第680話 重遠の桜技流ハーレム vs 混成部隊(前編) 

 今回は、桜技おうぎ流のモデルケースとして、各校の代表である女子5人に、その在り方を見せないと……。


 刀を振り回すだけでは、たかが知れている。


 そして、この女子5人は、桜技流の希望だ。

 彼女たちが仲良くできれば、それは剣術の統合と、全体の連携につながる。


 この短期間で、即戦力にすることは、求めていない。



 俺の感覚では、急接近する戦闘ヘリ2機と、歩兵12名を捉えている。



 ホバリング……ではなく、減速からの飛び降り。

 受け身を取らないことから、サイボーグか、パワードスーツ。


 動きやすい宇宙服といった感じで、密閉した服装だ。

 化学兵器を使うのか?


 どうやら、人工筋肉による、動きやすさと威力を両立させた装備。

 シンプルだが、合理的だ。


 武装は、対異能者の大型ライフルと、貫通力を重視した、対戦車ライフルか……。


 その他に、各種の手榴弾、爆発物、グレネードランチャー。


 妖怪たちは、様子見。

 露払いとして、この部隊を差し向けたようだ。



 奴らは傭兵だが、反異能者の過激派。

 MA(マニューバ・アーマー)で東京を目指した、異能者を支援する団体と、結局はやっていることが同じだ。



 ワイヤーフレームのように、敷地の空間をサーチしながら、俺は和装のままで立つ。


 相変わらず、よく分からない怒りに満ちあふれ、気力が尽きることはない。


 ……原作の『千陣せんじん重遠』について、分かってきた。


 俺は、原作でも明かされなかった真実を知った後で、どうしようか?


 しかし――


 今、俺が倒れれば、女子5人は、一気に崩れる。

 抜刀しつつも、こちらをうかがう彼女たち。



 足で小さなステップを踏みつつ、はらう。


水天すいてん、闇をませ。金蓮花きんれんかを咲かせろ……」


 ザザッと、両足を広げつつ、何も持たぬ両手を振るう。



 ◇ ◇ ◇



 気を抜けば、ガタガタと震える。


 両手で握った御刀おかたなが、頼りなく感じた。


 小隊長に命じられた柳生やぎゅう真衣まいは、どうして、自分が……。と思いつつも、相方の武結城むゆうきシャーロットに話しかけられる。


「大丈夫デース! 重遠しげとおに任せておけば、問題ありませーん!! 私たちは、自分の身を守ることだけ、考えましょー!」


 彼女は、すでに小隊長として、退魔の経験がある。

 剣術の腕も、上だ。

 なら、シャロのほうが、適任ではないか?


 真衣の考えを見抜いたかのように、シャーロットが微笑んだ。


「誰にでも、初めてはありまーす! たまたま、今回がデビュー戦になっただけ!!」


 励ましているつもりだろうが、真衣は溜息を吐いた。


 次に、もう1つの部隊を見る。



 近衛このえさくらを小隊長とする、2人。

 

 一番冷静な水無瀬みなせ美亜みあは、つかに手を添えているが、まだ抜刀せず。


 残りの藤原ふじわら珠緒たまおは、機動力があるため、2つの部隊に対して、臨機応変にサポートする。

 今の時点では、桜の側。


 高度な柔軟性を維持しつつも、自由に動いて!



 その時に、離れている室矢むろや重遠が、祓詞はらいことばらしき発言。


 だけど、それにしては、あまりにも……。



 室矢くんの周りの地面から、大量の水が湧き出てきた。


 彼を中心にうずを巻くように、立ち上っていく。


 おそらく、巫術ふじゅつだ。



「今の……聞こえましたかー?」


 シャーロットの言葉で、我に返った。


「う、うん……。はらえだと、思うけど……」


 暗闇でも、緊張した様子のシャーロットが、うなずいた。


「水天さまは、水をつかさどる女神のはず……。それも、言い方が……」


「完全に、対等だったよね……」


 奉納の有無よりも前に、祟られるレベルの話だ。

 いったん激怒した神格をなだめるのは、かなり難しい。


 にもかかわらず、その力を借りた。


 見方を変えれば、重遠はその神格と対等か、それ以上となる。


 

 今は、重遠が見えにくくなるほどの水流が逆巻き、慣れた場所とは思えない。


 真夏の夜に、湿気は高くても、この量は異常。

 滝を思わせる光景だ。



「これは……」


 もう1人の小隊長である桜が、驚きの表情のまま、つぶやいた。


 その隣にいる美亜は、抜刀しつつ、ボソリと言う。


「絶対に、子供を作る……。絶対に……」



 女子5人は、ヘリのローター音を聞き、夜空を見上げる。


 民間用と思われやすい、カラフルな塗装。

 だが、左右に突き出した小翼しょうよくの下に、武装している。


 たった今、見えないように覆っていた布が、空中で置き去りにされた。


 ドアガンとしての、重機関銃。

 ミサイルランチャーらしき筒も……。


 側面のドアは、すでに開かれたまま。


 見えていた兵士は、こちらが撃っても届かない距離で、次々に飛び降りていく。



「抜刀! 敵が来るよ!」


 柳生真衣の叫びで、全員が戦闘態勢に。



 ブーンと、低空で通り過ぎたヘリ2機は、時間差をつけながら反転して、対地攻撃へ――



 空飛ぶブラックタイガーが、2尾いますね! 

