第十話 Aランク冒険者の大冒険。その③
〜 ダンジョン【惑わしの揺籃】 捕虜収容施設 〜
《Aランク冒険者 ミュゼ視点》
リーダーとシェリーがやっとくっついた。
シェリーの片想いをずっと見守ってきたアタイとしては、ホントに、ようやくかよ! って感じだ。
それで、ちょっとシェリーを
上手いこと仲間の男共を盾にして、逃げてやったさ。
まあ、2人が上手くいったなら結果としては上々なんだけど……
なんというか、その切っ掛けがリーダーの大怪我だからね……
正直複雑だ。
特に、パーティーの危機管理で重要な役割である斥候の、アタイにとっては。
途中で脱出した迷宮でのことを思い出す。
草原エリアの15階層までは、特に大きな問題は無かったんだよ。
問題は、16階層からだったんだよなぁ……
◆
〜 ダンジョン【惑わしの揺籃】 第18階層 〜
「くっそ、 魔物が多い! あまり拡がらないで! 蜂のテリトリーに引っ掛かるよ!」
クラッシュボアの突進を躱しつつ、仲間に警戒を呼び掛ける。
擦れ違いざまにリーダーの大剣が叩き付けられ、ボアは転倒。トドメに脇腹に剣を突き刺されて、魔石になった。
「ふぅ。確かに多いな。どれも集団で行動する魔物ばかりだ。」
剣を背中に背負い直したリーダーが、汗を手で拭いつつ零す。
そうだ。
群れを作る狼や猿、巣を作る蜂に蟻、集落を構えるゴブリンやオークなど……単独で徘徊するその他の魔物も混ざって、森の中は魔物が犇めき合っている。
ただでさえ視界が通り辛い深い森で、あちこちから魔物の気配がして、索敵どころじゃない。
極めつけは。
「うきゃあああああッ!!??」
これだ。
シェリーが蔦に絡め取られて宙吊りになってしまった。
即座に短剣を抜き、シェリーを吊し上げている蔦を切断する。落ちたシェリーは仲間達がキャッチした。
天然のトラップが多い。
それは、絡み付く蔦であったり、食獣植物であったり。
魔物でもない巨大な、しかもただの植物に、度々足を止められる。
もちろんただの植物だから気配も察知できない。
更に、植物に擬態して気配を殺している魔物も居る。
厄介極まりないよ、ホントに。
シェリーじゃないけど、マナカさん、本当にいい性格してるよね……!
「これほどの森林は滅多に無いから、なかなか慣れないな。どうだ、ミュゼ? 抜けられそうか?」
リーダーに問われるが、正直森が深くなってから、まともに魔物を避けられていない。
「数が少ない方を見分けることはできると思う。遭遇せずにやり過ごすのは、正直無理だね。」
悔しいが、虚勢を張ってもリスクは高まるばかりだ。
正直に伝えて、方針を練ってもらおう。
「そうか。森ではロイドも火を使えないし、視界が悪い中で強行突破も無謀だしなぁ。やはり、できるだけ少ない方へ向かうしかないか。」
魔法使いのロイドが最も得意なのは火の魔法だ。
だけど森でそんなもんブッ放せば、アタイらが炎に巻かれるのは分かりきっている。
今は、風と土の属性でなんとか遣り繰りしている状態なのだ。
「分かったよ。なんとか頑張ってみる。」
「頼りにしてるわよ、ミュゼ。」
「任せますよ。」
みんなの命はアタイに懸かっている。
今まで以上に集中し、気配と匂いを探る。
相変わらず周囲は魔物の気配だらけだ。
意を決して、比較的密集の薄い方へとみんなを先導し、歩き始めた。
〜 第19階層 〜
「なんなんだよ、ちくしょおおおおおおッ!?」
「黙って走れ!! 追い付かれるぞっ!?」
ホントマジで
ひたすら走り回って、逃げ回る。
「ちっ! 前はダメ!! 左に迂回するよッ!!」
アタイ達を追い掛け回しているのは、キラーアントの大群。
初遭遇となる熊の魔物、フォレストベアに避けられたロイドの礫弾が、偶々茂みの向こうに居た斥候蟻に命中してしまい、大量に仲間を呼ばれてしまったのだ。
堅いし、速いし、多いし、獰猛。
咄嗟に逃げ出したアタイらと違って、大群に飲み込まれたフォレストベアは、あっと言う間に靄になってしまった。
「前方オーク5匹! 擦り付けて一気に抜けるよッ!!」
ちょうど良い規模のオークの集団を見付けた。
上手くすれば蟻共を此処で引き離せる。
「噛み合うなよ! 手傷だけ負わせて走り抜けろッ!!」
流石リーダー。アタイのしたいことを瞬時に理解してくれたね。
茂みを抜けると、
パーティー全員で踊り掛かり、反応される前に擦り抜ける。擦れ違いざまに脚や腕を斬り付けることも忘れない。
「ブギイィィッ!!??」
驚いてるね。悪いけど、アタイらのために壁になっておくれよ!
