第三話 王の矜恃。


〜 ダンジョン【惑わしの揺籃】 六合邸 〜



『不味いことになりそうよ……!』


 珍しく焦った様子のドルチェが、ウィンドウに映し出される。

 そこにいつもの余裕を湛えた雰囲気は感じられず、表情は真剣そのものだ。


「あんたがそこまで焦るなんて、珍しいね。何があるって言うんだ?」


 只事ではなさそうだ。

 俺は居住まいを正して、真っ直ぐに映像に向き直る。


『ドロメオの動きを把握するために、なんとか軍部に潜り込んだのよ。そしたら、アイツらとても正気とは思えない計画を実行しているのが判ったの。』


 正気とは思えない計画、ねぇ。

 なかなか剣呑な気配のする言葉である。


 少し気を引き締めて、俺はドルチェに先を促した。


『アイツら、大陸中の教会を使って、信者達に暴動を起こさせようと画策しているみたいよ。目的は恐らく各国の戦争介入への妨害でしょうけど、それも優先順位を指定されているみたいだったわね。』


 おいおい、とんでもねぇなメイデナ教。

 信じてついて来た信者を、捨て駒扱いかよ……!?


 というか、優先順位って……


「まさか……!」


『そうよ。第一目標はユーフェミア王国王都、それから各都市ね。ユーフェミア王国は信仰に寛容な国よ。全国に広がる教会が一斉に暴動を仕掛けたりしたら、間違いなく足を止められてしまうわ。』


 この初動が大切な時期に、いやらしい手を打ってきやがるな……!


「それ、王様や辺境伯には……?」


『そっちはコルソンが既に伝えている筈よ。メイデナ教会の各支部への監視の強化と、治安の悪化に備えて警戒を強めるよう警告を頼んであるわ。


 どんな伝令や伝達手段よりもこの通信は確実に早い筈だから、国王様もすぐに動いてくれると思うわ。それにあの王様が、メイデナ教会に何の警戒もしていない筈がないもの。』


 それは確かにそう思う。

 けど、改めてそう言われると……


「それってさ、の話だよな……?」


『なぁに? 引っ掛かる言い方するわね?』


 、ダンジョンコア通信より素早い情報伝達方法なんてこの世界には無い筈だ。

 念話だって熟練度で距離が左右されるし、通話の術具も小型の物は範囲が狭く、大型の長距離用の物は魔力をアホほど使うらしい。


 けど、俺が危惧していた通りの事が、現実のものになったなら……?


「俺の所の諜報員を、今日ドロメオ各地に潜入させた。話は届いてるだろ?」


 メイド達には、ドルチェの部下とも情報交換するように言ってある。

 早ければ、既に合流したパーティーも居るんじゃないかな。


『ええ。部下から連絡が有ったわ。既に二つのグループとの接触が有ったみたいね。』


 それがどうしたと言いたそうな顔で、俺を見詰めてくるドルチェ。


 俺はドルチェに、今回メイド達を派遣した経緯を説明する。

 そして。


『ドロメオが……迷宮を利用しているですって……!?』


「あくまで可能性の話だよ。でもそれが現実となれば、この上なく最悪だ。下手をすれば俺とまったく同じことができるんだからな。それを調べるために神都サンタフォビエには、最精鋭のパーティーを潜り込ませた。」


 ドルチェは言っては何だが、こと情報戦に関しては優秀だ。

 いつかの人攫い組織の黒幕商人との一件でも、その情報収集能力の高さを思い知らされている。


 そのドルチェが今回、ドロメオからのスミエニス公国への宣戦布告及びその準備に、動き出すまで気付くことができなかった。


 単に隠蔽が巧妙だった可能性も充分に有るが、国家戦略規模の動きを、ましてや既に調査に乗り出していたこのダークエルフにまったく気取らせないなど、そんなことが本当に可能なのだろうか?


