閑話 私達の冒険の、始まりの日。


〜 ダンジョン都市【幸福の揺籃ウィール・クレイドル】 〜


《ミラ視点》



 本当に、此処が迷宮の中だなんて、信じられないわね……


 上を見上げれば青い空。

 穏やかな風が優しく吹き、白い雲はその風に乗って自由に流れて行く。


 通り沿いには街路樹が整然と立ち並び、エルフの私でさえ知らないピンク色の花弁が揺れる。

 大噴水からは清潔な水が止めどなく噴き出し、陽の光に虹を掛ける。


 外と違うのは、ただひとつ。

 これだけ自然に溢れていたとしても、此処には【精霊】が居ない。


 でも、それも当然ね。

 此処は彼が支配する、迷宮の中なのだから。


 私達エルフは、精霊と共に生きる種族。

 精霊の声に耳を傾け、魔力を対価にして力を貸してもらう。それが、エルフのみが使える【精霊術】。


 他種族が扱う魔法に似てはいるけど、原理が全く異なる力。

 強いて言うなら、魔法とは“変換”で、精霊術とは“流用”。


 魔力を自然現象に変換するのが魔法で、元の自然そのものを扱うのが、精霊術ってことね。


「はー、なるほどなぁ。確かにそりゃ、根本から違うな。」


 私の説明に、この迷宮の主であるマナカが頷く。


「ん、待てよ? んじゃあ俺の隠蔽を突破したのって……」


「そう、それも精霊の力ね。精霊達は四大元素の根本、精素エーテルから産み出されたと云われているわ。魔力の源である魔素に似たようなものね。似た性質を持っているから、より根源に近い精霊自身に魔力の隠蔽が効かないのは、当然よ。」


 精霊術についての講釈を進めながら、街を歩く。

 今日は、この街の拠点となる物件を探しに来たのだ。


「えー! 正体知ってたなら、教えてくれても良かったじゃないですかー。」


「オレは別に、マナカさんが人間でも魔族でも、気にしないけどな。」


 同行している虎の獣人のミーシャと、熊の獣人のベレッタが口々に言う。


「だって、あの場で正体を暴露しちゃったら、余計混乱しちゃうでしょ?」


 ただでさえ盗賊に暴行されかかっていたのだ。

 そんな時に乱入した男の正体がアークデーモンだなんて言ったら、どうなることか。


「オルテもそう思うわよね?」


 経緯は違えど、同じようにマナカに救けられた人間の女性、オルテに話を振る。


「わ、私ですか!? えぇーと、確かに、救けてもらったとしても、警戒はしちゃうと思います。一応、冒険者ですし……」


 ほらねと、不満顔のミーシャに振り向く。

 もう、そんなにむくれないの。ちゃんと正体を明かしてもらったんだから、いいじゃないの。


 で、そんな話の渦中の彼はというと……いきなり魔力を練ったりして、何をしているのかしら?


「ん? いやな、今の話で精霊ってのに興味が沸いてな。あれだろ? ウンディーネとか、シルフとか、そういうの。」


 彼が口にしたのは、四大元素の大精霊達の名だ。

 驚いた。


「大精霊様を知っているの? どうして?」


 彼は未だ産まれて間もないと聞いた。

 精霊と触れ合う機会なんて、無かったはず……


「まあ、前世でちょっとな。お、いけそうだな。」


 そう彼が呟いた瞬間、魔素の濃度が高まり、凝縮され、その質を変えて……


「うそ……っ!」


 私の目の前には、途方もないほどの力を秘めた四柱の精霊が宙に浮かんでいた。


 その性質は、土、水、火、風。

 四大元素の、それも大精霊と遜色ないほどの存在感。


「んー、元祖は既に居るらしいし、どんな名前にすっかなー。」


 マナカは、この男は、大精霊クラスの精霊を、産み出したというのか。


「なあミラ。四大精霊って、ウンディーネ、シルフ、サラマンダー、ノームで合ってる?」


「え、ええ。それで合ってるわ。」


「そっか。それじゃあ、水の精霊は【アクア】。風の精霊は【ウェンディ】。土の精霊は【アルバ】。火の精霊は【イグニース】。それがお前達の名前だ。よろしくな。」


 名付けと共に、精霊達はさらに存在感を増した。


 喜びの感情が、私のエルフの耳に届いてくる。

 更にはその感情の余波なのか、力が自然に波及したのか、周囲の風から、水から、土から、光から……小さな精霊達が、次々と産まれ出てくる。


「すごい……ッ!」


 大精霊やその眷属の誕生だなんて、たとえエルフの長い寿命でも目にすることなどないだろう。

 だというのに、目の前で繰り広げられるこの光景は。


「なんか、マナカさんの周り、光ってません?」


「それに、なんかスゲェのが居る感じだ。」


「なんだか聖域に居るような、そんな雰囲気です。」


 そうか。エルフでない彼女達には、精霊の姿は見えないのだった。

 この信じられない光景を。


 マナカに擦り寄るように、四大精霊にも匹敵する精霊達が、彼の周囲を飛び回っているのだ。

 まるで、親に甘える子供のように。


「ははっ! 元気が良いなお前ら。いいか、お前達はこの階層で住民達を護るんだ。他の階層に遊びに行っても良いけど、悪さはするんじゃないぞ?」


 精霊達はその言葉に了解の意を伝え、四方へと散って自然に溶け込み、存在を隠した。


 でも、私の耳には。

 先程までと打って変わって、精霊達の楽しげな、幸せそうな声が響いている。


「ほんと、アナタってつくづくとんでもないわね。まさか、精霊を産み出すだなんて。」


 私が言うと、彼は楽しげに、悪戯イタズラ少年のような笑顔で。


「ミラもこれで、外と変わり無く精霊術を使えるだろ? それになんだか、本当の自然に近付いたような、温かい感じもするしな。」


 確かに自然は豊かだったが、精霊が宿っていないせいか、なんというか活力が無かったように思う。

 しかし今は、四大精霊に産み出された無数の小精霊達が宿り、溢れ出る自然力マナを感じる。


「お節介焼きなのね。」


 そんな私に、彼は肩を竦めるばかりだ。


「ちょっとミラー! 2人だけで納得してないで、説明してくださいよー!」


 いけない。ミーシャ達が置いてけぼりだったわ。

 私は他の3人に、マナカがまたとんでもないことを仕出かしたことを説明しながら、また歩き出した。




「あら、マナカきゅん♡ カワイイ達を連れて、デ・エ・ト♡ かしらん?」


「「マナカお兄ちゃん(なの)!!」」


 街の教会の近所に差し掛かった時、そんな声に足を止めた。


「ちげえよコリーちゃん。お、モーラにクロエじゃないか! いつの間に仲良くなったんだ?」


 筋肉の塊。そんな形容しか思い浮かばないような、信じられない体格の男性。

 そして、マナカに飛び付く2人の少女。


 少女達はマナカの腕に飛び付くと、そのままぶら下げられて、グルグルと回されている。


「キャー! グルグルなのーっ!!」


「アハハハハッ!!」


「ほれほれー! 次は高い高いだぞぉーっ!」


 今度は2人を結界(……なのよね?)で包み込んで、いつか巨大な船を浮かべてみせた時のように、少女達を空へと浮かべる。


「キャホホホーッ! 高いのー! 人がゴミのようなのーっ!」


「すごーい! お父さんよりたかーいっ!!」


「よーし、次は……」


 え、まだやるの? アナタ、私達に付き合っているってこと忘れてない?


 結局その後、ミーシャやベレッタも遊びに混ざってしまい、更には近くの孤児院の子供達まで集まって来て、大騒ぎになったわ。

 まあ、偶には子供と触れ合うのも、悪くはないけれどね。


「いやー、盛り上がりましたねー! 特にとらんぽりん? っていう遊びは、楽しかったですー!」


「オレはケイドロってのが楽しかったな! ところで、ケイサツってなんなんだろうな?」


「子供達は元気ですねぇ。冒険者も形無しの体力です。」


「まったく。アナタ達、本来の目的を忘れてないでしょうね?」


 散々に遊び疲れて、コリーちゃんと云う男性の家の庭にへたり込む私達。


「ああ、それなんだけど。」


 マナカが庭のテーブルに、お茶を用意しながら口を開く。


 いつも思うけどこの男、事ある毎にティータイムを楽しんでるのよね。

 お茶が趣味なのか、それとも主義なのかしら?


