第235話 桜技流の背信者たちの始末と俺たちの未来ー③

 天沢あまさわ咲莉菜さりなは、まだまだ語る。


 罪人の女たちはけがれているため、桜技おうぎ流の男たちに相手をさせるのではなく、怪異に始末させる方向で処理した。


 せっかく一斉摘発をしたのに、不正をした女にほだされたり、レクチャーされたりしたら、台無しだ。

 それに、どうせ処刑する女だからと奴隷の扱いでは、やっていること同じだよね? になってしまう。

 罪人の男に良い思いをさせる必要もないし。


 不正の摘発の功労者には、きちんとした異性の紹介や、他にも報奨を与えたそうだ。

 それがお見合いか、正規の手続きによる極楽かは、流石に教えてくれなかった。



 話が長かったので、ダイジェストでお伝えします。


 最初に、桜技流が確保した刑務所にぶち込んだ。

 もちろん、管理するのは、同じ異能者。


 弁護士を呼べと、武羅小路むらこうじ家と天衣津てんいつ家の連中が異議の申し立てに来たから、視察に来た咲莉菜は笑顔で聞いた後に、近くの近衛このえに斬らせた。

 だけど、あえて殺さない。

 手当をさせながら、笑顔を絶やさない彼女が、寝言ほざいてないで自分の牢へ帰れ、という趣旨を述べて、追い返した。


 旗頭はたがしらがあっさりと追い返されたことで、他の連中は一気に不安になる。

 同時に、“武羅小路家と天衣津家が改易かいえきされる” といううわさも流しておく。

 時間がつほど、内部の派閥争いは激化する寸法だ。


 武羅小路家と天衣津家の人間は扱いが難しいので、“異能者の村へ特別待遇で移住させる” という話で、その移送中に暗殺した。


 残った連中をわざわざ飼っておくことに、メリットはない。

 に志願してくれるよう、手配した。


 簡単なことだ。

 刺激を全てなくせばいい。

 光はあるものの、音も動きもない空間。


 内部の交流もさせず、普通の刑務所である報奨のたぐいも一切なし。

 食事などの最低限の世話はする。


 最初に直談判をしてきた武羅小路家と天衣津家を見せしめで、その噂が十分に広まった時点で、徹底した封鎖を行ったのだ。

 これにより、待っていれば立場が好転する希望もなくした。


 その後に、頃合いを見計らって、外に出られる討伐任務をリストで出す。

 あくまで自分の意志で行かないと、意味がないから。


 残っていた偽物の御刀おかたなと衣装、または廃棄品で、敵に突撃させているんだとさ。

 でも、霊的な守護がないから、すぐに折れるし、破れる。


 ワーム系なら、バクッと丸呑みされて、内部でじわじわ溶かされていく。

 聞く限りでは、骨も残らないようだ。


 スライム系だと、触られた時点で終わり。

 ファンタジーの雑魚として有名だが、実際には物理攻撃が効かず、身体にまとわりつかれたら死ぬレベルの強敵なのだ。

 中に入られたら、全部埋められるのでしょうかー? と咲莉菜に聞かれたけど、知らんわ!


 一応、討伐任務のていだから、自分で選べる。


 精神を狂わす収監は死ぬまで続くため、女を苗床にする蟲を選ぶ奴もいるとか。

 麻酔のような成分を注射するから、気持ち良く食べてもらえる。

 手足の先からかじられていき、骨まで見えているのに、痛みを感じずによだれを垂らすとかね?


 エロゲみたいに、触手からの媚薬でヨガったまま、全てを忘れられるのも。

 その場合は、完全に墜ちた時点で、まとめて焼却している。


 状態異常にしてくる怪異の討伐依頼は、大人気。

 まあ、数回も出撃すれば、どっちみち助からないわけだし。



 鍛冶師などは男で、こちらは非能力者も多い。


 彼らが異能者のいる村に送られたら、デコピン1発で頭がもげる。

 もっと言えば、人数が増えすぎた時には、口減らしをするのだ。

 桜技流は、村長へ心付けも渡した。 


 性犯罪の加害者はリンチに遭う、と言うけど、今回はまさにそれだ。

 男の村に送られた後は、サンドバッグ代わりや、性処理に使われているようで、もう半分ぐらいになっているとか……。

 

 村長に罪状を説明したから、まだ情状酌量の余地がある罪で、その生活に耐えられれば、生きていけるでしょう。とは、咲莉菜の談。

 送った人数が多いため、対外的には “任務中の犠牲” で処理した。



 説明しろ、と言ったのは、俺だから。

 懇切丁寧に語ったことを怒るのは、筋違いだけどさあ……。


 それで殺された演舞巫女えんぶみこもいて、“本来なら負けないはずの怪異に無様な姿を晒した” と名誉すら奪われたわけだし。


 俺は部外者だけど、そういう被害者が大勢いたことを考えたら、まだ生温なまぬるいか。

 対外的には、“立派に戦って殉職しました” で終わるのだから……。


 原作はシコれる描写だけで済んだが、こちらは現実だ。

 対処を間違えれば、俺も他人事じゃない。

 もう俺1人だけではなく、室矢むろや家に忠誠を尽くす妻や、家臣を考える話にもなってきた。



 咲莉菜は、少し時間を置いてから、説明を続ける。


北垣きたがきさんと錬大路れんおおじさんは、『止水しすい学館の学長の推薦で、学生ながらも局長警護係に内定していた。そして、わたくしの命令により、特別任務に参加』という経緯にしました。熱寒地ねっかんじ村を討伐するために出向いたから、任務達成です。どうせ、あの村の生き残りはおらず、いたところで誰もその話を信じません。せっかくですから、今回の土蜘蛛つちぐもの大量発生の黒幕として、村ぐるみで罪を被ってもらいます。変に隠すと逆効果だから、北垣さんが擬装で村へ行って、後から錬大路さんが合流した情報は、そのままです……。2人とも止水学館に復学して、今まで通りの生活をしています。もし居辛いようなら、転校によって普通の女子に戻すことも考えています。……これで、満足しましたか?」


