第四話 修羅なピクニック日和。


〜 惑わしの森 深部 〜



 ケイルーンの町から帰還して次の日。

 俺は間引きとレベル上げを兼ねて、シュラと共に【惑わしの森】に来ていた。


「うげっ、オーガロード……」


「向こうは取り巻きじゃのう。“ないと”……といったところかのう?」


 木立の陰から覗くと、頭から2本の立派な角を生やした筋骨隆々な化け物――オーガロードが、巨大な切り株に腰を下ろしていた。

 離れた場所には、ロードの護衛でもしているのか、3体のオーガ達が周囲を警戒している。


 【鑑定】スキルで観ると、ズバリその通り。


 3体は、オーガナイト。

 縄張りの巡回でもしているのだろうか?


「俺が3体の方を止めるから、シュラはロードを頼むな。」


「うむ。」


 声を掛けてシュラから離れる。

 いつでも奇襲を掛けられる位置に陣取り、体内で魔力を練り込んで、シュラの動きを待つ。


 なんでいきなりレベル上げしてるのかというと、それはあの女狐――ドルチェとの話のせいなんだけど……




 ◆




『ギルド本部長から、Cランクパーティー【揺籃の守り人】への、指名依頼よ。』


 面倒事の予感しかしないセリフをのたまうドルチェ。

 いやいやいや。おかしいでしょうよ。


『一応訊くけど、拒否権は?』


『多分、無いわね。』


 そりゃそうだ。

 大陸中に拡がる冒険者ギルド。その本部の総長たる、ギルド本部長からの直々の指名だもんな。


『……はぁ。内容は?』


 俺の背後では、ミラ、ミーシャ、ベレッタ、オルテが、事態について来れずに大口を開けて固まっていた。


『S級深層迷宮に、スタンピードの兆候が観られているの。その鎮静化、可能なら解決ね。やり方は任せるわ。』


 訊けばSランク冒険者は皆遠方。

 軍は帝国国境に動きがあるため動員できず、Aランク冒険者達は任務に失敗。


 中層に下層クラスの魔物が湧いていて、不意を打たれ甚大な被害を被った、とのこと。


『魔物の上位化か、それとも階層を越えて上がって来たのか、判然としないのよ。でも、上層部に足を踏み入れた時点で、普段よりも魔物が凶暴化していたという報告もあるわ。』


『それがスタンピードを疑う根拠か……』


 魔物の氾濫スタンピード

 迷宮や森から魔物が溢れ、人里に波のように押し寄せる災害。


 原因は多数考えられる。


 ひとつは、より脅威となる強大な存在が現れた場合。

 住処を追われ移動した先の魔物達が、連鎖的に大移動することによって起こる。


 ひとつは、人為的なもの。

 何者かによって魔物が隷従させられ、使役されている場合だ。


 魔物を使役出来るのなら、それは最早兵器だ。

 魔物のランクによっては、軍にも匹敵する場合もある。


 そんなあれこれを考えていると、ドルチェが空いた俺のカップに、お茶のお代わりを注いでくれる。

 そんなドルチェに、俺は気になっていたことを訊ねてみる。


『やり方は問わないってのは、どういう意味だ?』


 もし仮にスタンピードが起きつつあるのなら、その根本を排除しないといけない。

 それを依頼するのであれば、やり方云々ではなく、踏破や討伐といった言葉になる筈だ。


 そこをぼかすということは。


『アンタ、本部長に俺達のことを話したな? カマを掛けられたってのも、嘘だろう?』


 俺の吐いた言葉に、アザミとシュラが一気に殺気立った。


 それもそのはずだ。このダークエルフの女性は、前回の商人捕縛の際に守秘義務を約束したのだから。

 裏切りにも等しいこの行為に、俺の心配性な家族が怒らない訳がない。


『驚いたわね。たったあれだけのヒントで、そこまで辿り着くだなんて。成長しているみたいで、お姉さんは嬉しいわ。』


 しかしそんな殺気を浴びせられている当の本人は、涼しい顔をしていた。


『…………理由を聞こう。』


 少なくとも、コイツは俺達のことを漏らした事実を認めた。

 その上で謝りもしないで平然としているということは、まだその先があるのだ。


『大人になったのね。その通りよ。本部長には、私からアナタ達の情報を伝えたわ。あの子、困ってたみたいだから。』


 本部長を呼ばわりか。


『アンタは、本部長と親しいんだな。現役時代の縁か?』


『それも正解。彼がまだ現役だった頃に、数回臨時パーティーを組んだことがあるの。安心して。彼は計算高くもあるけれど、義理は大切にする人よ。私を支部長に抜擢してくれたのも、彼曰く恩返しらしいから。』


