第374話 陽キャ、ただ天下泰平を憂うー④

 『1-A』の室矢むろやコースは、まだまだ続く!


 ウェーブパーマで、ボリューム感のある、ロングの銀髪。

 ツンデレからデレを抜いた、青と黄色のオッドアイを持つ美少女は、ひたすらに室矢重遠しげとおを責める。


 統合幕僚本部の中央データ保全隊にいて、ベルス女学校の高等部3年でもある、りょう有亜ありあだ。


「聞いたわよ? メグを泣かせたのね? もう解決したようだけど、ベル女でこの上ないほど、落ち込んでいたわぁ」

「有亜。いや、それは……」


 両側のほっぺたを掴んだ銀髪少女は、ぐいーっと引っ張る。


「言い訳するな! やっぱり、あの時に撃っておけば良かった!」

「その心当たりが2つ以上あるのは、どうかと思います」


 有亜は陰に徹する監視役だが、ベル女の交流会の一件と、その後のグループ交際にも参加して、何かと縁がある女子だ。


 学年は違うものの、同じように目立つ容姿のためか、咲良さくらマルグリットの親友。


 ベル女に滞在中の重遠をピンポイントで見張っていたこともあって、彼女の初体験を監視カメラ越しに見届ける役にもなった。

 おそらく、高画質で……。


 一緒にいるベル女の生徒たちが止めに入り、重遠はようやく助かった。



「おい! あの制服って、ベルス女学校じゃね?」

「ホントだ……」

「室矢の奴、すげー親しそうだな」


 咲良マルグリットと同じベル女と知って、『1-A』で接客中の男子たちが浮足立つ。

 空き時間でスマホを弄り、遊びに来た女子たちの素性を探る。



 今度は、長い黒髪を2つのシュシュでお下げにした巨乳の少女が、室矢重遠の前に立つ。


 ベル女の1年主席を務めている、時翼ときつばさ月乃つきのだ。


 【花月怪奇譚かげつかいきたん】に登場する、ヒロインの1人。

 彼女の協力で、ベル女の交流会における召喚儀式を阻止できた。


「ひ、久しぶり。元気そうだね?」

「月乃か……。ああ、そちらも元気そうだな」


 ホールの男子たちは、2人の親密な雰囲気に苛立つも、給仕や会計で忙しい。

 陽キャの女子リーダー、八木下やぎした美伊子みいこの指示で接客をしているていだから、それをさえぎるわけにもいかない。

 今日は、他校の人間が大勢いるのだし。


 その不満に構わず、月乃と重遠は話し合う。


「メグは、無事に戻れたようだね? 大事にしてあげて……」

「分かっている」


 月乃は、交流会に来た重遠のおかげで、原作の悲劇を回避できた。

 本来なら死別するはずだった咲良マルグリットと和解して、親友にもなれたのだ。


 原作の主人公と、ベストマッチ?

 それは、知らんな。


 ここで月乃と会わなかったのは、鍛治川かじかわ航基こうきにとって幸運だろう。

 鍛治川流の宗家の妻としてプロポーズした女が、こうやってライバル――航基の自称――と親しげに会話している様子を見なくて済んだ。


 奴は、沙雪さゆきたちと、雪女の里にいる。

 小森田こもりだ衿香えりかにも見捨てられないように、せいぜい頑張れ。



 室矢と仲良くしていれば、あれだけの女子と知り合いになれたのか?


