第344話 原作の主人公との邂逅(前編)【凪side】
――ディリース
カチャッ
「どうぞ……」
「ありがとう」
俺の自宅で、いつものように、話し合い。
非公式の場では、敬語を使わなくてもいい。と伝えたから、さっきよりも
女子大生ぐらいの彼女は、俺に声をかける。
「さて、
「その件は、カレナから聞いている。こちらは、
「思っていたより、まともな待遇ね。了解……。ところで、あなたが御神刀を持っていることは、本当なの? 私、任務に就いていて、大騒ぎになった御前演舞を見ていないのよ」
万緒の催促に、俺はその場で立ち上がり、第二の式神を纏った。
一瞬で、男用の和装と、左腰の日本刀が現れる。
その変わりように、対面でソファに座っている万緒は、真剣な目つきへ。
「……抜刀してもらって、良いかしら?」
左手で
その刃を色々な角度から見ていた万緒は、やがて、納得した顔つきに。
「ありがとう。もう、いいわ……」
元の服装へ戻り、ソファに座り直した俺に対して、万緒は必要事項を伝えた後で、すぐに帰った。
北垣
実際には、まだ手を出していないが……。
「凪はこちら、澪はこちらの部屋です。情報交換を兼ねて、晩御飯は一緒に食べましょう。あなた達の初夜と、歓迎会の予定は――」
詩央里の話を聞く2人を横目に見ながら、俺は
「当面は、あなた達が仲良くしていても――」
「室矢くんが望んだ時にするよ! じゃないと、ケジメがつかないし……。澪ちゃんも、それでいい?」
「そ、そうね……」
凪と澪の返事を聞いた詩央里は、ならいいですけど、と肩を
◇ ◇ ◇
武家の初夜には、立ち合いの作法がある。
そのため、北垣凪と錬大路澪はディリース長鵜の部屋を宛がわれて、長い休暇に入った。
警察学校の短期講習で無理をさせたから、その回復でもある。
彼女たちは、
訓練は、
いずれにせよ、御刀などの保管、整備、交換が必要だ。
状況によっては一度戻り、しばらく待機することもあり得る。
凪と澪は、室矢
仲間意識を持たせるためにも、これは重要。
最近の澪は、東京のお店巡りをしている。
適度な距離を保つという、新しい関係を元カノの凪と築き、自分のために行動する方向へ。
上京者ばかりで、他人に無関心な風潮にも、慣れてきた。
澪も重遠のことを好きで、凪と一緒に人生を過ごせるから、幸せだ。
心身ともに、充実。
街中でのナンパ、スカウトをあしらいつつも、毎日のように開催されているイベントを楽しむ。
紫苑学園の生徒になった凪は、一足先に訪ねてみた。
珍しく、澪とは別行動。
ブレザーの制服に袖を通し、学校指定のカバンを持った。
目立たないために、放課後の時間帯を選ぶ。
せっかくだから、少しぐらいは、学生気分を味わってみるつもりだ。
校門の外へ急ぐ生徒たちと逆行するも、特に見咎める人間はいない。
何だか悪いことをしている気分になった凪は、ドキドキしながら、重遠が通っていた教室、高等部1年Aクラスへ向かう。
原作の【
もう1人の自分は、こんな風景を見ていた……。
どれだけ。
どれだけ、辛かったのか?
今の自分なら、全て説明できる。
けれど、もう1人の自分は狂わされ、市民と警官を殺した。
その数は、20を超えることに……。
・
・・・
・・・・・
・・・・・・・
夢の中で自分は、短機関銃を持ち、アサルトスーツを着込んだ隊員の後ろに回り込んで、首を切り裂いた。
飛んでいる蚊を見失うが如く、死角へ、死角へと回り込む。
フルオートの弾幕と狙撃を感覚的に避けて、当たりそうな軌道だけ、刀で弾く。
いったん肉薄すれば、白兵戦のほうが有利だ。
混乱する警官隊とは別に、ある少女が人間離れしたスピードで、突っ込んできた。
もう1人の自分は本能だけで動き、相手の攻撃を逸らす。
アサルトスーツとは違う制服を着た少女も、警察官のようだ。
警察を示すバッジがある。
「~~~~」
声が小さすぎて、聞こえないよ?
