第752話 室矢くんガチギレ、欲張りセット(前編)

 ――オーストラリアの特殊戦術チーム


『終了!』


 今回は、ブービートラップ祭りだった。


 未来予知と、空間ごとの把握で、あっさりと撃破。




 ――フランス国家憲兵隊


『以上で、終わり!』


 意外にも、正攻法で攻めてきた。

 初戦の、東アジア連合の武装警察と同じぐらいのレコードで、全滅。


 理由を聞いてみたら、バグキャラに合わせて、殲滅ゲームをしても、仕方ない。と答えられた。


 これだけ、ハッキリ言われると、逆に清々しい。




 ――ドイツ連邦警察 国境警備隊


 細長い筒が向けられ、ドドドドと、銃声とは思えない音が、響き渡る。


 巨大迷路のベニヤ板が粉砕され、壁抜きで、俺に弾丸の雨が降り注ぐ。



「だあああっ!? ふざけんな!」


 文句を言いながらも、その弾道から逃げ続ける。



 こいつら、MG機関銃と、簡易パワードスーツを持ち出しやがった!



 プラスチック弾とは思えない破壊力と、弾幕を見せながら、俺を追い続ける。


 しばらく、国境警備隊の5人が、撃ちまくっていたが――



『え、えー! 只今ただいまをもって、対戦を中止!! 繰り返す、これ以上の発砲を禁ずる!』



 どうやら、巨大迷路がスクラップになりかけたことで、舞台を提供している日本警察が慌てたようだ。


 流れ弾が、壁をえぐっていたようだし。


 引き分けと言い残して、強引に、試合終了。




 ――ユニオンの銃器専門部隊


『全員、武器を納めるように!』


 杖術じょうじゅつと、ワイヤーを組み合わせたような、面白い逮捕術。

 ネットランチャーなど、相手を拘束する装備が、多かった。


 ユニオンと言えば、王女のアドラステアは、元気だろうか?




 何だかんだで、ドイツとの引き分けを除いて、全勝だ。


 じゃあ、帰る――



『えー! では、最後に、日本警察のSWATスワット(スペシャル・ウエポン・アンド・タクティクス)第一小隊との対戦です!』



 忘れていた。


 十分に戦ったから、やる気がないんだよなあ……。



 今まで地味だったし、巨大迷路ごと吹き飛ばして、そのまま帰ろうか?



 あれだよ。

 私がいれば、それで良いのだ! 的な……。



「頑張れよー!」

「日本警察の意地を見せてくれ!」


 屋内の射撃場で、巨大迷路の周りにいる関係者が、声を上げた。


 むろん、警察サイドだ。



 ビ――ッ


『各自、スタンバイ! 3、2、1、開始!!』


 

 気乗りしないけど、頑張るにゃあ!


 心の中でふざけながら、巨大迷路の入口の横に張り付き、セミオートマチックを片手に入った。



 ご丁寧に、また変わっている構造。


 とりあえず、見えている部分をクリアリングしつつ……。



 ここは、警視庁の警察学校だ。


 それだけに、仕掛けようと思えば、何でも仕掛けられる。


 

 低めの位置で、転ばせるワイヤ―トラップ。


 各所のセンサーと、カメラ。


 他の部隊に明かしていない物も……。



 見られにくい位置で立ち止まった俺は、セミオートマチックを仕舞った。


「これで、終わりだよな? いやー、お願いしますよ、本当に……」


 部屋のすみに立つ俺は、ふと、強い視線を感じた。



 この巨大迷路は、天井がない。

 そして、プラスチック弾とはいえ、精鋭部隊が、パンパンと発砲するのだ。


 制止のアナウンスが流れても、従わない奴が出るかもしれない。

 監視カメラの死角に、問題が起きるかも?



 そういうわけで、数人の狙撃手が、配置についています。


 観測手も、一緒です。



 その一角を見上げた俺は、次の瞬間に、ブッという音を聞いた。


 頭に当たった弾丸は、後ろから抜ける時で、その破壊力を示す。

 つまり、叩いたスイカのように、頭蓋骨の後ろが、広範囲に吹っ飛ぶのだ。


 頭の中身をぶちまけながら、ダンッと後ろに叩きつけられて、壁のベニヤ板にもたれたまま、ズルズルと崩れ落ちる。


 斜め下へ着弾した穴を隠すように、床へ座り込み、力なく、ドサッと倒れた。



 ライフル弾、速すぎ……。


 1アウト。



 ◇ ◇ ◇



 タァ―――ンッ! という発砲音が響き渡り、射撃場で動きがあった。


「今の発砲は、何だ!?」

「待機中のビッグアイ2による、狙撃です!」


 体育館のような射撃場の2階部分となっているキャットウォークで、そのビッグアイ2らしき狙撃手の横にいる観測手が、慌てて何かを言っているようだが、ライフルの銃口を向けられ、撃たれた。


