真紅 帝都へ
赤脚馬という品種の馬がいる。胴体は栗毛だが、4本の脚が赤毛になっているという変わった馬だ。通常の馬よりも少し身体が大きく、スピードが出る。
この馬を【調教】スキルを持った調教師が育てることで、馬の中でトップクラスに速く、タフで持久力に優れたエリート馬になる。
私は今、この赤脚馬に乗って帝都まで向かっている。無理を言ってドーリエ伯爵領の問題に首を突っ込んでしまったせいで、普通に馬車で向かうとクロウアリス高等学院の入学式に間に合わない。仕方なく自分で赤脚馬を飛ばして間に合わせようということだ。
最低限の荷物は、事前に帝都のヴィエント家の屋敷に送ってあるので、身体ひとつ間に合えば入学式には参加できる。
一応レブライト様からは、遅れるかもしれないと一言伝えていただいてるが、可能な限り間に合わせたい。
今乗っている赤脚馬は、ビーツアンナ王国王都エクセンシアから、トープグラム帝国帝都レオンハルトまでの往復を専門としている子だ。道中の地形やペース配分を完璧に覚えているため、帝都までの所要日数はわずか3日。馬車であれば10日から2週間は必要である。
道は覚えてくれているため、細かい指示は必要ない。ただ乗っていれば良いだけである。
圧倒的な速度でありながら、その走りは安定していて揺れが少ない。二人乗りでありながらも、バランスが崩れることなく快調に飛ばしてくれている。
今、私の後ろにはサマンサが乗っている。
騒動の後、情状酌量の余地があると認められたが、王家に対しての背信行為ゆえに無罪とはいかず、ドーリエ伯爵家から追放となってしまった。伯爵家は騒動と関わりのない弟が継ぐこととなり、成人までは親族の一人が後見人として付くこととなった。
私は、一人で家を出たサマンサを使用人として雇用することにした。行く当てに無いサマンサは私の申し出を快諾、私に仕えることで今までの罪を償わさせてほしいと伝えてきた。
私としては償ってほしいと思っていないが、それで彼女の気が済むのなら良いだろうと思う。
学院は全寮制だが、帝都の邸宅を管理するハウスキーパーが必要なので、一旦そこへ連れて行く予定だ。勉強をして来年クロウアリスに入学しても良いし、成績が良ければ編入試験を受けてもいい。
出来ることなら、また同じ学校で共に学べればと思う。
王都を出発する前に、昔サマンサと仲が良かったという子に話を聞くことができた。その子が話すサマンサは、優しくて家族想い、真面目で面倒見の良い人柄だった。
私もそう思う。あの日、私の腕の中で泣きじゃくるサマンサから、私の知っている意地汚い悪女というイメージは持てなかった。ごめんなさいと何度も繰り返す姿からは、後悔と懺悔の心を感じた。
私が父親を手にかけたというのに、恨み言ひとつ言わなかった。恐らく、それがサマンサという人間のは本当の姿なんだろうと思う。
これからは、私が主人として守っていかなければならない。そう強く心に誓った。
ちなみに、フレイム王子がどうなったかは知らない。
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