ぼんやりと考えていた、もう1人の自分に対して、その少女は
「殺してやるぅっ!」
言うが早いか、もう1人の自分に、突撃。
身体強化をしているらしく、一瞬で自分の
だが、あまりに直線的すぎた。
殴りかかってきた攻撃を避けながら、相手の腹部の右上を狙い、短時間で用意していた、削り出しのナイフで突き刺す。
粗削りだが、金属の細長い物体は、肋骨の下から滑り込んだ。
致命傷を食らった少女が倒れ、のたうち回っている中で、ホルスターに収まったままの拳銃を見る。
どうして、銃を使わなかったのだろう?
そう思った、もう1人の自分は、ふと見覚えのあるリストバンドを見つけた。
ああ……。
そういえば、さっきのアサルトスーツを着ていた1人も、同じものを……。
現着した『特殊ケース対応専門部隊』の小隊は、独断で先行した
さらに、数名の犠牲者が出た。
応援のマギクスと共に、周辺のビルまで破壊する魔法を使い、ようやく対象を無力化。
・・・・・・・
・・・・・
・・・
・
もう1人の自分を追体験した、北垣凪。
彼女は白昼夢から覚めて、紫苑学園の校舎にいることを再確認。
周りの生徒が注目していたので、すぐに移動する。
“1-A” のプレートをつけている教室へと。
「フフ。やっぱり、夢と同じだね……」
中に入り、思わず
教室にはまだ生徒が残っていて、思い思いに過ごしている。
見慣れぬ女子に目を留めた者もいたが、放課後なので、すぐに目を外した。
1-Aの教室をテクテクと歩いていたら、夢の中で聞き覚えのある声が。
「このクラスに、用があるのか?」
凪が振り返ったら、そこには、1人の男子がいた。
原作の主人公である、
北垣凪は、鍛治川航基を誘い、通学路から少し外れたカフェにいた。
個人経営で、高校生のデートに選ばれにくい。
オーナーを兼ねた店主も興味深げに見ていたが、今は厨房のほうへ引っ込んでいる。
お互いに紫苑学園の制服で、奥のボックス席に、座っている。
向かい合う航基は、はにかみながら、口を開く。
「重遠のことで、話があるって?」
首肯した凪は、自分のパフェを口に入れた。
その甘さを感じながら、説明する。
「うん。私、紫苑学園に転校して、重遠くんのところで厄介になるんだ。それで――」
「ダメだ!」
いきなり大声を出されたが、凪はジッと見ている。
その冷静さに、航基は、我を取り戻した。
厨房から様子を見にきた店主を気にしながら、すぐに謝る。
「悪い……。だけど、あいつだけは、止めておいたほうがいい」
「どうして?」
質問をした凪は、パフェを食べ続ける。
それを見た航基は、店主が再び奥へ戻ったのを確認してから、小声で説明する。
「あいつは、若い女を監禁しているんだ! 俺と同じクラスにいた南乃詩央里と咲良マルグリットも、あいつと同じマンションに閉じ込められている。1回、マルグリットの様子を見に行ったけど、あいつの手下に邪魔されて、
その真剣な様子を見ていた凪は、夢の中と同じ、正義感に燃える人なのか。と思った。
いっぽう、
初体験だって、酷いもの。
この世界の凪は、それらを経験していないが、思うところはある。
あの
東北地方のリゾート施設 “
絶体絶命で人生を振り返った時にも、この世界の鍛治川航基はどこにいて、何をしているのか? と気になっていた。
感慨深くなっている凪に対して、航基は提案する。
「俺のところに来るか? 狭いけど、お前1人ぐらい、何とか食わしていけるし」
「どうして……」
どうして、それを夢の中で、もう1人に言ってくれなかったの?
もっと早くに……。
そう言いかけた凪は、
まだパフェが半分ぐらい残っていたが、立ったままで紅茶を一気に飲み干し、テーブルの上に、釣りが出るだけのお札を置いた。
「お釣りは、いらないから……」
「待ってくれ! 俺は、お前を助けてやりたくて――」
凪は、横の椅子に置いていた学校指定のカバンを肩にかけ、ご馳走様でしたと、店の外へ出て行った。
カランカランと、店のドアについた鈴が鳴る。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます