第436話 乱パーを活動内容とするイベサーが仕切る大学ー③

 俺と小坂部おさかべけいが正門へ向かったら、さっそく尾行がついた。

 さっきのイベサー、『フォルニデレ』の連中に、目をつけられたようだ。


 まあ、男子1人を投げ飛ばしたからな……。


 慧の顔を見る。


くぞ?」

「ハイハイ」




 霊力による高速移動をした俺たちは、あっさりと尾行を撒いた。

 廃業したカフェの2階で、作戦会議に。


 今日の夕飯は、鍋だ。

 それをつつきながら、話し合う。


「例の女子大生2人。あれ、ヤバいぞ! 間違いなく、人間じゃない。須瀬すせ亜志子あしこより、危険だ」


 俺の説明に、全員の箸が止まった。


 タイプの違う美少女たちに見つめられる中で、今後の方針を告げる。


小枝こえだまゆずみの素性について、探ろう。須瀬が、そのイベサー『フォルニデレ』に入っているのかも、確かめなくては……。絵茉えま湖子ここは潜入して、名簿や、あの2人を調べてくれ」


 香月こうげつ絵茉と、五月女さおとめ湖子は、すぐに返事をする。


「オッケー!」

「やるだけ、やってみます」


 俺は、隣に座っている小坂部慧を見た。


「お前も、そのサークルに潜入してくれ。連中がどこと繋がっているのか、早く知りたい」


「ヤダ!」


「三日月は、霊体の状態で気付かれた。正攻法でいかないと、手詰まりなんだよ! 女子高生の絵茉と湖子だけでは、おそらく限定的だし」


 プイッと顔を背けたままの慧に対して、望月もちづきがこちらを見た。


重遠しげとお。ちょっと……」


 ごにょごにょと、耳打ちされた。




 ――食後から数時間


「やってくれるな、慧?」


「う、うん。分かった……。頑張るから……。シャワー、先に使うね?」


 素直になってくれて、何よりだ。


 むくりと起き上がった小坂部慧は、左右にフラフラしながら、浴室に消えていった。



 用意されたスマホで、情報収集。


 いったん、イベサー『フォルニデレ』のSNSを見つければ、簡単だ。

 奴らも、情報発信をしないと、金蔓かねづるの参加者を集められないからな……。


 大手インカレの1つで、有名大学の男子も大勢いる。

 芸能人、政治家、資産家の勝ち組も賛同していて、まさに無敵だ。


 よく都心部に出向いて、タワマンなどでパーティーも。

 ……ネットのうわさでは、乱パーらしい。


 小枝妃香ひかと黛みきが広告塔になれば、だいたいの男は釣れるだろう。

 そして、乱パーであるのなら、その2人も体を張っているか。


 少なくとも、昼間にいた男子どもは、

 焦らされての奴隷ではなく、納得済みの感じだ。


 サキュバスを連想したが、あいつらは夢の中で仕掛けてくるはず。

 それに、山中で殺された警官5人は、斬られたうえに、かじられていた。

 警察無線では、、とも……。


 女子大生2人が魔術師で、何かを召喚した?

 けれど、昼の彼女たちは禍々まがまがしすぎた。


「あいつらの過去を調べないと……」


 殺された瞬間に、その真価を発揮するタイプ。

 人の潜在意識を移っていくタイプ。

 倒されたら、拡散して、より広範囲にばら撒かれるタイプ。

 一定期間で復活するタイプ。


 このように、面倒な敵は多い。


 小枝妃香と黛幹の2人が、であるのか?


 実力行使に出るのは、それからだ。

 焦れば、最悪の結果もあり得る。


 昼に、北垣きたがきなぎがいたら、彼女たちを見た瞬間に攻撃したと思う。

 あいつは、飛んでいくフリスビーを追いかける犬と同じだ。

 

 化物だ!

 退治しないと!!


 そんな感じで、突撃からの抜刀術を披露したに違いない。

 今回の捜査とは、相性が悪すぎる。

 

 俺がいない間に、凪が暴れていないか、心配だ……。 



 イベサー『フォルニデレ』のSNSは、定期的な更新。

 でも、美女がいて、乱パーできる。と匂わせているだけ。


 中身は、すっからかん。


 これ以上のログ漁りは、時間のムダか……。



 浴室が空いたから、俺もシャワーを浴びて、寝た。




 ――翌日


 大学の講義に出席せず、サークル棟をぶらつく。

 霊体化した望月、皐月さつきがついている。


 小坂部慧には、霊体化した三日月のツーマンセルだ。


 スマホで、学内ネットを見る。

 一般向けと比べて、情報量は多いが――


「サークルの一覧だけじゃ、ヒントにならんか……」


 スポーツ施設が充実しているため、体育会系のサークルのほうが、でかい顔をしているようだ。

 連中は、施設内の更衣室とかを拠点にしているらしく、サークル棟の部屋は静か……ん?