 恩義には厚い人物らしい。

 ということは、これもドルチェなりの協力……なんだろうか。


『恩を売っておけ……ってことか。』


『それと、私の給料アップのためね♪』


 如才無いというか、ちゃっかりしてやがる。


 そうして、俺の帝国行きが否応なしに決定したのだ。

 ちなみにその後の一幕だが。


『嘘を吐いたり、回りくどいことを今後はしないでくれ。仕事仲間なんだから、信用を置きたい。』


『はいはい、ごめんなさいね。それじゃあ、今回の無理と相殺ね。今後は単刀直入にいくわ。』


 とかなんとか言ってたが、そこで俺はまた、早とちりに気付かされた。


『残念。報奨金の行方を早々に決め過ぎたわね? 私は、今回の嘘で借りひとつ。それは教育費で賄えたのに。報奨金と、無理強いの二つ分、アナタの損よ。』


 うん。俺、やっぱコイツ苦手だぁ…………




 ◆




 てなことがあったワケでだ。

 大陸最高峰のダンジョンに挑むため、レベル上げに勤しんでいるわけだよ。


「グルオオオアアアアッ!!!」


 始まった。

 シュラがオーガロードに躍り懸かるのを確認すると同時、オーガナイト達が一斉に振り返る。


 君主ロードに助太刀せんと集まり、駆けつけようとするが、俺が張り巡らせた結界に阻まれる。

 ちょうど3体をグルっと四角く囲む形で、閉じ込めてやった。


 そして、逃げ場の無い結界内に火魔法を発動し、内部の酸素を風魔法を使って急速に供給する。

 炎は赤から青へと変わり、結界内の酸素を一瞬で奪い、激しく燃焼し、程なくして鎮火。


 後に残ったのは、芯まで燃え尽きたオーガナイト3体の死骸だけだ。

 うん。森の中でも、結界を上手く使えば火魔法も充分使えるな。


「グゴアアアアアアッ!!??」


 振り返ると、丁度シュラもオーガロードを倒したところだった。


「おつかれ、シュラ。手応えはどんな感じだ?」


 オーガナイト3体の魔石を拾い、シュラの下へと歩いて行く。


「ふむ。やはり知恵の足りん魔物相手ではいささか不充分じゃのう。やはり主様と闘っている時が一番楽しいのじゃ。」


 そりゃあ光栄なことで。俺としては御免こうむりたいところだけどな。

 まあ、ストレス発散の意味でも、もう少し頑張りますか。


「よし、今日はもっと奥まで行ってみようか。現時点の俺達で、この森の何処まで通用するか試してみよう。」


 明日はアザミを連れて来ても良いかな。彼女もダンジョン攻略メンバーに入ってるわけだし。

 ミラ達はS級ダンジョンには流石にまだ早いからな。残念ながら、今回はお留守番だ。


「ふむ。これが【でえと】というものか。悪くないのう。」


 こんな殺伐としたデートがあってたまるか!