 だけど。

 それもダンジョンの権能を使えば、可能になってしまう。


 これでもし、ダンジョンコア通信で迅速なやり取りをしている俺たちが、再び先手を取られることがあれば。

 それはほぼ確実に、ダンジョンの権能を我が物にしている人物なりが、ドロメオ側に存在するということになるんじゃないか。


『厄介どころじゃない話ね。主を隷属させているのか、それとも自身らで支配しているのか……どちらにしても、最低でも神都近郊にある迷宮はドロメオの手に落ちていることになるわ。』


 正確にはメイデナ教会の手に、だな。

 あの国は実際にはメイデナ教会の傀儡国家だ。国の指導者である皇王ですら、メイデナ教会の法皇には頭が上がらないらしいしな。


『各地の迷宮に頻繁に教会関係者が出入りしていたのも、武具や術具の収集だけでなく、迷宮の支配を目論んでいた……?』


「まだ確定じゃない。だけど、最悪の事態は想定しておくべきだ。俺はこのまま仲間たちに調査を続けさせる。ドルチェも無茶じゃない範囲で、各地の迷宮関連の調べを進めてくれないか?」


 俺以外にダンジョンを利用している者が居ない保証なんて、どこにも無い。

 実際、魔族達の亡き祖国【魔王国オラトリア】は、指導者たる魔王がダンジョンマスターで、首都は都市型の開放型ダンジョンだった。


 ドロメオが……いや、メイデナ教会だけは違うだなんて、言える筈がない。


「とにかくドロメオの監視は絶対に必要だ。もし向こうが迷宮を支配しているのなら、事は単なる国同士の戦争で終わる気がしない。ドルチェ、コリーちゃんにも協力を――――」


「お兄ちゃん、コリーちゃんから通信入ったよ! なんか急ぎみたいだから、そっちに繋ぐよー!?」


 噂をすれば何とやらかよ。

 俺が話題にしようとしていた人物である、コリーちゃんからの通信らしい。


 でもさ、猛烈に嫌な予感がするんだよね……

 あ、ドルチェも? 奇遇だねぇ〜。


『マナカきゅんマナカきゅん!? タイヘンなのようっ!!?』


 嫌な予感とは当たるもので。


 俺とドルチェの通信に繋げられ、その姿をウィンドウに映し出された一人の漢女おとめが、珍しくも慌てた様子を見せてきた。


 それは、とてもではないが信じたくはない内容で……




〜ユーフェミア王国 王都ユーフェミア ブレスガイア城 〜



 議場は、荒れに荒れていた。


 ユーフェミア王国国王、フューレンス・ラインハルト・ユーフェミアは、つい先程もたらされた報告に、思わずこめかみを押さえ渋面を作る。


「速やかに鎮圧すべきであろう!」


「いや、それでは民の反感が……!」


 意見は紛糾し、一進一退の様相を呈している。

 その報告は、できれば信じたくない物であった。


『王都各所で、メイデナ教徒による暴動が起きています! 彼等は先のドロメオの宣戦布告の声明を自分達への託宣であるとし、ユタ教徒のみならずその他の亜人や、果ては一般市民にまで危害を加えています!』


 メイデナ教徒による暴走。

 ユタ教徒の商店は襲われ、住居も窓や戸口に物を投げられたり、酷ければ破壊されたりしている。


 道行く人間はメイデナ教徒に詰め寄られ改宗を迫られ、拒否をすれば暴行を加えられる。


 亜人などは悲惨であった。

 見掛けるなり大勢で取り囲まれ、問答無用に打ち据えられ、未だ死者が出ていないのが奇跡と言えるほどだ。


 王都の複数ある治療院は、既に怪我人で溢れている。

 警備隊のみならず軍も動員しての治安維持もなかなか奮わず、分散し伝播する騒動に右往左往している状態である。


「他の都市でも同じ状況が起きているのだぞ!? 民への説明も必要であろうが、先ずは暴徒を抑え、メイデナ教の教会を封鎖するべきであろうッ!」


 一際大きな声で宣言する恰幅の良い男――メドシュトローム・ハインケル侯爵が、王の前に進み出て来る。


「陛下、事態は一刻を争います! このままではメイデナ教徒のみならず、どさくさに紛れた火事場泥棒まで発生し、奇跡的に抑えられている死者まで出かねません! 暴徒を鎮圧し、教会の封鎖をご命令くださいッ!!」


