第420話 新しい武装と初めての姉キャラ

 改めて、マギカ製作所のラボを訪れた俺は、不破ふわ哲也てつやからセミオートマチックのバレを渡された。


 試射を繰り返したら、問題なし。



「とりあえず、大丈夫のようだな? 空気弾の専用で、それ以外は使えないカートリッジだ。出力をかなり絞っているため、戦闘用とは別物と考えてくれ。理由は、室矢むろやくんの魔力が大きく、安全に使える範囲を調べるためだ。一定の操作で、戦闘レベルに上げられる。どうしても戦闘を避けられない場合は、迷わずに使ってくれ」


 俺は、トリガーから指を離して、セーフティーを確認。


 腰のホルスターに戻した後で、返事をする。


「データ不足、ということですね? 明夜音あやねが設計するバレについては?」


 向き直った哲也が、説明する。


「そちらは、悠月ゆづきさまに原案を出してもらい、俺とティナが添削する。室矢くんのデータ収集に応じて、擦り合わせを続ける予定だ。大変申し訳ないが、今日、明日に用意はできない。悠月さまの教育も兼ねていて、基礎の教え直しや、試作もあるからな?」


 適当に作られ、いざトリガーを引いて爆発したら、洒落にならない。

 筋は通っている。


 納得した俺は、哲也に答える。


「分かりました。なら、しばらくは練習用のバレを使うのですか?」


 哲也は、近くのテーブルの上に置いたアタッシュケースから、前と似た、黒いセミオートマチックを取り出した。


 凹凸が少なく、グリップの前面が握りやすい形状であるものの、より玩具っぽいデザインだ。


「これは、『シルバー・ブレット(銀の弾丸)』の限定モデルだ。隠匿携帯に向いている『フラック19』とほぼ同じ形状で、細身だから、より扱いやすい。実銃と同じフレームは、高温から低温まで変質しない、プラスチック製だ。モデルは、世界中の警察や軍隊で採用されている、ベストセラー。高い完成度のわりに、値段は安い。話を戻すと、本来は警視庁の『特殊ケース対応専門部隊』か、陸上防衛軍の『魔法技術特務隊』、あるいは、特務の魔法師マギクスだけが持つ。具体的な製法や内部構造は、企業秘密だ。その代わりに、整備や点検は、俺が責任をもって行う」


 てっきり、宣伝動画のように、シルバーかと思ったが……。


 苦笑した哲也は、いったん拳銃を置いた後で、説明する。


「現場でシルバーなんて、目立ちすぎるからな? ミスディレクションの1つだ。それに、『これは、高いモデルのバレでござい』と見た目で分かったら、他のマギクスや敵対している勢力、そこらの置き引きからも狙われるぞ? むしろ、『安い量産品』と思われるぐらいで、ちょうどいい。……試しに、撃ってみてくれ」



 両手で握った俺は、レーンに立ち、数発を撃ってみた。

 銃口から発射された空気弾は、狙ったポイントに着弾。


 これまでの手探りの状態から、自分の一部に変わった感じだ……。


「すごいですね。何というか、握った感じといい、銃とは思えない馴染み具合です」


 哲也は、笑顔になった。


「気に入ってくれたか? 普通のバレは、プリセットされた数種類のパターンの中から選ぶか、規定の制御だからな。その点、このシルバー・ブレットは、完全なオーダーメイドだ。無断で悪いが、前のデータを入力した」


 驚いて、哲也の顔を見た。


「ひょっとして、不破さんが、わざわざプログラムを組んだのですか?」


「ああ! 先に敵を撃ち抜けるかで、生死が分かれる世界だ。微妙な癖や、魔力のパターン、目的に対応できるよう、専任のエンジニアをつけるのさ。……前のカートリッジで、2回だけ撃ってみてくれ」


 グリップの底からマガジンを抜き、爆発事故を起こした、例のマガジンに差し替えた。


 両足を広げて、再びターゲットを狙う。


 一発、二発。

 物体がえぐれた光景を見たまま、射撃姿勢を続けた。


 ……爆発はしない。


 トリガーから指を離して、銃口を下ろした。

 念のために、マガジンを抜いた後で、それぞれをテーブルの上に置く。


 緊張していた哲也は、悠月明夜音を見た。


「ここからは、あなたの役割です。俺とティナも、開発チームに加わります」


 うなずいた明夜音は、よろしくお願いします、と返した。


 哲也は、俺が撃ったバレを別のケースに仕舞った。


「室矢くん。今のカートリッジだが、できるだけ使わないでくれ。ただし、奥の手としてマガジンを携帯することは、構わない。耐久性を知りたいから、このバレは調査に回す。あとで、同型モデルを進呈するよ」


 不安になった俺は、おずおずと訊ねる。


「あの、お金は……」


 片手を振った哲也は、すぐに答える。


「悠月家の依頼のため、必要経費や人件費は、そちら持ちだ。代わりに、君のデータを回収して、悠月さまのバレの制作や、シルバー・ブレットの開発などに活用するのさ」


 ここで、哲也が提案してくる。


「ところで、そのバレだが……。悠月家の力があれば、特務の名目で、隠匿形態の許可を出せる。護身用と考えたら、空気弾のカートリッジで持ち歩いたほうが、良いかもな? 悠月さまが立ち会う前提で、自宅の訓練もできるし」


