第389話 本物のお姫様から見た室矢重遠という男ー③

 両腕の外側に飛び出したブレードと、こぶしの間から飛び出した短いブレード。

 ゆったりと両腕を構えた細身の男は、ゴーグルによって視線を読みにくい。


 両足の底が細かなフットワークを刻み、その度にジャジャッと音を立てる。


 ブウッという風切音と共に、細身の男は殴りかかってきた。

 身体にバーニアのような加速装置もあり、空中で加速。


 細身の男は、小坂部おさかべけいふところへ飛び込み、その大小のブレードによって、変則的な斬りつけを行う。

 握っている拳や腕を叩いて落とすことは、不可能だ。

 それ以前に、両腕はおそらく義手。


 距離が詰まったことで膝蹴りをすると、そこからもニードルが飛び出してきた。

 ただの針とは、思えない。

 痺れ薬などが塗られているか、刺さった時点で注入されるのだろう。


 至近距離でのパイルバンカーのような攻撃も、慧は後ろに飛びつつ、その軌道上から外れる。


 奇襲で発射されるナイフや銃弾も、難なく避けるか、武器で弾いた。

 だが、密着した状態による、間合いが違う攻撃によって、その制服は切り裂かれていく。


 距離を取れば、周囲にいる機械化歩兵たちが撃ってくる。

 お互いにカバーしつつも、邪魔にならない配置だ。


 そのコンビネーションはたいしたもので、慧の傷は増えていく。


 しかし――



「そうだ。ここに、城を建てよう!」




 ヒュオオオッと、上空から巨石が降ってきた。

 人工的に切り出された形だ。


 重力による加速で、当たればサイボーグも大ダメージ。



 小坂部慧は、落ち物パズルゲーのごとく、両手で指し示して、地面を埋めていく。

 重い音が響く度に、地面が揺れる。


 ドシン、ガコン、ガコン


 地面に落ちる音、石同士がぶつかった轟音が、どんどん重なっていく。


 上空に注意しながら、立体的な地形を逃げ回る機械化歩兵たち。

 身体からブレードが伸びている奴だけ、慧に食い下がるも、変幻自在に槍や刀を取り出す彼女に苦戦する。


 何しろ、積み重なった巨石で動きにくい。

 おまけに、慧の意思によって、横にも動き出した。


 ブレード男は左右から巨石に挟まれて、グシャリと潰れる。

 軍用だけあって、まだ動くが、フレームが歪み、自慢の機動力と白兵戦を封じられた。

 せめて一矢報いようと自爆するも、ドスンッと上から潰される。

 ドンッと鈍い音が下で響き、少しだけ巨石が持ち上がって、また落ちた。



 遠くにスタンバイしている狙撃兵も、撃てない。

 すると、空気を切り裂く音が近づいてきた。

 反射的に上空を見たら、夜空にキラリと光る物体がいくつも……。


 身体の端子とケーブルで接続していた、スコープ付きのスナイパーライフルを抱えて、すぐに伏せた姿勢から立ち上がる。

 しかし、加速し続けた槍の雨は、車のような速度で走り出した狙撃兵の背中を次々に捉えた。

 誘導ミサイルのような軌跡で、串刺しにされ続け、その数は10を超える。


 地面に倒れた後にも、槍は降り続けた。

 証拠隠滅か、狙撃兵は自爆した。



 残った機械化歩兵たちは、作戦の失敗を悟った。

 自慢の脚力と使い捨てのブースターで、飛ぶように跳躍し続け、即時離脱を図るも――


 今度は、矢の雨が降ってきた。

 手足や胴体に突き刺さり、その瞬間に小さく爆発する。

 まるでヘリのロケットランチャーで掃射されたように、次々に機械化歩兵が倒れた。


 そして、やはり自爆する。


 欠伸あくびをした小坂部慧は、その場から煙のように消えた。

 降り積もった巨石、槍などの武器も、全て見えなくなる。


 入れ替わりのように、警察の車両が次々に到着した。


 現場に残るのは、自爆したサイボーグたちの破片と、燃え尽きた大型トラックの残骸、巨石による凹みだけ。


 発砲音が続いたことから、アサルトスーツで短機関銃を持った警察の部隊が、地面に突き刺す大盾を設置しつつ、一気に展開したが、接敵はなし。

 残されたサイボーグの破片などに、戸惑うばかり。



 ◇ ◇ ◇



 室矢むろや重遠しげとおの式神であるメリットを活かした小坂部慧は、一瞬で紫苑しおん学園に戻ってきた。

 再び、校舎の上に立つも、その制服はボロボロだ。


 戦闘による硝煙と血の匂いを漂わせ、巻き上げられた土埃つちぼこりや傷で汚れた顔のまま、下にあるキャンプファイヤーの炎と、その先にある重遠の姿を見た。

 悠月ゆづき明夜音あやねと、踊っている。


 広い屋上に降り立った慧も、1人で踊り出す。

