第489話 ラストJK、襲来ー③
そこでは、
対面の
「鹿島さんは、ウチに加わりたいと……。元は
詩央里、初手で突き放し。
実際のところ、親権を持つ鹿島家が通報すれば、室矢家といえども、危うい。
完全な、未成年略取や、誘拐だ。
10歳ぐらいの年上で、かつての幼さが抜けた詩央里を相手に、結芽は上手く話せない。
それでも、鹿島家に連絡されないよう、必死に訴える。
「式神による身代わり人形を作ったので、明日までは誤魔化せます! その間に、室矢さんと話をさせてください! 師匠からも、伝言を預かっています」
受け取った手紙を広げた詩央里は、
「もしもし? 南乃家の詩央里ですが――」
しばらくスマホを耳に当てていたが、やがて画面をタッチした。
5分後に、ピリリと、詩央里のスマホが鳴った。
2コールで出た彼女は、再び会話を始める。
「はい……。はい……。あのですね? そちらの事情で、面倒を持ち込まないでくださいよ? ……ええ。チャンスは与えます。……サッちゃんが出てきたら、そっちで押さえてくださいよ? ……はい。失礼します」
指でスマホ画面を触った詩央里は、後ろによりかかって、フーッと息を吐いた。
縮こまっている鹿島結芽に対して、投げやりに言う。
「今から、明日の朝まで! 若さまと、2人きりにします。それで受け入れられない場合は、鹿島家に帰りなさい。……何か、質問は?」
顔を上げた結芽は、南乃詩央里に言う。
「なら、私に――」
エントランスで呆けている詩央里に、室矢カレナが近づいてきた。
義妹であるものの、10年の歳月を感じさせない容姿。
女子高生と言えるぐらいに、成長した。
一応は、周りに合わせているようだ。
若いと言われる年齢から外れつつある自分としては、妬ましい。
20代中盤の詩央里は、その気持ちを隠しつつも、話しかける。
「それで、段取りは?」
肩を
「
親子のような年齢差であるのに、カレナの声は、
そう思う詩央里に対して、彼女は寂しそうに笑った。
「私は、いつまでも同じだ。お主らとも、死に別れるのじゃ……。人として生きて、人として死ね。その後で、私がどうするのかは、まだ決めておらん」
南乃詩央里は、私たちの子供を見守って欲しい、と言いかけて、口を閉じた。
そこまでは、甘え過ぎだろう。
御家をどうするのかは、自分たちの責任と行動で決めるべきだ。
センチメンタルになった詩央里に、カレナが問いかける。
「それで、制服JKと重遠の情事だが、私と一緒に観覧席へ行くか?」
「行きません!」
室矢カレナは、内廊下を歩き、壁にある端末を操作して、分厚い扉の中へ入った。
狭い空間の先には、また扉がある。
無言でガチャリと開けば、青年の姿をした室矢重遠と、制服の鹿島結芽。
どういう仕組みか、前方の壁は2人の密会を映し出している。
映画館のシアターのように椅子が並ぶ中で、薄暗い通路を歩きながら、空いている椅子を見つけて、座る。
『ちゃんと、南乃さんの許可をもらってきましたから』
結芽は最初に説明すると、スマホで録音しておいた音声を流す。
重遠の精神防壁が、取り払われる。
正妻ガードを失った。
これがなければ、翌朝まで耐えたかもしれんがな、とカレナは、心中で突っ込んだ。
南乃詩央里の、ささやかな抵抗は、結芽のちゃんと証拠をください! の一言で、
ベッドに腰掛けている結芽は、自分の制服を触りながら、説明する。
『これ、
ふと、カレナは上段のほうを見た。
なぜか、千陣
気になったカレナは立ち上がり、そちらへ上がっていく。
如月の傍にある椅子に座って、両肘をついた。
すると、如月が話しかけてくる。
「約10年ぶりですね……」
首肯したカレナは、前方の壁に映る光景を見ながら、言葉少なに言う。
「ああ、間違いないのじゃ……。現役JKだ……」
他の夕花梨シリーズが、報告する。
「目標は、まだ健在!」
「重遠、ずっと結芽を見たままです!」
「30層のメンタル装甲が、一瞬で溶けました!」
司令と副指令のような2人は、話し合う。
「やはり、女子高生の制服フィールドですか?」
「うむ。御三家の純粋培養となれば、レア中のレア。それも、正妻の許可があるとなれば、理性は何の役にも立たんのじゃ」
如月の問いかけに、カレナは重々しく答えた。
「嫁一号機は、整備中だ。他の機体も出せん。現有戦力だけで、持たせろ」
「増援はなし、ですか……」
ノリノリの如月は、まさに副官のような雰囲気で、カレナに応じた。
傍から見れば、秘密基地の司令ごっこ中の女子たち。
その一方で、ベッドの上で仰向けになった鹿島結芽は、スカートをたくし上げた。
『どれぐらい本気なのか、ちゃんと見せてあげますから』
最初の佳境に入ったことで、オペレーター役の夕花梨シリーズも盛り上がる。
「目標、指の速度が上がっています!」
「重遠は、まだ手を出さず。パターン『へたれ』で、間違いありません!」
「制服をはだけても脱がない点が、実に分かっている……」
吹っ切れた結芽は、室矢重遠に抱き着いた。
如月とカレナは、
「勝ちましたね……」
「ああ……」
夕花梨シリーズたちは、誰ともなしに歌い出す。
同じ曲で、アルトⅡ、アルトⅠ、ソプラノⅠ、ソプラノⅡと、四部合唱へ……。
壁一面で繰り広げられる、重遠と現役JKの行為による音と、混ざり合っていく。
結芽の声で、南乃さん、ごめんなさい! と背徳感を煽る嬌声が続く中――
