第441話 今こそ室矢家ハーレムの力を見せる時だ

「皆の発言を踏まえたうえで、行動を開始する。俺たちは、東京ネーガル大学の女子大生2人、小枝こえだまゆずみの正体を暴き、夕飯のにわとりを絞めるよりも速やかに消す必要がある。一番ヤバい須瀬すせは、後回しだ。ひとまず、考えない」


 集まっている女子たちは、無言でうなずいた。


 それを見た俺は、次の話に移る。


「女子大生2人の過去の調査、留学生への事情説明、スナッフムービー(殺人の動画)などの分析、留学生との交流会についての情報収集は……。詩央里しおりが中心になって、夕花梨ゆかり明夜音あやねで対応してくれ。こちらは、とうネの近辺に潜伏する」


 独自のネットワークを持つ望月もちづきが、すぐに応じる。


「夕花梨さまが、『承知いたしました』って!」


 頷いた俺は、東ネの調査を進めるべく、話を進める。



 室矢むろや家に、主だった流派の女を集めたのは、俺自身が生き延びるためだった。

 しかし、今は……。


 意図せず、日本と世界の異能者の命運を決める、最前線となった。




 ――WUMレジデンス平河ひらかわ1番館


「というわけで、お兄様から依頼されました。では、詩央里? 指示を出してください」


 千陣せんじん夕花梨は、さらりと言ってのけた。


 私に丸投げしても構いませんが、その場合は、正妻の座をいただきます。


 彼女の視線と表情で、その意志が伝わってくる。



 夕花梨の式神である如月きさらぎは、望月とリンクしながら、メモを残していた。


 それを渡された南乃みなみの詩央里は、目を閉じながら、端的に指示する。


「カレナと、明夜音あやねを呼んでください」



 詩央里の自宅に集まったのは、このレジデンスの責任者にして、真牙しんが流の名代みょうだいである悠月ゆづき明夜音。

 それから、室矢重遠しげとおの式神にして、義妹であり、恋人にもなった室矢カレナだ。


 リビングのソファに座っている南乃詩央里は、室矢家の中でも組織を動かせる女たちを見た。

 中高生の年齢だが、そこら辺を歩いている人間を指差すだけで、すぐに破滅させられる面々だ。


 詩央里は、彼女たちを見た後で、冷静に告げていく。


「若さまが、主犯である女子大生2人と、須瀬すせ亜志子あしこを処分します。ゆえに、私たちは、そのお膳立てを整えます。手遅れになる前に……」


 言いながら、詩央里は自分の考えをまとめていく。


「大きな問題は、2つ。女子大生2人の正体を突き止めること、にえにされる留学生たちの救出……。小枝こえだ妃香ひかまゆずみみきの調査は、明夜音に任せます。可及的速やかに、結果を出しなさい」


