漆黒 初めてのクエスト2
パルミコ王国は大陸東部のほとんどを占める大国だ。その東の端に大きな港町があって、そこからちょっと内陸へいったところに王都がある。その王都から西に大きく広がっているのがパルミコ平原だ。
かなり広大で、端から端まで馬車で移動するのには2~3日かかると言われていて、領地は数人の貴族が分割して統治している。
小麦や茶葉の生産と牛や豚の畜産が盛んで、高級素材としてよく知られている。
レッドウルフは平原に広く生息しているが、森や林の近くが1番見つかりやすい。
王都から北西に馬車で半日ほど行ったところに、リムデという人口50人ほどの村がある。
そこは広い森に接していて、レッドウルフを狩るにはちょうどいい。
俺たち2人は馬車を用意し、リムデの村まで移動して宿も手配できた。
村に到着した時には日も暮れかけていたのでそこで一泊し、翌朝に森へと入っていった。
ここまでの行程はかなり順調だ。
まずは森へ30分ほど入ったところまで進む。
「じゃあ使うわよ」
そういうとクレイアは固有スキル【索敵】を使用した。
この世界の人間には一人にひとつ、スキルを持って生まれてくる。戦闘向きのものや、裁縫向き、料理向きなど様々なスキルが存在するが、クレイアはかなり希少な【索敵】スキルを持っている。
索敵できる距離や、何を索敵できるかは練度によって変わってくるが、今のクレイアなら半径2kmほどの生物を探ることができる。
この2kmという範囲、世界的に見てもかなり広い。名門エングラム家でも天才と言われているだけある。
この【索敵】を利用して、見通しの悪い森の中でもレッドウルフを見つけることが可能だ。
「いたわ。西北西に700m。5匹」
「いきなりか。幸先がいい」
索敵した情報を頼りに暫く進むと、レッドウルフの方から俺たちへ向かってきた。匂いを感じて狩りに来たのだろう。木の間から走ってくる赤い狼の姿が見えた。
「来たわ。先頭に2匹。残りは後ろに控えてるわ」
「了解。まかせろ」
森の中ではクレイアが得意の炎の魔法は使いづらい。自分で出した炎なので、きちんとコントロールができれば消すことはできる。ただ敵を倒す過程で燃えてしまった森は戻すことができない。
一応ほかの魔法で対処はできるが、まずは俺の出番だ。
レッドウルフは名前だけ聞くとただの狼のように聞こえるが、実際は狼より一回り大きい。しかも名前の通り赤い毛をしている。
通常は10匹前後の群れで狩りを行う。各個体はそこまで強くはないが、連携に優れるのが厄介である。
俺は愛用の剣を抜くと、両手で構えた。まずは1匹、俺に飛びかかってくる。
これを受けるのではなく、逆に踏み込んですれ違いざまに一閃。胴体を切られたレッドウルフは倒れて動かなくなった。
もう1匹はその様子をみて標的をクレイアへと変えた。
俺はその背中を一瞬で詰めて切りつける。レッドウルフはクレイアへ届くことなく地面に崩れ落ちた。
「やるじゃん」
俺の実力を知るクレイアは、涼しい顔で戦いを眺めていた。
残りの3匹は戦いの間に周りを囲んでいた。周囲から一気に距離を詰めて同時に俺に向かって襲い掛かる。
タイミング完璧な連携。群れで狩りをするレッドウルフならではだ。
「さすがにスキル無しでこれを凌ぎきれないか」
今までの2匹はスキル未使用での戦い。ここからが本当の俺の実力だ。
一人につきひとつの固有スキル。それはあくまで常人の話だ。勇者は3つのスキルが使える。ずいぶんなチートだと思う。
まずひとつは勇者の力自体が持っている【瘴気特攻】。
魔物や魔族は瘴気によって能力が強化されているが、その瘴気に対して大幅なダメージ加算が発生する。これがあるから魔族との戦いに勝利することができた。
そして、各勇者の家系に伝わるスキル。これは俗に勇者スキルと呼ばれる。内容は家ごとに違うが、漆黒の勇者の場合は【特級身体強化】になる。
自身の力や素早さ、物理防御を大幅に上げるもので、他の冒険者などが使う身体強化と比べて強化倍率が高い。
もちろん他の勇者の家にはそれぞれ違う勇者スキルが存在する。
そして最後に、みんなが持っている固有スキルだ。ただ、今はそこまで使わなくても問題ない。
そんなわけで3体のレッドウルフに同時に飛び掛かられた俺だが、噛みつかれる直前に剣を振り、3体すべてをほぼ同時に切り倒す。
「おぉ~。今のは全然見えなかったわ」
クレイアは小さく拍手して褒める。
倒されたレッドウルフは砂のように崩れ落ち、最後には小さな石だけが残った。
これが魔石。魔障が固まったものだと言われているが、これが討伐の証になる。
「これで5匹。4分の1達成だな」
「次は私にもやらせなさいね。炎以外でも倒せるんだから」
そう意気込むクレイアだったが、そこから2時間はレッドウルフと出会うことはなかった。
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