第677話 え? 女子5人に分からせを!?ー①
――
「私が……ですか?」
驚いた表情の
「ああ、そうだ……。お前が一番、
「えーと……。室矢くんの、お手付きになれと?」
奥の役員机にいる佑梨子は、付け加える。
「言い方が、悪かったな? そうなる可能性が高い……と言うことだ。室矢さまにお仕えする巫女として、お役目に就いている間は、他の男子を避けてもらう。その意味では、お前が言っているように、選択の余地はない。室矢さまの評判ゆえ、他の縁談を探す場合は苦労するだろうが、当学園として、最後まで面倒を見る。正式に書類を出すから、口約束では終わらせんよ」
「何をすれば?」
役員机の上で両手を組んだ佑梨子が、真衣の質問に答える。
「端的に言えば、連絡係だ。一言で説明すれば、『室矢さまとコミュニケーションを取れて、他校の連絡係とも喧嘩せず、必要な情報や技術を持ち帰る』という、仕事になる……。私が憂慮しているのは、警察を敵に回した状況で、どれだけ上手く立ち回るのかだ。いざとなれば警察に丸投げする慣れ合いだったが、今後は、そうもいかない。昨今の事件を見る限り、
この人、本当にドライだなあ……。
そう思いながら、真衣は同意した。
佑梨子が、立ち上がった。
後ろを振り向き、窓の外を見ながら、話を続ける。
「現状のままでは、人が滅ぶと思っていた。桁違いの化け物が、出てきたら……。
言葉を切った佑梨子は、真衣のほうを向いた。
「話が逸れたな……。全体を統合しての剣術の見直しと、室矢さまの信用による、
真衣は思わず、ムッとしたが、馬鹿にしている雰囲気はない。
学園長の佑梨子は、心底、そう思っているだけ。
遣り甲斐があることで、合同訓練への参加を決めた真衣。
詳しくは、担当の教員から聞け。と言われ、退室する真衣に対して、佑梨子が声をかける。
「なあ、柳生? 私は……この年になって、自分を褒めてやりたい気分だ。あの時に――」
所轄署にいる人間を皆殺しにせず、本当に良かった。
その笑顔に、殺意はなく、純粋にそう思っている感じ。
真衣が驚いていると、佑梨子は、元の態度に戻った。
「今になって思えば、住んでいる世界が違うのだろう。そもそも、交わるべきではなく、我々には強さが必要だ。
それっきり、佑梨子は、自分の仕事に取り掛かる。
真衣は後日に、昔の佑梨子が、退魔の仕事へ出向き、大勢の演舞巫女の犠牲による、大物の討伐を果たすも、所轄署への報告の際に、心ない対応を受けた。と知った。
◇ ◇ ◇
ハーイ!
行きたくなかった、桜技流の学校巡りが、ようやく終わったよ!!
男子校はなく、演舞巫女を育てる女子校だけ。
赤ん坊から面倒を見られる、体系化された教育施設。
それゆえ、主要な看板によって、区別するしかない。
前に、ベルス女学校の生徒を
縄張りに入ったら、大勢で群がってくる点は、蜂と同じだけどさ?
お前ら、あの巨体でオスは無害の、クマバチぐらい、可愛くなれ!
