第九章 日本の守護者を目指す室矢家
第283話 ブリテン諸島の黒真珠 in 沖縄【カレナside】
沖縄で、本島から離れた海域。
高級クルーザーのサロンで、豪華なソファに座っている少女たち。
「では、姉妹の会議を始めるのじゃ!」
カレナは、静かに話す。
「そう怯えるな、スティア。最初に
眉を上げたアイは、すぐに返す。
「それは、どういう意味で?」
カレナは、アイを見た。
「単なる、意思表示だ。私の名前と公爵家の封蝋で手紙を書き、円卓の騎士に持たせれば、無視できまい? ……そんな顔をするな。“ブリテン諸島の黒真珠は室矢家についた” と表明するだけ。送る相手は、日本の防衛省、沖縄のキャンプ・ランバートの2つ。どちらも、重遠と接点があったからな。今回の騒動で味を占められたら、困る」
「カレナお姉様のわりには、大人しい対応ね。それなら、相場も乱高下しないか……。ところで、重遠お兄さんの紹介は、いつ?」
「重遠たちが東京へ戻ったら、具体的に決めるのじゃ」
カレナの返事に、アイは納得した。
そこで、スティアが口を開く。
「えっと、カレナ……。私、基地の外に出たいと思っているのだけど」
「重遠のところは、無理だぞ? 詩央里の許可がなければ、他の女を入れられない」
その返事を聞いたスティアは、唸り出した。
溜息を吐いたアイが、それをフォローする。
「スティアは、外で生活したいのよ……。とりあえず、沖縄のキャンプ・ランバートへの説明と許可の取得、それに生活する場所の準備などは、私がやっておくわ。別に、スティアが日常生活で会うのは、問題ないんでしょ?」
「だと思うが……。そこら辺は、全て詩央里が判断する。あと、彼女に手を出しても、処刑するからな?」
落ち着きかけていたスティアは、そのカレナの台詞でまた震え始める。
◇ ◇ ◇
コズモ・パワー・シャピロは、ホテルの専用ラウンジに足繁く通う。
しかし、
「ちくしょう。あの時に、後ろをつけておけば良かった……」
せめて部屋の番号さえ分かれば、と思ったが、後の祭りだ。
あれだけの美貌とオッパイ。
逃すわけにはいかない。
そう思うが、外国のバカンス。
子供の立場では自由に動けず、しぶしぶ家族と一緒に過ごしている。
「親父も、連絡先を聞いていないし……」
その時、目の前に1人の少女がいることに気づいた。
長い黒髪で、暗めの青い瞳。
日本人ではなく、低い背丈だ。
明らかに自分のほうを見ていて、何か言いたげ。
好みのタイプとは違うけど、悪くない。
こいつを口説き落とせるのなら、それでもいいか。
考えをまとめたコズモは、笑顔を作って、話しかける。
「俺に何か――」
「お主は、もう帰れ!」
にっこり微笑んだ少女の言葉を聞いた瞬間、コズモは落下していく。
バシャーンッ
幸いにも、怪我をする高さではなく、水音の直後に、地面へ激突した。
「な、何だ……。何だよっ!?」
いきなりの展開に、そう叫ぶのが精一杯。
真っ暗だが、少しずつ暗闇に慣れていく。
ぬるま湯が張られた、大きな浴槽。
周囲を見たら、壁際に体を洗うスペースがいくつもある。
「は? 大浴場か? ……おい、どうして裸なんだ!?」
ちゃんと服を着ていたはずなのに、全裸だ。
まるで、今から風呂に入るような感じ。
その時、ビービーと警報音が鳴り響き、ドカドカと足音が響く。
ほどなく、ガラッと大きな扉が開けられ、明るい脱衣所から警備員のような人物が入ってきた。
自分を半包囲するような配置で、拳銃のようなものを向けている。
黒い銃身で、正面の黄色い部分が見える。
前方を照らすためのライトによって、コズモの視界は一時的に潰された。
「動くなっ!」
コズモは、すぐに言い訳をする。
「待ってくれ! 俺は別に――」
