第679話 え? 女子5人に分からせを!?ー③

 正面の女子の斬撃を受け流しつつ、後ろ斜めから突いてくる女子に対して、歩法による回り込みで半身の回避をしながら、その背中を片手で叩く。


 左手で持つ刀を背負うことで、新たな斬撃をらした。


 刃を下へ向けたまま、落下してきた女子には、コンパクトな振り抜きによる衝撃波で対応。


 殺虫剤をかけられた虫のように、ドサッと落ちた。



「これまで、連携の訓練をしていなかったわりに、上手いな? それと、藤原ふじわらは、いい加減に、すぐジャンプする癖を直せ! 着地するまで、良い的だ。空中で手足を掴まれたら、もう抵抗できんぞ? そのまま、ねじり切られるか、潰されつつ、壁や地面に叩きつけられる」


 痛みに顔をしかめている藤原珠緒たまおは、力なく同意。


「はーい、ですの……」


 予算度外視だから、いくらでも、制服を替えられる。

 守りの術式によって本体は無傷だが、慣れない連携。


 精神的なダメージや、失敗した女子に対するヘイトを考えたら、無理をするべきではない。

 俺を悪者にすることで、短期の打ち解けだが、今は強固な関係と、言い辛いのだ。



 黒一点の俺は、何かと恨まれやすい立場。

 だが、物理的に叩きのめす話でもない。


 最初から、悪役のポジションについたほうが、やりやすい。

 良い人だと思っていたのに、よりも、マシになったかな? のほうが、賢明。


 今回の顔合わせで、最悪のシナリオは、少しでも俺に気に入られようと、他の女子と牽制し合い、母校に帰ってから他校への憎悪を膨らませることだ。

 学校単位のヘイトになれば、それだけ、尾を引く。


 ただでさえ、桜技おうぎ流は、内部の対立が激しいんだ。


 いちいち、お伺いを立てられたら、俺の時間がなくなる。

 そちらの話は、そちらでやれ!


 むしろ、今回で嫌われたほうが、楽だ。

 別に、俺がいなくても、普通に回るのだから……。



 今日で、7日目だ。

 彼女たちが連携を試せたのは、せいぜい2日間。


 そのわりに、上達が早い。


 あくまで訓練のため、グループを作らず、女子5人の自主性に任せていたが――


「悪くない……」



 これまでの言動を見て、小隊長――人数的には、分隊長か、班長と呼ぶべきだろうが――にしたい女子も、分かった。


 しかし、ここで無理に決めたところで、意味はないか。


 各校の剣術を統合するのか? も、俺が考える話じゃない。



「早いけど、今日はもう終わり!」



 そろそろ、巫術ふじゅつを交ぜて、戦うかな?


 俺も、あまり得意じゃないんだけど……。



 しかし、最優先の目的は、これで達成したも同然。


 それは、女子5人と疎遠になること。


 演舞巫女えんぶみこの意識改革と、それぞれの学校の橋渡し。

 3つを同時にやらなくちゃいけないのが、辛いところだ。


 お前たちは、今後も、仲良くしていればいい。

 俺の知らないところでな!



