第358話 もうマジ無理、リスケするのでー③
主導権を握った
「先ほどのご意見にも一理ありますので、数年は警察庁への資金の提供をさせていただきます。その間は変わらずに、警察官としての職務を全うする所存です。ただし、本年度は別として、次年度から段階的に減額いたします。監督下にある都道府県の県警で
たとえ末端の警察官であろうと、ウチを馬鹿にしたら、即座に金を出さない。
場合によっては、以後の
必要ならば、自分たちで対応するか、民間の退魔師に依頼しろ。
咲莉菜は、
しかし、これは予定通りの流れ。
優位に立ったからこそ、初めて妥協したのだ。
ここで完全な敵対をすれば、日本全国の県警との消耗戦が続く。
それより、警察のトップに、桜技流がどういう存在であるのか、周知させればいい。
できなければ、すぐに支援を切り上げるだけの話。
もっとも、桜技流のトップが、自分たちの命を惜しまぬ狂人だと分かった以上、頼まれなくても日本全国に、“彼女たちの扱いに注意せよ” とお触れを出す。
桜技流に依存しないため、金策も進めるだろう。
むろん、咲莉菜たちを失脚させて、
警察の視点では、それが理想的になるから……。
千陣流では、スポンサーの
宗家の長女である、
防衛軍、政財界、地方とも繋がっている真牙流は、本当に面倒だ。
現時点で
千陣流は大人しいが、敵と判断したら、容赦しない。
その人物の影がいきなり伸びて、そのまま首を切る。
正確な情報を得ている公安警察は、日本を吹き飛ばさないために、警察庁への協力を渋っている。
咲莉菜は、まだ警察への支援を続ける、と述べた。
したがって、室矢家、もしくは重遠を狙い、適当な罪状にすることには、支援を切られるリスクしかない。
室矢重遠たちが
彼への対応で、
綺麗事ではないため、食うか食われるかの交渉が、桜技流の独立まで続く。
しかし、数年後には離脱する、と警察庁のトップに述べて、筋を通したのだ。
我々に何の断りもなく、という反論はできない。
これまで身内としてナアナアだった態度も、今後は変わる。
予定通りに進めば、宗教法人にして結束の強い市民団体という、最も面倒な存在へ。
桜技流が大きな不正を抱えていれば、それを指摘するだけで、言いなりにできた。
だが、今はその手段を取れない。
自らも犠牲にする相手に、下手な選択をすれば、巻き添えで一緒に破滅するだけ。
特に、警察で成功を収めた、勝ち組のキャリアにとって、最も避けたい話だ。
数年は従来通りという、天沢咲莉菜の言葉は、待ち望んでいた内容だ。
自分たちの説得で、彼女の考えを
少なくとも、キャリアの面子が立った。
会議室の椅子に座ったまま、それぞれに脱力したキャリアたち。
息を吐く音が、静かに重なっていく。
場の空気は、一気に弛緩した。
2本の指で
腕時計を見て、次の予定を考える人間。
まだ言い残しがないか? と改めて書類を読み返す人間。
反応は様々だが、もう終わったことは共通。
上座の1人は、咲莉菜の気が変わらないうちに、という様子で、発言する。
「分かった。数年は、その方向で進めよう……。諸君も痛手を受けているのだから、冷静に判断できまい? 協力が必要ならば、地元の各県警に申し出てくれ。言うことを聞かない場合は、我々から話す」
下座の咲莉菜は、にっこりと微笑んだ。
「ありがとうございます」
よくある、先送り。
まさに、皆が躍っただけで、何も決まっていない。
時間を置けば、警察から離れることを考え直す。
桜技流にも警察OBが多数いて、その関係は一朝一夕に断ちきれない。
女子高生のワガママであれば、また意見も変わる。
新たな弱みを握ることで、掌握もできよう。
そうでなくても、自分が在籍している間に、現状を維持できればいい。
一部のキャリアは恨みがましい雰囲気だが、ようやく片付いたことを台無しにする気はない。
小娘に振り回された、と立腹している警察の上層部に対して、天沢咲莉菜は本気だ。
もはや、今生に未練はない。
謀殺されれば、桜技流が彼女を神格化して、より狂暴になるだけ。
その場合は、祀られている
咲莉菜はどうあっても、生涯をかけて、桜技流の改革を進める覚悟。
転生した重遠は、
だが、
本質的に、死生観が人間離れをしている。
その意味では、重遠の同類、と言えるだろう。
原作では、桜技流を守るために、オウジェリシスを滅ぼす
けれども、今は違う。
原作のプレイヤーに操作されるだけの主人公ではなく、自分と対等な男を見つけたのだから……。
上座のキャリアは、まだ御せるのなら、こちらへの取り込みも考えるべきか。と思い直した。
「天沢くん。私は、君を高く評価している。刀剣類保管局の警察局長として、本来の階級に近づけるために、『警視長』への昇任も考えよう。他に希望する権限やポストがあれば、それも検討する」
全ては、これからの働き次第。
そう言われた天沢咲莉菜は、笑顔で答える。
「ご期待に添えるよう、精一杯尽力いたします。本日は、皆様方の貴重なお時間を
身構えていたキャリア達は、思わぬ発言に拍子抜けした。
「分かれば、いいんだ」
「今後は、君のほうで話をまとめてくれ」
すでに議論が終わっていることから、1人のキャリアが軽口を叩く。
「天沢くんは、まだ学生だろう? 若手の誰かを紹介しても……」
言っている途中で、周囲からの視線に気づき、その口を閉じた。
わざわざ相手を刺激したことから、壁際の
当の本人が、口を開いた。
「ご厚意はありがたいのですが、わたくしは
また騒ぎ出すのか? と思っていたら、予想外の返答。
そこで、軽口を叩いたキャリアも、慌てて応じる。
「ああ、そうだったな! 今の発言は忘れてくれ……」
天沢咲莉菜が奥の上座を見たら、そのキャリアは宣言する。
「これで、天沢くんの要望は聞き届けた。他に意見がなければ、彼女を退室させるが? ……天沢警視正は、もう下がってよろしい」
「はい。失礼いたします」
椅子から立った咲莉菜がお辞儀をしたら、SPが周りを固めた。
警護ではなく、油断したところでの襲撃に備えるためだ。
若い女3人に対して、テロ鎮圧と同じ装備を身に着けた警官たちが囲む。
その行列は、警察庁を出るまで続いた。
たまたま通りがかった警察官、職員は、短機関銃などで武装した集団に、ギョッとした顔で隅に避ける。
咲莉菜たちが表の道路に停車している高級車に乗り込む時、監視役のSPは形だけの挨拶と敬礼をした。
表向きは、天沢咲莉菜が膝を屈した。
しかし、彼女の目的は、警察庁のトップに会い、自分たちの異常性を示すこと。
相手にした時点で負け、である。
咲莉菜が生き延びたことで、桜技流はハードランディングから、ソフトランディングに変わった。
けれども、それが警察の視点で『ソフトランディング』を意味するとは、限らない。
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