第750話 もう、お前らで戦ってくれー②

 ――USFAユーエスエフエーの控室


 身軽な服装のSWATスワット(スペシャル・ウエポン・アンド・タクティクス)の面々が、椅子に座っている。


 大型のモニターで対決を見た後に、感想を言い合う。


「武警も、ザマァねえな? 負けるにしても、一発ぐらい、当てろっての!」

「ずいぶん、トリッキーな動きをする奴だ……。『艦隊を潰した』と聞いたから――」


 パンパンと、手を叩く音で、全員が前を見た。


 ムキムキの小隊長は、教壇に立つ先生のような図式で、ブリーフィングを始める。


「お喋りは、そこまでだ! 東アジア連合の武装警察は、あいつの手の内が分からん状況での突入だった。俺から見ても、セオリー通り。奴が目茶苦茶に動いたことで、先手を取られた形だな……。完敗した以上は、本国に帰った後で、処罰を受けるだろう」


「それは、お可哀想に……」


 茶々を入れた隊員を見た小隊長は、たしなめる。


「エリック! 俺たちは、自分の心配をするべきだ! 2戦目で、多少の情報が入っている。これで武警と同じザマになったら、それこそ、言い訳できんぞ!? お前も、SWATから銃器保管庫に異動して、撃ち終わった銃のクリーニングに明け暮れるのは、嫌だろう? ……警部は、どうされるので?」


 話を振ったら、スーツを着ている男が、足を組んで座ったまま、返事。


「君に、任せる……。オペレーターも、君が指名しろ」


「了解。……シーラ、頼めるか? 奴と俺たちの位置を教えてくれれば、それでいい」


 いきなり矢面に立たされたシーラは、緊張しながら、同意する。


「わ、分かりました!」


 うなずいた小隊長は、全体を見る。


「よし! 時間がないから、手短に指示する! あいつのペースにさせたら、武警の二の舞だ。45口径の弾幕で、圧倒する! サブマシンガンのUMPとイングラムで、弾をばら撒くぞ! サブアームは、45口径にこだわる必要はない。投げ物も、ありったけだ! Gear up!(準備しろ!)」




 ――観戦室


 ゲスト用に整えられた部屋は、対戦するチームがいた会議室とは、大違いだ。

 ゆったりしたソファーと、1人用の椅子があり、防弾仕様になった窓からは、下の巨大迷路が見える。


 大型モニターと、各席のモニターで、競馬のVIP席を彷彿とさせる内装。


 各国の大使館員や、警察、軍の関係者が集まっていて、今はグループで、色々と話しているようだ。


 英語、大陸語、フランス語、ドイツ語と、賑やか。



 気難しそうな面々から離れた場所では、女子高校生たちが、向き合う。


 室矢むろや家のハーレムメンバーと、港区の『東京エメンダーリ・タワー』から重遠しげとおと知り合った留学生の、ファースト・コンタクト。


 先住猫と、新入り猫を会わせた時のような、緊張感だ。


 厳密には、紫苑しおん学園の通信制クラスで、一緒だが……。



 気まずい雰囲気の中で、鮮やかなレッドの髪をした女子が、歩み出た。


「初めてではないのだし、手早く済ませましょう? 私は、USのヴェロニカ・ブリュースター・モリガンよ。紫苑学園の始業式でも、同じクラスにいたわ。通信制だけどね? えーと、ミズ南乃みなみのが室矢家の正妻で、合っているかしら?」


 首肯した南乃詩央里しおりは、堂々と応じる。


「はい。私が、正妻です……。同じ学園のクラスメイトとして、お願いします。これだけの人数となれば、見ただけで分かる――」

「それなら、はい! これに名前を書いて、首から下げてください!」


 マティルデ・レティシア・プラヴォは、笑顔のまま、長机の上に置かれた、アクリルの名札を指差した。


 ご丁寧に、中へ差し込むカードと、マジックも。



 キュキュッと書いた面々は、それぞれに、名札カードをぶら下げる。


 間抜けな構図だが、人数が多すぎて、こうするしかないのだ。



「いきなり、全滅させられましたね……。感想は?」

「特には……。まあ、私が言ったことだから、取り成しておきます」


 ソフィア・ヴォルケドールの質問に、傅 明芳(フゥー・ミンファン)は、あっさりと答えた。


「私のほうは、『警察の部隊』と言われて、動けませんでした……。軍で良いのなら、スペツナズを出しましたが」


 残念そうなソフィアの笑顔に、明芳ミンファンは、誤魔化す。


「マティーも、パスしましたし、別に良いのでは?」



 窓際で立ち、下の巨大迷路が動かされている様子を見ながら、2人の女子が話し合う。


「端的に言うわ……。USから、女子を迎え入れる気はない?」


 南乃詩央里は、ヴェロニカのほうを向いた。


「ご存じだと思いますが、ウチはもう、パンパンです! 下世話な話ですが、『3Pありきでローテーションをする』というプランを真剣に考えているぐらいで……。重婚が許されたとはいえ、それは室矢家を縛る鎖に、過ぎません。正直なところ、私はもう御免です」