 彼女の目を見ながら、うなずいた。


「ああ……。うちの名前を出す必要はない。苦労をかけた、咲莉菜」


 重遠しげとおを御前演舞で撒きにした件は、これで相殺そうさいにさせていただきますー。という彼女の発言によって、今回の会合で話すべき案件は終わった。


 ま、元々は桜技流の話だ。

 これだけ聞ければ、十分か。


 しかし、ギリギリで踏みとどまり、醜聞を外に出さなかったとはいえ、立て直すまでに最低でも数年はかかるらしい。


 俺は今の情報だけでも、裏から桜技流を操れる。

 そのリスクを踏まえたうえで、しっかりと教えてくれた。

 咲莉菜からの信頼は、相当なものだ。

 彼女との付き合い方も、考えておく必要があるだろう。



 咲莉菜が、南乃みなみの詩央里しおりに向き直った。


「詩央里さま……。重遠のことで、いずれ参ります。その際には、あなた様がご納得いただける誠意を見せる予定でございます」


 相手の目を見た詩央里は、静かに応じる。


「はい、うけたまわりました。若さまの『刀侍とじ』の認定で、後ろ盾ができたことも事実です。咲莉菜さまのご活躍によっては、真剣に考えさせていただきます」



 何でも知っている室矢むろやカレナに、こっそりと聞かされたのだが――


 幽世かくりよの俺は、咲莉菜と交わり、彼女のレベルをもらっていたのだ。


 ツヨツヨになっていた咲莉菜を気持ちよくさせて、レベルドレイン。

 絶頂させる度にピロリン♪ と、彼女のレベルをちゅーちゅー吸い取っていた形。


 目にハートマークを浮かべた咲莉菜は、楽器のように鳴いて、どんどんヨワヨワに……。


 エロゲの敵みたいな話だが、そこまでしなければ、短期間であれだけの強さを得られなかったようだ。



 話し合いが終わったので、咲莉菜は帰ろうとするも、その前に呼び止めた。


「俺は高校卒業の時点で、『室矢家としてどうするのか?』を考えるつもりだ。良ければ、その時の話し合いに参加できるよう、頑張ってくれ。俺も、姉弟子あねでしとこのまま稽古をつけられないのは寂しいからな」


 ジッと俺の顔を見た彼女は、必ず参加しますのでー、と述べた。

 お辞儀をした後で、近衛と一緒に部屋を出て行く。

 今は、これが精一杯か。


 咲莉菜の気持ちが変わらなかった場合、詩央里と話し合いの場を持つのは、やはり数年後だろう。

 桜技流の見直しと、筆頭巫女から降りる必要がある。

 俺も彼女のことを気に入っているが、こればっかりは正妻の判断だ。


 今の天沢咲莉菜は、まつっている咲耶さくやの巫女。

 彼女が膝を屈すれば、桜技流が千陣せんじん流の下についたことを意味する。


 それでは、桜技流のほぼ全員が強く反発するうえに、やしろをまとめている本庁も黙っていない。

 今の所属である千陣流も、その事実を最大限に利用するだろう。


 加えて、非公式とはいえ、カレナは咲耶と並べてもいい存在だと知られた。

 神々に序列をつけるという、最大のタブーにも触れてしまう。

 俺が元いた世界の日本神話では、この点は戦争が起きるほどの話だ。


 一説によれば、いったんお参りをした後に別の社にお参りをすることでも、嫉妬される。という話だしなあ。

 同じ境内けいだいにある摂社せっしゃ末社まっしゃは関係しているので、良いらしい。


 まして、この世界には普通に異能者がいるし、降臨もする。

 扱いを間違えたら、地上で別の大戦が起きそうだ。


 カレナは部外者だから、解釈によって誤魔化せるだろうけど……。



 仮に、今の咲莉菜が室矢家に加わる場合、家格と立場から判断して、南乃詩央里が “愛人” の扱いにされる。

 咲耶さまの巫女は、妖刀使いの南乃家の下であってはならない。

 そのうえ、桜技流の下部組織の1つとして扱われるのだ。


 詩央里が突っぱねたのは、当然の話。


 視点を変えれば、うちと繋がりを持つ分には、適当な演舞巫女をあてがえばいい。

 何なら、定期的に来てもらって、接待する方法もある。

 それこそ、俺が好きに選んでもいいほど、在籍しているのだ。

 咲耶さまが認めた男であれば、儀式にもできるだろう。


 いずれにせよ、俺たちが高校を卒業する頃が、咲莉菜の考えを聞くタイミングだと思う。

 ベルス女学校の天ヶ瀬あまがせうららとも話し合いをする必要があるし、どんどん宿題が増えていく……。


 しかしながら、すぐに考えなければならないことが待っている。

 早く、咲良さくらマルグリットの機嫌を取らないと!

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