 まあ、楽しいんなら良いんだけどさ。




 とりあえずその日は、夕暮れ近くまで森の攻略を進めた。


 戦果は上々、魔石もたっぷり。

 ダンジョンでの連戦も考慮して、如何に消耗を避けて戦い続けるかに重点を置いて、充実した鍛練になったと思う。


 次の日は、アザミと一緒に森を進んだ。


 アザミは相変わらずの安定感で、戦闘に於いては俺が助言する必要は感じなかったな。


 レベルもだいぶ上がったかな。



 名前:マナカ・リクゴウ 種族:アークデーモン

 年齢:0歳 性別:男

 Lv:70 性向:40


 HP:2828/2828 MP:5319/5319

 STR:2724 VIT:2514

 AGI:3219 DEX:2637

 INT:5211 MND:4972

 LUK:50


 称号:【転生者】【迷宮管理人】【弄られし者フールアクター

【拳鬼】【妖怪の主】【殲滅者ジェノサイド】【罠匠】

【交渉人】【詐欺師】【煽動家】【工作員】

【結界仙】【保育士】【救う者セイヴァー


 固有スキル:【全言語翻訳】【無限収納インベントリ

【魔法創造】Lv8【魔物創造】Lv9【百鬼夜行】Lv8


 スキル:【鑑定】Lv9【空間感知】Lv8

【危機感知】Lv9【感情感知】Lv8【魔力感知】MAX

【魔力制御】MAX【魔力吸収】MAX【拳の理】Lv5

【再生】Lv2【高速演算】Lv3【魔力纏い】MAX

【闘気】Lv2【騎乗】Lv8【罠術】Lv9【話術】Lv8

【建築】Lv8【身体操作】Lv9【煽動】Lv5【工作】Lv6


 魔法:【身体強化】Lv9【念話】Lv8【飛行】Lv9

【固有属性魔法】Lv7【結界術】Lv8

【固有造形魔法】Lv8【固有干渉魔法】Lv5


 加護:【転生神の加護】【管理神の祝福】

【異界の管理神の祝福】



 名前:アザミ 種族:九尾の狐(固有種)

 年齢:0歳 性別:雌

 Lv:66 性向:26


 HP:2839/2839 MP:3241/3241

 STR:2942 VIT:2721

 AGI:3168 DEX:2642

 INT:3043 MND:3122

 LUK:219


 称号:【真日の従魔】【大妖怪】【真日の騎獣】【甘味王】【親衛隊】【舞姫】【殲滅者ジェノサイド


 固有スキル:【変幻】【人化】


 スキル:【危機感知】Lv9【感情感知】Lv9

【魔力制御】MAX【魔力吸収】Lv9【HP自動回復】Lv7

【MP自動回復】Lv7【魔力纏い】Lv8【威圧】Lv8

【魅了】Lv8【舞踊】Lv9【身体操作】Lv7

【鉄扇術】Lv7


 魔法:【身体強化】Lv8【念話】Lv8【飛行】Lv8

【加速】Lv8【四属性魔法】Lv8【雷魔法】MAX

【闇魔法】Lv9【治癒魔法】Lv9



 名前:シュラ 種族:鬼人・酒呑童子

 年齢:0歳 性別:女

 Lv:65 性向:16


 HP:4029/4029 MP:2015/2015

 STR:4659 VIT:4417

 AGI:3014 DEX:1992

 INT:2018 MND:2216

 LUK:206


 称号:【真日の従魔】【大妖怪】【鬼神】

【酒豪】【拳師】【守護者】【殲滅者ジェノサイド


 固有スキル:【怒髪天衝】【鬼化】【呪詛】


 スキル:【危機感知】Lv9【身体操作】Lv9

【魔力纏い】Lv9【魔力吸収】Lv7【HP自動回復】Lv9

【威圧】Lv8【格闘術】Lv9


 魔法:【身体強化】Lv8【念話】Lv6【加速】Lv5



 うん、順調なんじゃないかな。

 いくつかのスキルも上位化しているし、ステータスに現れない強化幅も、これでまたグンと増えたわけだ。


 確かLv60くらいの頃に元Sランクのコリーちゃんと互角くらいだったから、今なら経験の差はともかく、まともにやり合えば負けることはないと思う。


 それにダンジョンアタックはチーム戦だ。

 アザミもシュラもかなり強くなってくれたから、何も心配は要らない。


 人が独りで出来ることなんて、たかが知れてるからね。

 仲間であり、家族でもあるんだから、助け合っていこう。


 取り敢えずの戦力強化も一定ラインは超えられたことだし、攻略の日に向けてちょいちょい鍛えつつ、やることやっていかなきゃな。


 でもまずは……


 疲れたからのんびりしよう。

 そうだなぁ。マナエと一日、遊びに行くか。



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