第678話 え? 女子5人に分からせを!?ー②

 立っている室矢むろや重遠しげとおの周囲に、女子5人が座り込む。

 別にエッチな意味ではなく、対戦を繰り返したからだ。


 真剣を持てば、相手と向き合うだけで、精神を削っていく。

 制服に守りの術式があるものの、これはキツい。


「じゃ、今日は解散するぞ? このまま、俺に一勝もできない場合は、実際にやってもらう! いいか? この状況で可能な行動は、全て許可する」


 死刑宣告をした後で、スタスタと立ち去る重遠。




「し、深夜の駅前で、全裸のまま、コンサート……」

「私は、底辺の男子校へ行って、可愛い勝負下着のまま、敷地の外縁に沿って3周ですわ!」

「公園で、壁尻……」


 全員が負け続けた結果、大変なことになった。


 途中からは、室矢さまは、お強いですね♥ という誘い受けもなくなり、本気で殺しに行ったのだが、全く当たらない。



 真剣同士による撃剣が終わった女子5人は、痛む心身に構わず、武道場の板張りで集まる。


「とりあえず……室矢さまが、どこまで本気かを話し合いましょう」


 風越三千院かざこしさんぜんいん高等学校の近衛このえさくらの宣言で、他の女子4人が、自分の意見を述べる。


「室矢くんが大真面目だったら、言われた事をやるしかないよね?」

「だと思う」


 ここで、炎理えんり女学院の武結城むゆうきシャーロットが、口を挟む。


「んー。重遠が本気で言っているとは、思えませーん!」


 疾雷しつらい武芸学園の藤原ふじわら珠緒たまおが、しょげた。


「……私が怒らせたから、ですの?」


 止水しすい学館の水無瀬みなせ美亜みあは、首を横に振る。


「否定する。その時には、むしろ楽しそうだった。……ここで顔を合わせていても、始まらない。着替えた後に、室矢さまのご機嫌を取ろう?」


 女子たちは、疲れ切った体で、立ち上がる。



「皆は、どういった理由で?」


 人懐っこいシャーロットの発言で、それぞれに答える。


「学園長に、言われたから」

「室矢さまの寵愛を受けられると……」


 話の途中で黙り込んだ、近衛桜。


 他の面々が、ジッと見る。


 顔を上げた桜は、自分の考えを言う。



 結局、お座敷の食事では、上座に重遠の姿はなく、女子5人だけ。


 大きなひのき風呂に入って、修学旅行のような雰囲気で、就寝した。




 ――2日目


 武道場に、室矢重遠の姿。


 制服の女子たちの1人、近衛桜が歩み出て、スッと正座した。


「昨日は、大変申し訳ございません。室矢様がお怒りになるのも、当然の話……。僭越せんえつながら、ねやで私をお試しいただければ、幸甚こうじんに存じます。どうぞ、お好きなように、お使いくださいませ」