 まるで、自分の向かいにパートナーがいるかのように……。



 紅潮した顔の慧は、下の重遠と明夜音が踊りを止めた時に、同じく動きを止めた。

 両手で自分を抱きしめる姿勢で、ぼんやりと立っている。


 彼女は同じ姿勢のまま、右手でトリガーを引いた。

 大きな音と衝撃で、発砲したことが分かる。

 いつの間にか、1丁の火縄銃が抱きかかえられていた。


 クルッと回転しながら、その火縄銃を放り投げた。


 今度は左手に、違う火縄銃が握られている。

 また、ノールックで発砲。


 好きな男子を眺めているような顔つきで、慧は踊り続ける。




 ――都内の某所


 車道の片隅に停車している、テレビ局の放送中継車の列。


 その中の1台では、ゲーム用のスティックのような装置がついたコンソールに向かっている男たち。

 彼らは2人1組で、椅子に座っている。


 それぞれに、戦闘機のようなレティクルが表示された画面を見ながら、操作と報告を続ける。


 ところが、いきなり画面が砂だらけで、ザーッとなる。


「What happend?(何が起きた?)」

「We.......We have lost our signal.All sensors are unresponsive.(我々は……我々は、信号を失いました。全てのセンサーが反応なし)」

「Did something hit?(何か、当たったのか?)」

「Perhaps.......(多分……)」


 小型軽飛行機ぐらいの全長8.2m、全幅15mほどの無人攻撃機――非武装の民間用を装って、計測用センサーを搭載――は、撃墜されたようだ。

 遠隔操作していたパイロットとセンサー員は、それぞれに上下の大型モニターや、下にあるステータス画面をせわしなく見る。


 一番上の大型モニターは、カーナビのような画面で、その下の大型モニターに外の映像と照準用のレティクルがある。

 作戦で参照するのか、手書きのメモが画面のすみに張り付けられていた。


 墜落で間違いない、と確信した2人は、椅子に座ったままで、指揮官のほうを見た。


 その視線を感じた指揮官は、有線による通信で、他の車両に尋ねる。


「What about drones?(ドローンは?)」


『Sea lions,all disappeared.(アシカ、全て消失)』

『Walrus,no response.(セイウチ、反応なし)』


 その時、外部からの通信を受けた指揮官は、そちらの話を聞く。


「......understand.(了解)」


 そう答えて、通信機を戻す。


 周囲で命令を待っている部下たちに告げる。


「Abort the operation.Now,start moving!(作戦を中止する。すぐに、移動を開始しろ!)」


 テレビ局の放送車のような大型自動車は、お互いを繋げていた有線を外した後で、次々に走行を始めた。

 一刻も早く、味方のエリアに逃げ込まなければ、パトロール中の警察に呼び止められてしまう。



 無人攻撃機は、戦闘機より安い。

 しかし、1機320万$(4億3,000万円ぐらい)が、一瞬でスクラップだ。

 2機の反応がなく、その2倍の金額が失われた。


 盗まれた民間会社の調査機、というカバーストーリーで、特定の信号が途切れた場合には自動的にデータ消去が実行され、判断できる限りで無人の場所に機首を向けるため、日本の警察や防衛軍にトレースされる心配はない。


 だが、地上に墜落した場合、その被害によっては大問題になる。

 仮に機体が無事でも、名乗り出ることは不可能。



 その他のドローンについても、無人攻撃機の高性能レーダーなどに基づき、対地攻撃ができる武装を持っていた。

 こちらは、上空で全体を見る攻撃機とは対照的に、低空でターゲットを狙う役割だ。


 わざと安い機材を組み合わせて、ゲリラのような火器を搭載。

 鹵獲ろかくされても、どこの勢力の物か? は、分からずじまいだ。


 次々に飛ばすことで、本隊の支援を行うはずだったが、こちらも正体不明の攻撃で全て撃墜されることに……。

 


 上官への報告で、どれぐらい詰められるのか? と考えた指揮官は、頭痛を感じた。


 安全な偵察チームでありながら、高価な機材を全て失った。

 まだ予備はあるが、そういう問題ではない。


 機械化歩兵の襲撃チームも全滅したようだし、相手が悪かったのか……。

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