「撃て!」
コズモが慌てて立ち上がったら、ザバアッとお湯が動いた。
その瞬間に、銃の正面にある黄色の扉が開き、中から釣り糸のような線につながった2本の電極が発射される。
痺れる痛みが、全身を走り抜けた。
絶叫するも、体を動かせないまま、ゆっくりと崩れ落ちていく。
テーザー銃で撃たれた後に、コズモは医務室のような場所で目覚めた。
備え付けのベッドから身を起こしたら、医者が診察した後に、弁護士と名乗る男に付き添われて尋問へ。
固定されたテーブルと、同じく動かせない椅子だけの空間。
ただし、部屋の中央はアクリル板で仕切られていて、どちらかといえば面会室だ。
片側の椅子に座ったコズモは、反対側の椅子に座っている女を怒鳴りつけた。
「おいっ! 冗談じゃないぞ!? お前ら、訴えてやるからな?」
警官らしき制服を着た女は、謝罪しない。
コズモの顔を見て、淡々と説明を始める。
「あなたは、とある全寮制の女子校に不法侵入をしました。大浴場に全裸で入っているのを発見して、拘束した次第です。そちらの弁護士は学校で雇っていますが、あなたの権利を守るための立会人となっております」
コズモが後ろを振り返ったら、部屋の隅に控えている男が会釈した。
どうやら、女の説明は本当だ、という意思表示らしい。
女のほうへ向き直った彼は、現実を突きつけられる。
「あなたが侵入した方法と、その目的を教えてください。
イラついたコズモは、バンッと机を叩いて、叫ぶ。
「ここは、どこなんだよ!? それに、お前は誰だ?」
「お答えできません」
顔色一つ変えずに、女が答えた。
そして、強い口調で言う。
「シャピロさん、あなたには黙秘権があります。しかしながら、その場合には現地の警察へ突き出すため、誰にとっても不幸な話です。正直に――」
「脅迫と見なされる言い方は、看過できません」
弁護士から指摘され、アクリル板の向こうにいる女は片手で、了解の意を示した。
改めて、コズモに問いかける。
「正しく判断するために、あなたの説明が必要です。どうか、ご協力をお願いします」
このままでは、自分の扱いが悪くなる。
そう理解したコズモは、ようやく話し出す。
「俺は、日本の沖縄でリゾートホテルにいたんだよ。それで、長い黒髪、青い瞳の少女に出会って、気づいたら浴槽に落ちていた」
困惑した表情の女は、聞き返す。
「沖縄ですか? ……はい。別の場所に落ちていたパスポートによれば、確かにそうですね。明らかにあなたの所有物と分かるものは、後ほど弁護士を通して返却いたします。その少女について、何かご存知のことは?」
ここで、コズモが悩み出す。
なぜなら、彼は日本語をあまり知らず、その一方でカレナは日本語で話していたからだ。
必然的に、断片的な情報を伝える。
「えっと……。確か、カエレと言っていたな……」
後ろの
モニターの画像がどんどん変わっていき、たまに停止する。
操作している人間がタンッと押したら、再び検索を開始。
それを繰り返した後で、尋問中の女を呼んだ。
2人で、こそこそと話し合う。
コズモと話していた女が椅子に座り直し、プリントアウトされた紙を見せる。
「この少女ですか?」
「そうだ! こいつだよ、こいつ!! 誰だよ!?」
ガタッと立ち上がったコズモは、部屋の中央を区切るアクリル板を壊さんばかりに、両手をバンッと叩きつけた。
弁護士は、彼の立場が悪くなるのを防ぐため、急いで止めた。
だが、反対側にいる女は気にせず、あー彼女ですか、とぼやく。
やがて、顔を上げた女は、疲れた表情で説明する。
「まず、質問にお答えします。彼女は、カレナ・デュ・ウィットブレッドです。『ブリテン諸島の黒真珠』とも呼ばれていて、かなりの有名人と言えます。今の情報で、あなたが彼女の逆鱗に触れた可能性が出てきました。何か、心当たりは?」
