第682話 室矢家の桜技流サイドで話し合い

 無事に、生き延びられた。


 その喜びに浸る間もなく、桜技おうぎ流の迎えによって、移動。


 車の乗り換えや、屋内への立ち入りを繰り返し、やがて慣れ親しんだ我が家へ……。



 現在は、WUMレジデンス平河ひらかわ1番館の、会議室にいる。


 一緒にいた女子5人は、パーティールームで、待機中。

 どうも、お菓子を作ったらしく、それを並べているようだ。


 カジュアルな私服を着た、天沢あまさわ咲莉菜さりなもいる。

 堂々と会う方針に、変えたらしい。


 彼女の後ろに、2人の護衛がいるのは、仕方ない話だ。


 咲莉菜の視線を受けて、南乃みなみの詩央里しおりが、口を開いた。


「結論から申し上げると、咲莉菜を室矢むろや家に、迎え入れます。将来的な話であって、その目途は、私たちの高校卒業ぐらい……。このレジデンスを訪ねてもらった時点で、警察や他の組織も、理解するでしょう。それで動くのなら、叩き潰します」


「数年後に向けて、炙り出しか……。高校生活も、半分が過ぎたんだなー」


 俺の感想にうなずいた詩央里は、説明を続ける。


「室矢家を一代限りにしたことで、動きやすくなりました。それに、なぎみおの2人がウチの戦力である以上、トップの筆頭巫女に来てもらったほうが、分かりやすく、なおかつ、横槍を防げます。私が仕切っているのは、ウチの奥だけです!」


 ここで、咲莉菜が、付け加える。


「今、詩央里が言ったように、桜技流については、筆頭巫女たる、わたくしが引き受けます。まだオフレコですが、私共わたくしどもは世間の目を気にせず、怪異との臨戦態勢へ移りますー! ただ、重遠しげとおとの子作りが、問題になるので?」


 その視線で、詩央里が話し出す。


「夜のローテーションが限界を超えているため、もう子作りに入ったほうが良いかと、思います。室矢家の正妻である私が、トップバッターと言いたいのですが……。各流派の代表は、ウチにいる女子を含めて、意見を述べてください!」


 まさに、千陣せんじんの名字をいただく、夕花梨ゆかりが、口火を切る。


「私は、すぐに初夜を迎えられない。実家と、十家への根回しが、必要よ? 面倒な儀式になるため、早くても数年後……。詩央里が子作りをしたければ、別に止めないわ」


 咲莉菜も、あっさりと言う。


「わたくしも、急がないのでー! 凪と澪が先に子供を作ることも、気にしません」


 真牙しんが流の悠月ゆづき明夜音あやねも、同じ意見だ。


「私は、今すぐでも、構いませんが……。他の方の事情をかんがみて、高校卒業までは、詩央里に一任します。ああ、そうそう! この場で申し訳ありませんが、魔法師マギクスの学校にも、重遠とメグの訪問をお願いいたします」


 座ったまま、ペコリと頭を下げた、明夜音。


 詩央里は了承しつつも、咲莉菜に尋ねる。


「ところで、若さまが面倒を見ていた、女子5人ですが……。彼女たちをどうしたいのか、説明をお願いします」


 私を納得させなければ、許可しませんよ? という視線を受け、咲莉菜は説得する。


「あの女子5人は、桜技流の各校の代表です。恥ずかしながら、当流は内部に不和があって、その解消を目的としています! いきなり全員を仲良くするのは不可能ですが、同じ学年の5人ならば、対話できると思いました。これは、凪と澪の子供のためでも、あります!」


 詩央里は、最後の発言に、注目した。


「どういう意味ですか?」


「重遠の血筋は、特別です。それゆえ、凪と澪に子供ができれば、過度に注目され、男子は重遠と同じぐらい狙われて、女子ならば、次代の筆頭巫女の有力候補となります。確実に!」


 咲莉菜の断言で、会議室が静かになった。


 同席している北垣きたがきなぎは、涼しい顔だ。


 いっぽう、錬大路れんおおじみおは、正気度が削れている。



 可哀想に……。


 ようやく、俺に慣れてきたのに、まだ顔も見ぬ息子の息子を心配しなければならないとは……。



 澪が、恐る恐る、問いかける。


「えっと……。男子は、女子に迫られたら、我慢できないの? こ、断れない?」


 呆れたように、他の面々が突っ込む。


「毎日ヤりすぎで早世するのが、目に見えているのでー!」

「澪ちゃん……。重遠くんを基準にするのは、止めたほうがいいよ?」

「無理でしょう」

「重遠は、本当に凄いです」


 最後の明夜音だけ、全く関係ない発言で、草生えるわ。


 ピストン運動は、車のエンジンと、機関車だけにしておこう!

 無限射精編になったら、そりゃ、早く死ぬよ!?