オーク達は、反撃する間も無くアタイ達を取り逃がす。
そして。
「ブゴオオオアアアアアッ――――」
キラーアントの大群に飲み込まれた断末魔だけを、後ろに聴く。
オークの血の匂いで誤魔化している間に、少しでも遠くへ走り去る。
周囲は、キラーアントの大群を恐れたのだろう、魔物の密度は減っている。
走り続け、逃げ続け……
「……!! 魔力の吹き出し口! 見付けたよッ!!」
ポッカリと空いた洞窟のような、深い穴。
この感じは間違い無く、次の階段だ。
「一気に駆け込め! 治療は下でいい!!」
後ろを振り返ると、茂みが揺れ再び現れるキラーアント。
しつっこいな!!??
アタイ達は一も二もなく、階段へと飛び込んだ。
〜 第20階層 〜
まったく、酷い目に遭ったよ。
キラーアントの大群からなんとか逃れ、駆け下りて来た20階層。
鬱蒼と茂った大樹や草、蔦。森は、より一層深くなっているようだった。
あちこち擦り傷だらけで軽く出血しているのを水で流し、コリーに治癒してもらう。
血の匂いでまた魔物を誘き寄せちゃ、目も当てらんないからね。
「とりあえず、今日は此処を抜けて次のフィールドまでだな。樹で空は見えんが、もういい時間だろう。」
リーダーの提案にアタイ達は頷く。
方針は変わらず、集団を避けて、奥へ進む。
途中見付けた薬草や毒消しの花も念のために採取しながら、薄暗い森の中を気配を探りながら先導する。
オークの集落を迂回し、キラーホーネットの巣を遠巻きに通り過ぎ。
樹から落ちて襲い来るアサシンスネークを斬り払い。
服に
ふと、耳に微かな音が届く。
種族は違うが、同じ獣人のシェリーにも聴こえたようだ。
「これは……何かデカいのが、争ってる……?」
「ミュゼも聴こえた? これ、割と近いわよ。」
パーティーに緊張が走る。
「ミュゼ、見てこれそうか?」
リーダーも、なかなか無茶を言ってくれるね。
でも確かに、音の正体を調べないと不味そうだ。
気配を探れる範囲からは外れているけど、目指そうとしている濃い魔力は、音の方角だから。
「行ってみるよ。コリー、念のため守護掛けて。」
「分かりました。」
コリーに耐久力を上げてもらってから、念入りに周囲の気配を探る。
みんなにはすぐに動けるようにしておいてもらい、茂みに分け入る。
近くに魔物の気配はなさそうだ。
音は、まだ聴こえる。
近付くにつれ大きくなる音と、ぶつかっている衝撃なのか、地面が振動している。
そして、アタイの索敵範囲が音の正体に引っ掛かる。
「ゲッ……!?」
思わず声を漏らしてしまった。
ハッとして周囲を探るが、特に何も居ないようで、胸を撫で下ろす。
先程から聴こえる音の正体は、3体の巨大な魔物だった。
ジャイアントベア。
ジャイアントスネーク。
ジャイアントスパイダー。
それらが、ここら一帯だけ拓けた広い空間で、まるで森の覇権を争うように衝突しているのだ。
そしてこれ見よがしに、争う3体の向こう側に、ポッカリと口を広げた洞窟が在る。
アタイはすぐさま引き返し、仲間達に状況を伝えた。
「あの男っ……! どこまで性格悪いのよ!?」
「巨大な熊と蜘蛛と蛇って……そのどれかが階層主ってわけか?」
「いや。わざわざ同じ等級の魔物を揃えてる辺り、ソイツら全部が階層主なんだろうな。」
