第484話 詩央里ルートの重要な分岐点ー③
赤髪の美少年の姿をした
その声は、男であるのに、鈴を転がしたように心地いい。
「
一方的に告げた朱江童子は、いきなり片腕を振った。
不可視の衝撃波が飛ぶも、それが到達した時に、重遠の姿はない。
「へえ……。少しは、やるようだね?」
自分の衝撃波で、寝殿が派手に壊れたことを気にせず、朱江童子は庭のほうへ向きを変えた。
視線の先には、瞬間移動のように高速移動をした、室矢重遠が立つ。
だが、そこは鬼たちが控えている場所だ。
太い金棒や
どいつも、頭2つ分は違う身長。
人間ではあり得ない、筋肉の塊だ。
鬼たちは朱江童子の指示を待つも、彼は両手を組んで、考え込んだまま。
室矢重遠は爪先を地面につけて、ザーッと円を描いた。
「その円から、絶対に出るな!」
左手で待っている柊結芽を置き、雰囲気を大きく変える。
重遠は前に進みながら、日本刀の
結芽から少し離れた地点で止まり、切っ先を下に向ける。
トントントン
両足で、小さなステップを踏み始める。
朱江童子は、ようやく顔を上げた。
「とりあえず、そいつを――」
空気を切り裂く、パアンッという音が重なった。
銀色の閃光が一筆書きのように、複雑な軌跡を描く。
爆撃のような轟音と、ソニックブームのような衝撃波が、全方位に広がる。
優美の極みだった庭は、室矢重遠を中心に吹き飛んだ。
ほぼ同時に、バラバラに切り裂かれた鬼どものパーツも、宙を舞う。
外側に吹き飛んだことで、血の雨も散水機の
そのおかげで、重遠には一滴もついていない。
元の位置に戻り、片手でヒュッと血振りをした彼は、鬼に負けない霊圧を身に
「で、どうしてくれるって?」
鬼のパーツは次々に落ちていき、ドゴォンッと工事現場のような音が、遠くで重なる。
衝撃波と、散弾のような鬼のパーツを避けた朱江童子は、高さがある外廊下ではなく、その下に降り立った。
後ろの寝殿は、もう建物の形をしていない。
「何者だ、お前?」
緊張した表情の朱江童子は、目の前にいる人物を危険と判断したようだ。
彼が持っている日本刀の、銀色で
それに対して、定期的に左右で刀を持ち替えている室矢重遠は、ようやく名乗る。
「
称号が多すぎて、全部を言うのは面倒。
その考えで、代表的な肩書だけ述べた。
すると、朱江童子は、長年の敵を見つけた、という表情に変わる。
「千陣流……。千陣流、千陣流……。その隊長か……。クククク、ハーハッハッハ!! これは、いい!」
理解できずに困惑する重遠に、朱江童子が説明する。
「お前は、バカだよ! ここをどこだと思っている? 僕の心象風景の中だ! かつて、お前らが散々に殺してくれた鬼たちの住処で、いくら倒してもキリがないよ? そして――」
妖力で身体強化をした朱江童子は、一瞬で逃げた。
姿が見えないのに、どこからか声が聞こえてくる。
『僕が逃げれば、無限湧きってことさ! お前がいつまで持つか、高みの見物をさせてもらう。せいぜい、楽しませてくれ』
室矢重遠は知らないが、彼の式神である
式神を召喚すれば、今の彼にも勝機ができる。
しかし、その様子はない。
いっぽう、朱江童子のアナウンスはまだ続く。
『恨むのなら、僕たちを殺しまくった千陣流を恨みなよ? 意趣返しを兼ねて、そこのお姫様を攫ってみれば、思わぬ余禄だ』
やれやれ。
ムダに歴史が長いと、こういう恨みを買うのか。
直接は関係ない俺が、巻き込まれるとは……。
呆れた重遠の背後から、他とは違う鬼が棍棒を振り上げて、思い切り叩きつける。
握る部分だけ細く削った丸太のような物体が、男子高校生の頭をかち割る――
前に、踏み込みながらの切り上げで、刀と激しくぶつかり、派手に火花が散った。
落ちる方向を逸らされたことで、後ろの大鬼は前屈みに。
室矢重遠が振り向いたら、全身を鋼のような岩で覆った、ゴーレムのような鬼が見えた。
その岩のような鬼は、前屈みの体勢から、強引に棍棒を振り上げる。
重遠にブチ当てようとするも、踊るように回転しながら避けた。
同時に、遠心力が利いた一撃が、大鬼の横腹をザックリと切り裂く。
鋼鉄のように輝き、厚みがある岩の鎧は、何の役にも立たず。
柄を両手で握った重遠は、深く刺さった状態で無理やりに刃の向きを変える。
さらに踏み込みながら、全身で刀を振り切った。
普通の刀では、絶対にやってはいけない動きだ。
折れてしまうから。
だが、重遠の刀は、不可思議な金属で、あのカレナが鍛えたもの。
普通ではない。
明らかに死んでいる状態で、大鬼は地に倒れ伏す。
ゴオンッと、丸太のような棍棒も落ちた。
『
楽しそうな、朱江童子の声が、空に響いた。
『お前が千陣流の隊長であることは、認めるよ! そうでなきゃ、ウチの四天王が2人もやられるのは、おかしい。でも、どこまで持つ? 君には休息する暇もないし、食事を与える気もない……ああ、人の血肉でいいのなら、僕がご馳走してやるよ? そら、次はお前にやられた熊雅童子と、
立っている大熊のような鬼と、万人を食ってきたような鬼が、口にある鋭い牙と、他の
ニタリと笑いつつ、それぞれの獲物を構えて、室矢重遠に迫っていく。
重遠は、柊結芽が自分の円の中にいることをチラ見した後で、両手で刀を握り直す。
普通に殴り下ろすだけで強い攻撃となる、高身長。
その巨人たちが、大爪や、叩きつけるための
さすがに、1本の刀しかない状態では、防御に徹するしかない。
重遠は、室矢家が “
かつて、巨大な
同じような、物量で攻めてくる邪神であろうとも、はい喜んでー! と戦うしかないのだ。
これは褒美ではなく、どこかの傭兵部隊の入隊宣誓書へのサインではないか?