 咲莉菜が、詳しく説明する。


「当流で重遠の血筋があれば、神威に基づいて、金と権力が保証されるでしょう! 『御神刀の貸与』を実現したから、武力も期待できます。……わたくしを含めて、合計3人が母親では、『男子は1人』という、最悪の未来もあり得るのでー!」


 決定権を持つ詩央里は、冷静に質問する。


「だから、あの女子5人に、若さまの子供を産ませて、ターゲットを分散したいと?」


「そうなのでー! 当流の事情ですが、各校で1人ずつなら、他の女子やOGに手を出さずとも、苦情を封じ込められます」


 頷いた詩央里が、こちらを見た。


「若さまは、どう思われますか? あの女子たちを気に入りましたか?」


「良い子ばかり。俺としては、別にいいよ」



 お気づきだろうか?


 今のが、俺の初めての言葉である……。



 詩央里は、咲莉菜に許可を与える。


「分かりました。全てあなたの責任で進めるのなら、許します。ただし、どさくさに紛れて、他の女も加えた場合は、裏切りと見なしますよ?」


「感謝するのでー! 彼女たちの子作りは、私たちとは別で、勝手に行っても?」


 首肯した詩央里によって、この話題は終わった。



 数百人の女子にランダムで来られるよりは、今回で仲良くなった5人で固定してもらったほうが、マシだ。


 やれやれ。

 生まれ変わっても、桜技流の男子になることだけは、嫌だな。


 


 ――パーティールーム


「今後も、重遠を含めた6人で、合同の稽古を行ってもらいます。特に、巫術ふじゅつは、当流の存亡をかけた、重要な技術。そなた達の働きによって、演舞巫女えんぶみこの生死が決まると、心得よ! その代わり――」


 天沢咲莉菜は、一通り説明した後で、立ち去った。


 せいぜい小隊長の女子たちは、正座のお辞儀のまま、これを見送る。



 やがて立ち上がり、彼女たちが事前に作っておいた菓子やらで、パーティーの開始。


 気を遣って、咲莉菜たちは、入ってこない。



「全員で、良かった……」

「そうだね!」

「これで、学院長のお小言を聞かずに、報告できまーす!」

「気が抜けましたわ……」

「ふぅ……」


 気難しそうな近衛このえさくらですら、ダラーンとしている。


「ところで、この『いちご大福』が美味しいから、重遠も――」


 手から落ちた大福は、武結城むゆうきシャーロットの胸に落ちた。


 ……大福チャレンジ、成功です!



 それを見ていた女子4人が、自分の胸を触り始める。


「無理」

「厳しい……」

「せめて、あと2カップ……」

「…………」


 気配を殺して、静かに立ち去ろうと、試みたが、最速の藤原ふじわら珠緒たまおに回り込まれた。


 減速を考えていなかったことから、慌てて、抱きとめる。



「そう……」

「珠緒ちゃんだけは、ちょっと、ズルいかな?」

「どうぞ、デース!」


 近衛桜は、上品な笑顔で、宣告する。


「……敵はこちらの都合を考えず、正面から来るわけでもない。そうでしたよね?」


 キャッキャッと騒ぎながら、一斉に抱き着いてくる女子たちをさばきつつ、健全にたわむれた。



 ◇ ◇ ◇



 女子5人は、桜技流の送迎バスで帰りつつ、誰もが笑顔。


 共に合宿をして、命の危機を乗り越え、さらには筆頭巫女のお墨付きで、室矢重遠との行為も許されたのだ。


「重遠君には、みんなで連携しないとね!」

「フフ。5人掛かりなら、あの人も、降参するでしょう」



 楽しく歓談する中で、柳生やぎゅう真衣まいは、ふと気づいた。


「あ、そうだ! スマホの電源、入れないと……」


 OSのロゴが表示され、待機していたアプリが起動していく。

 

 ヴーン ヴーン


 さっそく、新着メッセージがあるようだ。


「どれどれ……」



『私たち、友達だよね? 室矢さまと、会わせてくれない? 1回だけで、いいから! お願い!!』


 可愛いスタンプだが、内容は可愛くない。


 ヴーン ヴーンと、真衣のスマホは、震え続ける。


「ちょっ!」


 ズラズラと並んでいく、アプリのメッセージ。



 差出人や、自己紹介を見れば、誓林せいりん女学園のOG、関連企業、主な就職先まで……。



「ね、ねえ! こういう時って――」


 周りに助けを求めようとしたが、他の4人も、驚いたまま。


『新着だよー!』

『新着だよー!』

『新着だよー!』

『新着だよー!』

『新着だよー!』

『新着だよー!』


 

 それぞれのスタンプは、お願い! 頼みます! とアニメキャラのような感じ。


 走り続けるバスの座席で、着信を示すバイブ音や、声が、響き続けた。

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