 見事な仕草で、両手をつき、深く頭を下げた。


 それに対して、室矢重遠は――


「近衛は、全裸でドームコンサートだ」


 より、酷くなった。


 土下座したまま、小さく震える桜。


 息を呑んで見守っていた女子たちは、違ったかー、と嘆息。


 言われずとも、夜伽よとぎを申し出ないことで、重遠が怒っていた線は、これで消えた。


「お前たち4人も、ドームだ。派手にやるぞ?」


 ステージで壁尻とは、これいかに……。



 1日目と同じように、あしらわれたまま、剣術の稽古を終えた。



 チャポンと、水音が立つ風呂場で、女子たちが愚痴を言う。


『さすがに、酷くないかな? 室矢くんが強いのは、ウチの戦いを見ていて、よく分かったけどさぁ……』


『そんなに、強かったの?』


『うん。誓林せいりん女学園で、こーんな大きい「がしゃどくろ」をズバーッと、倒しちゃった!』


『重遠が強いことは、よく知っていますがー。何とも、言えないデース……』


『室矢さまの気が済むまで、付き合うしかない』


『この2日間の様子だと、すぐには勝てないですわ! それに、機嫌が悪いだけで、これだけペナルティを与えられるのも……』


『そうだね。明日が、憂鬱だよ……』

『こんな嫌がらせと知っていたら、絶対に断っていた』


『初体験は、覚悟していましたけど……。ただの玩具おもちゃにされるとは、思いませんでしたわ!』


『性格が悪いことは、否定できませんね……』



 香りが良い檜風呂から上がり、お座敷で、自分のお膳をつつく、女子5人。

 VIP待遇で、一流の和食だが、どの顔もうつむいている。


 ここで、近衛桜が提案する。


「皆さま……。明日の稽古は、室矢さまに休んでいただく形で、行いませんか?」


 他の女子が、びっくりした顔で、見つめた。


 桜はひるまずに、話を続ける。


「今のままでは、室矢様にご迷惑をおかけするだけ。せっかく、別の剣術を使う演舞巫女えんぶみこが集まったのだから、1回も対戦せずに終わるのは、もったいない話です」


「そうだね……」

「良いと思う」

「私も、賛成デース!」

「ですわ!」


 ついに、重遠くんが、ハブられることに……。


 ようやく元気が出た女子たちは、食後にも、話し合った。




 ――3日目


「そうか……。じゃあ、俺は見学させてもらう。ただし、最後まで俺に勝てない場合は、ドームデビューだからな?」


 室矢重遠は、事もなげに、言い切った。


 今のあなたは、ただの害悪です。という意味を込めて、多少は気づいてくれるか? と期待していた近衛桜は、失望する。


「はい……」



 女子5人で、それぞれに型の披露や、対戦を行った。


 元気な声が飛び交い、最初の2日間とは、打って変わった雰囲気に。



 檜風呂では、最初と大違いの会話。


『あの御方は、遠回しに言っても、理解しないでしょう……。いっそのこと、罷免ひめんしませんか? 咲莉菜さりなさまの男と言っても、限度があります。私たちで、各学校長に直訴すれば、無下むげにされないかと』


『うーん。そこまでは……』

『今日と同じ稽古ができれば、それはそれで貴重』

『問題は、重遠の本音でーす……。本当に、私たちの尊厳を壊すのか……』

『学園長に泣きつくのは、最後にしたいですわ!』




 ――4日目


「この状況で可能な行動は、全て許可する」


 室矢重遠の発言で、彼との対戦に戻った。


 それぞれ、別の剣術を取り入れ、1対1の決闘に……。



 やっぱり、どの女子も、太刀打ちできず。

 付け焼刃で、どうにかなる相手ではない。


 重遠は、一通り戦った後に、女子5人を正座させた。


「初日より、全員が良い動きだった」


 初めて、褒められた。


 その言葉で、ホッとする女子たち。


「これ以上は、引っ張っても、逆効果だろう……。なあ、お前ら? 俺は、『この状況で可能な行動は、全て許可する』と言ったはずだ。なぜ――」



 俺に対して、全員でかかってこない?



 女子5人は、その言葉を理解できず。


 いっぽう、重遠は、話を続ける。


「俺と刀を交えて、強さは分かったはずだ。その気になれば、自分を殺せる相手だと……」


 否定の言葉どころか、仕草もない。


 それを確認した重遠は、説明する。


「相手が自分よりも強いと感じたのなら、数を揃えて、連携しろ。俺が背中を向けている時にでも、斬りつけろ……。今の桜技おうぎ流に足りないのは、それだ! 俺が怪異だったら、スケベな罰ゲームを追加していく程度じゃ、済まなかった……。近衛。お前は、自分が勝てない化け物が襲ってきたら、土下座で許しをうのか?」


 ムッとした近衛桜に、重遠は、まっすぐ見据える。


「事前に説明しなかったから、お前なりに考えての行動だとは、理解している。俺が、意地悪な対応だったこともな? けれども、ただ仲良くして、和やかに終わらせる気はなかった。千陣せんじん流では、エグい死に様がよくある。俺の師匠も、かつては弟子の修業をせず、一緒に遊び回っていたのだが……」


 静聴している女子たちの顔を見た後で、重遠は続ける。


「その弟子が、苗床にされた。救出された後で、ウチの上層部が言い放った言葉は、『あなたの弟子です。面倒を見なさい』だ……。師匠は、とっくに正気を失って、喘ぐだけの少女に2日ぐらい話しかけた後で、トドメを刺した」


 呆然としている女子たちに、改めて問いかける。


「お前らがいる業界は、そういうところだ。被害に遭った奴らは、もう話せないか、自分が悪く言われないために黙っているだけ。俺は、そういう末路になる人間を増やしたくない……。敵を倒すことが最優先で、そこに様式美は不要だ。どれだけ無様でも、騙し討ちをしても、勝つことが全てだ」


 重遠は、桜の顔を見ながら、付け加える。


「千陣流にも、待遇が悪い、年功序列だから出世しにくいと、色々な問題がある。『ウチが絶対的に良く、そちらが悪い』と言う気は、ないぞ?」


 息を吐いた桜は、初めて、素の表情を見せた。


「分かりました……。敵はこちらの都合を考えず、正面から来るわけでもない。まして、同じ数で、1対1になるとは限らない?」


「そうだ。追い詰められた時の、桜技流の対応を知りたかったが……。他校ばかりの環境とはいえ、強敵に対して『大勢で囲む』の選択肢がすぐに出なかった時点で、問題大ありだ」


 目を伏せた桜は、悩み始める。


 先に、話を片づけよう。


「俺が言いたいことは、これで全部だ。現時点をもって、お前らの罰則は、全てなくす! 課題は、分かっただろう? 俺が残る必要は、なくなったが……」


 顔を上げた桜が、即座に応じる。


「いえ。室矢さまには、ぜひ残っていただきたく存じます。あなた様がいなければ、連携を試す相手がいませんから。……もう1つだけ、お伝えしても?」


 首肯したら、桜は女子高生とは思えない、あでやかな表情に。


「今回は必要があったと、理解しております。けれど、あまり女を揺さぶらないでくださいまし。そのうち、本当に刺されますよ?」


 首をすくめた重遠は、熱がこもった桜の視線を避けつつ、答える。


「よく言われる……」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る