第756話 四大流派と室矢家の明日
四大流派の中で、現代技術を取り入れた魔法を使い、公権力に食い込んでいるため、一般からの希望者が多い。
儀式的な焚火がディフォルメされた、三角のマーク。
そこの上級幹部(プロヴェータ)である
『というわけで、預かった魔術書を解析していた連中は、建物ごと封鎖された。あとは、お前が知っての通り!』
「神話生物がうろつく、ホラーハウスになって、カレナが全て片づけたと……」
椅子に座ったまま、溜息を吐いた。
モニターの司は、笑う。
『ま、そういうことだ! この機会に、お偉方もまとめて処分できれば、良かったんだけどな? あいつら、そういう保身は、お上手だ』
「柳井さんも、その1人ですよ?」
突っ込んだら、司は、新しい情報を出す。
『俺はもう、警察を辞めるから! また長官が詰め腹を切ることで、前に昇任した異能者の俺が居座りつづけたら、ヘイトを集めるだけさ! 長官が辞任する前に追い腹を切れば、それ以上はないだろ』
「先に辞めたら、『追い腹』と言わないのでは?」
『細かいことは、いいんだよ! ……後任は、
「分かりました。……ちなみに、柳井さんは?」
『俺か? そうだなあ……。これで、
――とある男子校
身軽になった柳井司は、学校の敷地を歩きながら、ふと空を見上げた。
「今になってみれば、
珍しくスーツを着ているのは、その室矢家が、訪問しているから。
もう関わりたくないから、早々に離れたのだ。
ところが、1人の男子生徒が、走ってきた。
「や、柳井教官!」
「はあっ!? うちの生徒が、
「は、はい! 室矢さんが、面識のある柳井教官を呼んでくれと――」
「力になるって、そういう意味じゃねえぞ!?」
「あ……す、すみません!」
「い、いや! お前に言ったんじゃない! とにかく、案内しろ!!」
――体育館
広い場所では、中央に立つ重遠に、次々と男子生徒が襲いかかっては、合気のように引っかけられ、投げ飛ばされている。
突きや蹴りは、どれも外され、姿勢を崩した奴から、倒されるだけ。
ダアンッと、床に叩きつけられる音が、どんどん響く。
四方から襲いかかるも、立っている重遠は、涼しい顔。
走ってきた司を見た重遠は、死角から魔法でスピードをつけた男子を身体の位置だけで崩しつつ、微笑んだ。
「あ! 久しぶりです。柳井さん!」
突っ立ったままの重遠に対して、引っ掛かり、宙を舞った男子が、体育館の床に叩きつけられる。
それを見た司は、思わず叫ぶ。
「いい笑顔だな、お前!?」
◇ ◇ ◇
その名前の通り、桜の花びらと、
真剣による接近戦を行い、主な戦力は、
ようやく復興した、
そのグラウンドに置かれた演台に、1人の若い女が立った。
「わたくしは、ここに、謹んで報告いたします。幕末から続く因縁を終わらせて、桜技流が真の自由を得たことを……」
グラウンドに整列している、制服の女子たちは、誰もが神妙な顔だ。
それを見回した
「これからの桜技流は……警察組織とは無関係のまま、信仰と退魔のために活動します!」
整列している女子や教師たちが、一斉に声を上げた。
桜技流は、原作で成し得なかった、独立を勝ち取ったのだ。
「最初に誓林を選んだのは、ここの新聞部で、大きな犠牲が出たから……」
咲莉菜の声で、しんと静まり返った。
その慰霊碑は、もう作られている。
「彼女たちの犠牲があったからこそ、今があります……。今後は誰のせいにもできず、私たちの責任です。もうすぐ、男子校がスタートすることで、男女の惚れた腫れたのトラブルも発生するでしょう。警察を頼れず、困ることも、あるでしょう。ですが! 手探りでも前へ進み、掴まなければいけません。他でもない、私たちの明日を!」
【
本当は、彼女こそが、主人公だったのかもしれない。
ある時に、ふと言った言葉が、印象的だった。
わたくしを強い人間だとは、決して思わないでください……。
◇ ◇ ◇
糸がついた絡繰り人形による、四角のマーク。
未知の技術を扱っていて、他の四大流派より閉鎖的だ。
新人のリクルートも、一般公募ではない。
俺の……生まれ故郷だ。
廃墟の世界にあった培養ポッド、つまり俺が成長した
「2人の母さん……。色々あったけど、俺は生きていくよ、この世界で……。さよなら」
ここに来ることは、二度とないだろう。
傍に立つ緋奈は、無言のままだ。
本人の希望と、原作知識を有することから、室矢家のハーレムに加えた。
俺の出生の秘密から、どっちみち、操備流との窓口も必要だったからな……。
正妻の
「大丈夫?」
緋奈の声で、目を開けた。
「ああ……。言うほど、感傷に浸っちゃいないさ」
2人で歩きながら、話し合う。
「お前は……気にしないんだな?」
言外で、原作における、自分の扱いと、含ませた。
笑顔の緋奈は、俺に抱き着きながら、囁く。
「私が知ったのは、自分のことだけ……。それに、原作の
俺の逆鱗に触れたと思ったのか、緋奈は、媚びるように聞いてきた。
「別に……。そろそろ、離れろって」
「またまたー! 好きな癖に♪」
グリグリと押しつけてくる緋奈は、赤い顔で、囁く。
「頭バカになるのも、悪くないね! 明夜音ちゃんが、夢中になるわけだ……」
◇ ◇ ◇
千陣流。
歴史が古く、2枚のお札を交差させた、丸のマークだ。
京都の本拠地を訪れた俺は、
その縁側に、並んで座った状態。
魔王を倒した経緯を話し終えたら、九条
いつもの、低いイケボ。
「分かった……。これで、僕も、
「いえ……。千陣流を変える気はなく、今のままで暮らします。ただ、
首肯した和眞さんは、すぐに応じる。
「そちらは、僕から話しておくよ……。ああ、そうだ! 君の
「それは……別にいいですけど。九条さんは、どうするつもりで?」
和眞さんは、遠回しに、父親だと名乗り出る気はない、と告げてきた。
「航基くんも、それは望まないだろう……。高校卒業と同時に、僕のほうで、面倒を見るよ」
「あの、九条さん?」
こちらを見た和眞さんに、思い切って、告げる。
「俺にとって、九条さんは……父親のような人です」
珍しく驚いた和眞さんは、笑顔に。
「ありがとう……。嬉しいよ」
『千陣重遠』に頼まれた、最後の仕事。
それは、九条和眞を父親として、それに見合った対応をすること……。
――お前にとっては、他人だろうが、せめて演技でも!
あいつは、土下座をしながら、必死に頼み込んできた。
この発言が精一杯だが、俺にとっても恩人であることに、違いない。
「もうすぐ、年が変わるか……。早いものだ」
和眞さんの言葉で、俺は我に返った。
「え、ええ! そうですね……。ところで――」
原作が終わっても、日常は続く。
だけど、俺にはまだ、気がかりなことが、1つだけある。
――高校3年生の夏
星空の下で、七夕の短冊に願いを書いた室矢家の面々が、思い思いに過ごす。
その時に、室矢カレナが、通りかかり、1つの短冊をしげしげと眺めた。
屋外パーティーを行っている彼らとは別に、笹の葉が、風で揺れる。
“これ以上、女が増えませんように!”
室矢重遠の字だ。
その下に、カレナの字で、返信がある。
“願うのは、いつだって、自由だ”
~Fin~
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