第346話 新しい室矢家 vs 何も知らない原作の主人公ー①
この貸し会議室は、テーブルを囲み、全員の視線が中央を向く配置だ。
マルグリットは椅子に座ったままで、
「あなたが勘違いするのも、無理はなかったわ……。最初から説明すると、私はベル女の高等部1年にいたの。それで、
「何の事件だったんだ?
航基に水を差されて、マルグリットは少し怒った。
「言えない! とにかく、必要があったから、
最後だけドスの効いた声になったマルグリットは、航基から視線を逸らした。
詩央里が、すぐに口を挟む。
「これは、重遠さんの正妻として、私も承認している話ですから……」
「ちょっと、待てよ!? お前は、それでいいのか? 完全に、浮気だろ!?」
思わず席から立ち上がって、大声で叫んだ航基。
いっぽう、詩央里はチラッと見たが、何も答えない。
そのままでは話が
「ウチ……。
彼女の無視が
「そんなこと、許されるわけないだろ!? 日本では重婚を認めていないし、愛人の扱いなんて、可哀想だ! 浮気による裏切りは、詩央里に心の傷を残す……。お前には、詩央里とマルグリットも相応しくない。どうせ、
やっぱり、話にならんか。
まあ、期待していなかったけど……。
航基の後ろを見た俺は、命令を下す。
「
「承知いたしました」
「了解」
自分の後ろから声が響いたことで、航基が驚いて振り向くも、急に前を向いて、椅子に座った。
その動きは、糸で操られているかのように不自然だ。
虚空から、如月と弥生が現れた。
それぞれに両手を構えていて、よく見れば糸が伸びている。
「室矢家のご当主に対して、無礼にも程がありますよ?」
「姫様がいたら、この時点で『首を落とせ』と命令された……」
2人が航基を操ったことで、ようやく静かになった。
俺は、まだ睨んでいる奴のほうを向く。
「航基! お前は詩央里の世話で、ウチの仕事をしている身の上だ。つまり、室矢家の
如月と弥生が、操り糸を緩めた。
航基は、すぐに口を開く。
「その立場を利用して、詩央里の自由を奪ったんだろ!?」
間髪を入れずに、当人がそれを否定する。
「いいえ。私は望んで、重遠さんの傍にいます。……あなたは消耗品に過ぎず、ここにいる方々とは違いますよ? この場で、寄親・寄子の縁を切りましょうか? ただし、今のバイトは私の紹介ですから、辞めてもらいます。福利厚生のマンションも、数日以内で退去するように!」
いきなり決断を迫られた航基は、絶句する。
彼の隣に座っている
「寄子の立場を失ったら、航基は自分で退魔師の道を見つけるしかないよ? 室矢家のメンツを一方的に潰せば、千陣流から敵視されることも忘れないで! ……重遠は、
沙雪がこちらを見たので、首肯した。
「そうだ……。説明しろ、
美しい人形のような彼女は、俺に微笑んでから、無表情で航基を見た。
「室矢様については、真牙流の上級幹部(プロヴェータ)の数人、並びに私たち
それを聞いた航基は、目を見張った。
如月と弥生が口を閉じさせているから、何も言えない。
俺は、
「
警察官の立場は、いずれ消失する。
だが、そこまで説明する義理もない。
航基は、何か言いたそうだ。
俺が視線で合図をしたら、如月と弥生が応じる。
プハッと口を開けた奴は、すぐに叫ぶ。
「権力で女を囲って、その上に脅してくるわけか! お前は悪役だよ。倒すべき敵だ!」
予想通りの言葉を吐いてくれた。
如月と弥生、
航基を見たまま、改めて現状を告げる。
「では、悪役らしく言ってやるが……。今、詩央里の支援を打ち切られれば、お前はもう終わりだぞ? 紫苑学園の学費を払えず、住む場所にも困るだろう。室矢家の当主への反逆に目を
俺の言葉に、沙雪が続ける。
「重遠が見逃しても、関係者は航基を『恩を仇で返す人物』『上下関係を守れない人間』と判断するんだよ。これに、重遠の女好きは、全く関係ないからね? 『信用できない人間とは、誰も関わり合いにならない』ってだけの話さ。紫苑学園は中退で、日本の四大流派の3つから睨まれた状態じゃ、
これまで一緒に退魔師の活動をしてきた沙雪の言葉は、悪役の俺とは違い、航基に響いているようだ。
奴は辛そうな表情で、彼女のほうを向く。
「お前まで、重遠の肩を持つのかよ!? 信じていたのに……」
「持っていないよ? 取り返しがつかなくなる前に、注意しているだけ」
沙雪が諭したものの、航基は納得していない。
奴のペースに付き合っていたら、日付が変わるな。
そう思った俺は、口を開く。
「詩央里! 航基をそのまま使う場合でも、今後はエージェントに委託しろ。もう、直接のやり取りをするな」
「
ジェスチャーで拒絶する航基だが、詩央里は、全く相手にしない。
それに対して、沙雪が尋ねる。
「詩央里への連絡は、あたしが代行するよ! 衿香も、対象外だよね?」
「はい。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます