第764話 ベル女の歴代最強ー②

 ――校長室


「先に、ベルス女学校の責任者として、お詫び申し上げます……。当校の生徒が襲撃したこと、いかようにも償う所存です」


 妙に若作りの校長である、りょう愛澄あすみ


 立っている彼女は、深々と、頭を下げた。



 応接用のソファーに座っている俺は、すぐに応じる。


「謝罪を受け入れます……。1つずつ話したいので、おかけください」


「はい」


 立場が逆になっているものの、今回は、一歩間違えれば、千陣せんじん流と真牙しんが流の全面対決だ。


 対面に座った愛澄を見たまま、結論を述べる。


「四大流派の話にする気は、ありません……。いずれ、何らかの形で、返してください」


 不問にすることで、貸し1つ。


 部屋の中は、ホッとした空気に。



 代表者である愛澄が、対応する。


「ありがとうございます! はい。この借りは、いずれ……。当然ながら、首謀者の時翼ときつばささんと、共犯の1年女子は、処罰の対象です! そこで、相談したいのですが……」


「俺が、どのような処罰を望むのか、と?」


 首肯した愛澄は、緊張しながら、両手を合わせた。


「はい……。正直なところ、室矢むろやくんが納得するよう、取り計らいたいので……。ああ! 先ほどの借りとは、別ですからね?」


 うなずいた俺は、冷静に言う。


「こちらが挑発した結果でも、あります……。だから、『以後の滞在で、どの女子も抱かない』という条件では?」


「説明をお願いしても?」


 探るような視線の愛澄に、答える。


「一言でいえば、『ベル女の不和を防ぎたい』という話です。お世話係のメグ……咲良さくらさんは、俺の味方でした。けれど、彼女だけ特別扱いにして、1年女子を謹慎のままにしたら……」


「咲良さんは、交流会が終わった後で……逆恨みされますね? 私が厳命しても、逆効果……。確かに、ウチの1年を立て直すため、最善の提案です! ただ、室矢くん1人が、損をするのでは?」


 ここで、壁際に立っている、2年の主席補佐。


 雪野ゆきの紗織さおりが、声を上げる。


「あ! だったら、2年で相手をするよ!」

「そこは、譲れないわ」


 すかさず、3年主席である、脇宮わきみや杏奈あんなも。


 そちらを見ながら、断言する。


「例外は、ありません」


「えー!?」

「そんな……」



 見かねた愛澄が、手を叩いた後で、宣言する。


「室矢くんが望んだ以上、これで決定! 脇宮さん。1年の件は、とします。ただちに、実行しなさい!」


「ハッ! 脇宮主席は、下級生への指導を行います! ……1年女子には、交流会が終わった後で、休日を潰しての奉仕活動とします。……咲良さんもよ?」


「はい……」


 俺の後ろに立っている、咲良マルグリットの返事。


 ここで特別扱いをしたら、意味がないからな。



 杏奈は、横に並んで立つ、時翼月乃つきのを見た。


「時翼さんは……学年主席で、この騒ぎを起こした張本人。ハンドガンのバレの管理ミスによる、女子の暴走と併せて……」


 少し悩んだ杏奈は、顔を上げた。


「減俸できないから……。奉仕活動が終わった後で、全員に差し入れをするように! 必ず、同じメニューでね?」


「はい……」


 月乃は、力なく、返事をした。


 いっぽう、杏奈は、指導を続ける。


「同じ学年主席として、『バレの管理』の見直しを求めます。交流会が終わった後に始めればいいから、複数のプランを提出するように! 新井あらいさん? 主席補佐のあなたも、頑張りなさいよ?」


 言外に、お前は、あの現場で、何をやっていたんだ? と詰めている。


「ハイッ!」


 1年の新井実果みかさん。


 もう、涙目になっている……。



 こちらに向き直った杏奈は、直立不動のまま、愛澄に言う。


「以上で、下級生への指導を終了します!」


「はい、ご苦労様でした……。『バレの管理』については、私も興味があります。完成したら、見せてください」


「ハッ!」


 雰囲気に呑まれていたら、愛澄が、こちらを見た。


「こんなところで、いいでしょうか? 内輪ネタでしたが……」


「あ、はい……」


 この状況でやり直させる意味、あるの?




 ――上級生だけのカフェ


 オシャレな店に入ったが、どうやら、1年は利用できないようだ。


 ベル女の、ローカルルール。


 

 オープンテラスで、1つのテーブルに、先ほどの女子たち。


 改めて自己紹介をした後で、脇宮杏奈が、口火を切る。


「あなたが特別扱いをしないから、咲良さんは大丈夫でしょう。たぶん……」


 チューッと吸い、再び、話し出す。


「時翼さんも、悪い子ではないわ……。次に会ったら、表向きでも、普通に接してあげて! 交流会だけではなく、咲良さんと何かあれば、私が仲裁するから」


「分かりました」


 ロリ可愛い、雪野紗織が、割り込んでくる。


「歴代最強の仲裁なら、心配いらないよ! ああ、室矢くんは知らないか! 脇宮先輩は、ウチの学年主席の中でも、一二を争う実力」


「へえ……。ところで」


 話題を変えた俺は、さっきからテーブル上で、グイグイと押しつけられる、コーヒーカップを見た。


「いや、飲みませんよ?」


「そう……」


 くだんの『歴代最強』は、がっかりした雰囲気で、引っ込めた。


 指で、自分の髪をいじり始める。


 分かりにくいが、どうやら、ねたようだ。

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