 ジャラジャラジャラ


 室内から漏れてくる音によれば、麻雀の対局中。

 会話を聞く限り、お金の効率的な再配布を行っているようだ。



 自分の式神に対するパスで、念話を行う。


『望月。ちょっと漫研まんけん(漫画研究会)で、情報収集をしてくれないか? アニメ顔で大人しい雰囲気のお前が行けば、ペラペラと喋ってくれそうだ』


『……期待はしないで』


 やる気のない声が、頭に響いた。




 ――1時間後


 疲れた表情の望月による報告。

 俺の奢りで、学内カフェの一角を占める。


 彼女は遠慮せず、一番高いコーヒーを頼んだ。



「いや、まいった。ここ、相当にヤバいよ……」


 チューッとすすった望月は、そこから念話に切り替えた。


『漫研にいた男子から、話を聞いたよ。破壊活動をする連中が、廃棄された実験棟に機材を持ち込み、爆弾や銃を作っているんだって! あのサークル棟でも、イカサマ賭博で弱い立場の男子から巻き上げていて、自殺者も出ている。強引に金を借りさせたことが、原因……。他には、「女子トイレは盗撮されているから、絶対に使うな」と、しつこく念押しされたー! 最後に、怪しい目つきで「困っているのなら、僕のところでかくまうよ」と言われたから、霊体化して逃走』


 もはや、エリアごと焼き払ったほうが、早いかもしれない。


 そう思いつつ、念話で自分の感想を述べる。


『何なんだ、ここは……』


 望月は、話を続ける。


『この大学の支配者は、イベサー『フォルニデレ』。そこにいる小枝こえだまゆずみがツートップで、彼女たちの悪口を言っていた女子大生たちは……もういない。どうやら、男子たちに廻されたようだね。早々と2人の取り巻きになった女子たちは、怯えまくっているとか……。無関係な女子は、ほとんど逃げた。事情があるのか知らないけど、まだ残っている奴もいる。盗撮や暴行の撮影で脅されているのかは、あたし達に関係ない。警察の仕事だっての!』


 まさか、そこまで首を突っ込まないよね?


 視線で訴えかけてきた望月に、答える。


『優先順位は、変えない』


 望月は、コクッとうなずいた。



『皐月より至急! さっきから重遠しげとおに注目している男子が、5人ほど。会話の内容から、女王2人に注目されたことで、シメるつもりだよ? 体格が良いから、注意して! 一部は、望月をジトーッと見ているから』

『ウゲッ……』


『重遠より皐月、望月へ。そいつらを誘き出して、叩きのめす。ただし、俺たちの正体は、悟らせない』


『分かった!』

『りょーかい!』


 俺は、テーブルを挟んでいる望月に対して、声をかける。


「そろそろ、行くぞ?」

「はーい……」


 ゴミを捨てて、2人で歩く。

 わざと、キャンパス内のひとけがない場所へ……。




 もう肌寒い季節なのに、こいつらは薄着のままだ。

 服装と雰囲気から、相手と組み合うスポーツの選手らしい。


 5人は、俺と望月を半包囲。


 正面にいる大男が、リーダーのようだ。


「お前……。女王に注目されたからって、調子に乗っているんじゃないぞ?」

「何の話だ?」


 リーダーは、青筋を立てた。

 体育会系だけに、上下関係を無視した発言は、何よりも許せないようだ。


「先輩を差し置いて、生意気だと言ってんだ――」


 霊力による高速歩行で、死角から忍び寄っていた奴の傍に立ち、開いた右手の甲で振り払うように、そいつのあごをなぞった。

 空気を切り裂く音が響き、そいつは崩れるように倒れる。

 