 彼の言うことは尤もである。


 ユーフェミア王国は、そもそも宗教に寛容であった。

 王家はユタ教会の神を信仰しているが、多神教故に他の宗教の教えも受け入れ、王国への宣教を許しているのである。


 メイデナ教徒も王都の民であることに違いはないが、そうではないより多くの民が、理不尽に晒されて今尚被害を受けているのである。


「陛下、ご決断を!」


 そもそもの発端は、メイデナ教会の本部の在る神皇国ドロメオの、スミエニス公国への宣戦布告である。


 その目的は、多神教であるユタ教会の撲滅。

 スミエニス公国の国教はユタ教であり、さらに国内にはユタ教会の本部が在るために、メイデナ教会に支配されているドロメオにより攻撃対象となってしまったのだ。


 スミエニス公国はユーフェミア王国の西側の隣国で、元は王国の領土であった。フューレンス王の先々代の時期に独立した国なのだ。


 鉱物資源が豊富であり、それを外交の要としてユーフェミア王国と対等に国交を結び、それが今日まで続いていた。

 そんな国に対しドロメオからの宣戦布告が為され、そして想定していた通りに、公国は王国へと支援要請を送ってきた。


 その矢先での、この暴動であった。


 議場の貴族達は未だにああでもない、こうでもないと口々に意見を出し合っている。


 国王は、深く呼吸をひとつ。

 そして、声を上げた。


「鎮まれいっ!!」


 議場に国王の喝が轟き、木霊する。

 彼の家臣である貴族達は、一斉に姿勢を正して彼らの王へと向き直り、礼をとった。


「公国からの使者の件も有ろうが、先ずは王都内部と各地の問題解決を優先せねばならん。」


 微かにざわめきを漏らしたのは、親公国の貴族達か。

 それには構わず、国王は命令を下し始める。


「メドシュトローム・ハインケル侯爵よ。」


「はっ!」


 王の呼び掛けに、かつては国王派以外の派閥に属し、その手練手管を駆使して勢力を拡大させていた男が応え、歩み出る。


「お主には、王都内のメイデナ教会関連施設の監視を命じていたな。王国第三軍を率いて、それらを速やかに包囲閉鎖し制圧せよ。」


「御意に!」


 下知を受けた侯爵はすぐさま踵を返し、傘下の貴族達や従者を引き連れ、議場から退出して行く。


「軍務大臣。」


「ははっ!」


 続けての命令は、王国軍の実権を握る軍務卿。

 王城では大臣の位を預かる男へのものだ。


「第一から第三軍を速やかに招集せよ。第三軍はメドシュトロームの指揮下に入れ、従わせよ。第一軍にはユタ教会を始めとする他宗教の施設の保護に当たらせ、避難民の受け入れと治療も手伝わせよ。費用は国が賄う。


 第二軍は都市警備隊を指揮下に加え、暴徒鎮圧を命じる。王都に混乱を齎すメイデナ教徒を取り押さえよ。ことを許可する。」


 、それは軍としての武力行使もやむ無しという事である。

 自発的且つ突発的な暴動であればまだしも、今回の暴動は明確な王国への攻撃である。


 それは、あの【破壊神】と呼ばれた元Sランク冒険者の男から齎された情報からも、明らかであった。


『メイデナ教会は、各国教会支部に神命として蜂起を促した。このままでは、大陸中のメイデナ教徒が暴徒になりかねない。そしてその最優先目標は、征伐対象国の友好国にして隣国である、ユーフェミア王国である。』


 その情報は、国王と友誼を交わした魔族の男迷宮の主マナカが譲り渡したダミーコアによって、最速で齎された筈であった。

 にも関わらず、対応手を講じる前に暴動それは起こってしまった。


 この事実を前に。

 己自身も迷宮と関わりを持つことになった故にこそ、【名君】フューレンス王は、これは必然であると断じた。


 ――――敵国にも、迷宮の権能を操る者が存在する。


 大陸広くに分布する教会施設に一斉に蜂起の命を下すなど、どう考えても時間が掛かるものである。

 遠距離用の通信の術具は大変貴重であるし、使用するにも膨大な魔力を必要とし、とても施設毎に揃えられる代物ではない。


 それに引き換えダミーコアは、迷宮の権能でいくらでも(ダンジョンポイントの制約は有るが)複製可能。

 距離の制限も受けず、使用する魔力も微々たるもの。


 常日頃からその恩恵に与ってきたフューレンス王だからこそ、それの重要性も危険性も即座に受け入れ、その判断に至ったのだ。


「はっ! 直ちに参りますッ!」


 軍務大臣も従者と共に議場を後にする。


「ガウェイン・フリード近衛騎士団長。」


「陛下、御身の前に。」


 王国近衛騎士団の団長であるハーフエルフの美丈夫が、護衛として控えていた裾から歩み出た。


 王家の盾にして剣である近衛騎士団。

 それを率いるこの美しい男は、王国最強の名を欲しいままにしている【軍神】を唯一超えると目されている、若き【王国の剣】である。


「近衛騎士団を半数に分け、民の避難・誘導の支援に当たらせよ。王城を一部避難民に開放することを許可する。一人でも多くの民を護るのだ。」


「御意のままに。残り半数での城の警護は、グスタフ副団長に指揮を執らせます。」


 近衛騎士団にのみ許される白銀の鎧を鳴らし、王の傍に二名の近衛騎士を残した彼は、命令を遂行するため颯爽と姿を消した。


「マクレーン・ブリンクス辺境伯!」


「はっ!」


 そして呼ばれたのは、国王の莫逆の友にして右腕。

 周辺諸国に【軍神】の名を轟かせ、恐れられている王国最強の男。


 四十も半ばを過ぎたその歳にして未だ衰えを感じさせず、その武威を以て王国の北を護り続けて来た、マクレーン辺境伯その人である。


「宰相と共に議会にて今後の対応を詰めよ。公国への援軍、国内各領の暴動の沈静化と治安の回復、メイデナ教会並びに神皇国ドロメオへの抗議と対応策、各国の情勢の整理……問題は山積しておる。すぐに取り掛かるのだ!」


「ははっ!!」


 王の信頼厚きマクレーンは、その滲み出る気迫と辺境伯の威厳を遺憾無く発揮し、議場内の貴族達を即座に纏め上げる。


 しかしそこで、一人の貴族がおずおずと発言の許可を求めた。


「陛下。ただ今国内は未曾有の混乱に陥っております! 如何でしょうか。ここは、陛下とご友誼を交わした、迷宮の主殿を頼っては……!」


 おおっ! と。

 議場内に、歓声にも似たどよめきが湧き上がった。


「それは妙案だ!」


「彼の御仁ならば、必ずや事態を打開出来るはず……!」


 次々と、発言を支持する声が上がり始めた。


 ややあって、一頻り立ったままそれらの主張を聴いていたフューレンス王は、貴族達を手振りで鎮めてから口を開いた。


「なるほど。マナカに助力を願う、とな。確かにあの男であれば、此度の混乱を治める力を持っているであろう。」


 その王の言葉に、顔に光が差す貴族達。

 続く言葉に期待を込めた目を向けられ、フューレンス王は言葉を続けた。


「ならば余は、マナカにこうべを垂れて乞い願おう。膝を地に突き身を屈めて、この王冠と玉璽を彼の男に差し出して庇護を求めよう。このユーフェミアの地を捧げ、民の無事を、守護を奏上しよう。」


