第160話 南乃隊のリーダーである南乃暁との会話(後編)
今日の食卓は、スピーカーモードにした
詩央里の父親である
何も知らないまま実家に帰省していたら、
覚悟を決めた俺は、詩央里の父親に話しかける。
「親父に、『自分は強い』と言い張ります。だから、暁さんに俺の対戦相手を用意して欲しいんですよ。南乃隊で、適当な方はいませんか?」
『俺は飲食店の出前じゃないんだが…………。了解、了解! 誰かを見繕っておくよ……。それよりも、お前、アレと契約できるのか?』
「ここで踏ん張らないと助かりませんから、死ぬ気で頑張ります」
命を落とす可能性も高いが、
俺の内心も知らず、暁さんが
『おー、そうか! まあ、頑張れ……。詩央里を
そうだな。
知っておきたいのは――
すぐに思いつかなかったので、暁さんが答えられる質問を選ぶ。
「俺たちが行く時の千陣家の守護は、どの隊ですか?」
『分からん! 俺たちの隊が当たるように、調整はしてみる』
ま、そうだろう。
南乃隊であれば、多少は安心できるけど……。
忙しいだろうし、ここまでにするか。
「ありがとうございました! 当日も、よろしくお願いいたします」
お礼を言ったら、暁さんは意外にも話を続ける。
『おう! あー、それと詩央里はまだいるか?』
いきなり自分が呼ばれるとは思っていなかったようで、詩央里は甲高い声で返事をする。
「は、はい! 何でしょう、お父様?」
そういえば、詩央里が父親と話すのって、久々かな?
ずっと彼女に千陣流との連絡を任せっぱなしだから、全く分からんが。
ぼんやりと考えていたら、暁さんの声が響く。
『お前は頭脳派で直接の戦闘は弱いんだから、あまり気にするな……。状況を聞いたが、相手はかなりの凄腕のため、最低でも1人は負傷しただろう。それがたまたま、
詩央里は言い返そうとしたが、その口を閉じた。
ここで父親に反論しても、意味がないからな……。
狭い通路で、相手は白兵戦に特化した異能者。
それも、室内で振り回しやすい、短めの刃物を持っていた。
対して、こちらは3人いたが、実質的に1人ずつの戦いを余儀なくされたのだ。
暁さんの言う通り、むしろ被害は少なかった。
もっとも、初撃で片腕を使えなくなったのは、予想外すぎたぞ……。
頭では分かっているが、そこまで言われたくない。という顔になった詩央里は、
電話は声だけでやり取りするから、相手の様子に応じたフォローを行える。
娘の怒りを察した暁さんが、話題を変えてきた。
『詩央里は千陣流との交渉などで活躍していると思うぞ? 俺は納得できないが、
ブツッと電話が切れて、ツーツーと違う音になった。
画面をタップした詩央里は、ふうっと息を吐いてから、自分のスマホを手に取る。
親子だけあって、声音だけで詩央里が絶不調であることを察したらしい。
俺がヨワヨワという部分は、最後まで訂正してくれなかったけど……。
それまで沈黙を保っていた
「私も、詩央里のパパと同意見よ? 責任を負っているのは詩央里ではなく、指揮官の重遠だから……。部隊のメンバーは
マルグリットの
「せっかくだから、今夜はゆっくりと話し合え! お主ら、病院に担ぎ込まれてから、まともに話しておらんだろ?」
義妹である
詩央里と2人になって、リビングのソファに並んで座る。
「俺はさ……。詩央里が無事で良かったと、心から思うよ。あの時……。セントリー警備会社の見回りに行って廃ビルの中で血だらけのまま倒れ込んだ詩央里を見た時には、生きた心地がしなかった。その再現だけは、絶対に嫌だったんだ」
やっと、伝えられた。
そんな気がする。
当時は詩央里と2人で、とても静かな生活だった。
だけど、それは一時的なモラトリアムだ。
今から思えば、
思い出している俺を見ていた詩央里が、話しかけてくる。
「私も……。若さまが倒れた時には、胸が潰れそうでした」
ようやく自然な笑顔を見せてくれた詩央里に触れながら、話を続ける。
「カレナが式神になって、色々と錯覚していた……。確かに千陣流は式神を使う。しかし、俺の場合は本人も強くなければ、今回のように足を
俺に要求されるラインは、とてつもなく高い。
だが、式神使いがやるべきことは、結局1つだ。
カレナで足りないのならば、千陣流のお歴々が納得するだけの式神と契約して、その力を見せつけるのみ。
それも、千陣家の
身体をすり寄せている詩央里に、説明する。
「千陣家に帰れば、俺たちは
カレナは、アレと契約するのに命の危険があると言った。
だが、千陣流の連中にネチネチと責められて真綿で首を締められるよりは、分かりやすい。
心配そうに見つめている詩央里を安心させるために、俺は声をかける。
「今度は詩央里が安心して守られるように、強くなりたいんだ……」
おそるおそる口を開いた彼女が、小さな声で
「私は……。守られても、いいのですか?」
「ああ、次からはお前を心配させない……。約束するよ」
俺がハッキリと断言したら、詩央里は自然な笑顔になった。
「はい、若さま……。今度は、ちゃんと私を守ってくださいね? じゃあ、今夜は私のせいで負傷した
◇ ◇ ◇
心配したのか、翌日の朝には、室矢カレナと咲良マルグリットがやってきた。
2人が用意した朝食をいただきながら、ベランダの窓から差し込む朝日で溶けそうな気分に。
マルグリットが、俺と南乃詩央里を交互に見ながら、不機嫌そうに呟く。
「仲直りしたようで、何よりだわ。私としては、少し複雑な気持ちだけど……」
ぶつぶつ文句を言っている金髪少女に我関せずで、カレナも話しかけてくる。
「やってみれば、何とかなるものじゃ! 私もつくから、安心しろ」
昨晩の詩央里は過去最高に反応が良く、俺の全てが吸い込まれるかと思った。
最近は離れていたし、心の底からの笑顔で見つめられ、甘えた声で何度も催促されると、我慢できない。
やっぱり、精神的なつながりも大事だ。
改めて、詩央里に無理をさせていたなあ、と痛感した。
何でもかんでも、彼女に頼り切りだったからな?
ようやく、年齢に見合った表情を見せてくれた感じか。
これまで霊力がなく、手の打ちようがなかったとはいえ。
詩央里に千陣流との交渉を任せて、クラスでの人間関係も任せて、家事も任せて。
カレナが来た後も、千陣流からの問い合わせを任せて、探索と戦闘を任せて、ベルス女学校やマルグリットとの対応を任せて――
あれ?
これ、限界になって当然では?
俺が斬られたのは、詩央里の積もり積もった心労が外に出てくる、ただのキッカケだった?
ぼんやりした頭で、俺は冷や汗をかいた。
千陣家に行ったら、妹の
そうしよう。
あいつは俺に甘いから、きっと役に立つ人間を紹介してくれる。
お返しが必要でも、
フフ、これ以上は、女を1人も増やさないぞ?
ただでさえ、
原作知識がある俺は、徹底的に守りに入る。
ベル女の交流会とは、状況が違う。
このまま
だーれが、自分から地雷原に足を踏み入れるか!!
ニコニコしている詩央里を正面に見ながら、大事なことを宣言する。
「これから寝る。よっぽどの事情がない限り、起こすなよ?」
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