第487話 ラストJK、襲来ー①
東京にある、
時代劇に出てきそうな、和風の広間。
そこには、同じく和装をした男女と、セーラー服を着た幼女がいる。
「誠に勝手ではありますが、これにて
正座をしている
隣にいる結芽も、慌てて
首肯した室矢
「遠路はるばる、ご苦労だった。俺も柊家の世話になったから、お互い様だ。できれば、桜技流のほうも、助けてやってくれ。
微笑んだ伊勢世は、慎重に答える。
「お心遣いを
「構わない」
那智伊勢世から視線を受けた結芽は、口を開いた。
「まずは、私を助けていただき、深謝いたします。今は東京の御三家の1つ、
「お前は、千陣流の十家の1つ、柊家の当主候補だったとはいえ、今は桜技流の上位家だ。ゆえに、他流の人間として扱う。それで、良いか?」
「はい!」
室矢重遠は、すぐに
「用がある時は、室矢家の
伊勢世は、
「柊家からは、
謁見を終えた親子……もとい、師と弟子は、柊家が用意した高級車に乗った。
後部座席で並び、今後の打ち合わせを行う。
那智伊勢世は、隣の幼女に話しかける。
「さて……。結芽? 鹿島家の様子はどうですか?」
冬服としての、
襟ラインと、胸元のタイも、黒色。
どこかの探偵アニメで、犯人役をやりそうな鹿島結芽は、ダラ―ッとしながら、説明する。
「んー? 腫れ物に触れるような感じ。あっちも色々と探っている段階で、下手なことを言いたくないんでしょ。個室をもらえたけど、筒抜けかな? スマホも、たぶん傍受されている。尾行も、ついているよねえ。ただ、挨拶回りで、妙に同い年の男子を紹介されているのが……」
寒い季節にぴったりの、温かい緑茶を飲んだ後で、結芽は溜息を吐いた。
わずか8歳にして、彼女はスパイの真似事だ。
気疲れもする。
伊勢世は苦笑いをしながら、彼女に告げる。
「色々と、考えすぎでは? あなたは、もう鹿島家の人間です。無理に合わせなくても、良いのですよ? 千陣流や柊家の立場で考える必要は、全くありません」
「そうは言うけどさぁ~! 今は雪解けでも、千陣流と桜技流がまた対立し始めたら、まっさきに私が血祭りでしょ? 柊家に残っても『怪異に穢された傷物』になり、後ろ指をさされるだけ。桜技流からの要請で、御家も厳しかったし! 鹿島家は鹿島家で、
ギャーギャーと
よっぽど、ストレスが溜まっているようだ。
年齢に見合った彼女を見た伊勢世は、手の平を向けてから、内線の受話器を取った。
「行き先を変更しなさい。秘密の会談に向いている高級料亭で、
ガチャッと受話器を置いた伊勢世は、結芽を見て、にっこりと微笑んだ。
「せっかくの機会ですから、日本料理をいただきましょう。桜技流に聞かれないうちに、今後の方針を話しておく、良い機会です」
――料亭「
銀座でありながら、広大な敷地を誇っている、老舗の料亭。
財閥の創始者の別邸を改装した建物には、宴会から数人の密談まで、大小の個室がある。
「どうぞ、ごゆっくり……」
座っている仲居は、見事な所作でお辞儀をした後で、静かに立ち去った。
どの個室も、広い池がある中庭を囲むように配置されている、
見事な鯉が泳いでいるうえに、組まれた岩の上から水が流れていて、小さな滝だ。
季節を感じさせる植物も、絵になる形で配置。
開放的でありながらも、他人の目を気にしないで済む、伝統的な和室。
シンプルだが、使われている素材、造りは、国宝もの。
そこで座椅子に座って向き合い、食事をしながらの話し合いが始まった。
那智伊勢世は、昼から一杯やりつつも、つまみ代わりに煮物、揚げ物を口に運ぶ。
「ここは
頷いた鹿島結芽は、お茶と一緒に、会席料理を食べる。
「タイムリミットは、『四谷ドゥフイユの高校を卒業するまで』だと思う。鹿島家のほうで私を連れ歩いているのは、結婚相手を探すための顔見せ……」
言い終わった結芽は、影が差した顔に。
お
鹿島結芽は、再び話し出す。
「結局さ! 私の意志は、全く関係ないんだよ! たぶん、高校3年ぐらいに結論だけ伝えられて、卒業と同時に結婚からの初夜。せいぜい、数人の候補を順番に挙げていって、その中から選べ。だけど、嫁いだ先でも『元千陣流』だから、絶対に苦労する!」
那智伊勢世は、相槌を打ちながらも、要点を聞く。
