第233話 桜技流の背信者たちの始末と俺たちの未来ー①
「彼女たちは、元の生活に戻してくれ。『任務に就いていた』とすれば、咲莉菜にできるだろう? ……俺を
いつも笑顔の咲莉菜が、珍しく思案する表情になった。
やっぱり、うちが引き取らない場合は、不正の関係者と一緒に消すつもりだったか……。
彼女は俺のほうを見ながら、説明する。
「
やはり、危惧していた流れだな。
俺の顔を見たままの咲莉菜は、続きを口にする。
「そなたが自分の責任で2人を保護するならともかく、当流で再び
咲莉菜の目を見ながら、言い返す。
「千陣流では、『
咲莉菜は、驚いた顔に。
駆け引きとして悪手だが、ここで出し惜しみをする気はない。
役員机の上のドリンクを少し飲んだ彼女は、下を向いた状態で
「当流のためにご尽力いただいたこと、心より感謝申し上げます。ですが――」
「咲莉菜!」
いきなり名前を呼ばれて、彼女はビクッと、肩を上げた。
これ以上の水掛け論を防ぐために、結論だけ言う。
「都合の良い時だけ、姉になるな! お前がそうやって桜技流のトップの顔だけで通すのなら、俺も千陣流の室矢家の当主として対応する。もう二度と会わないし、連絡もしない。この御前演舞で
咲莉菜は
後ろを振り向いた俺は、まっすぐに学長室のドアへ向かう。
戸惑い気味の
「ま、待ってぇ!!」
俺が内側のドアノブを握れば、椅子から立ち上がる音の直後に、咲莉菜の悲痛な声が追いかけてきた。
「し、承知しました。北垣さんと錬大路さんは、わたくしが責任を持って、
振りむいた俺は、思わず立ち上がった彼女を見る。
「分かった。日程は、詩央里に連絡してくれ」
言い終わった後にドアを開け、俺たちは帰る。
夕花梨たちは、京都の屋敷。
俺たちは、東京のマンションへ。
――1週間後
桜技流の教育機関である、止水学館。
その乙女の園で行われた御前演舞は、俺と学生の振りをした天沢咲莉菜の2人に釣られた犯罪者たちを炙り出す罠だった。
東京にある桜技流の拠点の1つで、会合に臨んだ。
様々な調整を行っていて、その
私服の咲莉菜が、後ろに同じく私服の局長警護係を引き連れ、報告してきた。
「結論から申し上げると、当流は重遠を『
南乃詩央里を介して受け取った書状には、確かに “室矢重遠を刀侍と認める” と記されていて、咲莉菜と本庁の責任者らしき名前もあった。
千陣流の当主会にも、同じ趣旨の手紙が届けられ、かなり物議を
秘書役の詩央里は、関係者の問い合わせを
物好きなことに、止水学館の御前演舞で俺を見初めた女子も多く、マンションの郵便ポストは毎日ラブレターで
“御前演舞で
“あれだけの動きは、どう修行したら到達できるのですか?”
“今度、私に剣術をじっくりと教えてください!”
“自宅を教えます。この夏休みで遊びに来てもらえると、嬉しいです”
“付き合ってください”
“あなたの子供が欲しいです”
桜技流のほうは、使用済みの下着と本人の写真を同封してくるのを止めろ。
俺の個人情報は、どうなっているんだ?
メグの相手をしたら、拠点を変えるか、私書箱に切り替えないと、本気でまずいぞ……。
話を戻そう。
ここで、俺が聞いておくべきことは――
「俺が “妖刀使い” である疑いは、どうなっているんだ?」
それを聞いて、咲莉菜は疲れた顔に。
「わたくしは咲耶さまの神名を出したうえで、『彼は天装を
どちらへ転んでも、俺には逆風か。
のこのこと遊びに行けば、どういう罠が待っていてもおかしくない。
しかし、咲莉菜は、自分が何とかする、と言ったのだから、これ以上の議論は無用だ。
最悪でも、桜技流と縁を切って、距離を置けばいい。
俺は、彼女に結論を言う。
「室矢家の当主として、返事をする。御流による『刀侍』の認定は、暫定的に受け取ろう! ただし、必要があれば、そちらに連絡なく、俺の判断でこの証明書を提示する。また、状況により返納して、御流との関係を断つ可能性もある。……それでも、よろしいか?」
首を縦に振った咲莉菜は、了承しました、と端的に答えた。
次に彼女は、今回の事件で俺たちが知っても良い、ギリギリの範囲まで、教えてくれた。
事の発端は、桜技流の学校同士の勢力争いだった。
北垣
だが、入学でその適性を完全に見極めるのは難しく、年度の定員という都合で、やむなく他校を受験する生徒もいる。
その学校とは異なる才能を発揮する事例が、いくつも出てきた。
咲莉菜は、俺の顔を見ながら、淡々と説明する。
「女だけが集まっている空間ゆえ、グループの対立による争いは、どんどん激化しました。その延長線上で、気に食わないライバルを潰すために、ある方法を考えたのです」
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