なお、羽音だけを聞けば、ヴウウウウウンと、爆撃機ぐらいの模様。
クマバチは、自分が飛べると信じているから、あの小さな羽で飛べるらしい。
想いが力に変わる、勇者たち。
…………
実際には、空気の粘性を計算して、その謎が解明されたとか。
奴らの感覚では、水の中にいるような感じで、落下しにくい。
クマバチに聞いた事がないから、何とも言えないが……。
今は、桜技流の各校の代表者が集まった場に、いる。
彼女たちが母校へ連絡すれば、大量の仲間が押し寄せてくるだろう。
やっぱり、蜂の生態か。
事前に、桜技流をよく知っている
最初の顔合わせで、食事を兼ねた、自己紹介。
その後に、武装して集まったのだが――
「失礼ですけど、室矢さまの強さを知らずには、態度を決めかねますわ!」
はい。
突然の物言いです。
それを行ったのは、
筆頭巫女の
高等部2年。
桃色に近い赤髪のボブで、茶色の瞳。
元気! という感じのまま、ビッと、片手を上げたまま。
制服は紺のブレザーだが、今は夏服として、薄着だ。
桜技流の学校は、5つに分けられている。
各校は対立している感じで、仲が良いとは、言い難い。
俺が出張ってきたことは、その
代表者の5人とも、高等部2年。
俺と同学年で、合わせてきたようだ。
東京ネーガル大学の敷地で滅ぼした、イピーディロクの情人。
その戦いを見届けた
シャロは
室矢家の
集まっている5人の中では、最も俺に親しみを感じているだろう。
それだけに、今の発言を許せないか……。
“
合理的な太刀筋よりも、力で押し切るのだ。
同じく室矢家にいる
その凪が所属していた
黒髪のショートヘアで、薄い紫の瞳の、
セーラー服のまま、特に感情を見せていない。
襲撃された誓林女学園からは、剣術部の柳生真衣。
こちらもセーラー服で、焦った表情のまま、俺の様子を
俺が大立ち回りをした現場を見ているため、暴れ出さないか、不安のようだ。
あわわ……と言いそうな顔。
長い黒髪をハーフアップにしていて、紫の瞳。
気品があるものの、夕花梨を思わせる雰囲気。
こいつ、絶対に腹黒だよ。
気に入らない女子がいたら、自分が首謀者と分からないように周りを扇動して、潰すタイプだ。
今も、笑顔のままで、俺の反応をねっとり見ているし。
賭けてもいいけど、こいつの内心は、珠緒と同じ。
自分が悪者にならずに、結果だけ、いただく気だ。
『私に、失礼ですね? まあ、地名と名字から、バカ正直に手を挙げている藤原さんとは、真逆でしょう。額面通りに受け取らないほうが、良いかと……』
嫁データリンクで、夕花梨がツッコミを入れてきた。
俺にはもう、プライバシーがありません。
この手の連中には、まず分からせ。
それに限る!
第二の式神で、和装になりつつ、藤原珠緒に答える。
「よし、分かった! じゃあ、いつでも、かかってこい!」
「お願いします、ですわっ!」
言うが早いか、珠緒の姿がブレて、パンッと破裂音。
――正面……と見せかけて、俺の左側から、切っ先が届く範囲を避けつつ回り込み、側面か背後をとる
“
俺でなきゃ、見逃しちゃうね。
というか、未来予知をしなければ、間に合わないスピードだ。
そして、珠緒が俺に半円を描きつつ、全力でブレーキをかけている、右足の接地面をスパンッと、足払い。
「と、ととととととと、のおおおおぉっ!?」
軸足が浮いた珠緒ちゃんは、面白い悲鳴を上げながら、そのまま吹っ飛んだ。
ドタアァアンと、派手な音で、転がっていく彼女。
残りの4人は、そのコントに笑っているが……。
お前ら、いつから、他人事だと思いやがった?
「次は、近衛だ!」
俺の発言に、近衛桜は、ギクリとした表情に。
澄ました顔で、安全圏にいるんじゃねえよ?
実力を知りたければ、お前も、リスクを背負え。
桜は、笑顔に戻る。
「はい。よろしくお願いいたします」
摺り足で、前へ。
優雅に一礼をした後で、ゆっくりと抜刀。
こちらも、中段の構えで合わせて、お互いの切っ先が、わずかに交差する距離へ。
いわゆる、一足一刀。
お互いに真剣だから、次の瞬間にも、どちらかが斬られる。
「あ! 言い忘れたけど、ここからは、負けたら全裸になってもらうから!」
「は?」
思わずポカンとした桜に構わず、交差している状態から刃を絡ませ、斜め上へ巻き上げた。
すっぽ抜けた刀は、重力に従い、ガシャンと落ちる。
両手でエア剣術をしている桜の首筋に、切っ先をつけて、宣言する。
「はい。これで、1本……」
夕花梨の式神たちが、嫁データリンクを利用して、騒ぐ。
『うわ! ないわー』
『ひどい』
『女の敵!』
『ちゃんと、剣術の稽古をして……』
『最悪』
うるさい!
少し、黙っていろ!!
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