第161話 「この桜の花が咲くように栄えよ」と彼女は言ったー①
いずことも知れぬ空間に、カーンカーンと、
鍛冶屋のような炎を背景にしながら、紫が入った暗い青色の瞳を持つ少女の
「ふうっ……。
少女は腰までの長い黒髪が汚れるのも気にせず、
刀身は
うすく打ち延ばしつつ、良くない部分を取り除いていく『
今の
「そのまま使えないのは、不便すぎる……。ベル女の時のように完全な異空間と化していて、技を放った方向が上空でなければ、重遠の一撃で半径3kmは何も残らなかったのじゃ……。デチューンするにしても、出力調整が難しすぎる。だが、あやつは大雑把だから、うっかりすると山の1つや2つを吹き飛ばして、島の1つも消滅させる……。今はかなり弱っているとはいえ、それではマズいのじゃ。元々の能力が私によく似ていると大喜びしていた昔が、懐かしい」
カレナは栄養ドリンクをがぶ飲みしてから、
近くの壁に貼り付けた紙が、彼女を激励する。
“千陣家の訪問まで、残り○日!”
夏休みの宿題のようなフレーズが書かれた紙を見たカレナは、作業に戻る。
「頑張れ、私! できる、できる!! もっと大切な人のことを考えるのじゃ! 重遠と
自分で自分を激励しながらも、カレナの両手は忙しく動き、金属音が連続して響く。
「思っておらんぞ! 『早く作業を始めていたら、もう終わっていたな……』とは!! それにしても、面倒すぎるのじゃあ!」
カレナは不眠不休の覚悟を決め、作業を続ける。
完成するまで、まともな睡眠時間を取れない。
◇ ◇ ◇
ベッドで眠った俺は、どこか神社の
朝霧に包まれた清々しい空気が肌をなでる一方で、爽やかな朝日が頭上から降り注ぐ。
なぜか満開の桜の木があって、花弁が軽やかに舞っている。
「……綺麗だ」
無意識に呟いた俺は、掃き清められた
中央の通路は芸術的に合わされた
近くには、
「あー、来たわね? この花が咲くは、まさに栄えよ……。良い眺めでしょ? 私を
ジャリジャリという玉砂利を踏み締める音と女の声がしたので、そちらの方向を振り向く。
そこには、参道の中央を歩いてくる、ロングの黒髪に赤目の女がいた。
街で見かけたら、誰もが見惚れそうな容姿だ。
俺よりも年上の雰囲気で、太い赤糸で縁取りされた小袖の
下は、朱色の
足元には、
巫女の服装だが、しっかり締めた
彼女は、俺から5mぐらい離れた位置で立ち止まった。
「あまり、ジロジロ見ないでちょうだい? 私には、夫がいるのだから……。カレナに頼まれたのと私の子が
美女の羽織っていた着物が、空中に投げ出された。
形を変えながら風に飛ばされていく途中で、バサバサと音がする。
左手を
「私は
自分も袴を着ていて、帯に刀を差していることに気づく。
言われるがまま、左手を鞘に伸ばし、おっかなびっくり、抜刀しようと――
「遅すぎ」
右の手首が、ボトッと落ちた。
思わず左手で切断面を押さえつつ、前を見る。
そこには、右足を後ろにして、いっぱいに引いた右手のみで刀の柄を握り、前に突き出した左手で刀の
ハッと気づいたら、同じ場所に立っていた。
反射的に右手首と喉を触っても、怪我はない。
なら、さっきの痛みは――
「気づいた? ここは、何度でも斬り合える空間よ! 五感があるのは、そうでなければ覚えないから」
咲耶の発言を聞いた俺は、夢の中で寝ようとする。
今度は、首が落ちた。
ようやく斬り合える段階になって、その合間にレクチャーを受ける。
「
普通に
その場でジャンプしたら、切り返しで足首を斬られた。
ドサッと落ちたところに上段からの斬り下ろしで、終了。
その後にも、実地で斬り合いの型や
決して、咲耶が憂さ晴らしで俺を斬りまくっているわけではない。
そうだよね?
俺の想いは通じなかったようで、咲耶は左腰にある刀の
「防具があれば、そこまで傷だらけにならないのだけど……」
どうして、最初にそれをくれないのですか?
切ない目で咲耶を見ていたら、呆れ顔で説明してくる。
「あのね……。基本を覚えないと、意味がないの! 最初のようにザクザク斬られているようでは、肝心な場面で防具が壊れてザ・エンドよ!!」
「ジ・エンドでは?」
沈黙が流れる。
シャッと鞘走りの音が聞こえて、良い笑顔をした咲耶が、いつもより気合いを入れて構えた。
「休憩は終了! 次はあなたの身体で、どこを狙えば仕留められるか、教えるわ!」
やめてくれよ……。
咲耶がこちらに手の平を向けて、“待った” のポーズをした。
何かを聞いているような仕草だが、だんだんと顔色が悪くなる。
しまいには、真っ青な顔で、俺に話しかけてきた。
「えーと、
「あなたが急変した理由が分かりません」
咲耶は刃を上にして滑らせる納刀の後で、慌てて立ち去った。
俺は立ったまま、再び、咲き誇る桜を眺めた。
ユラユラと、花びらが舞っている。
「お待たせしましたのでー!」
のんびりした声が聞こえたので、そちらを振り向く。
やっぱり、角帯に刀を差している。
最近の女子は、日本刀を持ち歩くのが流行りだろうか?
そう思っていたら、くすみのある灰色、つまりアッシュの長い髪をポニーテールにした明るい茶色の瞳の少女が、説明する。
「咲耶さまはー。『私は今から
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