第251話 宿泊中のリゾートホテルにいる新しい顔ぶれ

 キャンプ・ランバートの一般車両に乗せられ、俺と咲良さくらマルグリットは、宿泊中のファン・グランデ・リゾートホテルに帰ってきた。


 ホテルの中は煌々こうこうと灯りがついていて、外もぼんやりと照らす。


 スイートルームに戻って、リビングのソファに座ることで、ようやく人心地。

 USFAユーエスエフエーの基地で冷房があったものの、冷や汗が出る環境だったからな。


「あー、疲れた! 一時は、どうなることかと思ったぞ……。そちらは大丈夫だったか、メグ?」


 同じように草臥くたびれたマルグリットが、俺の横でグテーッと、背もたれに身を預けた。


「うん……。いや、まいったわね! ちょっとクルージングをしただけで、映画みたいな展開……。さすがの私も、こうなるとは思わなかった。まさか、USユーエスの基地内で魔法を使って暴れるわけにもいかないし。ハッキリした所属がないと、まな板の上のコイだわ! こういう時には、防衛軍や防衛省、警察の権威が恋しくなる」


「そうだな……。日本の中とはいえ、外国の軍基地だと、うかつにしゃべれない。『千陣せんじん流の上位の当主』と言えば、みすみす相手に情報を渡すだけになる」


 俺はソファから立ち上がり、バーカウンターの奥にあるキッチンで冷たい飲み物を用意する。

 ワインクーラーに氷を入れまくって、ソフトドリンクを突っ込み、グラスも2つ。


 マルグリットの前にあるテーブルに、彼女のぶんも置き、本人に好みを確認してから注ぐ。


「ありがと! ……ふー、生き返る」


 ソファに座り直した俺は、マルグリットに質問する。


「なあ、メグ……。今後の方針を決めておこう! 陸上防衛軍に続いて、USFAからもマークされたわけだ。すぐに東京へ帰れば、連中もこれ以上のちょっかいを出してこない」


 俺の顔を見た彼女は、ぽつりと尋ねる。


「自宅に戻ったら、詩央里しおりに私のターンは終わりと判断されそう。……別の場所で改めて休暇を楽しむことは、無理? こんな気持ちで重遠しげとおとの蜜月がいきなり終わるのは、納得できない! 私だって、秋からベル女の警察学校のカリキュラムがあるし、他にも訓練や勉強が待っている。次に、これだけ時間がとれるのは、いつになるやら」


