【２周目を連載中・１周目は電子書籍化】異能者が普通にいる世界へ転生したら死亡フラグだらけの件 ～原作知識よりもハーレムで対抗した結果～

第381話 去りし室矢、生ける陽キャを走らす（前編）

　紫苑（しおん）学園の裏サイトは、文化祭が終了した日の深夜にも、更新が止まらない。

　：誰か、演舞巫女（えんぶみこ）や魔法師（マギクス）の女子を口説けた？

　：無理だった

　：右に同じ

　：どいつも、室矢（むろや）が目当てだったみたい

　：室矢さん。まじ、パねえ……

　：そのわりに、２日目の『１－Ａ』は、客足が鈍かったけどな？

　：２日目は全体的にバラけたけど、ナンパ成功の報告はなし

　：室矢が「他の出し物に回ってくれ」と要請したのか？

　：かもな

　：散ってくれないと、パンクするからな。単純に……

　：ウチにも美少女が大勢きたので、嬉しかったぞ

　：誰か、室矢の連絡先を知らないか？

　：あいつ、引っ越したようで、さっぱり分からん

　：前は、南乃（みなみの）や咲良（さくら）と同じマンションだったらしいけど

　：爆発しろ、リア充！

　：クラスのＳＮＳに参加していないし、部活も内輪だけの第二オカルト同好会だから、連絡の取りようがない

　：陰キャ、乙

　：あれだけモテるのなら、俺は陰キャでいいわ

　：今は高級車で送迎されているし、実は金持ちの家庭っぽい

　：ウチじゃ、珍しくない話だ。前の住居も、高級マンションだろ？

　：銃撃事件があった付近のマンションだっけ？

　：そうそう

　：あれだけの美少女ばかりなら、俺もマギクスの学校に入る！

　：今からじゃ、入れんぞ？　というか、男女別だし

　：ベル女との交流会なら、ウチにもある

　匿名の掲示板には、室矢家の古い情報ばかり。

　ベルス女学校との交流会が注目されて、今度はそちらで盛り上がる。

　噂（うわさ）で聞くのと、実際に芸能人並みの美貌を見るのとでは、大違いだ。

　次の交流会は、かなりの高倍率に違いない。

　別の掲示板では、『１－Ａ』と思しき連中が、社会貢献の名目で売上金を没収されたことを嘆く。

　クラスの打ち上げは、高校生の文化祭として常識的な範囲で支払うとも。

　：教師どもが、ウチらの金を持っていきやがった……

　：会計士たちが現金を扱っていたから、全く誤魔化せなかったし……

　：あ、ホントだ！　公式で、ウチらに連絡がきている

　：理事長の承認じゃ、どうにもならんな……

　：うええええ～？　私、どれぐらいの取り分なのか、楽しみにしていたのにー！

　：ちょっ！？　マジ？　それを当てにしていたのに！　早く注文を取り消さないと

　：え？　金一封もなし？　そりゃ、ないよ……

　：他のクラスは、ちゃんと利益を還元しているじゃん！　差別だ！

　：さすがに、目立ちすぎたか……

　：残った支払いや、クラスの打ち上げは、レシートや領収書を見せれば、その分を戻すってさ

　：けっこうな売上だったけど、学園が懐（ふところ）に入れるのかよ？　許せねえ！

　：慈善系の団体に、学園として寄付するんだって……

　：俺らが稼いだ金で食う飯は、美味いか？

　：あれだけ働いて、クラスの打ち上げが報酬……。やってらんねえええ！

　：しかも、来年度からは禁止

　：まあ、けっこうヤバかったしな。そこは、いいんだけどさァ……

　：今回は、頑張った人間で山分けしたかった

　：クラスの打ち上げは、いいんだろ？　思いっきり高いとこに行こうぜ！

　：だな

　：うん。じゃないと、やってられない！

　：１人１万円とか？

　：それは、ヤバいｗ　フルコースかな？

　：高級ホテルで提供しているランチブッフェなら、ちょうどそれぐらいかも

「お前ら、室矢のことには触れないんだな？　別に、いいんだけどよ……。考えてみれば、警察につつかれそうなネタで荒稼ぎしたら、その前に学園が介入するわな……。俺だけナンパで全負けってのもアレだし、皆で不幸になろうぜ～？」

