第122話 金髪碧眼の妖精が紫苑学園にやってきた!ー③
学校指定のバッグは、机の横にあるフックに引っかけた。
幸いにも鍵のかかる個人ロッカーがあったので、ラブレターの山は買い物バッグごと突っ込んでおいた。
――授業中
「えー! 頂点からの落下は、このように放物線を描き――」
各授業で、咲良マルグリットは優等生だ。
最初は驚いた教師陣からも、高い評価をもらっている。
日本生まれの外国人にありがちな、実は英語が苦手といった意外性もなく、マルグリットは卒なく授業を受ける。
ベルス女学校は魔法を扱う関係上、一般の学校よりも進んでいる内容だ。
彼女の視点では、復習をしているぐらいの感覚。
休憩時間には、他の生徒の指導や相談にも乗って、早くもクラス内での立場を確立しつつあった。
――放課後
待望のフリータイムになった途端に、また陽キャの集団から誘われる。
彼らの都合で、次の自己紹介をやりたいようだ。
しかし、いちいち付き合う義理はないので、今度は断った。
きっぱりと言い切る咲良マルグリットにかかれば、歴戦の陽キャたちも
一軍から落とすぞ? という脅しが効かない相手には、奴らの威光は一気に下がる。
美少女の宝庫であるベル女との伝手であり、本人も絶世の美少女なのだ。
主導権は、マルグリットにある。
「このラブレターの山、まいっちゃうわ……。基本的に無視しようと思うけど、カレナは何かアドバイスがある?」
彼女は、カレナが帰りがけにデパートのお洒落な店で買ってきたローストビーフなどをパンに挟んで、食べていた。
話を聞いたカレナは、小首を傾げた後で、口を開く。
「それでいい! どうやら、ヤバい相手も交じっているようだからの……。私が動こう。お主はそれらを捨てず、危険物の扱いで未開封のまま、適当な箱に保管しておけ……。いったん相手をしたら、全員に会わないと逆恨みされる。くれぐれも愛想よく振る舞わず、平等に接しろ。男子からのプレゼントの
翌日、カレナの宣言によって、“咲良マルグリットとの恋愛は、ラブレターを出さないほうが上手くいく” と相成った。
占いで絶対的な権威になっている彼女のお墨付きに逆らう者は、
――翌日の放課後
「あなたも、しつこいわね……。いい加減にしてくれないかしら?」
イケメン王子にまた呼び出された咲良マルグリットは、かなり怒っていた。
けれども、彼はニヤつくばかり。
「いいのかよぉ、そんなこと言って? 知っているんだぜ、俺は!」
眉を
すると、怜伍はもったいぶった動作で、自分のスマホの画面を見せてくる。
そこには、前日のマルグリットと怜伍の
誰かが、自分のスマホで撮影していたようだ。
「……それが、どうかした?」
マルグリットが尋ねたら、怜伍は得意げに言う。
「
はじめて、マルグリットに焦りの色が見えた。
余裕をなくした彼女の姿に、怜伍がニタアと笑う。
「困るよなぁ? 俺も調べたけど、かなりの重罪だってな? それに、このことが反マギクスの団体や著名人に知られたらさぁ! お前、この学校を辞めるだけじゃ、済まないぜ? 元いたベル女にだって、迷惑がかかるだろうなぁ? あっちのお友達や教師どもは、さぞやお前を恨むぜぇ……。おっと、このスマホを取り上げても、他にバックアップがあるからな」
「……何が言いたいの?」
マルグリットが言い返したら、怜伍は、お前が自分で言えよ、という雰囲気で待つ。
だが、いつまでたっても口を開かない彼女に業を煮やし、自ら説明する。
「ちっ……。そのムッチリした身体で、俺にご奉仕しろと言ってんだよ! あったま悪い奴だな、お前は……。てめえが牢屋にぶち込まれるかどうかは、俺の機嫌次第だからな? せいぜい、そのデカパイも使って、俺を満足させるこった! お前の締まりを確かめたくて、うずうずしていたんだよ。……ベル女ってことは、まだ処女だよな? 今日ぶち破って、そのまま俺の専用にしてやるから、ありがたく思えや」
ストレートに言い切った怜伍が近づき、マルグリットの胸を
ビイイイイイイイイイィ
耳をつんざく、90
彼が
そして、怜伍が立ち塞がっている出口へ走り出した。
マルグリットは手の平に、小さな円筒形の防犯ブザーを忍ばせていた。
一見するとフック付きのライトであるが、実はもう1つの紐を引っ張ればブザーが鳴るのだ。