 疲れた様子で、言い切った。


 同情する顔つきのヴェロニカは、それでも、話を続ける。


「それは、大変ね……。こちらの事情になってしまうけど、あなた達が東連とうれんに加えて、欧州やユニオンと距離が近く、オーストラリアとも関係を深めていることで、上が五月蠅いの。同年代を1人だけでも、お願いできないかしら?」


「モリガン財閥の紐付きとして?」


 身体の前で腕を組んだままのヴェロニカは、肩をすくめた。


「ええ、その通りよ……。ウチを断っても、反異能者の連中とかが、押し寄せてくるわ」


「そちらを味方につければ、USの面倒な勢力を抑えてくれると?」


 頷いたヴェロニカは、説明する。


「そのつもりよ? これでも、USの一角を占めている財閥だから……」



『そこで、固定しろ!』

『西エリアは、終わりました!』


 次の対戦に向けて、下の巨大迷路を動かす音や、作業の掛け声、電動工具や重機の音が、モニターから流れている。



「私たちの高校卒業まで、時間を与えます。若さまが気に入りそうな女子を選び、適当に連れてきてください。紫苑学園の通信制クラスで会わせれば、お見合いの代わりになるでしょう。最終的な決断は、私が行いますので、悪しからず」


「ありがとう! すぐに、手配するわ! 私のことは、ロニーと呼んで。……また、連絡する」


 室矢重遠の知らないところで、女子が増える話が、まとまった。



 上機嫌のヴェロニカが離れたのと入れ替わりで、室矢カレナが、近づいてきた。


「あやつは、信用できる……。立場があるし、USとの関係は、外すわけにもいかん。ヴェロニカとの関係を維持するだけでも、迎え入れる価値はあるのじゃ!」


 ひょっとしたら、重遠は淫魔王となり、触手で大勢を相手にしたほうが、良かったのかもしれない。


 その時に、別の女子たちの会話が、耳に入る。


「クレア……。ちょっと、重遠に厳しくない? 色々あったけど、友達になったのだから……」


 マティルデの発言に、肩を震わせている、クラウディア・ファン・フェンツが、返事をする。


「あいつ……。ネイブル・アーチャー作戦の時だって、散々に私たちを振り回して……。ニクシーなんか、発狂する寸前だったじゃない!」


 近くにいる本人が、慌てて、フォローする。


「あ……。私は、大丈夫だから……」


「そのせいで、ずーっと、頭から離れないのよ! 今回だって、何これ!? 世界中の警察を集めて、1人で対戦するって、バッカじゃないの!!」


 遠くにいる人々が、クラウディアのほうを見るも、女子の痴話喧嘩と知って、すぐ興味を失った。


 ついでに言えば、この警察サミットは、重遠のせいにあらず。



 場を和ませようと、マティルデが、明るく言う。


「クレアも、重遠のことが大好きで、それがオカズとか? もちろん、冗談――」

「ばっ! ……そそそそそそそ、そんな訳ないでしょ!? 妄想で、あいつに謝らせながら、恥ずかしい事をするのが、すごく興奮するなんて……あ!」



 気まずい。



 顔を真っ赤にしたクラウディアは、もう涙目だ。


 細かく震えながら、必死に周りを見て、声をかける。


「ジ、ジェニーは、分かってくれるよね?」

「巻き込まないでください!」


 ユニオンの留学生、ジェニファー・ウィットブレッドが、思わず叫んだ。



『施設の整備、終わりましたー! スタンバイをお願いします!』



「あ、次の対戦が始まるよ?」

「ウチのSWATなら、さっきよりは、善戦するでしょうね」

「国が違うとはいえ、武警の仇をとってもらいたいです」

「本気を出したら、重遠の圧勝になると思いますが……」

「今回こそ、重遠が切り刻んでくれますか?」

「ソフィ。その言い方は、怖いから!」


 何も聞かなかったていで、留学生の女子たちが、窓際に集まった。


 マティルデに手を引かれ、呆然自失のクラウディアも、一緒に観戦。

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