第201話 実妹の部屋はアニメだらけでコスプレイヤーもいる
食事を続けていたら、親父が厳しい声で聞いてくる。
「もう1つある!
はい、きました!
こちらは、さっきの千陣家の名前を出した件と比べて、かなり危険だ。
隣の
俺は深呼吸をした後に、親父の顔を見ながら、結論を言う。
「それは、間違った情報だ」
殺気に近い雰囲気を
「貴様……。今、何と言った?」
「桜技流の演舞巫女に殺されかけた事実はない」
親父が、次々に質問していく。
「その右腕の怪我は、何だ?」
「料理をしている時に、誤って包丁で斬った」
「お前の自宅に、桜技流の幹部たちと下手人が訪問した理由は?」
「廃墟で遭遇した演舞巫女が俺に一目惚れで、『どうか抱いてください』と泣いて頼んできたけど、断った」
「
「同じく、俺に抱かれたくて、無理やり押しかけてきた」
口を閉じた親父は、再び腕を組み、
沙都梨ちゃんに、俺の心を読ませる必要はない。
これは、ただの開き直りだからな……。
ああ。
俺だって、それだけで納得させられるとは、思っていないさ!
「親父……。要するに、俺が半人前の演舞巫女など一蹴できると証明すればいいんだろ?」
俺をねめつけた親父が、不機嫌そうに答える。
「……何が言いたい?」
「今回は、親父たちに挨拶をしに来ただけじゃない。忘れ物を回収するため、でもある」
親父は無言のまま、先を
お茶を口に運んだ後で、説明を続ける。
「敷地内で彷徨っているキューブは、俺の先約だ! 以前は霊力不足によって契約できなかったものの、今は違う。そいつを式神にしたうえで、何でも倒してみせる。今の式神であるカレナに頼らずとも……」
呆れたような顔で、親父が返してくる。
「キューブは誰の式神でもないから、それは勝手にすればいい。だが、お前はそれだけで、『どのような敵でも倒す』と言うのだな?」
「はい」
射抜くような視線で見てきた親父に対して、ハッキリと答えた。
「では、お前の言うことを証明できる相手を用意しよう。ここに、しばらく滞在しろ! その間の生活の面倒は、こちらで見る」
◇ ◇ ◇
親父への挨拶が無事に終わったので、用意された自室へ帰ろうとした。
「だが、回り込まれた!」
「
「早く……」
護衛になっている
おのれ、裏切ったのか!
……よく考えたら、こいつら夕花梨の式神だったわ!
3人に手を引かれ、
近づくと、見覚えのある少女たちが増えてきた。
どいつもこいつも、アニメから抜け出てきたような、可愛らしい容姿だ。
背丈から、女子中学生に思える。
「あ、
「
「にょ!」
「なぜ、帰ってきた。ここは禁断の地。うっ! バタン……」
「重遠! 新しく加わった、私たちの仲間を見せて!!」
カオスすぎる。
原作の【
どこの修学旅行だよ、このノリは?
あと、義妹の
勝手に、真の仲間を探しに行ってくれ!
夕花梨シリーズに囲まれ、彼女の部屋まで移動していく。
スーッと
どうやら、純和風の広い部屋で、アニメショップを開店したらしい。
俺たちが入ってきたことで、部屋の
「お兄様! お久しゅうございます。詩央里も久しぶり。どうぞ、こちらへ」
畳を敷き詰めた和室のいたるところで、アニメグッズが侵食していた。
見事な床の間には、名匠による陶磁器や刀掛けではなく、美少女フィギュアやロボットのプラモが飾られている。
歴史を現代に伝える
日本の伝統文化は守れていないが、世界の平和については大丈夫そうだな……。
外に面した
武家屋敷は基本的に
大勢の人が行き来することが前提で、歩く距離を最小限にした形だ。
今でいう、動線を意識した間取り。
外側に面した角部屋は、まさに特等席。
障子などを移動させるか、取り払うことで、外の庭と一体化する構造だ。
部屋の中から、誰にも邪魔されず、中庭の風景を楽しめる。
外周をわざわざ
部屋にいながら周りの様子を確認しやすく、完全武装で移動しやすいことも、大きな特徴だ。
全員で一斉に出陣する必要があるから、他と合わせて準備を行う。
縁起を担いで、アワビ・勝栗・昆布を
いっぽう、公家の屋敷だと、プライバシーを重視した造り。
先祖を祀る小堂などは、今でも名家の敷地内で見られる。
質実剛健なムードが漂う武家屋敷にもかかわらず、外に面したラインの一定間隔で色々なアニメポスターや、お気に入りのキャラの一枚絵が吊るされている。
外の庭まで含めて完璧に調和がとれている光景なのに、いきなり新作アニメの一場面をチェックできる寸法だ。
これを設計した人間が見たら、泡を吹いて倒れそう……。
その大きな部屋の主である、千陣夕花梨。
彼女は、俺の実妹だ。
千陣家から脱出するまで、大変お世話になった。
夕花梨がいなかったら、俺は謀殺されていただろう。
「お兄様、
夕花梨は優雅に座ったまま、空いている座布団を示してきた。
立っていても仕方がないので、とりあえず2人で座る。
『あんたは、俺が倒す!』
大きなモニターに接続された音響機器から、ガキーンと効果音が鳴り響き、ロボット同士の戦闘シーンが目に飛び込んできた。
完全に、アニメショップの宣伝スペースだな?
「お父様との対談で言っていたこと。本気ですか? お兄様はまだ、右腕がよく動かないのでしょう?」
夕花梨はその
親父と話した和室の外で控えていた睦月たちを通して、さっきの会話は筒抜けだったようだ。
シリアスな場面だが、後ろでビームの効果音が続いていて、その雰囲気がない。
夕花梨の目を見ながら、答える。
「ああ……。ウチの中で力を示しつつ、桜技流と円満な関係を保つには、これしかない」
理解できない、という顔になった夕花梨は、
「桜技流のことは桜技流に任せておけば、良いのです! お兄様は、いつから調停者になったので? それとも、あの2人の演舞巫女が欲しくなりましたか? でしたら、私が話をつけて差し上げますよ? ……お兄様を処分するために呼び出すとは、考えにくいです。当主会の前に頭を下げて頼むのであれば、お父様が最低限の口利きをする予定かと存じます」
そうだな!
俺を見捨てるのであれば、このタイミングで呼び出さないし、腹を割って話さない。
だが、今回はそれだけで終わらないんだ。
親父や夕花梨に頼ったままでは、詩央里とカレナを守れない。
怒りと
「博愛精神に目覚めたわけじゃない。カレナが言うには、大規模な作戦が必要……。それで、上手く使えると思っただけだ。今の俺たちは、圧倒的に人手が足りない」
言い終わった俺は、自分でも苦しい言い訳だな、と考えた。
夕花梨のほうが、よっぽど客観的な見方をしている。
思い返してみたら、
どうして、俺はあの2人を
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