第195話 ファイル2:山奥の過疎地域で金髪少女が踊るー⑥
『あの女たちが自分からこの屋敷へ来た以上、署長も
納得しかねている息子のために、父親の鉄慈は言葉を重ねる。
『外を知っている人間に、私たちの威光は通用しない……。分かるか、
刑事の
それに、お山の大将かと思ったら、意外に冷静。
だが、その気になれば、私たちを手籠めにできる。という自信も見られる。
なんとも、チグハグね。
私たちに一服盛って、眠らせるか、発情でもさせるのかしら?
完全に透明人間となっている
『我が家に代々伝わっているイピーディロク様の御力があれば、お前がこの家のトップになった時に同じく、ここで強欲の限りを尽くせる! しかし、今は、私が家長だ。あの
一家の長らしい断言で、
署長は、私に嫌がらせと足止めをしているだけ。
つまり、あの親子には、正しい情報が伝わっていない。
朝のスーパーで会った時と、さっきの遭遇でも、私たちは身分を明かしていないわけで――
やっぱり、密室で犯して、その様子を撮影しておけば、大人しくなるって考え?
いえ、おかしいわ!
あの鉄慈という中年男は、慎重だ。
地元に来る人間の素性ぐらい、予め調べておくはず。
接待で署長にもコネがあるのなら、少なくとも私の正体を知っている。
トイレに盗撮、盗聴の機材はなかったし、有線・無線のどちらも反応なし。
だから、そちらの線も考えられない。
納得できずに首を
不審に思った使用人が様子を見にきたが、内側からドアを開けたところで鉢合わせ。
行きと同じように先導される形で、リビングの応接スペースへと。
「お楽しみ中に、申し訳ない! 実は、
いきなり戻ってきた鉄慈は、開口一番、不可解なことを言い出した。
その後ろにいる
案内されるまま、一同でゾロゾロと移動する。
しかし、愚連隊の取り巻き2人だけ、近くの使用人に呼ばれる。
「……マジっすか!? すいません、いつもお世話になって」
「はい! 喜んで、ゴチになります!!」
喜びの声を上げた2人は、いそいそと列から離れて、玄関のほうへ向かった。
マルグリットと女子2人が案内された先には、奇妙なオブジェがあった。
人間の腕だろうか?
白く、
集会をするように広く作られた部屋に、窓はない。
完全な密室で、きっと外からでは何も聞こえず、見えないだろう。
その上座、一番奥の少し高くなった場所に、その白い腕は飾られていた。
異様な雰囲気が辺りに立ち込め、雰囲気を出すためか、照明も暗めだ。
白い腕の上から別の照明が当たっていて、嫌でも注目してしまう。
状況を忘れたら、近代美術館に来たようにも思える。
「な……に、アレ?」
「…………」
いっぽう、もう1人は無言で、魅入られたように熱い視線を注いでいる。
後ろで、バタンと音がした。
振り返ったら、最後尾にいた使用人が外から両開きの大扉を閉めたことが分かった。
ガチャッという金属音で、鍵をかけられたことも……。
白い腕に近い鉄慈が、そちらに
不安を覚えたマルグリットが話しかけるも、それを無視して、鉄慈が呪文を唱える。
「なにを――」
「くえいぞ、くえいぞ、まにでぃうす……。イピーディロク様。どうか、この者たちを私にくださいませ」
とたんに、白い腕の先端で5本の指がウネウネと動き出し、上を向いていた手の平がマルグリット達のほうを向く。
その手の平に、濡れた口のような部分が現れた。
『我が忠実なる司祭よ。
意外にも
2人とも小さく
――外部から、アストラル
ここで、マルグリットも知らない、
干渉できなかったことで、白い腕は驚いたようにマルグリットを見た。
目はないが、それでも彼女を凝視したのだ。
本人が知らない間に人型の最終兵器と化したマルグリットは、事態の深刻さを把握しないまま、自身が攻撃されたことを悟る。
彼女たちの反応を見る限り、精神攻撃の一種ね?
即座に反撃しなければ、私も危険だ!
マルグリットは反射的に、自分が接続している異次元のエネルギーの海から無制限に引っ張ってくる。
しかし、そのままでは、一時的なバリアーに過ぎない。
――敵は神格に相当すると判断! 封印術式【カレナちゃん】のⅢ、Ⅱまで、全て解放! カウンターを簡略化して実行する
――夜の世界にいるイピーディロクと判明! つながったルートを利用して、そのまま逆流
マルグリットが反応してから、わずか0.01秒。
彼女は反射的に、魔力そのものを流し込む。
現実を変える魔法ですらない、純粋なエネルギーの奔流だ。
別の世界のイピーディロクのところへ、カレナによって調整され、自分に十分なダメージを与える存在が大量に押し寄せる。
あり得ないことが発生して、邪神は端末をシャットアウト。
それによって自分への攻撃を中止させるも、先ほどまでの権能の行使が不可能に。
頭部のない人間のような身体で、
彼にしてみれば、自宅で
マルグリットのカウンターで、古き偉大なる神イピーディロクを
白い腕はぐったりと垂れ下がり、半狂乱になった鉄慈が必死に話しかけている。
魔法で気つけをしたことで、女子2人が辛うじて正気に戻った。
ヨロヨロと立ち上がり、マルグリットの誘導で大扉へ近寄る。
同じく魔法であっさりと解錠して、大扉を開け、疲れ切った女子2人の腕を引っ張り、豪邸の出口に向かう。
鉄慈の追跡を遅らせるため、閉じた大扉に鍵をかける。
「お? よし、お前らは俺の部屋――」
外で待っていた
マルグリットはとっさに魔法を発動させて、暴動鎮圧用のアクティブ・ディナイアル・システムを再現した。
これは電子レンジに近い仕組みで、相手に火傷をしたと錯覚させる効果がある。
非致死性と言われているものの、念のために自分と女子2人のエリアだけ守り、それ以外を無作為に攻撃。
エネルギーに任せた電磁波のため、彼女たちを中心にして、円のように広がる。
「あぢいいいぃいいいっ! な、何だよ、これ!?」
進んでいくと、使用人たちも同じように倒れ伏していく。
気にせず、女子2人に忘れ物がないか? を確認した後に、お屋敷の玄関ドアから堂々と脱出。
監視カメラなどの電子データに細工をして、自分たちの映像や音声だけ消去。
オンライン上のサーバーについても、履歴から辿って、同じくデリート。
履歴がなくても、カレナの権能で消去した。
指紋などの物理的な痕跡も、自分の主であるカレナのおかげでキレイキレイに。
ここまで、ほぼ無意識のまま、一瞬で済ませた。
あとから柳舵一家が騒いでも、何の痕跡もないため、どうにもならない。
傍迷惑な電子攻撃をまき散らすエネルギー兵器になったマルグリットは、
スマホで協力者の真を呼び出し、覆面パトカーでその場を離脱した。
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