 ◇ ◇ ◇



「どうだった?」


 首を横に振った、武結城むゆうきシャーロットは、力なく言う。


「女子だけで仲良くしての、一点張りでーす……」


 それを予想していた、水無瀬みなせ美亜みあは、達観したように応じる。


室矢むろやさまは、私たちを抱く気がない」


「それ以前にさ? 今の距離感だと、室矢くんも、困ると思うけど……」


 柳生やぎゅう真衣まいの指摘で、全員がハッと気づいた。


「まあ、そうですね……」

「みんなで、パーティーをやりましょー!」

「だけど、良いですの? 室矢さまが、怒るかもしれませんわ!」


 藤原珠緒の発言で、全員が考え込む。


「室矢さまと仲が良いシャロは、どう思う?」


 美亜の質問に対して、得意げな返答。


重遠しげとおは、そこまで気難しくないデース! せっかく時間ができたのだし、準備をしましょう! 私たちの気持ちを無下にするのなら、それは怒ればいいんです!」


 ストレートな意見で、本音を顔に出さない近衛このえさくらですら、自然な笑みを浮かべた。


 わずか1週間でも、この女子5人は、親しくなったのだ。


「ええ……。明日ぐらい、ゆっくり過ごしましょうか? 室矢様も、私たちを試したわけですし。こちらがサプライズをしても、1日ぐらいは許されますよね?」



 自分たちを追い込んでいた理由を知り、ちゃんと集団戦を練習できることで、彼女たちの好感度は、むしろ高い。


 最初の数日は、説明なしの決闘が続いた。

 それでも、一方的に叩きのめすことはなく、女子同士の結束は強まる結果に。



 シャワーと着替えを済ませて、役割分担から準備へ。


 せっせと両手を動かし、お菓子の計量をしている美亜が、つぶやく。


「考えてみれば、初日に誰かが初体験を済ませたら、今みたいな関係じゃなかった……」


 それを手伝い、キッチリと量っている真衣が、同意する。


「あー、そうだね! 『自分が最初に選ばれた』と、優越感を持っちゃうし……」


 適当に作ろうとして追い出され、飾りつけを担当しているシャーロットが、応じる。


「今なら、祝福できますが、初日だと嫉妬しましたー!」


 同じく、ノリでお菓子を作ろうとした珠緒も、シャーロットを手伝いつつ、話す。


「みんな、学校の代表ですわ! しかも、女子校となれば……」


 他校の女子は抱かれたのに、自分たちの代表者は、すごすごと帰ってきた。


 裏で、何を言われるやら。

 女所帯だけに、下手をすれば、子々孫々まで、馬鹿にされるだろう。


 思春期の女子の意地と、桜技流の派閥争い。

 そう考えたら、注目されている室矢重遠に抱かれて、将来安泰とも、言い切れず。



 近衛桜は、全体の計画を立てて、手間がかかりすぎる料理、ドリンクの手配をした後に、1人だけ和菓子を作りながら、自分の感想を述べる。


「私たちを平等に扱ってくれたことや、中途半端なセクハラをしなかったことから、女子に慣れている……。今回は呼ばれないでしょうけど、全員が寵愛を受けられれば、良いですね?」


「いっそのこと、全員で、相手をしてもらいますかー?」


 シャーロットの軽口で、真衣の顔が引きった。


「それは、流石に……」


「どうせ、見届け人がつくから。たいして、変わらないと思う。順番がついてギスギスするぐらいなら、一度でとりあえず女にしてもらうのも、悪くない」


 美亜が、冷静に突っ込んだ。



「ところで、桜は、何を作っているの?」

「いちご大福です。白玉粉で、簡単に作れますから……」


「そういえば、ウチにも、男子校ができまーす!」

「先の話ですが、これからは、男子との交流会もありますわ」

「警察からは、もうすぐ離脱ですし。ウチも、変わり時なのでしょう」



 明日になれば、もっと良い方向へ進む。


 室矢重遠と、稽古ではない時間で打ち解ければ……。



 張り切って準備を済ませ、あとは翌日のサプライズを待つだけ。


 ワクワクしながら、修学旅行のように、寝室で布団を並べる。




 ――深夜1時


 カチカチと、音量をMAXにした後で、放送設備を弄る、1人の男子。



『ブーン……ザザザッ』


 ノイズの音が、辺りに響いた。


 続いて、軽快なリズムで、ラッパが鳴る。


 10km先まで聞こえそうな、凄まじいボリューム。



 女子が寝ている部屋では、いきなりの目覚ましで、5人はびっくり仰天。


「みゃっ!?」

「……な、何ですの?」

「え、もう朝?」

「……まだ、深夜の1時デース」

「ZZz……」



『女子5人に告ぐ! 起床、起床! 点呼は、武道場の前! 服装、一級退魔の完全装備! 予備の御刀おかたなも、携行せよ!』



 訳が分からず、寝間着で騒ぐ女子5人に対して、室矢重遠の声が流れる。



『3分以内に集まらない場合は、命と尊厳の保証をしない! 以上』




 ――15分後


 急ぎ集合した女子たちは、髪がボサボサで、明らかに眠そうな顔だ。


 かろうじて、守りの術式がある制服を着込み、背中に金属フレームの装具――演舞巫女の覇力はりょくで動くサブアーム――をつけ、二振りのさやを固定。


 彼女たちの正面に立つ、和装の室矢重遠。


「緊急事態だ! これより、当敷地が襲撃されると、情報が入った!! 推定だが、対地攻撃が可能な戦闘ヘリ2機と、歩兵12名ぐらい。その他に、大入道おおにゅうどうをボスとする、妖怪の軍団だ! 俺のほうで傭兵部隊を叩き、大入道も担当する。全ての迎撃は難しく、お前たちにも自衛をしてもらう!」


 夏の深夜だが、重遠に冗談を言っている様子はない。


 その気迫に、文句を言いたげな女子5人は、緊張してきた。

 

誓林せいりん女学園を襲った連中の、残党だ! いいか? 夜間で乱戦になったら、各個撃破される。今から、2人、3人に分けるが、絶対にお互いが見える位置から離れすぎるな! もし、俺が倒されたら、その時には、各隊で離脱しろ!!」


 重遠の説明に、無言でうなずいた女子たちは、開けた場所で、それぞれの背中を預ける。

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