第316話 迫りくる原作の主人公と新たな死亡フラグ(後編)
問題は、原作の【
決して諦めない性格だから、
これまで全く情報を与えず、コミュニケーションも取らなかった。
詩央里が俺の婚約者で、
遅かれ早かれ、女を囲っている事実は、周りに広まる。
知らないところで暴走されるぐらいなら、その前に教えたほうがいい。
…………
よし。
航基には事実を明かすとして、その前提で、ガチガチに態勢を固めよう。
釘を刺したうえで、また暴走したら、退魔師として引導を渡す。
場合によっては、始末する。
「そろそろ、あいつと対決する頃だな……。詩央里! 航基が周囲をうろつくとか、不審なことはあるか?」
「えっと……。いえ、特には――」
「あの男なら、興信所に依頼して、このマンションと詩央里、マルグリットの素行調査をさせている」
詩央里の返事を
その方向を見たら、
リビングにいる全員の視線を集めた彼女は、ぽつぽつと、語り出す。
「私たちが、詩央里に近づく航基を遠ざけていたけど、プロに依頼する方向へスライドした。このマンションは色々な勢力が見張っているから、わざと泳がせている……。詩央里!
「えーと……。も、もう少し、待ってもらえますか?」
珍しく焦っている詩央里は、弥生に返した。
こくりと
「
詩央里が拒否している以上、ここまでにしておくか。
その時、マルグリットが弥生を指差しながら、叫ぶ。
「え? え? いきなり、少女が現れたんだけど……」
マルグリットを見た弥生は、気品のある、お辞儀をした。
「お初にお目にかかります。私は、
「ああ、
マルグリットが返事をしたら、弥生はこくりと頷いてから、スッと消えた。
「詩央里……。夕花梨について話があるのなら、早急にまとめろ! 現状では、手札を惜しんでいる余裕はないし。実妹の夕花梨とは、嫌でも関係を持つのだから……。それから、沖縄、
「はい、若さま。この話し合いが終わりましたら、すぐにでも……」
「カレナ。
頷いた彼女は、テーブルの上のポテチを食べる合間に、説明する。
「悠月家は、ドイツの魔法使いの家系だ。魔女狩りの被害に遭いかけた時、ユニオンに籠っていた私が助けた。その縁で顔が利くから、昔の盟約によって対物ライフルと、対戦艦ライフルの
詩央里は、首肯した。
「検討します。
「どっちみち、室矢家のために動いてくれる
カレナもこくりと頷き、紅茶を飲んだ後で、話を続ける。
「ユニオンに帰り、円卓の騎士団を動かした。ウィットブレッド公爵家の令嬢として、日本の防衛省、沖縄のキャンプ・ランバートへ手紙を届けさせたのじゃ。連中がまた迷惑をかけないためで、重遠が動く必要はない。それから、お主をアイに紹介したい。その件は詩央里と話したうえで、また報告する」
俺は考えをまとめながら、自分の意見を言う。
「どう足掻いても、高校生になったばかりの俺と詩央里では、貫禄が足りない。だから、社会的に立場がある御家を盾にすることで、時間を稼ぐ! 最低でも、高校を卒業するまでは……。大学生と社会人のどちらにしたって、もう遊べないだろう。開き直って、在学中はゆっくりするべきだ」
真剣な顔の詩央里は、質問する。
「若さまは、どの御家を頼る気ですか?」
「千陣流では、詩央里の関係で南乃家。しかし、
可愛らしく悩んだ詩央里も、同意する。
「ウチは妖刀を使うのが取り柄で、それ以外は自信がありませんからね……。もちろん、十家や、他流の上位家と比べての話ですが」
南乃家は、穢れの妖刀を使うことから、お寺との繋がりがある。
無念のあまりに変貌したわけで、必然的にそちらと密接な関係に。
お寺からの派生で、多方面にわたって食い込んでいるのだ。
用心棒の
決して、侮れる御家ではない。
他の上位家が、ご立派な経営者とかで、さらに凄いというだけ……。
「それ以外では、夕花梨を頼る。あいつとの関係にもよるが、その派閥のいくつかに協力してもらえれば、理想的だ。こちらは、資金と政治力に期待する。室矢家の手足になってもらうことも……。それから、弓岐家は従来通りにスポンサー、当主会の票として使う」
じっと俺の顔を見ている詩央里は、やはり同意する。
「まあ、そんなところでしょう……。他流については?」
「桜技流に対しては、『
ここまでは、異議なし。
「さて、真牙流だが……。カレナが管理する前提で、悠月家と親しい付き合いをする。高校を卒業した後の出世払いになってしまうものの、これで大部分の問題が解決するはずだ。そういうわけで、明夜音も、俺のハーレム入りをさせたい。さすがに、それもなしでは、無茶苦茶すぎるから……。他の上級幹部(プロヴェータ)については、悠月家に取りまとめを頼む」
考え込んでいた詩央里は、決断を下す。
「了解しました。普通に会うことは、どうぞお好きに……。初夜については、準備が必要ですよ?」
俺が頷いたら、詩央里は、まだ真剣な表情。
「若さま……」
その剣幕に押されて、無言で、詩央里を見つめる。
彼女は、意を決したように、声を絞り出す。
「夕花梨から何を言われても、若さまは、私を一番にしてくれますよね?」
「それは、もちろん……。急に、どうした?」
だが、それに対する返事はない。
沈黙が訪れて、詩央里の発言を待つ。
「その言葉を信じます。次にウチの本拠地へ出向いたら、夕花梨と話をしましょう……」
言い切った詩央里は、
思い詰めた様子が気になったものの、すぐに答えてくれる雰囲気ではない。
仕方なく、残っている用件を片付ける。
「詩央里! 咲莉菜に、連絡を取ってくれ。『
「承知いたしました」
「そういえば、
「奴については、私から報告があるのじゃ! 室矢家として、どう利用するのか? が悩みどころだ。急ぎではないから、また折を見て、話し合おう」
室矢カレナのほうを向き、首肯した。
俺は、マルグリットの顔を見た。
彼女は後ろめたい表情で、目を逸らす。
「お帰り、メグ!
それを聞いたマルグリットは、ようやく、俺の顔を見た。
視線が絡み合う。
春の到来を喜ぶ花のような笑顔を浮かべた彼女は、心底嬉しそうに、返す。
「うん! これからもよろしくね、重遠!」
カレナは自分のスマホで、どこかへ連絡している。
おそらく、悠月五夜だ。
その証拠に、明夜音から、メッセージが届いた。
「重遠。ゲームしよう、ゲーム!」
パタパタと動き、リビングの大型テレビで準備をする、メグ。
後ろを見たら、詩央里はダイニングテーブルに座って、自分の手帳を見ながらのスマホ弄り。
その様子を見ていたのか、マルグリットは、俺の肩に頭をのせた。
「変に気を回しても、仕方ないわよ? 私が言うなって話だけど、休める時には休んでおかないと」
「ま、それもそうだな……」
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