「何が起きている!?」

「だから、上で、誰かが狙撃――」


 混乱する1階は、収拾がつかない。


 いっぽう、同じ2階のキャットウォークで、離れた場所にいる観測手が、膝立ちのまま、無線を使う。


「本部! ビッグアイ2が、発砲しています! 無力化のため、射撃許可――」


 観測手の力が抜けて、前へ倒れた。

 大きな銃声に続き、ガンッと、頭を叩きつける音。


 パートナーが撃たれたことで、伏せている狙撃手が体の向きを変え、安全装置を外した。


 呼吸を整えて、発砲。


 外れ。


 だが、別の場所にいる狙撃手によって、乱射した狙撃手は、撃ち殺された。


「本部へ! ビッグアイ2を無力化! これより、生死の確認と、拘束を――」



 ところが、胴体を撃ち抜かれたはずの男は、むくりと起き上がった。


 唖然とした、他の狙撃手たちは、我に返る。


「動くな!」

「今なら、話を聞いてやる!!」


 口々に言いながらも、それぞれに、スナイパーライフルを向け、トリガーに指を添える。


「ぐえっ!?」


 その時に、観測手の1人が、驚きの声を上げた。


 うるさい、と思ったスナイパーだが、隣の相棒に構わず、狙撃姿勢のまま――


「こ、小宮こみや! 小宮!!」


 ポンポンと叩かれながら、名前を呼ばれたことで、うつ伏せの狙撃手は、溜息を吐いた。


 スコープを覗いたまま、たしなめる。


「うるさいぞ、三浦みうら……。今の状況、分かってるのか?」

「違う違う! あいつ! 太田おおたの顔! 顔だよ! 見てみろ!!」


 何なんだ、と思いながら、狭い視界のスコープを上へ向けた。


 目の周囲だけのバラクラバですら、その驚きが分かる。


「何だ……あれ?」


 狙撃手に見えているのは、乱心したビッグアイ2こと、太田の顔。



 目の部分が動いていて、よく見れば――


「ウジ……なのか? あれ……」


 

 太田の鼻や口からも、白い物体が、ボロボロと零れ落ちている。


「うぷっ……」


 吐き気を覚えた狙撃手は、慌てて、スコープを下へ向けた。



「あれ、何だ? あいつ、どうなったんだ!?」

「知らねえよ!」


 観測手の問いかけに、怒鳴るだけのスナイパー。


 

 同じように気づいたのか、連続で発砲している狙撃手も。


『ビッグアイ4! 発砲を止めろ!』

『太田の体に、大量のウジが見えます……。か、化学防護服の準備を――』

『それより、招待したVIPの避難を――』


 パニックになっている無線に、うつ伏せの狙撃手は、溜息を吐いた。

 膝立ちのままの観測手を引っ張り、同じように、伏せさせる。


 彼自身も、ボーッとしていたら、撃たれると、気づいた。


「す、すまん!」

「いいから……。しかし、本当に何だ、あれ?」


 狙撃手は、うつ伏せのままで、首をかしげた。



 パニックで弾を撃ち尽くした狙撃手チームが、下がった。

 1階も、ようやく事態を把握して、別の空間へ避難。


 代わりに、アサルトスーツを着た、日本警察のSWATが、登場。

 さっきまで、室矢むろや重遠しげとおと対戦していた、第一小隊だ。


 雰囲気から、実弾を装填した銃らしい。


「太田アァアアッ! 銃を捨てて、ひざまずけ!!」


 第一小隊の全員が、ジャキッと構えるも、見える部分にウジが詰まっている本人には、何の感情も見えない。


 ゆっくりとしゃがみ、投降するのかと、思いきや……。



「だ、第一小隊より本部へ! 人質です! 太田は女性1名を連れているため、交渉人を要請します!」



 その報告の通り、床にしゃがんだ太田は、置いていたジュラルミンケースを開けて、両手両足を縛っている、若い女を引っ張り出した。


 見た限りでは、そちらに、異常はない。



 太田は、荷物用のカッターで、足の拘束だけ、切った。


 女を強引に立たせたまま、拘束された両腕の片方をつかんでいる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る