 日本じゃ、なかなか、揚がらないんですよー!!


 鮮度も良さそうだから、今日は、こちらで……。


 さっそく、調理を開始します。


 上でバタバタ言っている、メイン・ローターで手を切らないよう、気を付けながら、ウォーターカッターで中心の軸を切る……と。


 ハイ!

 回転している勢いで、メイン・ローターがどこかへ飛んでいったから、残った尻尾も切って……。


 重機関銃や、ロケットランチャーを気が狂ったみたいに乱射するので、ご家庭で調理する際には、注意してくださいね?


 先に、氷水で締めておけば、大人しくなるでしょう。


 もう1尾は、空中に丸く作った水の塊につけて……ハイ! 動きが鈍くなりましたね!



 ◇ ◇ ◇



 人工筋肉によるパワードスーツを着用した部隊は、上空で支援するはずのヘリ2機が落ちたことで、大きく動揺した。


 ブラックタイガー2尾は、もう自前で炭火焼か、重遠の巫術による水煮だ。


 今から巨大ロボットに搭乗しそうな格好の兵士は、ヘルメットのバイザーで、表情も見えず。


 市街戦のセオリーに従い、両手でライフルを構えつつ、一列の移動。


『各員へ告ぐ! 予備のヘリは、ない! 対象への攻撃後に、潜伏先まで走り、回収班を待つ!!』


 指揮官の指示を聞きながら、各分隊は、ブリーフィングの通りに配置へ。


『アルファ、待機中』

『ブラボー、待機中』

『チャーリー、配置に着きました!』


『モーニングスターは、第一目標のシゲトオ・ムロヤと、それ以外の5名を確認! どいつも、撃ち放題だ。外しようがない距離だぞ?』


 少し考えた指揮官は、許可を出す。


『グリーンライト。以後は、お前の判断で狙撃、または、移動をしろ!』

『モーニングスター、了解』



 上から見下ろす窓の1つに、パワードスーツを着たスナイパー。


 モーニングスターと呼ばれた男は、近くの机を窓際に寄せて、即席の台座を作った。


 大型ライフルを載せ、銃身の上に設置したスコープを覗く。


 遠くにいるターゲットが、どれも近くに見えた。



「さーて、どうするかね……」


 今回は、空挺降下のため、観測手がいない。

 けれども、ヘルメットのバイザーの内側に、部隊とのデータリンク、狙撃に必要なデータを表示してくれる。


 人工筋肉のパワードスーツのおかげで、姿勢の保持なども、容易い。


 深夜?

 デジタル処理された、明るい画像だよ!



 これも、時代の流れか……。


 そう思いつつ、スナイパーは、第一射のターゲットを決めた。


 中央で交差したレチクルには、室矢重遠……ではなく、離れた場所にいる女子の1人。


 なぜなら、重遠は不規則な動きを見せつつ、周囲の水流もランダムに動いていたからだ。


 水流の勢いや厚さが分からず、弾道を逸らされるか、止められる恐れがある。


 見えているのが本人とも、限らず。

 ただの映像であれば、カウンターを食らいそうだ。



「それに比べれば、お嬢ちゃん達は、素直だねえ……」


 酒瓶のように立てている、物体をつかむ。


 側面のハンドルを前後に大きく動かして、ガシャッ ジャキンと、を入れた。


 トリガーに人差し指を添えて、ゆっくりと絞る。



 対異能者の、本来なら数人がかりで運ぶ、対戦車ライフル。


 かつては、主力戦車を撃ち抜けるほどの威力。

 弾丸も、巨大だ。


 片手で握っても、薬莢やっきょうがまだ見えるほど……。



 上手くいけば、2人、3人を負傷させられる。


 他の女子が残れば、七面鳥撃ち。


 となれば、室矢重遠も、釣れるかもしれない。



 呼吸を止めたままで、心拍音に合わせた、最後の絞り。


 いよいよ、内部のギミックが動き出し、弾丸のケツを叩き――



 重遠の巫術で、完全にせき止められた水壁によって、爆発エネルギーは弾頭を前へ飛ばさず、代わりに違う方向。

 つまり、対戦車ライフルの外側へと、向けられた。


 しかしながら、せいぜい、銃身がイカれるぐらいだ。


 重遠がその空間を超える力で、こっそりと抜き取って、威力を増していなければ……。



 内部の圧力は、通常よりも遥かに高く、顔の近くで手榴弾を食らったのと、同じだ。



「うぐっ! この俺が、火薬の種類か、量を間違えたのかよ!?」


 全てを覆う、専用ヘルメットのおかげで、愚痴を言うぐらいの状態。


『モーニングスター! どうした!?』

「ライフルが、ぶっ壊れた! すまねえ!! 移動する!」


 無線で返事をしながら、前が見えなくなったヘルメットを外す。


 すぐに、移動しようと――


『ボヴォヴォオオオ! ブブブブ!!』


 くぐもった声は、やがて止まった。


 ばったり倒れた、スナイパーの頭を包んでいた水球は、どこかへ消え去る。




 重遠は、他の兵士たちが動き出す気配を感じつつ、ゆっくり抜刀した。


「素直で、助かったよ……」


 名も知らぬスナイパーへの弔辞は、それだけ。



 狙撃と合わせて動くはずだった部隊が、いよいよ、襲ってくる……。

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