完全に不意を突かれたうえに、まだ鳴り響く防犯ブザーに気を取られていた怜伍は、どちらを先に処理するべきかで迷い、マルグリットを取り逃す。
マルグリットの通報で、すぐに教職員が駆け付け、生徒指導室の事情聴取となった。
状況から女子が被害者と判断して、彼女から先に、個別で話を聞く。
本人が承諾したことで、全員による話し合いへ。
「つまり、あなたは『機靭くんに脅された』と言いたいわけですね?」
女教師が、マルグリットに確認した。
はい、と答えたマルグリットは、ここで初めて自分のスマホを出して、先ほどの音声を再生する。
いきなり流れてきた音声に驚くも、
「……機靭」
「弁明のしようがありませんね、これは」
生活指導の体育教師と補助で駆り出されてきた女教師の2人が、冷たい目で機靭怜伍を見た。
「い、いや、それは……。ちげえんだよ! どうせ、こいつが魔法を使って、俺の声を組み合わせるか何かで、
必死に叫ぶ怜伍だが、2人の教師の態度は変わらない。
慌てた怜伍は、自分の切り札である動画をスマホで再生させた。
それによって考え込む、教師たち。
「な? こいつ、ベル女にいたマギクスだから、魔法でやれちまうんだよ! 俺だけ悪者にするのなら、親父に言いつけても、これを外のマスコミに持ち込んでやっても、いいんだぜ?」
騒ぎにしたくなければ、今回は見逃せ。
言外にそう主張する怜伍に対して、マルグリットは静かに言う。
「公開したければ、どうぞご自由に! 私は魔法を使っていませんから……。ただし、その動画で魔法の不正使用を追求するのなら、弁護士に立ち会ってもらいます。私の録音データは事実を示す証拠ですから、それを
マルグリットの、ここで怜伍の味方をするなら、とことん争う。という宣言によって、体育教師は考える。
これは、咲良が魔法を使った証拠にならない気がする。
怪我人は出ていないし、設備も壊れていない。
堂々としている咲良の態度からも、真偽はともかく、法廷で戦えるぐらいの用意があるに違いない。
それに、これが魔法に関係ない痴話喧嘩だとしたら、マギクスを
関係者に命を狙われるのは、まっぴら御免だ。
こちらは、ただの一教師に過ぎないんだぞ?
しかし、機靭が
ここは機靭の味方をすることで、弁護士や警察を入れたがっている咲良を
その後で、機靭にも釘を刺しておけば、今回は内々で片を付けられるだろう。
体育教師は結論を言おうとしたが、そのタイミングで女教師に止められ、少し席を外す。
生徒指導室の外に出ると、女教師が小声で話し出す。
「
それを聞いた
「は? そ、その……。男に対して、ですか?」
溜息をついた女教師は、首を横に振って、泰知の勘違いを訂正する。
「違います! ベル女の校長先生は、まだ30代前半の女性ですよ? けっこう美人で、あの堅物の校長先生も鼻の下を伸ばしていましたから……。私も初見では、どこかの女子大生かな? と思ったぐらいですし」
「さ、30代前半!?
泰知と
「時に、飯尾先生……。咲良がベル女の校長先生に連絡したら、どうなると思います?」
考えたくないが、それでも問いかける泰知。
麻衣が、震える声で答える。
「ここで私たちが機靭くんの肩を持つか、結論を出さず保留にしたら……。教師以外の職業で、仕事探しになるかと」
そこまで言った麻衣は、さらに続ける。
「機靭くんがウチを含めて、女子に見境なく手を出していることは、周知の事実です! 小幡先生はすでにご存知かもしれませんが、中絶させられた話も出ています。それに対して、咲良さんは来たばかりですが、あの通りにきちんとしていますし、好感のもてる態度です」
雰囲気で、機靭怜伍を排除しては? と
泰知の耳にも、怜伍の女癖が悪いことは届いている。
「そうですね……。どうせ、咲良の言い分のほうが信用できるんだ。仮にあいつが魔法を使っていたところで、別にズルをしたわけでも、他人を傷つけたわけでもない。やむなく自分の身を守っただけ……。飯尾先生! 機靭を責める方向で態度をハッキリさせつつも、他の先生方を巻き込んで、後から俺たちが勝手な判断をしたと見なされる事態だけは避けましょうか?」
「はい、小幡先生! それがいいと、私も思います」
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