「同時に3体の巨大魔物ですか。骨が折れますね……!」
「(コクコク……!)」
仲間達もうんざりした顔だ。
1体でも厄介な魔物を、3体同時撃破。それも、すでに興奮状態のヤツらを、だ。
「幸い、3体で争ってるなら連携される事は無さそうだ。ここは横合いから、強力な不意打ちで行こうと思うが、どうだ?」
異論は無いよ。アタイの装備じゃ、あそこまでデカい相手には有効打が打てないからね。
オークキングの時と同じように、シェリーとロイドにぶちかましてもらうのが良いだろう。
「次の階段もすぐ近くだって言うし、火魔法を使っても良いだろ? とりあえず効きそうな蜘蛛を狙うわ。」
「それじゃ私は、戦い難い蛇を狙うわね。上手く口が開いたところを狙うから、今度はロイドが合わせてよね?」
蜘蛛は火が弱点なら恐らく致命傷だろう。
蛇も、シェリーの雷属性の矢が口に飛び込めば、かなりのダメージを受ける筈。
「決まりだな。最後に熊と対決だ。弱らせた端から潰して行くぞ。」
思い思いの返事をそれぞれがリーダーに返して、戦闘準備をする。
武器を取り出し、コリーの守護と加護を受けてから、慎重に階層主の元へ向かう。
3体の魔物達は相変わらず争っているようだ。
「ゴアアアアアッ!!」
「シャアアアアアッ!!」
「キギイイイィィィッ!!」
ぶつかり合い、絡まり合い、喰らい付き合い……
その牙や、爪や、尾が、縦横無尽に振るわれる。
争う3体に気付かれないように、不意打ちに有利な場所を確保する。
そしてシェリーが魔力を練り、矢に雷の属性を付与し始める。ロイドも既に詠唱を始めていた。
リーダーとブライアンが武器を構え、コリーは何時でも支援出来るように呼吸を整えている。
アタイも短剣を抜き、自身の身体能力を魔力で上昇させる。
布陣は整った。
争う轟音が、腹に響く。
鎌首を
シェリーの矢が放たれ、紫電を纏った一筋の光が戦場を一瞬で駆け抜けた。
間を置かずにロイドが紅蓮の業火を解き放つ。
それを合図に、パーティーのメンバーが戦場へ躍り出る。
鱗を持つ蛇へは攻撃力の高いリーダーが向かい、業火に巻かれた蜘蛛へはアタイとブライアンが走る。
「ギイイイイイイッ!!??」
「ガアアアアッ!!」
突然の乱入に咆哮を上げる巨大熊。大蜘蛛は、どうやら弱点を突けたらしく、炎を消そうとのたうち回っている。
そうこうしている内に、喉の奥を【
あと2体!
熊はまだ驚いて動けていない。
暴れ回ってなんとか火を消し止めた大蜘蛛にブライアンが突撃し、その剛腕で片方の顎を叩き折る。
アタイはそのブライアンを踏み台に跳躍。蜘蛛の頭と胴体を繋ぐ節に上空から狙いを定め、全体重を乗せて短剣を突き立てる。
「ギッ!!?? ギキイイイイッ!!!?」
駄目押しに、柔らかい腹部を狙ってシェリーが矢を連射し、大蜘蛛は断末魔の声を上げて崩れ落ちた。
これで、あとは熊だけだ。
「グルアアアアアアアッ!!!」
いきり立つジャイアントベアが後ろ脚で立ち上がり、威嚇してくる。
「いつも通り、俺とブライアンが前だ! ミュゼは遊撃、シェリーは援護! コリーは何時でも回復できるように頼む! ロイド、デカいのをもう1発頼むぞ!」
阿吽の呼吸で淀みなく隊列を整える。
後ろを確認もせずに、前衛2人が突っ込む。
信頼されてるねぇ。その期待に応えなきゃね!