 そう思った上加世かみかせ幸伸よしのぶだが、もう遅い。

 室矢重遠は通信制の生徒になっていて、この期に及んで友達になることは無理。


 今の重遠は、取り巻きを求めていない。

 朝から晩まで女子の相手をするうえに、眠ると幽世かくりよ天沢あまさわ咲莉菜さりなが待っているからだ。



 比喩でも何でもなく、国家の存亡に関わる案件への特務機関になりつつある室矢家。


 警部に昇任した古浜こはま立樹たつきをトップに据えての、四大流派を横断した外局にできそうなため、公安警察の冨底ふそこ道治みちはるは内心でウキウキしている。


 表立っては動かないが、中央省庁や警察内部への根回しを進めている段階だ。


 社会的な肩書きを与えれば、これまでのような事故も減る。

 現状のままでも、警察官が上の立場で管理しているため、他のキャリアは五月蠅く言わない。


 防衛軍にも協力するだろうが、普段の行動としては、警察のほうが動きやすい。

 高校を卒業した後の室矢重遠の選択に、あらゆる組織が注目しつつある。




 白銀ロングの少女と、茶髪ロングの少女もやってきた。


 沖縄で知り合った魔法師マギクス

 シベリア共同体で滅んだ王朝の末裔を自称する空賀くがエカチェリーナと、その親友である支鞍しくら千波ちなみだ。


 どちらも、テレッサ海洋女学校の中等部3年。

 海底から湧いた大蜘蛛おおぐもとの戦いの前後で、短期間ながら、親しい間柄に。


 2人は海上防衛軍の下士官だが、街で会えば、とてもそうは思えない容姿だ。


「久しぶり。千波と遊びに来たよ」

「いい男……。じゃない! 私の好みは、あなたと違うの! 分かる!?」


「元気そうで、何よりだが……。お前は、意味不明な逆ギレをするな!」


 千波と呼ばれた少女は、訳の分からない理屈で、室矢重遠に怒っていた。

 決戦後のクルージングで、かなり洗脳されていたらしい。


 同乗したエカチェリーナと、山吹やまぶき色のロングが眩しいスティアの二人掛かりだ。

 海の上のヨットでは、逃げ場がない。



「あれ、テレ女の制服じゃねえか……」

「どれだけ、知り合いがいるんだよ?」


 ホールにいる男子たちは、忙しく接客をしながらも、こっそりとスマホで情報収集。

 その実態に、ひたすら驚く。



 航空に関連したマギクスの学校からも、物見遊山でやってきた。


 こちらは、室矢重遠と接点がなく、珍しい動物を見にきた感じだ。

 コアラを近くで見られるコーナーと、変わらない。


「君がうわさの、中出し巨乳好きか……」

「思っていたよりも、良い男だね!」

「ベル女で100人斬りしたって、本当?」


「そもそも、どちら様で?」


「ん? マ女とか、ヘクセン隊の附属ふぞくだけど……」

「マリア。それじゃ、理解できないと思う。私たちは、空の魔法師マギクスだよ! マギクス航空女子高等学校と、航空開発実験ヘクセン隊附属ふぞく高校の生徒。ちなみに、後者も女子校だよ」

「私はパイロット志望だったのに、途中で不適格になった! 今は整備! お空を飛びたい!」


「そうですか……」


 顔も名前も知らない女子たちに、重遠は困る。


 お姉さん系で、マリアと呼ばれた、ハーフっぽい女子が話す。


「君の顔を見に行く、と申請したら、普通に外泊許可が出たよ」

「出たの!?」


 他の女子も、話し出す。


「今度、ウチにも遊びに来てー!」

空幕くうばくの准将……。ああ、ウチの元締めのことね。その人も、『一度会いたい』と言っていたっけ……」

「あの人、いつも気配がなくて、気づいたら傍にいる!」

「すぐ分かるように、ボスっぽいBGMを流して」


 彼女たちはテーブルについて、仲間とも喋りながら、とりあえず話すだけで帰った。




 聖ドゥニーヌ女学院の制服を着た、女子中学生たちも。


 リーダーである銀髪の少女、深堀ふかほりアイ。


 彼女は、室矢カレナの妹だ。

 さっぱりしたショートヘアだが、紫の目と合わさって、ファンタジー世界のエルフのような雰囲気。


 室矢重遠は、秋葉あきばでアイと知り合い、1,000円以上のランチを奢ってもらった。

 沖縄で再会した時には、彼女が所有している高級クルーザーの上で、専属シェフの料理をご馳走に……。



 深堀アイは、周りの視線を気にせず、話しかける。


重遠しげとおお兄さん。せっかくだから、遊びに来たわ!」

「ああ、久しぶり。……今度、カレナに言って、対談の用意をさせるから。もう少しだけ、待ってくれ」


 同じような、目立つ容姿の少女たちも、口々に挨拶する。


 はにかんだ表情の椙森すぎもりデュ・フェリシアは、もじもじ。


「お、お久しぶりです。室矢さん……」

「フィアも、久しぶり! 沖縄から、無事に戻れたようで、安心したよ」



 山吹色の長髪で、グリーンの瞳をしたスティアも、聖ドゥニーヌ女学院の制服で体当たりしてきた。

 へなちょこパンチの他に、攻撃のバリエーションを作ったようだ。


 今はアイの豪邸に同居していて、沖縄のUSFAユーエスエフエー基地に軟禁されていた時よりも、表情が明るい。

 学校でも、アイと同じグループにいる。


「重遠。私とも遊んで!」

「ハイハイ……。アイとの対談で、お前が来てもいいか、詩央里しおりに確認しておくから」


 こちらも健全な雰囲気を保ったまま、和やかに終了。



 『1-A』の男子たちは、聖ドゥニーヌ女学院という珍しい女子に、目を見張った。


「聖女まで!?」

「あれ、中等部だよな? 高等部には、見えない……」

「しかも、あの銀髪の女子。ここらの男子中学生に、カルト的な人気がある奴だぜ?」


 深堀アイは特徴的な容姿だが、人間離れした美しさと、何よりも年齢に似合わぬ包容力を持つ。


 お嬢様学校で共通点が少ないものの、話しかければ、普通に応じる。

 交流を兼ねた茶会、部活の練習試合などで、男子が次々に夢中になっているそうな。


 女子中学生は、どうしてもグイグイ迫る。

 そのため、人気のある男子ほど、落ち着けるアイにまるのだ。

 スクールカーストが低い男子にも、分け隔てない。


 女子に恨まれやすいポジションだが、恋愛相談をすれば、手厚い支援。

 男子にチヤホヤされても有頂天にならず、他人をバカにせず、グループの結束も堅い。


 悩みを聞いてくれることから、敵に回すよりも、利用したほうがいい。と思われている。

 ついでに、男子と付き合わないことから、女子が好きなのでは? という噂も。


 アイ本人は、昔のREUアールイーユーで、『異端の女神』と騎士団に追い回されていた時と比べれば、可愛いものね。とのたまっている。

 それ以来、女神と言われることが、トラウマになっているそうな……。


 あまりに居場所がなく、一時期は帆船のマストの上に乗ったまま、延々と航海していた。


 彼女がいれば、雨が降り、風が吹き、島も見つけられる。

 赤道や亜熱帯の無風帯でも、怖くないのだ。

 のちに、彼女をかたどった女神像がつけられ、『海の女神』と称された。


 アイは帆船に乗るのを止めたが、海にいる人間が助けられる事例は現在まで続く。

 そして、女神と呼ばれる度に、自分で訂正している。

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