第315話 迫りくる原作の主人公と新たな死亡フラグ(前編)
「
俺が室矢カレナを見たら、無言で、首を縦に振った。
真牙流の
他流との戦端を開いたこと、何よりも、国家の敵として……。
そうなったら、
負けることはないが、大きな心の傷を負う。
原作の
千陣流、真牙流のみならず、
非能力者たちを敵に回せば、農作物、インフラの構築といった、社会形成に必要なものを全て失うだろう。
ユニオンや
そこで、カレナの信奉者たちと自治区を作り、周辺諸国と渡り合うしかない。
要するに、今以上の面倒臭い状態に置かれるわけだ。
俺の内心を見抜いたのか、五夜が諭す。
「高校生になったばかりの室矢さんは、大人げない大人のやり口が分からないでしょう。いざとなれば、なりふり構わずの妨害、潰し合いもあるのです。国がどうなろうと、自分たちの権益を優先することもありがちです。そのことを頭に入れておいてくださいませ……。その点、私の悠月家であれば、普段から御力になれます。財閥の1つゆえ、高校の卒業後に経営をするなど、色々な選択肢を用意させていただきます。室矢家の秩序を乱すつもりはございませんので、
◇ ◇ ◇
真牙流の幹部たちが帰った後で、俺たちは、長く息を吐いた。
「これで、真牙流ともコンタクトを持ったわけだ。いよいよ、後戻りできなくなったが……。ぶっちゃけ、よくメグを取り戻せたよなー」
俺の
「ええ……。メグの力を見せて、高校卒業までの保留……。室矢家が真牙流の全賢者集会(サピエン・キュリア)を動かしたので、大勝利と言えます」
咲良マルグリットは、室矢家へ自分の価値を示せば、それで良かった。
だが、俺は違う。
他流の
バカ正直に防衛任務へ参加しても、まず握り潰される。
真牙流は、戦略級のマギクスであるメグを欲しがるからだ。
ポイントZの中隊長と副隊長は良い人だったが、圧力や交換条件で転ばない保証はない。
正しく報告してくれても、途中で真牙流の幹部に修正されたら、それまでだ。
他流の俺には、自分の戦果がどう記されているのか? も分からない。
間違いなく、そちらの方向で、反論された。
少しは貢献したから、お情けで敢闘賞はくれてやろう。が、せいぜいだ。
特賞の咲良マルグリットには、
ここで、問題となる点は、2つ。
俺が、他流の人間であること。
マルグリットと同じ以上の価値があるとは、思えないこと。
前者については、
けれど、後者が問題だ。
第二の式神を使わず、どうやって……。
それは、カレナが解決した。
悠月五夜から、試作品である『対戦艦ライフル』を貸してもらったのだ。
大容量のマギクスの火力をそのまま活かせるデバイス。
平たく言えば、戦艦の主砲を外して、歩兵が撃つようなもの。
そこに、マルグリットと、室矢カレナの力を合わせたのだ。
マルグリットが接続している、異次元のエネルギー。
そして、彼女の魔法技術。
室矢カレナの精密な制御。
さらに、枠を作ったうえでの、重力子の照射。
その結果として、ミーゴの拠点である山を消した。
陸上防衛軍のヘリ、そして航空防衛軍の早期警戒機も飛んでいたから、俺がやったことは明白だ。
何よりも、他のマギクスには、絶対にできない芸当。
防衛任務における、帰還命令の無視?
これは真牙流の話であって、厳密な意味で、陸防は関わっていない。
所詮は、連中がどう判断するか? というだけ。
自分たちの土俵で、前人未到の魔法を行使したんだ。
命令違反を理由にどうこうするよりも、自分たちに協力させたほうが賢明。
自分たちが発動体を管理していれば、俺が脅しにかかる危険はゼロ。
籠絡するために、同年代の女を寄越してくる。とは思っていたが、予想していたよりも、大物の娘が出てきたな……。
ま、存在しないエネルギーで、超常的な制御をやったわけで。
いくら考えても、“不可能ということが分かった” が、精一杯。
重力砲なんて、もう1つの宇宙を作ります、と同じ話だろ?
マルグリットを真牙流から引き離すことは、彼らとの全面対決を意味する。
それは、望ましくない。
味方になってくれた面々との関係をしっかりと繋ぎ、室矢家にいることを認めさせるべきだ。
今後は、室矢家が自分の支援者をどう扱うのか? も問われるな……。
「あ、若さま! 梁さんから、『
「……相手の都合で、調整してくれ。こちらが希望を出したら、たぶんキリがない」
詩央里は、分かりました、と返事。
いや、どんだけ案件が溜まっているんだよ?
ああ、詩央里に負担がかかりすぎている。
彼女を裏方に回しても、手が足りない。
もう1人ぐらい、事務方がいたらなあ……。
「
「え? え、ええ……。そ、そそ、そうですね、若さま……」
話しかけたら、詩央里は、かなり動揺した。
声が震えっぱなしで、目も泳いでいる。
かなり疲れているようだ。
うむ。
夕花梨に頼んで、誰かをもらおう。
その時、マルグリットが、申し訳なさそうに話す。
「本当に、ごめん! 私のせいで……」
詩央里は疲れた表情で、マルグリットを見た。
「それは、もういいですから……。今後のことを考えましょう! メグ、前に『通信制への移行で話したいことがある』と言っていませんでしたか?」
ソファに身を委ねたマルグリットは、自分の記憶を
「あー、うん……。そうそう! 私、
どうやら、原作の主人公である
俺の婚約者であるメグは、浮気を知らされ、突っぱねた。
その関係で、もう紫苑学園には通いたくない、という話。
俺の婚約者は、詩央里だ。
ところが、紫苑学園では、ベル女との交流会で、マルグリットを連れ帰った扱い。
グループ交際で、
室矢家は、もう通信制に移った。
だから、クラスメイトや、航基からの評価を気にする必要はないのだが――
「詩央里。今の紫苑学園で、気になることは?」
「私の親友である
こちらでも、死亡フラグか。
もう原作が完全崩壊しているうえに、本来は死んでいるキャラクターだ。
何が起きても、おかしくない。
「分かった。衿香については、必要があれば、俺に知らせろ」
俺の返事に、詩央里は
マルグリットは初耳らしく、かなり驚いたものの、口を挟まない。
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