　ボソッと指摘した、上加世（かみかせ）幸伸（よしのぶ）。

　そもそも、室矢重遠（しげとお）を目当てに集まったことでの売上。

　還元するのなら、彼に半分以上を渡すのが筋だ。

　皮肉なことに、ミニゲーム喫茶の『１－Ａ』で、ずっと重遠を見ていた幸伸が、一番の理解者になっている。

　むろん、彼のことは気に食わないし、ナンパが全て空振りだったことは悔しいが……。

　幸伸が指摘した通り、これは生徒会長の澤近（さわちか）葵菜（あいな）が先手を打った結果だ。

　文化祭の『室矢コース』は、ネット上のＳＮＳでかなり広まった。

　となれば、ＰＴＡ（ピーティーエー）（ペアレント・ティーチャー・アソシエイション）や、全力で叩きたいネタを探している連中の目にも留まる。

「警察、教育委員会、役所とかに、どんどん通報が相次いでいるんじゃねえか？　けど、それだけじゃ弱い。学校法人は一種の治外法権だし、文科省も黙っていない。おまけに、ウチは私立だ。動こうにも、文化祭２日目の敷地内には立ち入りづらいよな？　それで『文化祭を邪魔された』となれば、逆に責任問題だ」

　あと１つ、材料ができたら、警察などの公的機関も動く。

「ウチだけ、高校生にふさわしくない方法で荒稼ぎ。んで、その泡銭（あぶくぜに）で高いブランド品を買って、ＳＮＳに画像をアップしたら、その時点で終わりだな。大義名分を得た……と勘違いした連中が、一斉に騒ぎ立てる。何か事件が起きれば、文化祭まで捜査されるだろうよ」

　けれど、来年度からは行わない、全ての利益を寄付する、となれば、話は別だ。

　上加世幸伸は、紫苑学園のホームページで、“高等部『１－Ａ』から寄付の申し出を受けて、現在準備中”　という新着を見つけた。

　特設ページには、クラスの筆頭である自分に全く覚えのない、「１－Ａの生徒からの意見」がある。

　高校生とは思えないほど、模範的な文章だ。

“出し物が想像以上の賑わいで、自分たちの苦労が報われた思いです。しかし、学園の他の方々や、わざわざご来訪いただいた方々に対する迷惑になったと反省しており、この度の利益を全て寄付することに決めました。これは高等部『１－Ａ』の全員による判断で、少しでも恵まれない人々のためになれば、との思いが込められています。また、今回の教訓を活かして、次年度から自分たちで管理できる範囲の出し物とするべく、生徒会や文化祭の実行委員会に詳細を報告しました”

　その下では、紫苑学園の公式が、“高等部『１－Ａ』の収支は、日輪グラソン税理士法人が管理しており、生徒は現金に触っていません。寄付を実施しましたら、こちらにその模様を追加で掲載する予定です”　と説明している。

　生徒だけが見られる学内ネットの、『１－Ａの売上について』の文面と、一応は矛盾していない。

「ウチが自主的に寄付したのなら、学校のホームページに堂々と載せられる。こうやって、学園に都合がいい文面でな？　大手の会計事務所とか、喧嘩を売ったら面倒臭いところの名前も載せれば、難癖をつけてくる奴はいない。おまけに、クラスの連中がネット上に、『激務でタダ働き』と愚痴るわけだ。匿名の連中も、メシウマなら、すぐに納得すると……。結局は、妬んでいるだけだし」

　案の定、ネットは紫苑学園の公式発表によって、どんどん沈静化。

　明日の朝から電話が鳴りやまない事態や、訳の分からん市民団体が押し寄せてくる心配はなさそうだ。

　生徒会長の澤近葵菜に言わせれば、『１－Ａ』が独断でやった以上、これぐらいの詰め腹は切ってもらう。

　勝手に対応せず、生徒会に相談していれば、もっと違う展開だった。

　しかし、陽キャ男子のリーダーである上加世幸伸は思考停止で、女子のリーダーである八木下（やぎした）美伊子（みいこ）がお金欲しさに暴走したのだ。

　女子に注目された室矢重遠を別にすれば、美伊子の責任を問うべきである。

　彼女が、『室矢コース』の発案者なのだから……。

「八木下を責めても、逆ギレするだけ。俺らも、結局は反対しなかったわけだし……」

　スマホで検索した上加世幸伸は、トレンドに『室矢コース』がないことに、眉を顰（ひそ）めた。

　不思議と、画像すら見つからない。

「ふーん。こりゃ、不自然だな？　あいつの名前もない。美少女だらけの文化祭だったのに……。悠月（ゆづき）がいるし、そっちで火消しをやったのか？」

　２日間の文化祭と、その後の打ち上げで疲れ切った頭を捻（ひね）り、幸伸は考える。

　だが、もう深夜だ。

　ベッドで横になっていたら、いつの間にか寝ていた。