カレナは、まだ司令のポーズで座っている。
「10年をかけての、目標の達成か……。結芽は攫われた時点で、鬼に食われて死んでいたはずじゃ。それを救ってもらったことで、何も思わないわけがなかろう? でも、それには言及するまい。何よりも……」
初恋は実らない、と相場が決まっているものな。
初めてとは思えない痴態になっている大型モニターを見たカレナは、心の中で呟いた。
千陣流の
稀有な才能を見出されたことでの、特別扱いだ。
絶対的な力を見せつけた室矢重遠は、彼女にとっての恩人で、兄のような存在で、落ち着ける場所と感じられた。
那智伊勢世は、
結局、自分の流派や、
本当の家族がおらず、ただ流されていく中で、重遠は変わらずにいた。
損得抜きの家族愛を求めていたのか、異性愛なのかは、本人にも分からんだろう。
でも、立場に関係なく、自分を見てくれた男には、違いない。
静かに目を閉じたカレナに、傍に立つ如月が話しかける。
「彼女の履歴とスキルなら、室矢家に迎え入れても、良いと思います。それで、鹿島家のほうは?」
目を開けたカレナは、如月のほうを向く。
「問題ない……。すでに、あやつが動いておる。ただ……」
言葉を切ったカレナは、明日の朝まで止まらない2人をチラッと見た後で、続ける。
「室矢家の当主と、本人も同席させるべきだ。あとで、いちいち難癖をつけられるか、嫌がらせをされたら、かなわん」
「今回は、完全に援助している現場ですね?」
「言ってやるな……」
思わず反論したカレナは、司令ごっこを止めた。
――翌日の午後
鹿島家のリビングには、業者を装ってきた刑事たちがいた。
機材を準備して、かかってくる電話を待つ……のは昔で、今はデジタル処理だから、逆探知も一瞬だ。
というか、GPSや利用している局を調べれば、おおよその現在位置が分かる。
目つきの鋭い男が、鹿島家の男に訊ねる。
「娘さんがいなくなった時の状況は?」
「それが……。気づいたら、家にいなくて……。ただ、前から娘に付き
「誰ですか?」
鹿島家の男は、警察の現場責任者に告げる。
「室矢……。下の名前はちょっと……。異能者で有名な家らしいから、調べれば分かると思います」
その時、女の刑事が話しかけてきた。
「班長! 鹿島結芽さんのスマホを見つけました。ロックがかかっているので、分析のほうに回します。奥さんの了解済みです」
「よし。すぐに回しておけ! パソコンのほうは?」
女刑事は、首を横に振った。
「起動はできたものの、メールなどでパスワードが必要です。こちらも、スマホと同様に、任せるしかありません」
段ボールに入れられた物品が、次々に運び出されていく中で、班長のスマホが鳴った。
「はい。……そうですか。わざわざ、ありがとうございました。……はい、失礼します」
電話を切った班長は、溜息を吐いた後で、近くの部下に指示を出した。
次に、通報してきた男へ近寄る。
「娘さん、見つかりましたよ! 学校の部活で、合宿をしていたそうです! そこの県警に協力してもらい、本人を確認しました!」
「え? 本当ですか?」
「はい。ドゥフイユ高校のほうにも連絡して、部活の責任者と、話をしました。今は合宿施設にいるから、迎えに行くなり、戻るまで待つなり、してください。名刺を渡しておきますので、連絡はこちらへお願いします。後日、事情聴取でご協力いただく場合もあります。では!」
早口で言い終わった班長は、名刺を渡した後で、部下と共に立ち去る。
嵐のように過ぎ去った一団は、玄関に段ボール箱の山を残した。
家長の男は、荒らされたソファーに座り込んだ。
「あの娘は、まったく!! 鹿島の家名に、泥を塗りおって!!」
げんなりした様子の女も座りながら、夫に同意する。
「ご近所に
遠方から訪ねてくれた松木家の親子は、もうすぐ嫁として迎え入れる予定の鹿島結芽が急に消えたことで、自宅へ帰ることに……。
彼らが会っていたのは、式神による身代わり人形だったが、鹿島家や松木家の人間が知る
気落ちした男は、吐き捨てるように叫ぶ。
「合宿から戻ってきたら、あいつ自身に謝罪させる! 1人で行かせて、先方に許してもらうまで、自宅には入れさせん!」
「あなた……。それだと、出席に響きます。長期のお休みをしたら、学校から問い合わせや、家庭訪問がありますよ? あの子の友人も、ここを訪ねてくるでしょう。あなたが、それに対応してくれますか? ……もう少しの辛抱だから、今回は我慢しましょう。松木さんには、私からも謝罪をしておきます」
妻の反対を聞いた男は、ぐったりと力を抜いた。
「高校の卒業式が終わるまでは、何もしないほうがいいのか……」
ピンポーン
できれば、無視したい。
そう思った夫妻だが、ご近所の人間であれば、すぐに出ないことで噂に
玄関口に積み上げられた段ボール箱は、適当な理由で誤魔化せばいい。
割り切った男は、妻を見た。
こういう時は、女が出たほうがいいことは、経験則で分かっている。
仕方なく、鹿島家の妻は立ち上がった。
「はい? どなたでしょうか?」
モニター付きのインターホンで呼びかけると、20代後半と思われる、女の声。
『
美少女アイドルの容姿から、スーツがよく似合う、大人の女へ。
どこかで管理職をやっていそうだが、可愛さも残している。
そんな雰囲気の天沢
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