重遠は、
ともあれ、その室矢家のトップである当主は、絶対的な武力を持たなければならない。
これから御家をどうするのか? は、また別で考えるとしても……。
当たり前の話だが、日本刀のブレードは、短い。
ブンブンと振り回しても、
最もリーチが長い突きでも、数の暴力には勝てず。
斬撃による
刀を振れない状態に追い込まれたら、それまでだ。
室矢重遠は、日本刀になっているキューブとよく話し合った末に、1つの結論を出した。
地獄丸という大鬼が両手で持っている槌が振り下ろされ、重遠は両手の刀で受け止めた。
とっさに逸らしたものの、さすがに刀身は歪んだ。
『あれあれー? 君の刀、大丈夫かなー? そろそろ、限界がきたんじゃない?』
バカにしたように、朱江童子の声が響いた。
相変わらず、その姿は見えない。
いくら妖刀であろうとも、無敵ではない。
それ以上のパワー、あるいは、スキルで押し切られたら、滅びるだけ。
刀は、武士の魂。
よく言われるが、頼りにしている武器を失えば、その点でも絶望的だ。
二刀差しではないため、
現代の
珍しく、両手でしっかりと。
これは、守りの構えだ。
本能的に、自分の上半身と頭を守りやすい位置。
その弱気を感じ取った大鬼2匹は、より苛烈に攻めていく。
鬼は、技術よりも、腕力による叩き潰しだ。
風圧だけで、その威力が伝わってくる。
技術とは、劣る者が勝つための手段。
全てを壊すパワーがあれば、それだけでいいのだ。
身長の差によって、重遠の視点では、常に上段からの攻撃に等しい。
ついに重遠の刀は動きを止められ、すかさず、別の武器が叩きつけられた。
全てを切り裂くと思われた日本刀は、ついに限界を迎える。
鬼たちの攻撃に屈して、その刃の破片が、バラバラと地面へ落ちていく。
ずっと近くで観戦していた柊結芽は、もう終わりだ、と観念する。
言うだけあって、こいつは、強い退魔師だ。
でも、唯一の武器を失ったら、戦うことも……。
ペタリと座り込み、室矢重遠を見上げた。
その重遠は、ポツリと呟く。
「吸い込め、
一般的と呼べる刀身が、全て消えた。
鍔のすぐ上にある
重遠は、それを右手で、握り続ける。
まだ刃があるかのように、振り回すと――
勝利を確信していた大鬼2匹は、一瞬で寸断された。
その場で、不規則に切り刻まれたパーツは、ボトボトと地面に落ちる。
『何を――』
驚いた朱江童子が言い切る前で、室矢重遠の周囲は、嵐が起こっているかのように、全方位が切り刻まれていく。
隠れていた四天王や雑魚をまとめて倒した重遠は、刀身がない柄を持ちながら、ゆっくり見回す。
「やっぱり、この近くにはいないか……。今ので仕留められれば、延長戦もなかっただろうに」
この攻撃で、隠れている朱江童子も、切り刻むつもりだった。
千陣流で、最年少の隊長。
他流にも認められている、恐らくは、最初で最後の人物。
室矢重遠は、そう言い放った。
変わらずに右手だけで、刀身がない柄を持ちつつ、辺りを
平安の屋敷を再現した幻想郷、あるいは、朱江童子の心象風景の中。
いずれにせよ、通常の決まり事の枠外。
原作の【
最低でも、4人の副隊長と、大勢の部下。
安全ラインとして、さらに隊長格1人を加えるべき
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