シェリーの矢が次々放たれ、上半身に殺到する。熊は矢を嫌って、前足を振り回して迎撃する。
しかしその隙に、前衛が懐へと辿り着いた。
「オラァッッ!!」
「……ッ!!」
うん。ブライアンさ、気合いの声くらい出してもいいんだよ?
アタイから注意は完全に逸れている。
気配を殺し、【隠密】スキルを最大限に行使して、熊の後方へと回り込む。
リーダー達の猛攻は続いている。
浅くない傷を幾つも与えているはずだが――――まずいッ!?
突如、熊が伸し掛るように両前足を振り下ろした。
リーダーは大剣で、ブライアンは手甲でなんとか防御は間に合ったようだが、衝撃で吹き飛ばされてしまった。
すかさずコリーが治癒魔法を行使する。
熊の狙いは……シェリーだ!!
降り注ぐ矢が余程癇に障ったのだろう。一直線にシェリーに突進して行く。
「シェリー、横に飛べッ!!」
響く声に従い、間髪入れずにシェリーが飛ぶ。
その陰から迸るのは、ロイドの火魔法【
最高のタイミングでの魔法攻撃。
しかし、それにも関わらず、熊は咄嗟に身を捻って頭部への直撃を避けた。
熱線は熊の肩口に当たり、その膨大な熱量でその身を焼く。熊はもんどり打って倒れ、転がる。
確かに大ダメージは与えた筈だが、転がったせいで熱線の射線から外れてしまった。
ロイドとシェリーは既に退避している。
アタイは気配を殺したまま、身を起こそうとしている熊に飛び掛かる。
「グガアアアアアアッ!!??」
驚いただろ? 跳躍して、思い切り短剣を眼に突き刺してやったからね。
ダメージに狂乱し、再び後ろ脚で立ち上がって滅茶苦茶に前足を振り回す熊。
当たりたくもないしね。さっさと短剣を放して飛び退る。
そして追い付いたリーダーが、ガラ空きの熊の腹に横薙ぎの一閃を叩き込んだ。
「グギャオオオオオオオッ!!!??」
アタイの肩幅くらいあるリーダーの大剣が、その刀身が埋まるほど食い込んだ。
巨大熊――ジャイアントベアは、一際デカい断末魔を上げて、靄となって消滅した。
アタイは短剣を回収するのも忘れて、思わずその場にへたり込んじまったよ。
これまだ20階層なんだろ? マナカさん、どんだけ殺意剥き出しの迷宮作ってんだよ……!
暫しの間勝利の余韻に浸り、アタイ達は誰ともなしに装備を確認し、全員で洞窟の階段を降りて行った。
〜 第21階層 岩場エリア 〜
降りた先は、今度は大岩がゴロゴロしている岩場のフィールドだった。
降りる前にちゃんと転移装置に登録も済ませたし、とりあえず様子見で探索してみたら、このエリアは巨人系の魔物が多いみたいだった。
森の中で小型から中型の魔物にひっきりなしに襲われるよりは、いくらか戦い易かったね。
ひとしきり様子を見たところで、キャンプを張って休むことにした。
今日はここまでってね。
いや、正直20階層の階層主でお腹いっぱいだもん。
翌日の夜明け。
魔物避けの術具やキャンプ用品を片付けて、早速攻略を再開した。
トロールやギガース、サイクロプスなど、巨人系の魔物は図体もデカく強いが、その分気配も強いため、索敵は容易だった。
ただ、注意しないと岩場の隙間とかからスライムが飛び出して来るから、集中は欠かせなかったけどね。
それでも森に比べれば索敵もし易く、アタイ達は昨日が嘘のように順調に進んで行った。
〜 第24階層 〜
本当に順調だった。
途中、岩に擬態したロックゴーレムや、石化の毒霧を吐くコカトリスが追加されたけど、それも注意して気配を探ればそれほど遭遇せずにやり過ごせた。
何体目かのサイクロプスを打ち倒して、スライムも擬態したゴーレムも居ないことを確認して、コリーに結界を張ってもらって休憩を取る。
「このフィールドは俺達に相性が良さそうだよな? 魔物の数は多くても、群れを作るタイプでもないし。」
ロイドが幾分肩の力を抜いてそう言う。
「そうだな。とりあえず注意すべきは、隠れているゴーレムとスライムくらいか。巨人系は連携の訓練にも丁度良さそうだ。コカトリスは、今度来る時は念のため、石化治療薬を持って来るとしよう。」
リーダーも、リラックスした様子で受け答えしている。
アタイ? アタイは、リーダーをじっと熱い目で観ているシェリーを観察して溜め息吐いてたよ。
ホント、さっさと想いを告げちまえばいいのにさ。そういうトコは奥手なんだから。リーダーは鈍感で、全く気付いてないしさ!
