六章 なんか拾った
第一話 発展の裏には俺達の頑張り。
〜 ダンジョン都市【
「マナカ、カードが足りない。それと商人がまた入居したいと言っている。審査官を派遣してくれ。」
「まーじ? なんか移民第二弾以降、勢い付き過ぎじゃない?」
都市の行政を担う政庁舎。
その一室、フリオールの執務室で、俺は彼女から現状の物資、財源、人員配置などの過不足を、確認している。
そしてその現状は、というと。
「移民の第二弾の受け入れによって、更に広く情報が拡散したのだろう。商人、職人、冒険者など、迷宮の恩恵に肖りたい者達が自ら移住を決めて訪れて居るのだ。それに伴って、王都以北より辺境に向かって、経済が活性化されている。人の流れが、此処に向かって出来上がっているのだ。」
とのことだ。
いやね? 喜ばしい事だとは思うよ?
事実俺達の街の人口も最初の1000人から一気に膨らんで、今では1万に達する勢いだ。
街には商店も増え、通りには人がいつも行き交っている。
爆発的な発展。
しかしそれは、嬉しい事ばかり起きる訳ではなかった。
「砦の関所は連日のように大行列。審査で弾かれた奴のクレームやら、滞在から住民登録に変更する奴らの登録審査、新しい居住区の開発……執政側が圧倒的に足りてねぇ……」
元々は街の仕切りは完全に王国に委ねるつもりだったというのに。
それがどうしたことか、俺は連日駆り出され、配下の魔物達も駆使して行政の補佐に奔走している。
「無責任な事を言うんじゃない。それとも何か? 審査の基準を緩和してでも、休みが欲しいか?」
「うぐ……!」
痛いところを突かれる。
現状での住民登録の際には、俺の配下の【
性向値である程度の悪人は弾けるとしても、心の内でしょうもないことを企んでいる奴や、悪意無く悪に手を染める輩も居るからな。
そんな奴らを警戒するため、心を読む能力を持つ妖怪【覚】を、俺は連日産み出している。
「実際覚達のおかげで、人が増えても治安を乱そうとする輩は居らん。関所と役所の人員として人手も欲しい。必要な事ではないか。」
今や産み出した覚の数は、100体を超える。
その全てに【読心】、【人化】のスキルを持たせ、更に仕事を
日に4体、また他の分野でも人員の足りない所を、俺の固有スキル【魔物創造】で産み出した配下に手伝わせている。
おかげで、俺の魔力は連日枯渇状態だ。
俺の魔力がだぞ?
まあ、魔力トレーニングにはなるけどさ。
「覚の数は充分だろ? あとはどいつが必要なんだ?」
覚の他にも、多数の配下を産み出している。
例えば、街の拡張などに力のある鬼を派遣したり、宿や飲食店、商店などの臨時スタッフとして猫又などの人とコミュニケーションが取れる者を宛てがったり。
人が増えても、働き手が即座に、充分に賄えるわけじゃないからな。
全部ダンジョンの権能でやってしまっては、住民のためにもならないし。
「要所の番人を配下に頼むことは可能か? 現状では警備隊の数も足りていない。最大限動けるよう、人員が増えるまではそちらを任せたい。」
重要施設の門番か。
確か、都市警備隊の100人の中から、ローテーションで人員を割いて配置してたんだよな。
そこに必要なのは、不審者をその場で停める洞察力と武力か……
「そこも覚の出番だな。覚と鬼のペアをそれぞれ配置しよう。それで良いか?」
実際、【読心】スキルはかなり有用だ。
それを持つ覚と、武力に優れた鬼が門番になれば、強盗だろうがなんだろうが、文字通り門前払いにできるだろう。
「それでいい。詳細はレティシアに聞いてくれ。よろしく頼むぞ。……ふぅ。」
「お前もお疲れだな。休憩するか?」
フリオールが頬杖を突いて溜め息を漏らす。
執務机の上は書類が山を作っている。
うん、俺なら開始10分で夢の中だな。
「いや、ただでさえ午後に息抜きをさせてもらっているのだ。皆が働いている以上、我ばかり楽はできん。」
フリオールが言う午後の息抜きとは、我が家のお茶の時間の事である。
コイツ、どんなに忙しくても、その時間にはキッチリ顔を出すからな。
