第749話 もう、お前らで戦ってくれー①

 警視庁の警察学校。

 その屋内にある射撃場で、巨大迷路にエントリーしての、撃ち合い。


 俺たち異能者と、非能力者の、代理戦争だな……。


 どちらが勝っても、大した影響はない。


 ……と言いたいが、今回は、話が大きくなった。


 第一に、桜技おうぎ流が離脱する直前で、説得をしたい。

 そのトップである、天沢あまさわ咲莉菜さりなが、この対決を申し出たから、良いところを見せれば、思い留まらせる。


 少なくとも、警察の上層部は、そう思っているようだ。


 単純に、異能者の排斥と思われる失態を重ねたから、その汚名を雪ぎたいって考えも……。



 第二に、俺の関係で、日本の四大流派にいる関係者も、やってきた。


 室矢むろや家の女子たちは、都合がついた面々だけど――



 前に知り合った留学生の関係で、各国の大使館が、その敷地内を警備している部隊を連れてきたんだわ。



 すごいぞ?


 ここだけで、警察のサミットになっている……。



 東アジア連合からは、武装警察の1個小隊、5人。

 戦闘服を着て、やっぱり、バラクラバで顔を隠している。

 これ、警察と言ったら、あかん奴や、という雰囲気。


 円陣を組み、大陸語で、掛け声を上げているようだ。


 言うまでもなく、傅 明芳(フゥー・ミンファン)が、きている。

 あいつ、俺と仲良くなりたいのか、殺したいのか、どっちだよ?



 USFAユーエスエフエーからは、本場のSWATスワット(スペシャル・ウエポン・アンド・タクティクス)が、来てくれた。


 同じく、1個小隊、5人。

 小隊長は、いかにも海兵隊上がりって感じの、ムキムキマッチョだ。


 この国は、元軍属が多いから、安定した強さ。

 同じUSでも、市警によって予算が違うから、地味に装備とかが違うらしい。

 彼らは、見るからに良い装備で、精鋭だと思う。


 沖縄で知り合った、2人。

 異能者による特殊部隊、IGUイグーに所属しているグレン・スティラーと、ミーリアム・デ・クライブリンクとの縁だな。


 ぺったん娘のスティアは、いてもいなくても、変わらん。



 オーストラリアの特殊戦術チームも、重装備で、控えている。

 彼らも、警察のカテゴリー。


 アンジェラ・フッド・ケインの関係だ。



 フランス国家憲兵隊の、特殊部隊。


 ドイツ連邦警察の、国境警備隊。


 ユニオンの銃器専門部隊。


 

 …………


 あのさあ?

 俺はもう、いらないだろ?


 ここに集まった、警察の特殊部隊で、リーグ戦をやれよ!



 俺がネイブル・アーチャー作戦で目立ったから、どいつもこいつも……。


 ちょっと、空母を含めた機動艦隊を叩きのめしただけじゃん!?



 流れ弾が飛んできても大丈夫な、2階の観戦室に、あの時の留学生たちもいる。

 安全な場所で、ワインを飲みながら、眼下の殺し合いを眺める感じ!


 ドイツ娘のクラウディア・ファン・フェンツに会ったら、せいぜい、面白い最後を見せてね♪ と、笑顔で、あおられた。


 そのうち、服を脱がせて、アンアンと鳴かせよう。


 あいつに何か、やったっけ?

 前から、当たりが強いのだけど……。


 さすがに、これだけチクチクされて、実は、好意を寄せている? とは思わん。

 ツンデレは、神の視点でこそ、許されるのだ。



 各国の警察から、呼んでもいないのに、精鋭が集まりました。

 釣りで、これだけヒットすれば、嬉しいんだろうねえ?


 まあ、彼らは、犯罪者の頭をヒットするほうだけど……。



 レギュレーションは、単純だ。

 各国の警察チームが、プラスチック弾を使い、俺と対戦する。


 プラスチック弾とは、ペイント弾の後継。

 より実弾に近い弾道を描き、射程も長い。


 “実戦的な戦闘技術を、できるだけ安全に習得させる”


 この目的のため、開発された。

 いわゆる、ブルーチップ。


 硬質ゴムの弾頭よりも、安全らしい。


 ちなみに、俺は、魔法による空気弾。

 低出力だから、似たような武器だ。


 それでも、急所に当たれば、普通に死ぬし、彼らはヘッドショットを狙う。



 勝利条件は、相手を戦闘不能、または、降参させること。

 なお、日本警察による判定でも、死亡の扱いに。


 敗北条件は、自分のチームの全滅。



 俺、警察のドリームチームが集まるとは、聞いていないんだけど?



 あ、そうだ!

 特殊ケース対応専門部隊の人が、いるじゃん!


平田ひらたさん。俺と――」


 うわ、もういない……。



 逃げるな、平田アァアアアアッ!


 対戦から、逃げるナアァアアアッ!!


 いつだって、俺は、戦ってきた!


 ハーレムで、増えた女子が戻ることもない!

 おパンツが奉納されて、神格になったことも、取り消せない!!


 クラウディアは、いい加減に謝れ!

 お前、喧嘩を売りすぎだ!!


 何だって、こうも毎回、面倒な事になるんだよぉオオオオッ!


 アアアアァ……。



 ふう。


 じゃ、始めるか!



