第343話 重遠と咲莉菜
「
強硬派の中には、
気持ちはよく分かるが、現状でそれを実行すれば、日本中で物理的な爆発や消滅をするだけだ。
室矢家は、
そして、不正の一斉摘発によって、桜技流は死に
自分たちを部下にしたがる警察と戦争をせず、社の本庁も抑えるとなれば……。
正座で座っている
男子との恋愛も、可能だ。
高等部まで卒業するか、一般の高校になれば、普通の生活へ。
けれども、筆頭巫女は違う。
咲耶の
咲莉菜は正座をしながら、
お辞儀をしているような姿勢で、ただ身を震わせる。
結論は、もう出ている。
しかしながら、この年で口にするには、あまりに辛いのだ。
通っている高校で、意中の男子と会うたびに一喜一憂する年齢の少女に戻った咲莉菜。
その嗚咽だけが、しばらく流れた。
咲莉菜は、伏せていた顔を上げる。
「わたくしはー。桜技流の筆頭巫女として……。重遠の力になりますー」
両側を解放した日本家屋で、風が通り抜けた。
咲耶は、噛みしめるように
「承知しました。
同じく正座をしている少女は、端的に言葉を返す。
「
◇ ◇ ◇
東京にある、桜技流の拠点。
俺たちは、そこで天沢咲莉菜との会談に臨んでいた。
今の俺は『
大きな神宮の1つで、その本殿に招かれる。
咲莉菜は、咲耶の神意を伝える巫女だ。
したがって、本殿の奥にある短い階段を進んだ先の、小高い場所に座っている。
俺たちは、階段の下にある、畳を敷かれたスペースに座った。
「本日はご足労いただき、誠にありがとうございましたー」
上座にいる咲莉菜は丸腰だが、両脇に立っている局長警護係は完全武装。
背中に装具があって、そこに
他にも、
「久しく放置して、大変申し訳ない。本日は、
下座の俺が訊ねたら、十二
「
日本を害さない限り、好きに動け。という宣言だな。
こちらとしては、願ったり叶ったりだが……。
肩透かしを食らった気分の俺は、咲莉菜に質問する。
「その、ずっと会えなかったが――」
「わたくしは、桜技流の筆頭巫女です。そなたが咲耶さまに認められた
咲莉菜は笑顔だが、淡々と話した。
俺が言葉を失っていたら、彼女は続きを口にする。
「女好きのそなたは、納得しませんか? では、そなたも気に入った演舞巫女2人を進呈いたしましょう。
「
「い、一命に代えましても……」
下座の脇に控えていた、
状況を整理している俺に対して、咲莉菜は微笑んだ。
「彼女たちは、桜技流の演舞巫女。その中でも、わたくしの直属である局長警護係の第七席、第八席となりました。短期講習で、最低限の実力があることを確認しております。
「ハッ!」
美しい黒髪は肩よりも長く、紫色の目。
女子大生ぐらいの年齢の女が、背中の装具と御刀をつけたまま、正座している。
正座からの抜刀術は、一瞬の抜きつけ。
身に纏う雰囲気で、相当な手練れだと思われる。
「局長警護係の第四席を務めている、相良
咲莉菜が、説明を付け加える。
「北垣と錬大路は、そなたの専用ですー。
ここで、凪と澪が、自分の意見を言う。
「私が志願したことだから、室矢さまの好きにして」
「このために、訓練をしたの。他の女性と同じ待遇でなくてもいいから、室矢家に滞在させてください」
ここまで言われたら、選択の余地はないが――
「北垣さん、錬大路さんの御二人は、室矢家で受け入れる用意がございます。しかし、彼女たちが同性も恋愛対象にしていることは、どう考えれば良いのですか?」
意外にも、
上座の咲莉菜は、その質問に答える。
「当流の恋愛事情は、男子禁制の
「はい。室矢さまと、澪ちゃんだけ」
「私も、誓います」
凪と澪が返事をしたことで、咲莉菜は頷いた。
「破った場合には、桜技流が処分します」
「そこまで
正座の詩央里は、キビキビと答えた後で、俺に聞いてきた。
「室矢家に迎える」
「はい」
詩央里の返事まで聞いた咲莉菜は、
「北垣、錬大路は、桜技流の演舞巫女として、室矢家へ移るように! 名残惜しいですが、わたくしはお暇いたします。また、お会いしましょう」
その言葉によって、側仕えの女が御簾を下ろしていく。
咲莉菜の姿が見えなくなり、衣擦れの音から、立ち上がり、奥へ歩いていることが分かる。
それに伴い、局長警護係や召使いも去っていく。
咲莉菜も、割り切ったのか……。
余所余所しい彼女を思い出して、嘆息した。
正妻の詩央里がいなくても、立場の違いで結ばれず。
まさに、あの悲恋だ。
俺と咲莉菜は、敵対している流派の重要人物。
先ほどの会見も、洋館のバルコニーと地上のような構図だったし……。
「溜息を吐くと、幸せが逃げていくわよ?」
妙に明るい声のほうを見たら、第四席の相良万緒がいた。
彼女は、微妙な空気に構わず、その場をリードする。
「ここだと話しにくいから、北垣と錬大路の説明を兼ねて、そちらの自宅へお伺いしても?」
詩央里が首肯したことで、万緒は、いったん装備を置いて、着替えてくるから。と立ち去った。
「ひ、久しぶりだね……」
「どのように、お呼びしたら?」
凪と澪は、局長警護係の制服だ。
御刀は持っておらず、戸惑ったように俺の顔を見ている。
「俺のことは、重遠でいい。御前演舞の前日から、だいぶ時間が
沖縄に行ったぐらいで、もう数年前のことのようだ。
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