そんな感じで人心地着いて、一休みしたらまた歩き出す。
索敵範囲には特に何も引っ掛からない。
スライムやゴーレムも隠れてる様子は無かった。
だから。
「シェリーッ!!!」
突如後ろから聴こえた大声に、ハッとして振り返る。
そこには、リーダーに突き飛ばされて倒れ込むシェリーと、その右腕が徐々に石と化していくリーダーの姿があった。
まさか、そんな!? 索敵では何も捉えられていないのに!
急いで周囲を見回すと……居た!
アタイの索敵範囲のギリギリ外くらいから、此方を睨め付けている大きな蜥蜴。
バジリスクだ。
リーダーの石化は、アイツの魔眼の仕業か!
「あそこにバジリスクが居るよ! シェリー、ロイド! なんとか攻撃して! アタイがトドメを刺す! 早くしないとリーダーが全身石にされちまうよ!! 攻撃する時は合図するから!」
叫ぶと同時に走り出す。
岩を盾にして、万が一にも魔眼がコチラに向かないように駆け抜ける。
矢が風を切る音と、火炎が大地や岩を焦がす音が響く。
チラッと覗き見れば、バジリスクは怒涛の攻撃に晒されて、身動きも取れない状態だった。
行ける!
ヤツの足元の岩の裏まで辿り着き、気配を殺したままで合図を出す。
何のことは無い。短剣を抜き、陽の光を反射させるだけの合図だ。
しかし、そんな簡単な合図でもしっかり伝わり、攻撃が止む。
その瞬間に躍り出て、バジリスクの喉元に短剣を突き立ててやる。
しかし一撃では少し浅かったようで、まだのたうっている。
「これでも、喰らいなッ!!」
突き立てた短剣の柄を、思い切り蹴り込む。
喉の奥深くまで突き刺さった短剣に、一瞬身を震わせたバジリスクは、そのまま靄へと変わっていった。
「ダージルッ!!」
仲間達の悲痛な声が響く。
アタイは短剣だけを回収して鞘に仕舞い、すぐさまみんなの元へ駆け戻る。
「そんなっ! 嫌よ、ダージルッ!!」
リーダーの隣でシェリーが座り込んでしまっている。
リーダーは、右腕のほぼ全部が石化してしまっていた。
「くそっ! まさかバジリスクまで居るとは……ッ!」
リーダーが無念そうに言葉を漏らす。
右腕はリーダーの利き腕だ。それが使えないだけで戦力は半分以下になってしまう。
「石化の治療薬は無く、階層主戦はダージルがこれでは絶望的です。ここは20階層までなんとか引き返して、転移で街に戻るべきです。」
僧侶のコリーが、悔しそうに提案する。
彼は毒や麻痺、催眠なら癒すことは出来るが、石化まで治すことは出来ない。
きっとアタイ達の誰よりも、コリーは悔しいに違いない。
「アタイも賛成だね。敵はなんとか掻い潜ってみせる。だから引き返そう。良いよね、リーダー?」
勿論アタイだって悔しい。
あと少し、アタイの索敵範囲が広ければ、バジリスクに不意を打たれることはなかったのに。
「それしか無いな。みんな、すまん。20階層まで撤退しよう。」
重々しく告げるリーダー。
彼としても、撤退は歯痒いに違いない。
でもここで無理をすれば、それこそ取り返しのつかない事態になりかねない。
「それじゃ行くよ! みんな、急いでついて来て!」
石化はバジリスクを倒したことで停まっているように見えるが、油断はできない。
できるだけ急いで、20階層の転移装置を目指さなければ。
そこからは兎に角必死だった。
ひたすらに、先へ、先へ。
リーダーも、片腕を庇いながらなんとかついて来てくれていた。
しかし焦りからか、疲労からか。
集中が乱れ、踏み込んだ先で……
「うそ…………!?」
周囲の岩が、一斉にゴーレムへと変態した。
「リーダーを守ってッ!! 密集、防御陣形!!」
すぐさまみんな集まり、防御を整える。
囲まれてしまった。
相手は、ロックゴーレムが……16体。
「ブライアン、足から砕いて! ロイドは爆発系の魔法を!!」
アタイも短剣を構え、鈍重なゴーレムに斬り掛かる。ブライアンも即座に動き、近付くゴーレムを殴り付ける。
「どらあああッ!!」
リーダー!? なに片手で無茶してんのさッ!?