 話を聞いた悠月明夜音は、頷いた。


 詩央里は、次の指示を出す。


「留学生については、私たちのを活かして、内密に相談します。夕花梨、明夜音、カレナ! あなた達は、誰に連絡できますか?」


「私は、存じ上げません」

「ドイツ大使館を通して、留学生の関係者と話せます」

「ユニオン大使館に、話をするのじゃ!」




 レジデンスを見張っているパトカーは、数台の車が入っていく光景を見た。


『千代田2より本部へ。……WUMレジデンス平河1番館に、3台の車両が入りました。どうぞ?』


『本部より千代田2へ。……当該車両について、特徴を知らせよ』


『3台とも、青のナンバープレート。先頭には、「外」の文字があり――』


 の高級車が、次々に入った。


 警視庁の刑事を撃った犯人と関係者は、海外への亡命を考えている。


 そう判断した本庁の捜査本部は、外務省に協力を要請した。




 ――外務省


牧尾まきおくん! 被疑者と親しい南乃くんは、あのレジデンスに立て籠もっているようだ。面識がある君から、何とか連絡できないかね?」


「は、はあ……」


 以前に、東アジア連合の傅 明芳(フゥー・ミンファン)と、室矢重遠しげとおの会談をセッティングした牧尾皓司こうじは、ただ困惑する。


 課長の命令とあって、断る選択肢はない。

 けれども、南乃詩央里に連絡できる仲とは、言えず。


 思い返せば、彼女と話していないのだ。

 室矢くんに紹介されて、お互いに会釈をしただけ。

 むろん、個人的な連絡先は、交換せず。



「彼女たちと接触した外交官に、話を聞いてみます」


 皓司は、上司へ返答した。

 了承をもらったことで、すぐに外出の準備を進める。



 今回の件で、責任を押しつけられそうだ。と感じていても、動くのみ。

 宮仕えの辛いところだ。


 しかし――


 本当に、室矢重遠が刑事を撃ったのか? と疑問に思っている。

 わずかに接しただけでも、凶行に及ぶタイプには、見えなかった。


 東京の全体で、警察が目の色を変えている。

 異能者の団体も……。


「ねえ? 最近、みょーにサツが絡んでくると、思わない?」

「うん。どこに行っても、見張られている感じがする」


 何も知らない学生たちですら、電車や街中で不安そうにしている。


 外国の勢力までも、絡んできた。


「ココを選んで、良かったのか悪かったのか……」


 外交や貿易によって成り立つ日本を支えたく、御省を希望――


 牧尾皓司は、面接の志望動機を思い返しつつ、大使館に辿り着いた。


 それでも、これは今の自分にしか、できないことだ。

 



 ――WUMレジデンス平河1番館


 わざわざ来てくれたのは、南乃詩央里が連絡した東アジア連合、悠月明夜音と縁があるドイツ、室矢カレナを貴族と認めているユニオンの3つ。


 外交官のナンバーだから、見張っている警察は手を出せず。


 彼らは、自分の国を背負っている代理人。

 たった30分の話し合いは、少女たちを疲労困憊こんぱいにまで、追い込んだ。


 自宅のリビングで、ぐったりとソファにもたれた南乃詩央里は、独白する。


「彼らは、交流会に参加するようですね……」


 千陣夕花梨と悠月明夜音も、それぞれに発言する。


「ぼかした言い方を逆手に取り、分かったうえで参加するのでしょう。密かに護衛や脱出方法を確保しながら……。3つの国に警告できたことは、大きな成果です。他の参加国にも、この情報は流れると思います」


「不参加でも、異能者を虐殺する連中が日本の中枢にいることは、変わらず……。だから、この機会に見極めるつもりだと思います」


 満を持して、室矢カレナが口を開く。


「まだ、室矢家を信用していない。その一言に尽きるのじゃ……。自分だけが貧乏くじを引かされるのは嫌だから、メンツを守りつつも、保険をかける……」


 言い終わったカレナは、くすくすと笑い出した。


 詩央里たちが見守る中で、彼女は笑顔になる。


「お主ら、今回は面白いものを見られるぞ? いざ実力行使となれば……」


 ――重遠1人だけで、制圧できる

 

 その意味を理解する前に、カレナは嬉しそうに続ける。


「極限まで追い詰められたことで、あやつも吹っ切れたようじゃ! 今回の原因になった捜査本部の幹部たちは、楽に死なせてやってもいい」


 心配になった詩央里は、カレナに尋ねる。


「それでも、若さま1人では――」

「いや。負ける要素はない。1つもな?」


 式神の小坂部おさかべけいたちがいるものの、簡単に倒せる敵ではない。

 それなのに、カレナは自信たっぷりに、断言した。


「明夜音! 詩央里から言われたように、女子大生2人の過去を探れ。遅れた場合には、お主のせいで、国が滅びるだろう」


「す、すぐに、指示を出します!」


 返事をした明夜音は、レジデンスの地下にある通信室へ走っていった。


 通常のスマホ、ネットについては、警察が監視中だ。

 リアルタイムで盗聴されている、と考えなくてはいけない。




 ――不破家の戸建て


操備そうび流からのデータは、そちらに送りました。作画崩壊のアニメを見ながら、ゆっくりと確認してください』


 ブツッと切れたことで、リビングの大型モニターは沈黙した。



 不破ふわ哲也てつやは、『作画崩壊のアニメ』に即した手順で、暗号を解読する。


 女子大生2人、小枝こえだ妃香ひかまゆずみみき


 不破アシーナも、ターゲットの情報を見て、自分の感想を言う。


「何これ? 彼女たち……」


 そこで息を呑み、改めて口にする。



「まったく、別人じゃない!?」



 妻の叫びを聞いた哲也は、椅子に座ったままで、目の前のモニターを見た。


 そこに表示されたデータによれば、東京ネーガル大学の入学時と、現在で、別人と呼ぶほどに違う。


 アシーナは、推理していく。


「背乗りで、どこかの諜報員が、戸籍を乗っ取った? 整形? それとも、魔術?」


 入学時には、どちらもパッとしない。

 ところが、イベサー『フォルニデレ』に入った時は、絶世の美女と呼べるほどの容姿だ。


 哲也は、コーヒーを飲んだ後で、アシーナに応じる。


「いずれにせよ、原因を突き止めるぞ? 彼女たちが変わった直前で、怪しい動きを探す」


 入れ替わり、変貌のどちらでも、何もないままで変化は、あり得ない。


 哲也のプログラムが動き、自動的に絞り込みをスタートした。

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