漆黒 初めてのクエスト3
太陽が高く昇っている。この世界中でもお昼時の太陽は真南に位置する。
俺とクレイアは、レッドウルフが見つからないので休憩して昼ご飯を食べることにした。
魔物といっても狼の仲間ではあるので、縄張り意識が強く、群れ同士が近くにいることはあまりない。なので、次がすぐに見つかることは無いと最初から分かっていた。
倒れていた丸太に並んで座る。暗い森の中で、木漏れ日がクレイアを明るく照らしている。
画になる姿だと思う。普段は騒がしいくせに、ちょっとした仕草から貴族としての気品を感じる。
こうしていると、ハイキングデートみたいだ。前世では彼女なんていなかったから緊張する。いや、クレイアとは付き合ってるとかじゃないんだけど…。
用意したのはおにぎり。この世界にもお米があったので好んでよく食べる。
おにぎり自体はあまり一般的ではないが、俺の好物ということにして定期的に作ってもらっている。
今日のは村の人にお金を払って作ってもらったものなので具は入ってないが、それでも米の味が懐かしい。食べ慣れた、どこにいても変わらない味だ。
クレイアはパン派らしいが、今日は動き回っていたのでお腹がすいてるのか、美味しそうにおにぎりを頬張っている。
「働いた後だと、お米を丸くしただけでも美味しいものね」
「握ったっていうんだよ。森ではおにぎりの合うものは手に入りにくいし、具が無いのはしょうがないね。塩も安くはないしね」
「塩をかけただけのもおいしいわよね。シンプルだけどそれが良いわ。焼いたお肉を入れたのも悪くないけど、それならお肉だけで食べたほうがいいし……うーん。おにぎりって結構奥が深いわね」
「ようやく気が付いたのか」
「どんな髭剃りにも哲学があるっていうし、おにぎりにも哲学がある。そのことに気が付いたのよ」
「本当は海鮮系が1番なんだけど」
「海鮮系か。クエストが早く終わったら港町に寄っていかない?」
「ちょうどいいものが見つかるとは限らないよ?」
「いいじゃない。市場を見て回るだけになっても楽しいわよ。それに…ん?」
クレイアの【索敵】が何かを感知したようだ。
「どうした?」
「これ人間よ。1人走ってる。レッドウルフの群れに追われてる!」
「場所は?」
急いで荷物をまとめる。
「南!もう近くまで来てるわ。獣道を走ってるみたい!」
「急ごう」
「レッドウルフの数は…12かな」
「わかった。先に行くぞ」
俺は【特級身体強化】を掛け、木々の間を駆け抜ける。クレイアでは全力を出した俺に追いつけないので先行する。【索敵】が使えるのはクレイアなので、暫くしたら追いつくだろう。
少し走ると、狼が吠えたてるのが聞こえたのでそちらに向かう。
「見えた」
中年の男性が、ナイフを振り回しながら逃げている。どうみても戦闘は素人だ。
なんでこんなところで追いかけ回されているのかは謎だが、魔物に襲われている以上助けるのが勇者というものだ。
レッドウルフの1匹が男性の足に噛みつき、男性が倒れる。
俺は素早く噛みついた1匹を切り捨てると、近くにいた2匹を続けて薙ぎ払う。いきなり現れた闖入者に、レッドウルフが警戒するように間合いをとる。
更に飛びかかってきた1匹を倒したところで、レッドウルフたちは散り散りに下がっていった。どうやら狩りを諦めたらしい。
男性の方を見ると、足を押さえてはいるがその他に傷は無さそうだ。クレイアが治癒魔法を使えるので後で使ってもらおう。
「大丈夫でしたか?見たところ武器を持っていないようですが、こんなところで何を?」
「薬草を探しに森へ入ったのですが、迷ってしまったところを運悪く魔物と出会ってしまって…」
「それは、大変でしたね」
「あ、申し遅れました。ドノカと申します。ありがとうございます。助かりました」
「無事なようで何よりです。連れが治癒魔法を使えるので…」
「アシュリー!」
タイミングよくクレイアが追いついたようだ。
「クレイア。レッドウルフなら追い払ったよ。それよりこの人の怪我を……」
「違う!囲まれているわ!」
「え……?」
「100mちょっと離れたところから私たちを取り囲むように、100匹くらいいるわ!」
どういうことだ。何が起こっている?
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