「ここの近所なんてどうだ? 雑踏も遠くて静かだし、まだ人は少ないから、訓練用の庭だって付けれるし。何より、コリーちゃんがご近所さんなら、安心だからな。」



 そう言って視線を向けた先には、クロエと呼ばれた少女に膝を貸し寝かせている筋骨隆々な、コリーちゃんと呼ばれる男性。

 孤児院の子供達は、もう帰ったらしい。


「その、聞きそびれていたけど、あの男性は何者なの? 腕が立つっていうのは、なんとなくは判るけど。」


 それはもう、見るからに只者じゃないわ。

 見た目も、喋り方も、仕草も。


「ああ、紹介してなかったか。彼はコリーちゃん。元Sランク冒険者で、【破壊神】って呼ばれてたそうだよ。」


 ふーん、そう。【破壊神】ねぇ。


 …………は?


「は、【破壊神】ですって!?」


「【破壊神】って、あの【生ける伝説】とか、【悪人殺し】とかとも呼ばれていた、あの【破壊神】ですかーっ!?」


「ん? ハカイシンって、なんだ?」


「知らないんですか、ベレッタさんっ!?」


 え! ベレッタ知らないの!?

 って、そうじゃないわ! そんなことより……!


「な、なんでそんな人が此処に居るのよ!?」


「ん? 今度俺の街に出来るギルドの、支部長になるからな。わざわざ辺境領の、ブリンクス支部から異動して来てくれたんだよ。」


 う、嘘でしょ……?

 伝説の冒険者が態々わざわざ移住してまで、この街に来たって言うの……?


「ああ、ついでに言うと、Aランクの【火竜の逆鱗】も、今街に滞在してるよ。仲良くなったから招待したんだ。定住してくれるなら嬉しいんだけどなぁ。」


「「「はああああッッ!!??」」」


「カリュウノゲキリン? 有名なのか?」


 いや、ベレッタは物を知らなさ過ぎでしょ!?

 って嘘でしょ!? ということは、Aランクの【竜殺し】が居るってこと――――


「おうマナカ! また違う女を連れ回してるのか?」


 不意に通りから掛けられた声に振り向くと、そこには大剣を背負った体格の良い青年の姿。

 そしてその青年と腕を組む、弓を肩に掛けた私達と同年代と思しき女性。


「人聞き悪いこと言ってんじゃねえぞダージル!? 今日の俺は案内人だっつの! ……ってか、そっちこそデートか?」


「ばっ……!? デートじゃねえよ!? 迷宮の浅い所で訓練した帰りだ!」


「そうよねぇ。折角のデートなんだから、もっと小洒落た所に連れてってくれれば良かったのに。」


「シ、シェリーさんッ!?」


 ダージルって、まさか彼が【竜殺し】!?

 ということは、連れの女性は同じAランク冒険者なの!?


「ははっ! 相変わらずシェリーに頭上がんないのな。っと、そうだ。2人にも紹介するよ。今度新しく街に住むことになった冒険者の4人だ。4人とも、コイツらが、今話してた【火竜の逆鱗】だよ。」


「ダージルだ。【火竜の逆鱗】リーダーを務めている。他のメンバーとは別行動中で、紹介できなくて悪いな。」


「シェリーよ。よろしくね、4人とも。」


 うわー! 緊張するーっ!

 冒険者業界の最前線で活躍するAランクパーティーの2人が、目の前に……!


「オレはベレッタだ! よろしくな!」


 ちょっ!? いくら知らないからって、そんな馴れ馴れしく……!


「わ、わたしはミーシャですー。よ、よろしくお願いしますー。」


「お、オルテです。お会いできて、光栄です……!」


 そうよね。それが普通の反応よね。

 マナカやベレッタがおかしいのよね。


「ミラよ。良ければ色々と、先達に教えてもらいたいわ。」


 なんとか噛まずに喋れたわね……!

