3年主席の脇宮先輩に、釘を刺されたよ! 君が咲良を特別扱いせず、平等に距離を置くと決めたし……。この機会に、話しておくよ」


 言い終わった月乃は、ため息を吐いた。


 よっぽど、怖かったらしい……。


 一緒にいる咲良マルグリットを見れば、小さくうなずいた。


「時翼さん? ……重遠しげとおの護衛ですが、どうします?」


 困った月乃は、俺のほうを見た。


「君が、決めて」


「必要になったら、呼ぶ! 2年主席の神子戸先輩を探すためには、1人のほうが動きやすい」


「ん、分かった……。じゃあ、それで」



 ブルルル


「時翼さん! カウンセラーの繁森しげもり先生に、呼ばれたのですが?」


「行って、いいよ? 咲良はお世話係で、こちらの担当はないし」


 頃合いか……。


「じゃ、俺も動くから!」


「1年エリアは、自由に見てね! 何かあったら、呼んでくれて構わないから」

「分かった。あと、ここの主席補佐……新井あらいさん、でしたか?」


 黒髪の前下がりボブで、茶色の瞳。


 美少年にも見える女子が、ビクッとなった。



 1年の主席補佐である、新井実果みかは、直立不動に。


「ひゃい!」


「えっと……強く、生きてください」


 俺の励ましに、彼女は、何とも言えない、びみょーな顔に。


「は、はい……」


 

 月乃は、その様子を見て、息を吐いた。


「これでも、実果は、柔拳の宗家の娘なんだけどねー? 新井流の……」


「むむむ、室矢くんと比べたら、私なんて……。アハ! アハハハハハ、はあッ……」


 何と言うか、ごめん。

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