 俺がスタスタと、巨大迷路の入口に近づいたら、アナウンス。



『では、これより、第1回の対戦を始めます! Preparation for entry.(突入準備)』



 ベニヤ板で区切られた、疑似的な室内。


 上を向けば、体育館のような、射撃場の天井が見える。



 何も持たず、目の前の開けた、扉ぐらいの空間の横に、張り付く。


 目を閉じる。


『3、2、1、Go!(行け!)』


 目を開けて、躊躇ためらわずに、迷路の中へ走り出す。



 ◇ ◇ ◇



 軍の兵士にしか見えない、警察の特殊部隊。


 バラクラバで顔をかくし、軍用ヘルメットを被り、目を保護するゴーグルを下ろした5人は、縦一列のまま、キリングハウスへ突入していく。


 スリングで下げているサブマシンガンは、両手でしっかり保持。


 先頭は、すぐに撃てる姿勢で、銃口は前。


 死角がある手前で立ち止まり、後続は、それぞれに先頭のサポート、側面のドアの警戒、後ろに銃口を向けると、役割をこなす。


 この国の指揮官が、別の場所から、指示する。


『いいか? ブリーフィングの通り――』

 ダダダダ


 ブーツの足音が高らかに響き、室矢重遠しげとおは、マラソン大会のように、走っているようだ。


『ここでは、マズい。同時に撃てる場所で、待ち構えろ!』


 指示を聞いた小隊長が命じれば、先頭が角から銃口を出しつつ、キビキビと前進。


 5人は、1つの生き物のように、移動していく。



 やがて、長い通路に、辿り着いた。


『前後を警戒! 室矢は、1人だ。発見したら、全員で――』


 ドドドと、足音が近づいてくる。


 角から重遠が曲がってきて、そのまま、突っ込んでくる。


『撃て! 撃て!』


 タタタタタ


 銃声が重なって、乾いた音が続くも、重遠は、陸上選手と同じフォームで、両腕を振り、全力疾走。


 見る見るうちに、お互いの距離が詰まる。


『は!?』


 よく見れば、重遠の正面に、青色の部分がある。

 どうやら、魔法による盾らしい。


 5人で一斉射撃をしているのに、その銃弾は、ことごとく、止められる。


 白兵戦の距離だ。



『どうせ、訓練弾だ! あいつの動きを止めろ!!』


 指揮官は、言外で、味方に当てても、殺すわけじゃないと、含ませた。



 小隊長が見れば、まだサブマシンガンを構えている先頭と、接敵。


『止めろ!』


 指示しながら、小隊長は、サブマシンガンを投げ捨てた。

 片手で、細長い部分を握る。


 その間に、スライディングの重遠が、右のレッグホルスターから抜いた拳銃で、下から連射。


『うくっ!』


 目を保護するバイザーに数発を食らったことで、後ろにのけぞる。


『1番、死亡!』


 実戦だったら、今の被弾で、目を撃ち抜かれていた。



 床の摩擦で止まった重遠に当てようと、2人目が、残った全弾で掃射。

 けれど、跳ねた彼を捕まえられず、虚しく、穴が並ぶだけ。


 両手による狙いで、2人目は、頭を撃ち抜かれた。


『2番、死亡!』


 

 3人目が、拳銃に持ち替えて、まだ空中にいる重遠へ連射。

 だが、不自然に銃口が外れ、あらぬ方向へ、銃弾が飛んでいく。


 夕花梨ゆかりシリーズの権能である糸を巻きつけ、相手の拳銃を動かしたのだ。


 重遠は、持っているセミオートマチックを捨てながら、3人目を引き寄せる。


 耐えられずに、拳銃を離した、3人目。

 今度は、本人と交差するように、キリングハウスに糸を伸ばし、縮めていく。


 一瞬で、3人目の右肩に、重遠の膝がぶつかった。

 その勢いを引き受けた彼は、後ろへ吹っ飛び、背中を壁に叩きつける。


『ガハッ!?』


 反射的に、ナイフを抜こうとするも、重遠の射撃で、胴体に一発、続いて、顔に数発。


 ゴーグルのおかげで、致命傷をまぬがれた。


『3番、死亡!』


 ここで、裂帛れっぱくの気合いと共に、ナイフの風切音。


 重遠は避けたものの、続く蹴りで、二丁目のセミオートマチックを弾き飛ばされた。


 小隊長は、身軽な状態で、片手で持つナイフをゆらゆらと動かし、踏み込みから斬りつけ――


 ナイフを持つ片腕に抱き着いた重遠は、その勢いのまま、グルンと、回る。


 身体強化の魔法による、いきなりの動きで、リズムを掴んでいた小隊長は、逆に意表を突かれた。


『ぐううぅううっ!』


 肩の関節を外されたことで、小隊長は思わず、ナイフを取り落とした。


 地面に降り立った重遠は、糸を伸ばしたことで、自分のセミオートマチックを吸い寄せるように、取り戻す。


 同じように、ゴーグルへ数発。


『4番、死亡!』



 残った1人は、焦りつつも、ハンドガンの銃口を向ける。


 その間に距離を詰めた重遠は、相手の腕を跳ね上げつつ、胸部につけた銃口から、6発ほどの連射。


 下から上に動かしていた相手は、天井を撃ち続けた後に、重遠の片手による外側への振り払いで、拳銃を弾き飛ばされた。


 怒りに任せて、素手の格闘に移るも――


『5番、戦闘不能! 今の射撃を受けた時点で、本来なら動けない!』


 残った1人は、突きをらされた。

 身体強化による低いジャンプで、後ろへ飛んだ重遠に、銃口を突きつけられ、悔しそうににらんでいたが、やがて溜息を吐いた。



『模擬戦、終了! 救護班は、負傷者の手当! 設備班は、セットの修理と、内部の入れ替えを始めろ!!』

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