 遭遇の仕方は兎も角、冒険者としては大先輩だもの。下手な覚え方はされたくないわ。


「ああ、よろしくな。ところで、あんたら4人はパーティーなのか?」


 【竜殺し】ダージルさんが、そんなことを訊いてくる。


「いいえ、みんな元は別のパーティーよ。色々有って、仲間を失ってしまってね、マナカに救けられてこうして身を寄せたの。」


「そうだったの……それは、辛い経験をしたわね。」


 弓使いらしいシェリーさんが、気遣ってくれる。


「みんなで、マナカさんのパーティーに入れてくれって、頼んでるんだけどなー。」


「ちょっとベレッタさん!? そんなこと、今言わなくても……!」


 本当によ、ベレッタ。それとこれとは今関係ないでしょうに。


「ん? 入れてやらないのか、マナカ?」


 ダージルさんがマナカに不思議そうな顔を向けている。

 それに対してマナカは。


「いやなぁ。そもそも俺は、孤児や移民を保護するために冒険者活動してるだけだからな。そんな俺のパーティーに入っても、冒険者らしい活躍はできないだろ?」


 そういえば。

 彼は、各地の孤児を、生活に窮する民を保護するために、偽の身分を装ってまでして冒険者になった、と話していた。


 その目的の過程で私達を捕らえていたような盗賊団などの討伐は行うが、それはあくまで手段だと言う。


 私は、それでも構わないのだけれど。


「まあ、お前ら相手じゃついて行くのも大変だろうしなぁ。つーかだったらよ、クランでも起ち上げて、傘下にしてやれば良いじゃねえか。」


 あっ……! なるほど、その手が有ったか!


「クラン? それって、パーティーの連合みたいのか?」


「なんだ知ってるじゃねえかよ。まあ簡単に言えばそうだな。盟主のパーティーと、傘下の複数のパーティーで創る連合だ。クランとして依頼を受けて、傘下の適したパーティーに振り分けたり……まあ、食いっぱぐれ達への救済みたいな制度だけどよ。」


「へぇー。でもよ、俺は別に名を上げるつもりは無いんだぞ? ランクだって今のCランクで事足りてるし、その程度のパーティーの傘下に入っても、メリット薄いだろ?」


 ……意外と考えてるのね、マナカってば。

 確かに、彼の目的のためなら、Cランクで用は足りてるわね。彼にとっては、迷宮を支配出来さえすれば良いのだから。


「そこは育ててやれよ。見たところ、戦士に斥候、僧侶に弓士ってとこか? バランスも取れてるし、クランの旗印にでもしてやればいいだろ。」


「マナカさん、これからも保護活動を続けていくんでしょう? きっと彼女達のように、救けられた冒険者も増えていくわ。そんな人達に庇護を求められた時には、そういう体裁も必要になるんじゃないかしら?」


 凄いわね。流石はAランク冒険者ってところかしら。

 武力だけじゃない、先見の明を持っているというか。


「ええー、だったらダージルお前が……って、睨むなよ。シェリーまで睨むんじゃない! 誰もお前らの仲に割り込んだりは……はい、ごめんなさい!? 弓を構えるな矢をつがえるなシェリーっ!?」


 本当に仲が良いのねぇ……


 マナカったら、何処でこんな人脈を作ってくるのかしら。

 王族とか、貴族とか、高ランク冒険者とか。


「くっ! 本当に厄介な結界ね! こうなったら付与魔法エンチャントを……!」


「おいこら、マジになるなよ!? わかった! 俺が面倒見るから!! だから止めて助けてダージルうぅっ!!??」


 凄い! あのマナカの結界を、先端だけとはいえ貫いたわ!

 付与魔法エンチャントね……! 精霊術に応用できないか、今度試してみましょ。




「はぁ、はぁ……! ……まあ、そういう訳でだ。君らに相応の実力が付くまでは、俺のパーティーに入るといい。それからは独立するなり、さっきも言ったクランを起ち上げるなり、考えたら良いと思うよ。」


 結果として私達の希望通りに、彼のパーティーへの加入が決まったわ。

 【火竜の逆鱗】様様ね。今度、お礼を言わなきゃ。


「それで、家はどうするんだ? もし冒険者として各地に行くつもりが有るなら、賃貸って形にしてもいい。住宅税は掛からないし、住人なら支度金も支給されるから初期費用にも困らない。月々の家賃も、頭割りすれば安いもんだろ?」