「それが、あなたの選んだ道ですよ? 子を成さず、養子の鹿島家で居座れば、それこそ針の
首肯した結芽は、いよいよ本題に入る。
「分かってる! だから、私は室矢重遠の女になる!!」
ヒートアップしたことで、大声になった。
さすがに、伊勢世も周囲の気配を探る。
聞き耳を立てている者がいないことで、那智伊勢世は尋ねる。
「具体的には?」
「今は、色々と手を回して、ようやく私を『四谷ドゥフイユ』に入れた直後だ。シェルターのような場所だから、鹿島家もその間に手を出してくることは考えにくい。裏で婚約をまとめていようが、そんなの関係ないよ!」
伊勢世は、座ったままで腕組み。
「結芽は、鹿島家を利用するだけ利用すると?」
「私を養子にしたことで、自分たちが追い出した柊家から、
自分だけに、流派同士の
その主張に、伊勢世は、一理ありますね、と納得した。
鹿島結芽は、話を続ける。
「表向きは優しくても、内情はガン無視。だったら、私も勝手に動いて、あちらがぐうの音も出ない相手を見つけるのは、当然だよ!」
出し抜かれるほうが、間抜け。
室矢重遠ならば、桜技流でも重鎮だ。
文句をつけられるのなら、つけてみろ。という話。
この8歳児、必死である。
那智伊勢世にとって、可愛い弟子だ。
本人の意向とはいえ、当主候補だった結芽を救ってもらった室矢重遠に、お礼をしていないことも事実。
詳細は不明でも、
不義理の柊家としては、一刻も早く、それを解決したい。
酔った勢いも加わり、伊勢世は笑った。
「この話をしたのは?」
「那智が初めてだ!」
ゆっくりと頷いた伊勢世は、良いでしょう、と腹を括った。
「では、私も共犯になります。長い道のりですよ、結芽?」
ここに、制服補完計画が発動した。
全ては、室矢重遠に手を出してもらうために……。
――四谷ドゥフイユ中学校
料亭の密談から、5年を超える歳月が流れた。
小学校で
当然のように、内部生との不協和音が生じた。
その際に、フィーユらしくなった鹿島結芽は、同じ学校の生徒の誘拐現場に遭遇。
銃で武装した集団との交戦に入る。
夜は、街中とはいえ暗い。
迎えを装った高級車の中から出てきた、スーツ姿の男たちは、女子を人質にしながら、結芽に銃口を向けた。
異能者と見抜き、獲物を増やすよりも、この場で消すほうを選択。
パンッ
至近距離とはいえ、拳銃を抜いた直後のヘッドショット。
すさまじい腕だ。
制服のままで、後ろへ倒れていく結芽を見て、口を押さえられたままで絶叫する女子。
だが、その途中で結芽の姿は、大量の紙になった。
描かれている複雑な模様は、どれも赤く光る。
バサバサと地面に落ちる様子に、誰もが見惚れていたら――
「
叫んだ鹿島結芽は、印を結ぶ。
上から刃のように刺さった紙により、どの男も動けなくなった。
固まっている女子を救出するも、失敗を悟った高級車は急発進して――
すぐに、タイヤが破裂した。
桜技流と警察が、誘拐犯と、それを指示した組織を片付けた。
和紙を
まさに、千陣流と桜技流のハイブリッドと言える、天才児だ。
しかし、四谷ドゥフイユ中学校としては、大きな問題。
街中で堂々と異能を使い、市民――犯罪者でも――を傷つけたからだ。
警察は、名門私立のグループから睨まれることや、桜技流が騒ぐことを嫌い、学校サイドに丸投げした。
事情聴取が終わった鹿島結芽は、無期限の自宅謹慎とされる。
理事会で学長を交えた議論が行われたものの、学校方針にふさわしくないから自主的に転校させるべきだ、生徒に被害が出なかったから軽い処罰にするべきだ、の意見がぶつかって、堂々巡りに……。
いっぽう、救われた女子生徒を中心に、学内で署名が集められた。
保護者の集まりでも、警備体制の不備が指摘され、鹿島結芽を追い出すのであれば、こちらも学校側に問題提起をする。という流れができた。
最終的に、鹿島結芽は放課後に『校内の清掃』というボランティア活動を一定期間だけ実施という線で、決着がつく。
せっせと窓を拭く結芽を見かねて、上級生まで手伝い、全員が清掃する。
助けた女子は、外部生だった。
内部生が、危険を
鹿島結芽は、一目置かれる存在として、高校へ内部進学する。
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