ようやく落ち着いたコズモは、椅子に座った。
「知らねえよ! そいつとは、初めて会ったんだ。冗談じゃねえ。絶対に、訴えてやる……」
コズモの視点では、何もしていないのに、いきなり知らない場所にワープさせられた。
実際には、
ともあれ、2人の女は、彼と弁護士を別の部屋へ移動させた。
隅でデータを照合していた女が、尋問をしていた女に確認する。
「隊長、どうします?」
「黒真珠が関係しているのなら、とっとと追い出しましょう。下手をすれば、この寄宿学校まで壊滅します。『シャピロさんにウチのことを一切教えない代わりに、こちらも水に流す』。弁護士に、そう伝えてください」
いつぞやは、深海を移動していた潜水艦が、海中のカレナにぶつかった。
彼女は怒り狂い、そいつを追いかけて、ひたすらにゴンゴンゴンと叩き続ける。
潜水艦は全速で逃げながら、エネルギーシールドで防御した。
だが、それを壊して、さらに殴る。
パニックになり、緊急浮上をかけるも、彼女は下からゴンゴンと叩く。
その行為は、潜水艦が周囲をチェックせずに浮上するまで、延々と続いたのだ。
潜望鏡で、洋上の確認をさせてください。
コズモに覚えがなくても、カレナに目をつけられた人間は危険だ。
その警備を務めている女たちは、揃って溜息を吐いた。
ロンドンにある国際空港。
そこに降り立ったコズモは、付き添いの弁護士に尋ねる。
「なあ、そのカレナって奴を訴えたいんだけど?」
「私はすでに顧問弁護士を務めておりまして、別件を扱う余裕がありません。ご期待に添えず、残念に思います」
沖縄から密出国をしたに等しい状況だったが、弁護士がカレナの名前を出したことで、他に類を見ないスピードで手続きを完了。
まるで、頼むから巻き込むな、と言わんばかりだ。
だが、疑われる状況であることに、変わりはない。
彼1人では、REUの寄宿学校から母国まで辿りつけなかっただろう。
仕事を終えた弁護士は、念のために連絡先の名刺を渡した後で、そのまま帰りの飛行機に乗った。
コズモはロンドンの自宅に帰り、両親の帰国を待つ。
せっかくのバカンスが台無しになったうえに、金髪の美少女との接点がなくなったのだ。
少しでも取り返したい一心で、彼は動く。
どの法律事務所に相談しても、ウチでは扱えない、との返事だけ。
次に、沖縄で会った金髪少女の調査を兼ねて、探偵事務所に持ち込んでみた。
ところが、カレナの名前を出した瞬間に、世界的な大手まで断ってきた。
ネットで、カレナ・デュ・ウィットブレッドを検索したら、“ブリテン諸島の黒真珠” “王家との繋がり” “不老不死” “希代の魔術師” と色々な結果に。
顔も見えない連中が言うには――
「永遠の美貌を持つ少女……。魔術師というのは、俺をワープさせたことで分かるけど……」
残念ながら、沖縄で会った金髪少女の名前は不明。
カレナと入力したら、“気分屋” “関わるな” “殴られたら殴り返す性格” “究極の引き籠もり” と並ぶ。
「ふーん。で、ウィットブレッド家は……。げ、公爵家か! この線で接触するのは、面倒臭いな」
いくら、表面上は平等でも、やっぱり貴族と平民は違う。
ユニオンの高位貴族には、ラウンズという、異能者の騎士たちが関係している。
頭が固い彼らにすれば、変に嗅ぎ回っているだけで粛清の対象だろう。
結局、コズモが分かったことは、自分にはどうしようもないことだけ。
帰ってきた両親には叱られなかったものの、散々な結果になってしまった。
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