第421話 俺の二つ名は「巨乳大好き」ではない(前編)
WUMレジデンス
テーブルに並べた料理をセルフでよそう、食事会が続く。
「
「そうですね。カレナと、話し合っておきます」
考え込んだ
「俺が一時的にいない場合、連絡できない場合に、『どうするのか?』のマニュアルを作っておきたい。詩央里に任せるのは当然だが、『誰に何を?』を決めていないと、たぶん混乱する。お互いに心配した結果、全く動けずに各個撃破というのは、絶対に避けたい」
「ウチも、大所帯になってきましたからね……。分かりました。そちらも、考えておきます」
料理を取り分けた俺は、久々に親友と話す。
「
「分かった。俺も、前の
冗談めかした勝悟に、俺はペチンと叩いた。
「
「行ったら、冗談ではなく、貞操の危機になりそうだけどね」
行くのならば、相手を見た瞬間に攻撃するぐらいの態勢が必要。
とはいえ――
「俺は
首肯したコンビは、それぞれに自分の意見を言う。
「演舞や試合という名目で、止水学館に行く?」
「このレジデンスで行うのは、難しいわ。メグが共用施設のスタジオを私物化しているし、ここには剣道用の武道場がないから」
ダンスなどを行えるスタジオは、
鉄パイプとベニヤ板で、迷路のような構造。
定期的に入れ替えて、常に緊張感を持たせている。
マルグリットが無許可で作ったのだが、結果的に、そのままだ。
◇ ◇ ◇
レジデンスの共用施設の1つ、スタジオ。
今は、咲良マルグリット作の室内練習場だ。
ベニヤ板で仕切られた通路や部屋があって、室内のクリアリングの練習が可能。
上は開けていて、巨大迷路のような空間。
パシャッと、カラーペイントがついた。
右の通路から出現したマルグリットは、両手持ちの拳銃で、その銃口を向けながら、反対側の部屋に飛び込んでいく。
こちらが必死に撃っても、すでに移動した後だ。
「さすがに、上手いな……」
後を追っても、部屋に入った時点で、死角から撃たれる。
そちらを警戒したら、次は違う死角から撃つ。
あるいは、入った瞬間に襲ってくる。
接近したら、銃を持つ右手を外側から押さえられて、撃たれる。
足を払われる。
重心が動いた先に、投げ飛ばされる。
「次の動きが分かりやすいし、相手を見過ぎ! 『死角を潰して、そこに敵がいたら反射的にトリガーを引き、結果的に当たる』という感じが、いいわよ? 単なる反射よ、反射! 相手に合わせて、格好良く倒すのは、百年早いわ」
近くに腰掛けたマルグリットは、率直にアドバイスする。
「
剣術をやっているのなら、中途半端に銃を混ぜると、グチャグチャになるし……。
その言葉で、俺は、柔軟に戦っている
「そういえば、
「うーん。私、月乃と実戦形式では戦っていないし……。言われてみれば、参考になるかもね」
俺よりは、上手い。
聞けば、護身として、陸上防衛軍、警察の訓練を受けたようだ。
◇ ◇ ◇
このレジデンスの地下には、通信室がある。
銀行のテレビ端末を重役用にグレードアップさせたような場所で、俺は正面のモニターに映る
彼女は、通信室らしき背景で、椅子に座ったまま、頭を下げた。
『お忙しいところ、ごめんなさいね? ウチから与える称号について、打ち合わせをさせてください』
「よろしくお願いいたします。でも、連絡をしやすくなりました。詩央里に言ってくれれば、できるだけ校長先生の都合に合わせますので……」
微笑んだ愛澄は、すぐに返してくる。
「そう言ってもらえると、助かります。……さて、室矢家への称号の件です。確認させていただきますが、『真牙流への協力者として、ウチの中で通用する。毎月の給料や福利厚生、所有権、ウチの指揮権や階級が発生しない、形式上のもの』で、よろしいですか?」
「はい。その代わり、名称や説明文については、こちらで事前に確認したいです。学生カードのように身分証明書の形だと、面倒が少ないでしょう」
考え込んだ愛澄は、俺の質問に答える。
「身分証明書は、悠月家に確認のうえで、マギクス用のものを貸与します。名称と説明文ですが、室矢くんに考えてもらい、こちらで必要な部分だけ修正したほうが早いと思うのですが……」
テンプレを一緒に渡します。
面倒でしたら、名前の部分だけ、変えてください。
その言葉で、いったん打ち合わせが終わった。
コンソールのような端末から、今回の資料がプリントアウトされる。
終わった時点で抜き取り、ざっと眺めていく。
座り心地が良い椅子にもたれた俺は、高校に通わなくても、宿題が出るのだな。と嘆息した。
自宅に、正妻の南乃詩央里、義妹の室矢カレナ。
真牙流の人間である、咲良マルグリット、悠月明夜音を招いた。
リビングで、広いソファの適当な場所に座る。
「そういうわけで、俺の称号を決める。あと、メグについても、『アイシクル・エッジ(
マルグリットは、戦略級のマギクスと、非公式に認められた。
ゆえに、もっと強そうなニックネームが必要だ。
抑止力になる通称であれば、味方を鼓舞しつつも、敵の勢いを削げる。
本名と顔も知られていくだろうが、多くの人間に名前で呼ばれるのと、二つ名では、そのスピードや認知度が大きく変わるだろう。
逆に言えば、その期待のホープの受け皿として、室矢家が相応しいのかどうか? が数年後に問われるのだ。
室矢家の当主に相応しく、それでいて、俺の力を示せる称号……。
「説明文は、テンプレでいいよな? 『防衛任務に参加した、
「うん。そこで小説を書かれても、
「はい。それで、いいと思いますよ?」
「長文は、読む気が失せるからな。称号にこだわったほうが、良いのじゃ」
「ええ。そうですね……」
どうにも、しっくりこない。
「問題は、俺の能力をどこまで開示するのか? だ」
「神話の剣だと、やり過ぎな気もするし……」
「重力砲が分かってしまうのも、どうかと思います」
「神話を知らないと、グラムは意味不明じゃ……」
「ドイツ語も、知らないと中二病っぽいですし……」
悠月明夜音が、提案する。
「発音だけなら、
「意味は?」
明夜音は、にっこりと笑った。
「一匹狼です」
「やめておこう」
指を
「
「んんー。俺には、高尚すぎる気がする。“
イメージが良くて、怒らすと怖そうな名前か……。
その時、俺の第二の式神、キューブが出現した。
四角で空中に浮かび、リィンリィンと鳴きながら、フヨフヨと漂う。
「珍しいな。自分から出てくるとは……」
カレナを除いた女子たちが、一斉に騒ぐ。
「おおっ!?」
「これが、若さまの新しい式神ですか?」
「材質は、何でしょう? 少し削って、いいですか?」
すると、キューブは、一匹の海洋生物に変化した。
そのままで、部屋の中を回遊する。
「……メグ。これ、ジンベエザメでは?」
「あー。そうね!」
巨大でありながら、プランクトン、小魚を食べている。
気性は、かなり大人しい。
キューブにとっても、沖縄の
俺の真牙流での称号は、
いつも動きが緩慢で、魚類の中で最大の大きさ。
だけど、暴れ出したら、物凄く被害が出そう。
満場一致で、俺のイメージにぴったり。だそうで……。
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