まあ、マナエのお菓子目当てだろうけど。
「そか。まあ、無理だけはすんなよ。俺はレティシアのとこ行ったら、一旦家に戻って各地の確認とかしてるから。用が有ったら通信で呼んでくれ。」
「ああ。いつも力を貸してもらって、済まぬな。」
そんな殊勝なことを抜かすフリオールに、俺は肩を竦めて見せる。
「何を今更。最初の出会いからずっと、俺達は一蓮托生のパートナーだろ? 遠慮すんなよ。」
そんな俺の言葉に顔を赤くするフリオールに苦笑しながら、俺は執務室を後にした。
〜 都市警備隊 兵舎 〜
「次の者、どうぞ!!」
「はっ! 参ります!」
熱気に溢れた訓練場。
そこでは、レティシアが兵達を相手に乱取り稽古をしていた。
今は一列に並んだ兵達を、一人一人順番に相手取って打ち合っている。
聞くところによると、これが終わると今度は複数相手の稽古に移るらしい。
レティシアめ。
最近やけに体力が付いてきたと思ったら、こんな稽古をしてたのか。
うん。1回やられた兵達が、また列の最後尾に並び直してる。
兵達もだけど、レティシアも大概タフだなぁ。
まあ、打ち合い自体は2手、3手くらいで決着は着いてるけど。
「5分休憩の後、5人組です! 一旦解散!」
「「「「はっ! ありがとうございました!!」」」」
ざっと【鑑定】して観たところ、兵達のレベルは軒並み高い。
大体、25〜35レベルくらいで揃っている。
まあ、レティシア自身がLv50を超えたからなぁ。
格上とこんだけ濃密に訓練してれば、そりゃレベルも上がるか。
「マナカ殿! いつからいらしてたのですか!?」
訓練場の隅で見学していた俺の下へ、レティシアが走って来る。
まだまだ元気いっぱいだなぁ。
若いっていいなぁ……俺は0歳だけど。
「お邪魔してるよ。警備体制のことで相談に来たんだよ。フリオールから言われてね。」
此処に来た理由を、簡潔に伝える。
「おお!
きっとレティシアも困っていたんだろう。
花が咲いたような笑顔で、そう礼を言ってくる。
「でも、訓練の邪魔をしちゃ悪いよな。出直そうか?」
俺は、訓練場でそれぞれに身体を休めている兵士達を見回して、そう提案したのだが……
「いえ! もしマナカ殿さえ良ければなんですが、良かったら兵達に稽古を付けてもらえませんか!? 彼等も、師匠のことを気にしているみたいなので!」
ええ〜……
確かに先程から、チラチラと俺に好奇の目が注がれている気がしてはいた。
でもレティシアさん? この視線さあ、どうにも敵意が混ざってる気がするんだけど……?
「ま、まあ、稽古自体は構わないんだけど……」
「おお! ありがとうございます! では、早速!」
おおう。
俺の心配そうな心細い顔は、どうやら気付いてもらえなかったようだ。
俺はレティシアに手を引かれ、訓練場の中央へと連れて行かれる。
うん、やっぱり。
レティシアと手を繋いだ瞬間、視線に混じる敵意が一気に膨らんだよ!
「皆さん、集合してください!」
レティシアの号令に、休んでいた兵達が整列する。
うん、見事な練度だね。
俺に一斉に敵意を向けてきて、息もバッチリ合っているね! 怖い!
「紹介します! 私の師匠にしてこの迷宮の主である、マナカ殿です! 本日特別に、皆さんの鍛錬の成果を観て頂けることになりました! マナカ殿、形式はどうしましょうか?」
レティシアが俺の紹介をしてくれ、訓練形式を訊ねてくる。
ふむ……
「君らは基本的に、多人数戦が主になるだろう? レティシアとも、1対1の後は5対1で訓練してると聞いている。だからそうだな……5人組の2組ずつとやろう。隊同士の連携を、この機会に試してみてくれ。」
わーお。一気に吹き荒れる敵意の嵐よ。
別に間違った事を言ったつもりも、自惚れのつもりもないけどなぁ。
「なるほど! 確かに隊同士の連携は、実戦に於いては必須ですね! 聴きましたね皆さん! 5人組を作り、2組ずつ挑んでください!」
「「「「はっ! 死力を尽くしますッ!!」」」」
いや、訓練だからね!?