 少し考えたが、今の主要な観光地は予約で埋まっている。

 もう泊まっているから、残りをキャンセルしても返金されず。

 スポンサーの弓岐ゆぎ家も、これでまた豪遊を始めたら、支払い拒否だろう。

 安いビジネスホテルに泊まる貧乏旅行なら、話は別だが。


 南国のリゾートホテルで一番高い部屋と比べたら、景色にせよ、料理にせよ、ガッカリする要因のみ。


 マルグリットの青い瞳を見た俺は、結論を出す。


「今でも空いている安ホテルで、節約した旅行なら――」

「それなら、ここがいい! せっかく南国スイートに泊まっているのに、あんな連中のせいでバカンスを潰すのは、絶対に嫌よ!? 堂々としましょう!」


 タンッと勢いよくグラスを置いたマルグリットに、謝る。


「場所が悪かった……。すまない、メグ。知識としてあったが、ここまで面倒に巻き込まれるとは思わなかったんだ。真夏なら海がいい、と考えて、沖縄にしたせいで……」


「重遠だけの責任じゃないわ! とにかく、線引きをしっかり行いましょう!! 差し当たっては、あのグレン達への態度ね?」


 腕を組んだ俺は、自分の考えを言う。


「ひとまず、今日のディナーはご一緒しよう。それで、相手との距離感をはかって、最終的に決める……。どうだ?」


「それで、いいんじゃない? 私も、あのスティアって子が気になるし」




「美味しい!」


 ニコニコしているスティアが、リゾートホテルの炭火焼きの店で、焼けた肉を口に放り込んだ。

 さっきから、この台詞しか言っていない。


 彼女の隣に座っているミーリアム・デ・クライブリンクは、甲斐甲斐しく世話を焼いている。


 この店の外は海中だから、手軽に水族館の気分を味わえる。

 琉球の雰囲気を出したインテリアと間取りで、炭火にぴったりの食材がどんどん出された。


 海鮮と肉の両方があるため、バランスの良い食事。

 むろん、沖縄の郷土料理も。

 お酒を飲めないのが、残念だ。


「ちゃんと、ミリーの言うことを聞くのよ?」


 反対側に座っている深堀ふかほりアイが言うと、スティアは素直にうなずいた。


 ちなみに、スティアは俺のことが嫌いのようで、全く見ようとしない。


 俺の右にはマルグリットが座っていて、物珍しそうにスティアの様子を見ては、自分も食べている。

 スティアは、彼女にも懐いているようだ。


 俺の左側には、グレン・スティラーが座っている。


「いきなり外出許可が出るとは、思いませんでした。しかも、スティアと一緒に……。室矢むろやくん、咲良さん、深堀さん! 今日はお邪魔して、申し訳ありません。付きまとう気はないので、以後はどうぞ、お気遣いなく……。一応、SNSの連絡先だけ、交換しましょう。それから、この店の支払いは、私とミリーに任せてください」


 グレンがぼやいたように、俺たちと同行することを条件に、外出許可が出された。

 USFAの軍人である、グレン、ミーリアム、スティアの3人だ。

 ……最後のペッタン娘も、軍人でいいんだよな?


 どうやら、外泊許可もあるようで、このホテルの比較的安い部屋にチェックインした。


 理由はよく分からないが、スティアの息抜きとして、遊んで欲しいのだとか。

 都合が良ければ、という話で。


 これは建前のため、本当に張り付くことはないようだ。


 俺とマルグリットが浮かない顔をしていたら、アイが話し出す。


 話があるらしく、彼女も同席したのだ。

 クルージングで一緒だった椙森すぎもりデュ・フェリシアたちは、別のレストラン。


「スティアたちの外出許可は、私が司令官のジェーガー中将ちゅうじょうに話したの。いざとなったら私が面倒を見るから、安心して……。大人しくできるわね? 怒っても、衝動的に地球を壊しちゃダメよ? 『代わりを作る』という理屈は、通らないから! 大気圏内と宇宙は勝手が違うことも、忘れないで」


 聞かれたスティアは、ええ! と勢いよく答えた。

 焼きたての料理を楽しんでいるようで、ご満悦だ。


「今は、カレナお姉さまが日本にいるから。くれぐれも、注意するように!」


 アイの言葉で、スティアの手がピタッと停止。


「え? ずっと引き籠もっていたのに、ユニオンから出てきたの!? ……カレナの機嫌、やっぱり悪い?」

「すこぶる、いいわよ? そこの重遠しげとおお兄さんに、何かしなければね」


 その返事に、スティアはそーっと俺のほうを見た。


「な、仲良くしましょ~。ほら、この肉、焼けているわよ?」


 ぎこちない笑顔の彼女は、びてきた。

 トングで俺の皿にサーブし始めて、卑屈になる。


 焼けた食材でいっぱいの皿を見ながら、はしをつける。


 いきなり愛想が良くなったスティアに対し、俺は微妙な顔に。

 思わず、2人に尋ねる。


「カレナは、そんなに怖いのか?」


「私は、これほど上機嫌なカレナお姉さまを久しぶりに見たわ」

「こっちは、軍の基地にいたけど。カレナはいつも不機嫌、という印象だけよ! あんまり、近づきたくない」


 真顔になったアイと、同じくスティアが、順番に答えた。


 思わず、突っ込む。


「機嫌が悪いカレナって、あまり想像できないのだが?」


「私はカレナお姉様の機嫌を損ねたせいで、水深1万mぐらいの海底に上半身から突き刺さった…。あの時は、地上へ戻るのに難儀したわ」

「そのせいで、しばらくアイを見なかった。今のカレナに会うのが、怖い」


 あいつ、何をやっていたんだ……。

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