第334話 デブリーフィングと新たな事件の発生
俺は、自宅のリビングで報告を受けていた。
テレビを消音にした後で、話を続けさせる。
「こちらへ向かってきた高級車に、ご当主と奥方を狙っていた叔父貴が乗っていました。
彼女の仕事は、そこまで。
この時点で、環は汚れ仕事に手を染めて、室矢家の
紅茶を飲んだ早姫は、説明を続ける。
「後部座席で倒れていた幹部には、環が立ち去る直前に、魔法で気つけを実行。それによって、警察が現場へ到着する前に、彼は逃走。セーフハウスと思しきマンションまで、辿り着きました。女を配達する店のスタッフに成りすました私が室内に入って、そいつを始末。カレナの助けを借りた偽装工作の後で、同じく空間を渡って、帰還しました。逃がした理由は、時間と場所を広げて警察の捜査を
「ご苦労だった。この働きをもって、前のベル女との会談での無礼を許す。忠誠を尽くす限り、室矢家として守ることを約束しよう」
「ありがとうございます、ご当主さま」
「感謝申し上げます」
ソファに座っている早姫と環は、深々と頭を下げた。
対面に座っている俺は、カレナに尋ねる。
「現場の痕跡や、目撃者の有無は?」
「問題ないのじゃ」
物理的に痕跡を消せる義妹。
カレナの言葉を聞いた俺は、完全な行動であることを確信した。
次に、
「私たちは、1人で1台を担当。こちらも、ディリース
「ほとんど、動けない相手の始末だったけどな……」
その言葉で、
陰のある顔だが、思っていたよりは元気そうだ。
「最初はけっこう引きずるから、しばらく休め」
「すまん……」
軽く手を上げた勝悟は、自分の前にあるティーカップを空にした。
その横に座っている早姫が、すぐに世話を焼く。
周りで聞いている
報告が終わったことで、勝悟たちは自宅に帰った。
未遂とはいえ、大規模な襲撃だった。
前の廃ラブホの調査でナメられていて、数人の高校生であることも大きいが――
「このマンションは、もうダメだ。大至急、
「承知しました。すぐにでも……」
詩央里も、思い詰めた声音で応じた。
しょせんは賃貸マンション、と思われたから、これだけの事件になりかけた。
そして、将来的にカレナの予知をすり抜けない保証は、どこにもないのだ。
オーナーや管理会社が鍵を管理していて、合法的に入れる環境では、もう暮らせない。
今回も、用意周到に入り込まれての強襲や、
カレナに頼りすぎると、彼女が無力化された時に、足を
あまり権能を使いすぎたら、オウジェリシスのような存在が、この世界に大挙して押し寄せてくる恐れもあるようだし。
さて、どうせ引越しをするのなら、その前に原作の主人公との話し合いだ。
『なぜ、街中で銃撃戦をしたのか? は、未だ分かっておらず――』
ボリュームを戻した番組が不思議がる中で、俺はポツリと
「そりゃ、『室矢家の女子高生たちをヤク漬けの奴隷にして、俺の人脈で手つかずの美少女や美女を好きにしたうえで、四大流派の武力も欲しかった』とは、口が裂けても言えんわな……。プロがここまで人を動かした挙句に、この結果だし。元々、仲が良い連中とは思えん。内部抗争とされたほうが、まだ面目が立つか」
カレナの予知では、しばらくはその筋から距離を取られるらしいが。
油断は禁物だ。
俺は、詩央里のほうを見て、話しかける。
「こういった団体も、大変だな? 内部の権力争いが多いようで……」
肩を
「そうですね、若さま」
室矢家は、この件に何も関係ない。
あとは、警察が詰めてくれる。
ゆえに、表に出ることはない。
◇ ◇ ◇
「くそっ! 納得できないっすよ、兄貴!!」
手下から叫ばれた兄貴分、
「分かってる! このまんまじゃ、俺たちはお仕舞いだ……」
警察が大々的に動いており、今の組織には先がない。
しかも、室矢家は、千陣流の上位家。
団体同士の力関係もあるので、一概には言えないが、
「ウチの叔父貴と補佐は、本当に何やってんだよ……」
火景のチームは、今回の襲撃を知らなかった。
気がついたら、この有様だ。
表向きは内部抗争による銃撃戦だが、実態は上の組織にも伝わっている。
安易に泣きつけば、自分の尻ぐらい自分で拭け、と半殺しの後で自首させられるか、焦げ付いた不良債権の回収や鉄砲玉で使い捨て。
大きな事件として、警察も荒事に慣れている構成員を追跡中。
自宅や拠点に行けず、ATMで大金を引き出すことも、命取りだ。
金をせびっている取引先にも、顔を出せない。
表と裏のどちらも、ケジメをつけるために大騒ぎだ。
一刻も早く、日本から脱出しなければならない。
幸いにも、逃がし屋を知っているため、どうやって支払いをするのか? が問題だ。
どうせ海外に逃亡するのなら、既存の枠に縛られる必要もない。
料金と同じ価値がある現物を渡せば、それで済むのだ。
「しかし、都合よく――」
「兄貴、兄貴! 良さそうな女がいますぜ!」
車内にいた1人が騒いだので、火景はそちらを見た。
ハイレベルの女子高生2人が、大勢の女子中学生に囲まれている。
どうやら、彼女たちは親しいようで、楽しげに会話。
「ほー! なかなか、いいじゃねえか!?」
火景の絶賛に、子分たちが沸き立つ。
「あれ、
「俺、左の女で!」
「右の女はお高く留まっていて、ぶっ壊したくなるねえ!」
「兄貴、やりますか?」
最後の問いかけに、火景は考え込んだ。
「1人になった奴がいたら、すぐに掻っ攫え! そうすりゃ、他の奴らの連絡先も手に入る。ヤバそうなら、そいつだけで交渉してみるさ」
バン1台では、どうせ数人も誘拐できない。
それに、いきなり大勢が行方不明になったら、すぐに警察が動く。
火景の指示に、子分たちが
その後、1人の女子高生が、別の道を歩き出した。
とあるバンの横を通り過ぎる時に、ガラッと側面のドアが開き、中から多くの手が伸びてきて、抵抗する間もなく吸い込まれる。
側面ドアが閉じられるのと並行して、バンは路肩から車道に戻り、急いで自分たちのアジトへ向かう。
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