第193話 ファイル2:山奥の過疎地域で金髪少女が踊るー④
駐車した覆面パトカーから降りた
用を足した彼女は、買い物をするため、スーパーの入口へ急ぐ。
その時、いきなり若い男たちに囲まれた。
革のジャケットなどのワイルドな格好だが、着古していて清潔感は全くない。
「かーのーじょ! ねえ、どこ行くの?」
「おほー! パッキンじゃん! すげー!!」
「俺ら、このへんの顔でな?
どうして、こういう連中は似たような台詞?
内心で溜息を吐いたマルグリットは、伝家の宝刀を抜こうと、口を開く。
「私は――」
「お前ら、まーた悪さをしてるのかあ?」
「げっ! 辰のオッサンだ!!」
「何もしてねーよ!」
「行こーぜ、
いきなり弱気になる若者たち。
慌てて近くのバイクに
「大丈夫だったか、嬢ちゃん? あいつらは見ての通り、地元でイキるしか能のねえ連中だ! 賢い奴は進学や就職で逃げ出し、そのまま帰ってこないから、結果的にああいうのだけが残っちまう……。俺はあの連中をしょっ
真に心配されたマルグリットは、助けてくれたことにお礼を言った。
急いでスーパーに入り、昼食のおにぎりや飲み物を買う。
妙に高い物価に戸惑うも、真たちを待たせるわけにもいかず、適当に選んで
ピッピッと読み込ませる作業を眺めていたら、レジ担当の
「あなた、東京から来た咲良ちゃんでしょ? ね! ちょうど良い人がいるのよ!! この人なんだけど」
早く支払いを済ませたいマルグリットだが、肝心のレジ打ちが手を止めている。
別のレジに移動したくても、すでに商品の合計金額が表示されており、非常に言いにくい。
加えて、まるでタイミングを合わせたかのように、他のレジには人がいない状況だ。
その老齢の女は、マルグリットに1枚の写真を手渡した。
「男前だと思わない?
「あー、かおりさん? わりーが、俺たち、これから捜査なんだわ……。嬢ちゃんの支払い、ちゃちゃっと済ませてくれねーか?」
近寄ってきた真が割り込んだら、レジ打ちは、じゃあまた今度ね! と言いつつも、ようやく合計金額を告げてきた。
クレジットカードを見せることに抵抗を感じたマルグリットは、現金で支払いを行う。
覆面パトカーに戻ったマルグリットと真は、それぞれ後部座席と助手席に乗り込む。
「嬢ちゃん! さっきの写真を貸しな」
助手席で振り向いた真に言われ、マルグリットは写真を渡した。
それをチェックした彼は、自分の
気になったマルグリットが、話しかける。
「どういうことなの?」
前に向き直った真が、声だけで答える。
「さっきのオバちゃんは、自分の息子の結婚相手を探していたのさ! 若い女が来るたびに、アレでな? お前さんをウチに配属された高卒の新米警官と思ったのだろ! うちはド田舎だから、
信じられない、という顔になったマルグリットが、慌てて言い返す。
「え? 嘘でしょ? だって……」
さっきの写真に写っていた人。
どう見ても、40歳ぐらいなんだけど!?
