第206話 夢うつつに思しまはすもさまざま静かならずただ迷ふ
視線で訴えかけてくる
彼女は母親と一緒に寝るらしく、久々に1人だ。
「静かだな……」
暗くした和室は、狭いながらも個室だ。
畳と布団の組み合わせは素晴らしく、ベッドとは違う安心感をもたらしてくれる。
「明日、俺は死ぬのかな?」
いざとなれば、降参すればいい。
だが、わざと救助を遅らせて
「まさか、キューブがどこにもいないとは……」
さすがに、想定外だったぞ?
あいつ、ここでは俺の後ろにいたのに。
「キューブが見つからないから、立ち合いを延期してください。とは言えないよな」
そもそも、俺が宗家に
また勝手に延期をしたら、もうチャンスを与えられず、その場で処断されるだろう。
それ以前に、たぶん話を聞いてもらえない。
…………
………
……
…
どこかで
くすんだ灰色をした長髪を束ねた、茶色の瞳の巫女が
わたくしが近づくことは、何卒ご容赦をー! と言われた。
本来は
後半は彼女からの口移しで、もはや、清めとかいう次元じゃ……。
よく見れば、男の和装として動きやすい
上に羽織はなく、純粋に戦闘用の姿だ。
最新のスポーツシューズよりも歩きやすい。
巫女とは違う、疲れた様子の女は、要点だけ話す。
「これで、あのロリっ子に言われなくて済むわ! それから、これを……。部外者だというのに、見よう見まねでよくもまあ、ここまで打ったものね? そもそも、刀身が
女は片手で、黒い
その先には紫の糸で握りを作られた
鞘の下の
鞘に納められた日本刀だ。
長さと
一振りの刀を持つ女は、雰囲気を変えた。
印象的な赤い目で俺の顔を見て、
「身に着けている
言葉を切った女は、改めて問いかける。
「この力をもって、何を
返答次第では、実力行使も辞さない。という覚悟をぶつけられた。
傍で控えている少女も、緊張している。
俺は、ここが夢の中では? と思い始めていた。
詩央里の実家で、明日の決戦に備え、静かに休んでいたはずだ。
ならば、真面目に考えるだけ、バカらしい。
「分からない。ただ、俺は……。早く東京に帰って、ゆっくりしたいだけだ。放っていたメグの相手もしないと……。そろそろ、溜まっているアニメも視聴しておきたい」
その
元の雰囲気へ戻り、率直に質問をしてくる。
「そこは、『愛しい婚約者や自分を信じてくれる者のために、明日の決戦で大百足を華麗にやっつける!』ぐらいは、言いなさいよ?」
「俺たちが生き延びるために、やむなく打った手の1つだ。どうやら、俺を始末したい連中によって、処刑する場になったようだが……。まあ、何とかなるだろ……。いざとなったら、南乃隊の
俺の独白に、女と傍にいる少女は黙ったまま。
「結局のところ、あの
2人の女は、まだ口を挟まない。
「俺は、
俺に戦うだけの力がないのなら、それに見合った方法を考えて、用意すればいい。
しかし、心当たりがあるのに試さないままでは、きっと後悔する。
そう思っていたら、目の前に立つ女が持っていた刀を両手で捧げ持ち、水平に差し出してきた。
「
立ち上がった俺は、同じく両手で、鞘に納まったままの刀を受け取る。
「
コクリと
「――
だんだんと、意識が薄れていく。
「――
子守歌のように染み込んでいく少女の声に交ざって、女の声が届く。
「いずれ、同じ問いをするわ。どうか、鞘を払いし後で、その力に溺れないよう……」
それを最後に、俺の意識は完全に途切れた。
あなたがキューブを見つけられないのは、当然。
よくあるわよね?
探しているものを知らずに持っていることは……。
とっくに契約している。
すでに、認められている。
でも、あなたはその力に耐えられなかった。
時は来た。
だから、後はあなたが呼ぶだけ。
異世界から来た人間に、この世界の
それでも、願わずにはいられない。
どうか、その刃を向ける相手を間違えないよう。
何よりも、あなたが自分で自分を認めて、大事にできるように。
◇ ◇ ◇
チュンチュン
「……いつの間にか、寝ていたんだな」
上掛けを外した俺は、上体を起こした。
すこぶる寝覚めがいい。
「遺書か辞世の句でも、残しておくべきだったか?」
自虐しながら、
千陣流には、結界を張っている鍛錬場もある。
南乃家の別邸でテーブルの上にあった朝食から腹の負担になりにくいものだけ口に入れた俺は、1人で出発の準備を進めた。
真夏だと、早朝でも暑いな?
足袋に草鞋を履いた俺は、指定された場所へ向かう。
――どこか、デジャヴを感じる流れだ
いつだったか、同じことを経験した気がする。
でも、それは学校のテストではなく、部活の大会でもない。
だいたい、俺は陰キャで、スポーツをやった経験すら……。
「相手に勝つことで、何かを得る。そんな経験をする機会が、他にあったかなあ?」
思わず口に出たが、この世界に転生してからの
もちろん、前世はずっと病室にいたので、論外だ。
独り言を交えながら、テクテクと、歩き続ける。
すでに
俺を見る視線は、処刑場へ向かう罪人そのもので、前なら聞こえよがしに言っていた陰口すらない。
どれだけ性格が悪い奴らでも、これから死ぬ俺に
「室矢くん。調子は、どうだい?」
声がした方向を見たら、
「おはようございます。ええ、悪くはないですね」
渋い顔の和眞さんが、珍しく、覇気のない声で返事をする。
「そうか……。あまり、無理はしないでくれ」
和眞さんは長く話さず、足早に立ち去った。
一緒にいた
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