 彼の話では、定住するにも住宅の持ち方に色々あるらしい。


 そのまま家を受け取るなら、管理は勿論自分達で行うし、王国法で3年を超えたら住宅税と人頭税が掛かってくる。

 冒険者は依頼報酬から天引きされる分に税金も含まれているから、二重取りとなり損をしかねない。


 そこでマナカが創ったのが、賃貸契約という制度。


 月々に家賃を納める代わりに、管理は行政に委託された者が行い、住人としての人頭税のみ課税される。

 家が自分達の物になる訳ではないから、契約の満了と共に退去することになる。その際に、事前に払った初期費用で清掃、補修がされ、余った分は返還される。


 そして、賃貸物件の契約を変更して、買い取ることは可能。


 良く考えたものね。

 冒険者としては寝泊まりできる拠点として使えれば充分だし。


「私は、この辺りに賃貸で借りたいわ。みんなはどうかしら?」


「わたしも、それでいいですよー。」


「合理的だと思います。私も賛成です。」


「オレはそういう細かいのは任せる。」


 本当に、ベレッタはもう……!

 せめてお金に関することだけは、キッチリ説明しないと!


「それじゃあ決まりだな? どんな家が良い? せめて希望通りの家を用意するよ。」


 マナカが手を叩いて、【破壊神】コルソンに呼び掛ける。

 コルソンさんは、娘のクロエを起こさないようにタオルを掛けて、そっとその場を離れ、此方へと来る。


「コリーちゃん、遅くなったけど、この4人はこの街のギルド所属になる、初めての冒険者だよ。家もこの近所に建てるから、よしなに頼むよ。」


「あらん!? こんなカワイイ達がご近所さんだなんて、嬉しいわねぇん。よろしくね、4人とも♡ アタシのことは、親しみを込めてコリーちゃんって呼んでねん♡ それと、妻とも仲良くしてちょうだいねん♪」


 コルソンさん……コリーちゃんから威圧にも似た雰囲気を感じながら、それぞれ握手を交わす。

 そうしてコリーちゃん宅を離れ、ほど近い所に、マナカが迷宮の権能を使って、かなり立派な家を建ててくれた。


 程よい広さの前庭と、鍛錬にも使える広い裏庭が付いていて、家は3階建てに、地下室まで付いている。

 贅沢にも浴室まで付けてくれて、部屋数も、多少住人が増えても余裕がある。


「家はこんなとこだな。今日は一旦保護施設に戻って、役所の手続きや引越しなんかは、また今度するといいよ。」


 私達の目の前で、何度目になるか分からないとんでもない事をしたマナカが、いつもと変わらない笑顔で言う。


 本当に不思議な男。


 魔族だというのに、人に寄り添い。

 迷宮の主だというのに、部外者を招き入れ。

 縁もゆかりも無いというのに、私達をここまで手厚く遇し。

 そしてその力は途轍もなく強大で、そして優しい。


「マナカさん! 折角パーティーに加えてもらえたんだから、稽古付けてくれよ!」


 ベレッタがまた突拍子もなく、そんなことを言い出す。


「まあ、いいけどね。ついでだし、みんなの力も見せてもらおうかな? 施設に戻って一息着いたら、手合わせしてみるか。」


 甲斐甲斐しいのね。そういうことなら、遠慮なく胸を借りようかしら。


 ちょっと前まで赤の他人同士だった私達は、和気藹々と、他愛もない話をしながら、現在の住処への帰路に着く。




 ◇




「うきゃあああああああ!?」


「いやあああああああッ!!??」


「どーしたどーしたー!? そんなんじゃ、森のオークにも勝てないぞー!!」


「うわわわわわっ!?」


 このっ……! 無詠唱とかズルいのよ!!

 結界で弓は当たらないし、接近戦では格闘術に歯が立たない!


 コラッ!? ナイフを指で摘むんじゃないわよ!!

 っていうか……


「ちょっとは手加減しなさいよおおおおおおおッッ!!??」


 痛いッ!? なんで何も無い所で転んで……って、土魔法で小さい落とし穴とかさあッ!!


 それだけ強いのに、コスいことやってんじゃないわよッ!!!



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