 そういう方法もあるのか。

 だったら、利用しない手はないな……。


「なら、それでお願いします」




 ――数日後



 WUMレジデンス平河ひらかわ1番館に、不破哲也がやってきた。

 出入口に近いラウンジで、ガンケースに収められた『フラック19』を受け取る。

 

 一通りの説明を聞いた後で、取り出した。

 右手と左手で、グリップの握りを確かめる。

 むろん、マガジンは抜いたまま。


 俺は、横から覗き込んでいる咲良さくらマルグリットに、拳銃を見せた。

 すると、彼女は目をキラキラと輝かせて、喜び出す。


「すごい! シルバー・ブレットの最新型!? 携帯性とクイックドロウを重視した、護身用ね。欲しい! ちょうだい!」

「あげないよ?」


「これ、調整してくれる技術者が必須で、買った後も大変なのよ! 私も狙っているけど、信用できるエンジニアが見つからなくて……」

「へー」


「それにしても、ショルダーホルスターって肩が凝るな?」

「私も、よく肩が凝るわ」


 俺たちの会話に、悠月明夜音はポツリと呟く。


「……私は、凝りませんけどね?」



 地下の射撃場で、ワイワイ騒ぎながら、試射を続けた。


 マルグリットは、堂にった構えで、凄まじい精度の射撃。

 いっぽう、明夜音は、平均的な腕前だった。



 見るからに欧州系の美少女が、ニコニコしている。

 ライトブラウンの長髪を後ろに流していて、ラフな格好。

 青色の瞳が、じっと俺を見たまま。


 気まずくなったので、明夜音に尋ねる。


 ハンドガン型のバレをホルスターに仕舞った彼女は、その少女に話しかけた。

 離れた位置の2人は、ボソボソと話し合っている。



 近づいてきた少女が、自己紹介を行う。


「私は、工藤くどう・フォン・ヘンリエッテ。明夜音の指導者メンターで、ソピア魔法工学高等学校の高等部2年だよ。構わずに、リリーと呼んで」


「室矢重遠しげとおです。よろしくお願いします」


「私も開発チームに入るから、よろしくね? 明夜音にイジメられたら、すぐに相談して」

「酷いです、リリー!」


 どうやら、ヘンリエッテも、このレジデンスに住んでいるようだ。

 明夜音のお付き、鳴宮なるみや日和ひよりのようなものか?


 なるほど。

 お姉さんポジションか。

 実妹の千陣せんじん夕花梨ゆかりに続く、癒し枠だな!


 優しそうだし、男女の関係にならないのなら、気楽に――


 握手していた右手に対して、指でスリスリとされたことで、思わずヘンリエッテを見た。


 ニコッとした彼女は、5本の指を絡ませたままで話す。


「室矢くんは、指が滑らかだねー。何か手入れでも、しているの?」

「いえ。特には……。えーと。そろそろ……」


 あ、ごめんね! と言いながら、ヘンリエッテが右手を離した。


 すると、彼女は意地悪そうな顔で、注意する。


「そういう視線は、すぐに分かるよ?」

「気をつけます」


 笑いながら、ダメだよ? と叱られてしまった。

 巨乳だから、思わず見てしまう。


 さっきの握手は、愛撫みたいな触り方だったけど、気のせいか……。


 おお!

 下で、両腕を組み、グイッと持ち上げている。


「こういう風にされても、凝視したらダメ!」


 笑顔のヘンリエッテは、組んでいた両腕を外して、ピョンピョンと跳ねた。

 それに合わせて、たゆんと揺れる巨乳を眺めていたら、彼女は続ける。


「室矢くんは、本当にオッパイに弱いね? そんなことじゃ、先が思いやられるよ! いつでも私で練習させてあげるから、そんなに女の子をねっとり舐めるように見ないよう、頑張って!」


 ポンポンと肩を叩いたヘンリエッテは、1回ギュッと抱きしめ、ウィンクしてから、立ち去った。

 こういう、姉弟みたいな感じも、良いものだ。


 ジッとこちらの反応をうかがうような視線だったが、やはり他流の上位家の当主ということで、色々な思惑があったのか。


「――と考えてみたのだが、どうだろう?」


 内廊下の立ち話で、一部始終を聞いた南乃みなみの詩央里しおりは、真顔になった。


「……工藤さんと、話しておきます」


 一緒にいた千陣夕花梨も、それに続く。


「お兄様が人生楽しそうで、私も嬉しく存じます。ところで、たまには兄妹らしく、お兄様の自宅に行っても、いいですか?」


「事前に、連絡してくれ」


 夕花梨に返事をした俺は、詩央里に提案する。


「いずれにせよ、リリーは明夜音の先輩だ。今日は、適当にデリバリーを頼んで、歓迎パーティーにするか?」


「分かりました。すぐに、手配いたします」




 レジデンス内のパーティールームには、滞在しているメンバーが集まっていた。

 それぞれに挨拶を交わし、工藤・フォン・ヘンリエッテは、自己紹介をして回る。


「よろしくねー!」


 千陣夕花梨は、微笑んだ。


「お兄様のお役に立つ限りは、よろしくお願いします」



 悠月明夜音に対しては、ずいぶん、話し込んでいる。

 やっぱり、ヘンリエッテと、仲が良いのか。


「いっそのこと、3人はどう?」

「それは、ちょっと抵抗が……」

「でもさー! 人数的に、そろそろ覚悟しておかないと――」

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