そんな死ぬ気で来られても、怖いんですけど!?
結局その後、脱落によって5人組が作れなくなるまで、俺一人対兵士達の稽古は延々と続いた。
やけに粘るなーって思ってたら、誰かが告げ口しやがったのか、非番の連中まで続々と参加して来て、訓練場は死んだように転がる兵士達で溢れてしまった。
「皆さん、お疲れ様でした! 今日の訓練の反省を、それぞれで話し合っておいてください! 非番で参加した者も、折角なので一緒に反省会です!」
「「「「はっ! 喜んでぇー!!!」」」」
うん、コイツら変人だわ。
そんなヘロヘロで喜んでんじゃねえよ!
訓練場を後にして、俺はレティシアの執務室にお邪魔した。
目的は勿論、警備体制の変更に関する相談をするためだ。
結局のところ、フリオールに提案したように、警備員として各施設に、鬼と覚のペアを配置することで決定。
都市警備隊のシフト案を練り直してから、施設警備は俺の配下に任されることとなった。
「いやあ、ありがとうございます! これで都市の治安維持に、より人数を割くことができます!」
「ああ、それは構わないよ。というか、警備隊員の募集もしてるんだろ? 集まらないのか?」
都市の人口は爆発的に増えている。
そんな増えた住民の中には、腕っ節に自信のある人もいくらかは居る筈だ。
そんな人達の中には、安定した収入を得られる警備隊という職場に、興味を持つ人も多少は居るんじゃないだろうか?
「募集は掛けてますし、実際に入隊希望の者も居ます。ただ、講習と訓練に時間が掛かってますから……」
そうか。
知識と力と役割を最初から持って産まれる俺の配下と違って、人間の新人職員には、現場に出るための研修期間が必要だったな。
「そりゃそうか。変なこと聞いちゃったな。まあ、将来的に人員が増えるってんなら上々か。」
何はともあれ、方針は決まった。
俺はレティシアにも無理をしないよう言い、警備隊の兵舎を後にしたのだった。
〜 ダンジョン【惑わしの揺籃】 六合邸 〜
だいぶ様変わりした俺の家の敷地を見回す。
正面には俺の庭付きの家が在る。それは変わらない。
その家の近くに、新たに建物が増えている。
【保護療養所】。
この施設を創った理由は、盗賊団によって奴隷にされ心に深い傷を負った女性達を保護し、社会復帰出来るよう療養・訓練するためだ。
それ以外にも俺が冒険者として各地から保護した人達の、一時保護のための施設として活用している。
新たに保護された人達の世話をすることで、療養中の彼女達に人との触れ合いや、仕事の技能を身に付けさせる目的も有る。
実際に成果は出始めており、当初26人居た女性達の内、2人は身の上を思い出し、故郷へ帰った。
更に4人は家事の技能を積極的に修め、働きたいと言うので孤児院の職員として、住み込みでマリーアンナ……マリーに預けてある。
残ったのは20人だが、家事は一通り熟せるようになったし、コミュニケーションも普通に取れる。
ただ、まだ俺達から離れるのが不安なのか、傍に仕えたいということで、引き続きこの施設で訓練がてら働いているというワケだ。
「マスター、おかえりなさいませ。」
そんなことを考えていると、俺の帰宅に気付いたのか、庭先の門からアネモネが出て来る。
「ただいま。変わりは無い?」
俺はそんな彼女に返事を返し、確認を取る。
「保護された方達にお変わりはありません。訓練生達も同様です。あとは各地の支配下のダンジョンですが……」
なんかあったのかな?
俺は外界での移動手段のために、各地のダンジョンを支配下に置いている。
ダンジョンコアかダンジョンマスターを支配して、俺のダンジョンへの転移施設を設置しているのだ。
今支配下に置いているのは……六箇所だったかな?
「ただ今、マナエやアザミ達がコア通信で対応しているところです。マスターが参加した方が、話は早いかと。」
なんだろう?
処遇改善とかだったら面倒だな。福利厚生をしっかりしろ! とか。
っていうか、基本的に転移に使うだけで、それ以外は好きにさせてるんだけどなぁ。
「分かった。とりあえず、話し合いとやらに参加してみるよ。」
そう言って、俺はアネモネに続いて、我が家へと帰宅したのだった。
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