第288話 陸上防衛軍の新兵への教育隊は2,400ヶ月ー②
傍で立っている
「少佐
首を横に振ったカレナは、針替
「許さん。もはや、お主1人の首だけで済む問題ではないのじゃ! せめて、
軍は、中隊で動くのが基本。
同じ駐屯地の同じ兵科ですら、異なる中隊では細かいルールや、扱っている装具が違うのだ。
カレナの発言は、もっとも。
答えない大尉に、上官であるカレナは言葉を続ける。
「民兵と正規軍の違いを知っているだろう? それは規律を守ることであり、服務の徹底だ! ゆえに、国民から支持されるし、戦争でも捕虜としての権利を持つ。それを『
大尉は説明を続けられない、と判断したカレナが、一歩だけ前に出た。
ゆっくりと見回しながら、不満を口にする連中に引導を渡す。
「お主ら、まだ理解できないか?
それまで整然としていた魔法技術特務隊の面々に、敵意が生まれた。
全く気にせず、カレナは淡々と述べる。
「
「私は、嫌よ! だいたい、自分で面と向かって言えない腰抜けのために――」
ブシュウウウウゥッ
大声で文句を言った女は、頭を失った。
勢いよく噴水になった赤い液体が、周囲の人々をデコレーションした。
「は?」
「嘘……」
「え? え?」
「な、何だよ……」
集まった男女は、いきなりの洗礼に戸惑う。
そこに、訓練教官であるカレナの大声が響く。
「千陣流は、式神を使う流派! そして、私は重遠の式神だ!! お主ら、また千陣流に戦争をふっかけたな? よろしい。なら、正しく理解できるまで、私が教育しよう! いちいち階級章を剥がして、縫い直す手間も不要だ。莫大な費用と時間をかけた防衛官を無意味に潰すような、非合理的なこともせん。隊旗にふさわしくないと、原隊に突っ返すこともせん。使えないなら、使えるようにするまでだ……。喜べ! 貴様らが一人前の防衛官になるまで、面倒を見てやる!! ついでに、上官への口の利き方もな? 本来なら、軍刑務所で残りの人生を過ごすか、銃殺のところを再訓練で勘弁するのだ。せいぜい、感謝しろ」
とち狂った男が魔法の空気弾で攻撃して、今度はカレナの頭部が吹き飛んだ。
前半分が
さっきまでの絶世の美貌は、まさに見る影もない。
ハンドガン型の
「お、俺……」
言葉を失った男に、周囲がとっさに慰める。
「いや、よくやった!」
「そうよ!
「死んで、当然だ!」
いきなり所属先から放り出されたことの宣言で、誰もが自暴自棄になっていた。
その後にどうする? という指摘すらなく、異常な思考のままで自分を肯定する。
だが、ハンドガンを持っていた男の頭部は、ライフル弾が直撃したようにパァンと破裂した。
頭蓋骨の破片と中身が、周りに降りかかる。
「度胸があるのじゃ……。さて、いつまで持つやら」
顔が潰れて死んだはずのカレナは、元の状態で立ち、コツコツと歩いてくる。
思わず周囲の人間が後ずさりする中、しゃがんで、倒れた男の手からハンドガンを奪った。
血だらけのハンドガンを弄ったものの、やがて興味を失くし、床に放り投げる。
ガシャンと、鈍い音が響いた。
くるりと回れ右をしたカレナは、元の位置へ戻る途中で、数人からの組み付きを受ける。
その際には、踏み込みながらの打撃も。
身体強化による、ハイスピード。
常人では、打たれた後に気づくしかない。
未来予知ができるカレナは、最も近い相手の正拳突きに合わせて、自身の外側に
同時に、その伸ばされた右腕へ飛びつき、全身で
柔道よりも、関節技を素早く決める、シベリア共同体の軍隊格闘術とよく似ている動きだ。
カレナは、他が反応するよりも早く、激痛で
関節が外れていると、下手な骨折よりも痛い。
興奮している時は、ダメージを自覚せずに動く事例もあるが、関節では無理。
自分の肩を押さえて座り込んだ男を壁にするように、カレナは着地。
足の裏を滑らせつつ、次の相手の横を通り抜けながら、自分の足と隣り合った外足をスパッと払う。
それによってバランスを崩した女が、後ろを巻き込んで、仰向けに倒れた。
別の相手に、スライディングのような姿勢で回り込みつつ、片足にまとわりつき、転ばせる。
同時に、両手両足で相手の足を挟み込み、全身の動きで一気に捻った。
骨が折れたかどうか? を気にせず、その流れのままに転がり、跳ねながらも、突っかかってきた奴の勢いを利用して投げる。
小柄なカレナは、タックルからの寝技に向いていない。
しかし、一瞬で相手を転ばせ、ひたすらに急所を狙うのであれば、まだ戦える。
カレナは、まっすぐ立つ。
常に呼吸し続け、リラックスした状態へ。
完璧に周囲の動きを予測しての立ち回りは、その長い黒髪をつかむことも許さない。
今度は、全身を柔らかくして、腕を横へ投げ捨てるような打撃。
一見すると、子供が駄々をこねているようだが、ヒットした男はパアァンッと派手な音で吹っ飛ぶ。
ストレートではなく、遠心力を活かした、独特な動きだ。
その場でジャンプしながらの、両手の振り回し。
前後にいる2人に、その
ハンドガンに対しては、背中を見せながら床に倒れ込みつつ、両足で突き上げての無力化も。
蹴りは、ローの高さ。
相手の蹴り、踏み込みを止めつつ、体勢を崩す。
さらに、最も近い手首をつかみ、相手の呼吸に合わせての投げで、一回転させる。
全く考慮しない捻りのため、その手首は
日本を代表する特殊部隊、それも異能者の精鋭たちを手玉に取ったカレナは、再び連中の前に立った。
多数を相手にする格闘技は、軍と一部の流派で見られる。
もっとも、それは状況判断を鍛えるため、攻撃が終わった後の隙を小さくするために過ぎない。
理想は、一対一をキープしつつも、瞬間的に相手を崩し、すぐ次の相手と向かい合えばいい。
だが、それで済めば、苦労はないのだ。
少しでも相手に後れを取るか、予想外か、相手が速ければ、連鎖的に攻撃されて終わる。
いったん逃げて、態勢を整えるべきだ。
距離があれば、そのまま一直線に遠くへ走れ。
銃を持っている相手には、
近距離の相手が銃を持っていたら、格闘技も有効。
上手くいけば、そいつを盾にしつつ、奪った銃で他の奴らを撃てる。
ともあれ、人数の差は、それだけ驚異なのだ。
たった今、魔特隊が遊ばれたのは、常識を超える出来事の連続でパニックになっていたから。
彼らが本調子であれば、未来予知を駆使するカレナでも、せいぜい1人をやれるかどうか。
さっきでも、自分のことを考えず、一斉に彼女へ飛びかかっていたら、取り囲んでいた配置と人数を活かせた。
カレナが、いつまでも彼らと同じ土俵に付き合えば、の話だが……。
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