 たぶん、後ろから望月を羽交い絞めにして、人質にするつもりだった。


 囲んでいる男子たちには、俺が消えて、その後に仲間が1人、やられた光景でしかない。



 リーダーは、呆然としたままで、問いかける。


「何を……」

「誰に命令された?」


 勢いを失くしたリーダーだが、気丈に答える。


「言うわけ――」

 ドンッ


 端にいる1人は、空中から地面に叩きつけられた。

 俺が移動する勢いのまま、蹴りで吹っ飛ばした結果だ。


「誰に?」

「お、俺たちに手を出し――」

「ァアアアアアアッ!」


 真っ正面から俺にタックルしてきた奴は、カウンターで出した膝により、ズルズルと崩れ落ちた。

 

 もう面倒になったので、立ちすくんだままの男の背後に回り込み、両腕を前に回した。

 ブリッジで反り返りつつ、後ろに投げ飛ばす。

 

 追撃されないよう、横へ転がりつつ、跳ねるように立ち上がる。

 だが、残ったリーダーは、慌てて両手を前に出した。


「だ、誰にも、言われてねーよ! お前が新入りのくせに、『小枝こえださんとまゆずみさんに目をかけてもらった』と聞いたから……」


 叩きのめされた4人も、俺を見るか、気絶したまま。

 戦意は、なさそうだ。


 俺は、念のために距離を取りつつも、リーダーのほうを向く。


「そもそも、俺はその2人を知らん。『フォルニデレ』の男子1人が突っかかってきて、床に投げたんだよ! だから、希望しても、入れないと思う。あいつらが注目したのは、それが原因だろ」


 毒気を抜かれた表情で、リーダーが確認してくる。


「……本当か?」


「それがあったのは、食堂のエリアだ。目撃者は、いくらでもいるさ。嘘を言って、どうする? 逆に聞くけど、お前らは『フォルニデレ』と接点がないのか?」


 片手を振ったリーダーは、返事をする。


「俺らは、相手にされねーよ。数回は、ヤラせてもらったけど――」

「ちょっと待て? 誰とヤッた?」


「小枝さんと、黛さん。俺だけじゃなく、ウチのサークル、全員だ」


 リーダーの返事を聞いた俺は、ツッコミを入れる。


「ヤレたのなら、別の女を狙えば、いいだろう? どの男にも股を開く女に、何故なぜこだわる?」


 小さく首を横に振ったリーダーは、狂気じみた表情で、こちらを見た。


「分かってねーな、お前……。あの2人は、特別だよ! 一度知ったら、他の女じゃ満足できない。試しに、ここの女子を数人ヤッたけど、ぜんぜん話にならねえ」


 気になる部分もあるが、今は情報を集めることが優先だ。


「つまり、『フォルニデレ』はヤリサーか?」


 友好的になったリーダーは、俺の質問に答える。


「ああ。ただし、小枝さんと黛さんの決定が、全てだ。すげーよ。普通なら、ただのヤリマンってところが、どの男も夢中になるのだし……。格が違うぜ! 都心部に出ても、有名人が行列だってよ!」


「フォルニデレにいる、他の女子大生は?」


「もちろん、ヤッているぜ? 他の男子は待ちで、イラついているからな。お前も、あいつらに頭を下げれば、相手をしてもらえるぞ?」


「小枝と黛の2人は、入学した時から、そんな感じか?」


 俺が呼び捨てにしたことで、リーダーは顔をしかめた。

 けれども、すぐに答える。


「それは、知らねえな……。言われてみれば、いつからだ? 新入生では、聞いていなかったし。今は、2年目か、3年目だろうが……」


 他の奴らも、首をひねっている。


 俺は財布から、数千円を取り出した。

 スタスタと歩き、緊張するリーダーに差し出す。


「豪遊はできないけど、あんたらの宅飲みには十分だろ? 色々と教えてもらったし、コレでなかったことにしようぜ、? ここは監視カメラがなくて、人目につかない場所だ。俺たちも、先輩のことは言い触らさない」


 溜息を吐いたリーダーは、素直に金を受け取った。


「分かった……。なあ、もし『フォルニデレ』に入れたら、俺たちも乱パーに呼んでくれよ! 小枝さんと黛さんをまた抱きたいんだ。……さ、さっきは、悪かったな?」


「入れたら、考えておきますよ」


「絶対だからな? あとは、俺がこいつらの面倒を見る。もう行け」



 ずっと警戒している望月と一緒に、背を向ける。

 霊体の皐月も臨戦態勢だったが、それ以上の襲撃はなし。


 俺は歩きながら、ボソッと呟く。


「さーて。慧のほうは、どうなっているかねえ……」

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