第222話 俺の心強い支援者にして最大の敵(前編)
親父は、立ち合いまでの面倒を見ると言ったに過ぎず、それ以降は自分で用意する必要があるからだ。
本来は千陣家の敷居を
外部と通信ができないものの、
こういう時に、一直線で動けるヘリは強い。
現金とゲスト用の部屋のカードキーを渡してあるから、
いつまでも詩央里の実家で過ごすと、宿泊費を請求されそうだ。
後回しの用事を片付けたら、ここから出て行こう。
訪問の準備をしながら、あの忌まわしい決戦を思い出す。
俺と凪の2人だけ、この事件の黒幕を見た。
本能的に恐怖を感じずにはいられない、
元の世界に帰還した俺たちは、空中のヘリから飛び降りてきたカレナによって、千陣流の本拠地にある南乃家の別邸へ。
凪はヘリに乗せて、澪と一緒に東京のマンションで
澪が
まだまだ、気を抜けない。
カレナは、あの古き神は滅びたのじゃ、と言っていた。
たまたま接続された空間ごと破壊したので、他の個体がちょっかいを出す可能性はゼロに近いそうだ。
いや、他にもアレがいるのか……。
詳しいことは、東京に帰ってから、全員で話し合う予定。
出動していた千陣流の部隊も次々に帰還したが、それなりに犠牲者が出た。
だが、それは普通に戦っての結果。
どんな小さな
まあ、忙しかったからな?
こちらのカードだが、再発防止は組織的に動かなければならない。
実際に、その恐ろしさを体験していて、信用できる人に任せるべきだ。
俺たちが抱えていたら、また後手に回ってしまう。
詩央里の両親が暮らしている別邸は、俺と彼女の滞在先になっている。
事情が事情だけに黙認されているものの、そろそろ
義理の父親に斬られる前に、退散、退散と……。
リビングの大型テレビが、ニュースを報道している。
『避暑のリゾートである “
どの番組でも、夏休み中に起きた惨劇を伝えている。
だが、情報統制によって、同じことの繰り返し。
救助される人々の姿や周りを撮影した動画が、使い回しで流れていく。
ヘリが上空でカメラを回しているものの、桜技流の術式なのか、下の風景が歪んでいて、何も分からない。
『刀剣類保管局の刑事部は、“山間の夢” を含むリゾート地を開発・運営している大手ゼネコン、
これだけ犠牲者が出た以上、誰かが責任を取らなければ、誰も納得しない。
神秘的な化け物のせいで、とは、絶対に言えないのだから……。
彼らの大部分は、あの
凪と俺があそこに突入して、オウジェリシスの本体と戦闘に入っていなければ、駆けつけた異能者の部隊も同じ末路に。
本当に、紙一重だった……。
完全な初見殺しのため、うちの隊長クラスでも、蜘蛛を殺しての異界へのご招待で、オウジェリシスの本体に取り込まれただろう。
さすがに隊長・副隊長は初手で突撃しないが、その場で原因を突き止めるのは難しい。
残った民間人を避難させつつの遅滞戦闘が、せいぜいだ。
しかも、ご招待が
つまるところ、石の迷宮にいるオウジェリシスを叩く必要があった。
凪と俺が戦っている間は、あの本体も他のことを中断して、全力を出していたわけで……。
原作の【
東北はどんどん侵食されていき、関東に到達させまいと、第二次の決戦へ。
ここでは
主人公の
周辺にも多くの犠牲者が倒れている敵地で、完全なホラー。
トイレに入った澪が体内から侵食される、生存者の振りをした女子たちが襲ってくると、エロシーンも多い。
制服の女子高生たちを見たい! 責められたい! という人に大好評。
澪を最優先にして、条件を満たした場合には、桜技流の
主なエンディングは、以下の3つだ。
被害を最小限にしてのグッドエンド。
力及ばずで、航基が凪の支配下である女子たちに囲まれ、玉を空っぽにされるバッドエンド。
総力で戦うノーマルエンドの場合は、咲莉菜が神降ろしを行い、陸海空の防衛軍と合わせて戦争ゲームになる。
それらと比べれば、グッドエンドより被害を抑えたのだが……。
「だからといって、当事者には何の
俺は、防衛軍の参謀でも、警察の幹部でもない。
自分のことを考えよう。
『なお、今回の事件に巻き込まれた大学生グループが違法な薬物を使用した疑いで、捜査が行われています。過去の暴行などの容疑と併せて、関係者と思われる生存者1名の事情聴取をしている段階です。大学側は一切の関与を否定しており、捜査に全面的な協力をすると表明しています。厚労省の麻薬取締官、県警などが合同で――』
それは、物騒な話だな……。
「詩央里、そろそろ行くぞ!」
「はーい!」
『事件の舞台となったリゾート施設、“
しばらく引き籠もっていた俺は、ようやく外出した。
長子継承派の代表格である、
いつも通りに東京で用意した手土産を渡しつつも、案内された。
通された表座敷では、意外なことに当主の
板張りの廊下で一礼をしてから入り、下座の座布団の横で正座をする。
「
「南乃家の詩央里でございます。重ねて、御無礼をお詫びいたします」
俺と詩央里は、それぞれに口上を述べてから、両手と頭を畳につけた。
「おお、よく来なされた! 2人とも、顔を上げなされ……。お主らは、進退をかけていたからの。ワシのような老いぼれの相手をしている暇はなかったじゃろうて……。ささ、とにかく座りなされ」
有宗からの催促を受けて、正座の姿勢でにじり寄る。
握り拳をつき、身体を持ち上げる形で、近くの座布団の上へ。
ゆっくりと腰を下ろし、着席。
「
「俺は詩央里の別邸にいたので。テレビで報道されていることしか……」
言いながら、あの決戦のことを思い出す。
・
・・・
・・・・・
・・・・・・・
義妹にして俺の式神である、室矢カレナ。
千陣家で親父から、廃ビルの件は問題なかったとする時に、ようやく合流できた。
その後で、南乃家の別邸にいると見せかけ、俺はカレナが出現させたゲートを潜り、あの石の迷宮へ出向いていた。
俺が命を懸けなくても限定的な被害で済むと言われたが、それでも決戦の地に足を踏み入れたのだ。
介入しなかった場合は、北垣凪の自爆によってオウジェリシスの本体に大きなダメージを与えるか、彼女が内部でも自我を残して、こちらの世界への干渉をやめさせた。
リゾートホテルと周辺の壊滅、ついでに最寄りの街、市が全滅するぐらいで治まるのだ。
俺が命を懸けたのは、実利のため。
不意打ちで仕掛けてくる邪神を放置すれば、自分と大切な人間も被害に遭う恐れがある。
それに、カレナが言うには、討伐に成功すれば、相応の見返りをもらえるらしい。
原作の主人公である鍛治川航基なら、正義感で動いただろう。
けれども、俺はカレナと詩央里を失わないために動く。
いい加減に、千陣流で身内からナメられる状態は、嫌だ!
これは、取引だった。
あのオウジェリシスという化け物に立ち向かっただけの報酬であれば、良いのだが……。
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