利き腕を使えないリーダーまで駆り出しての防衛戦。
最初こそ、ゴーレムの勢いを押し留めることは出来ていた。
でも、そんな無茶は、長くは続かなかった。
「くそっ! これで仕舞いだぞ!? 【
ロイドの渾身の爆裂魔法を浴びて、1体のゴーレムが砕け散る。それと同時に、ロイドは魔力が尽きて膝をついてしまう。
そこへ突進して来る別のゴーレム。
「どけええええええッ!!!」
ロイドを突き飛ばして割り込む人影。
それは、普段の力強さとは程遠い、片手で大剣を振り回すリーダーだった。
「ダージルぅッッ!!!???」
ゴーレムの巨体に撥ね飛ばされ、2回、3回と大地にその身を打ち据えるリーダー。
「リーダー!? くそ! コリー、治癒は!?」
「駄目です! 魔力が、もう……ッ!」
最悪だ。何がAランク冒険者だ。
いつもアタイらを守ってくれているリーダーすら、護れないで。
「ロイド、コリー! なんとかリーダーを守って!! ブライアン、アタイと行くよ!!」
いつかこんな日が来るだろうとは、思っていたさ。
所詮は命が対価の、戦闘屋稼業だからね。
「無茶しないでミュゼっ!? あなたの装備じゃ、あの装甲は
無茶でもなんでもさ、アタイにだって護りたいモノくらい有るんだよ!
ブライアンはアタイの隣で、黙々とゴーレムと打ち合っている。
アンタ、こんな時でも声出さないんだね。
可笑しくなって、思わず口元が緩んでしまう。
そんな時だった。
「シュラ、行け!」
ふと耳に届いた、鋭い声。
その方向を見やれば、燃えるような赤い髪の女性が、ロックゴーレムを砕きながら此方に向かって来ているのが見えた。
触れれば薙ぎ、当たれば砕けるゴーレム達を擦り抜けて、現れたのは。
「おい! ダージルはまだ生きてるかッ!?」
この迷宮の主の男、マナカさんだった。
彼はアタイの肩をポンと叩くと、血塗れで倒れるリーダーの元へと駆け寄った。
「だ、旦那アンタか!? 仲間を庇ってバジリスクの石化を受けちまったんだ! すぐに殺したけど、利き腕が石化しちまって……!」
ロイドが狼狽えながらも説明する。
それを受けて彼は、引き連れてきた獣人の女性――アザミさんといったか――に治癒魔法を掛けさせ、
「特別だ。転移で脱出するぞ。全員集まれ!」
◆
そうして、なんとか1人も欠けることなく迷宮を脱出することができた。
そして思ったのは、まだまだ力が足りない、ということ。
聞けばマナカさんの話では、あの岩場はまだまだ中級の域らしい。
先へ進めば、より過酷な事態が待ち受けているだろうね。
思えば、パーティーが有名になって、ちょっと調子に乗っていたかもしれないね。
誰ひとり欠けずにそれに気付けたんだから、まだ良しとしないといけないかな。
リーダーが復帰したら、特訓を申し出てみようか。
アタイはそうだな……マナカさんの従者のアネモネさんに指導してもらおうかな。
彼女の身のこなしは半端じゃない。速さも勿論だけど、技術的にもアタイの戦い方のお手本のような人だ。
うん。寧ろやっぱり、この街に住んじゃおうよ。
マナカさん達と一緒に居れば、絶対今より強くなれる、そんな確信がある。
そうと決まれば、先ずはシェリーを囲い込まなきゃ!
……シェリーってば、もういい加減、機嫌直ったかな……?
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