マルグリットの問いかけに、真は悟ったような声で返事をする。
「ここじゃ、それでも “若手” なんだよ……。世間知らずの小娘が着任したばかりで右も左も分からないうちに、既成事実か、外堀を埋めて結婚まで持ち込もうって腹なのだろ……。この写真は俺が預かり、嬢ちゃんが帰った後で戻しておくよ! それとも、お見合いをしてみるか? 良い男かは保証しないが」
「冗談、言わないで!」
即答したマルグリットに、真は嫌味のない笑い声を上げた。
さっきのお店は葦上区で営業している唯一のスーパーで、人の足元を見た商売をしているそうだ。
以前にコンビニができたものの、利用者が集まらず、あっさり閉店。
スーパーの経営者が地元の名士らしく、その逆鱗に触れたとか……。
◇ ◇ ◇
「昨日は、大変でしたー!」
変わらずに元気な
幸いにも初弾は外れ、数発の銃声が響いた後に、山は静けさを取り戻したそうだ。
翌朝、山に入った警官が善良な市民からの通報で捜索した結果、外国人2名の死体とスナイパーライフル、小銃を発見。
きっと、捜査一課よりも死体を見慣れている地元の少年探偵団がいたのだろう。
驚いた咲良マルグリットが、心配する。
「ぶ、無事で何よりだわ……。ここから退避しなくて、大丈夫?」
「ハーイ! 狙撃手がいることは分かっていたので、釣りましたー!!」
話を聞くと、陸上防衛軍のカウンタースナイプが非公式に展開していたらしい。
ただし、陸防のスナイパーと連携したわけではなく、自分たちが撃たれれば相手の位置が分かり、早く片がつくと踏んだらしい。
大型キャンピングカーは防弾になっていて、ライフルぐらいは対応できるとか。
海外の有名メーカーの車体をベースに、だいぶ改造しているようだ。
ベルス女学校の交流会に使われているバスと、どっこいどっこいね。
マルグリットは、感心した。
狙撃手がいるエリアに、わざわざ駐車するだけの性能はある。
昨日の狙撃手について気になったが、どうせシャーロットに聞いても、守秘義務か、単に知らないことで教えてくれないだろう。
それよりも、今日中に異人館を調べる必要がある。
「この現場は、シャロが仕切っているの? 私は警視庁の特別ケース対応部隊から来たのだけど、調べてもいいかしら?」
「OKでーす! ただし、無断の破壊や、物品の持ち去りは止めてくださーい!」
現場の責任者に許可をもらったマルグリットは、いったん玄関の前に立ち、魔法による電磁波レーダーなどで空間の調査を行う。
3D透視、磁気探査により、必要なデータをどんどん収集していく。
本来なら大掛かりな装置を使い、人手と時間を要する作業だが、今の彼女なら数分もあれば完了する。
木造の3階建て。
屋根裏には、使わない家具、置物。
3階、2階、1階、地下――
「ねえ、地下は調べたの?」
「ノー! 厳重な封鎖のため、昨日に言った通り、調査班の到着を待っています!」
シャーロットの返事を聞いたマルグリットは、試しに地下室の入口がある場所まで行ってみた。
1階の吹き抜けになっている空間の
入口は、完全に閉じられていた。
ドアごと壊さなければ、中に入れないだろう。
薄いゴム手袋を両手につけながら、準備をする。
マルグリットは、補強されているドアの前で、静かに魔法を使った。
内部の空間をチェックした後に、こっそりとバリケードを分解する。
手掛かりと
中にはミイラ化した遺体が1つあったが、ひとまず無視した。
「これで終わり、と……」
いかにも今、見つけましたよ? という雰囲気を装いつつ、先に古い本を流し読み。
最近のモデルである、まだ新しいビデオカメラは、抱えたまま。
玄関口に戻る。
「あの……。これが、地下室の前に落ちていたのだけど?」
待機中のシャーロットと、付き添いの辰真、氷熊心也が、差し出された物品を覗き込む。
「ふーむ……。そこは調べたのですがー? とにかく、見てみましょう!」
「お前、また何かやったのか?」
「何か手掛かりがあると、良いですね」
昔のノートのようで、手書きの文字が並んでいた。
真が、女子高生の中で気まずい様子のまま、話し出す。
「あー、これは……。おそらく、異人館で共同生活をしていた連中のリストだな……。って、おいおい! こいつも絡んでいるのかよ!?」
マルグリットが、真に質問する。
「知っている人?」
「朝に、スーパーで会った奴らを覚えているか? そのうちの1人の名字が交ざっている! ここらへんの顔役だが、周囲から煙たがられている連中でなあ……。このカルト集団に一枚噛んでいやがったのか! どうりで、こんな
ベテランの刑事である真がしみじみと
どうやら、地元を仕切っている
しかし、この山間部は、余所者を排除する気質が強い。
柳舵一族は、昔の
彼らは
人が来ない山奥で仕事を提供しているため、この葦上区でその柳舵先生に逆らう人間はいないとか……。
「事情聴取は?」
マルグリットが尋ねたら、真は首を横に振った。
「無理だ! うちも色々と仲良くしているから、よっぽどの事がなければ、つつけないぜ……」
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