 王は、耳を疑うような言葉を発した。


 それを聴いた貴族達は驚愕に目を見開き、自らの耳を疑い、ある者は表情を曇らせ、またある者は顔を真っ青にして。

 愕然としていた。


「この、戯け者めらがッッ!!!」


 フューレンス王の口から、怒りに満ちた大音声が轟いた。

 貴族達は皆、その王の怒気に、気迫に圧倒され、その身を固く縮こまらせる。


「うぬらはどこまで腑抜ければ気が済むのだッ!? 我が王国があの男にした仕打ちを、忘れた訳ではあるまい!? その上でこの国があの男に救われた恩までも脇に置いて、またぬけぬけとその力に頼らんとするとは、一体何事かッ!!??


 そういうことなのだ!! 我等の国内の些事までもあの男を頼るとするならば、最早王冠も、玉璽も、王も、貴族ですらも無用の長物!! ただ民の辛苦に肥え太る愚物と成り下がろうがッ!!


 それで善しとするならば、我ら役立たずは一同揃ってそっ首曝け出し、その首を以て彼の男を王と担ぎ上げねばならぬ!! その覚悟、うぬらには当然有ろうなッ!?」


 王は、怒っていた。


 この期に及んで、尚楽を求めようとする家臣である貴族達に。


 建国の志は忘れ去られ久しく、先人達の輝かしい功績に泥を塗る、現在いまのこの日和った王国に。


 そして自らのこれまでの失策で、政の中枢を、我が身より大切なユーフェミア王国をここまで腐敗たらしめた、己自身に。


「王よ!! わたくしが間違っておりましたッ!!」


 一人の貴族が、大声で謝罪を口にする。


「ど、どうか失言をお許しください!!」


「挽回の機会をお与えください!!」


 一人がひるがえれば、一人また一人と、前言を撤回して声を上げる貴族達。

 王は視界の隅で、マクレーン辺境伯が呆れるように肩を竦めるのを、見逃さなかった。


 しかし、これで良いと。

 誇りを失い腑抜けた自らの国が、バラバラに我欲と保身に走っていた貴族達が、初めて同じ方向を向いたと判断したか。


 フューレンス王は溢れさせていた怒気を収め、号令を下した。


「ならば速やかに行動に移すのだッ! 一刻後に吟味に移る! 即座に取り掛かるのだッ!!」


「「「「ははっ!!」」」」


 そうして、熱気に包まれ始めた議会を一瞥してから、フューレンス王は議場から退出した。




 自身の執務室へと戻って来たフューレンス王は、椅子に浅く座り背をもたれさせ、高い天井を見上げながら、深く深く息を吐き出した。


 天井には建国期の伝承が絵画として描かれている。


 それを暫し眺め、気持ちの切り替えに成功したのか。

 身体を起こし、懐から両手大の宝珠オーブを取り出して、台座に安置してから魔力を込め始める。


 少しの間そうしているとその宝珠から、対等な友誼を結んだ男の声が、発せられた。


『王様か? コリーちゃんから聴いたけど、そっちは大丈夫か? なんか大変な事になってるみたいだけど。』


 王の盟友。

 国の救世主。

 魔族の男。

 異世界からの転生者。

 迷宮の主。

 親族を保護してくれている男。


 いくつもの肩書きを持つ、優しさの裏に苛烈さを秘めた、王にとっては協力者に当たる男、マナカ・リクゴウの声が。


 非常時だというのに、普段と変わらぬ飄々とした声音で。

 その声はフューレンス王の耳を心地好く叩いた。


「……マナカよ。」


 王の心からは、先程の煮え滾るような怒りは霧散していた。

 代わって絞り出すように口から出た声には、国を預かる者としての矜恃が、誇りが、そして覚悟が滲み出ていた。


 通信越しのマナカは、それを感じ取ったのか。

 無言で、続く“王”の言葉を待っていた。


「マナカよ、決めたぞ。余は、霊薬エリクサーを飲むことにする。」


 その声は力に満ち、その瞳には、猛る焔が燃え盛っていた。



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